審査ユニット総評
本年度のグッドデザイン賞の審査も、応募対象を領域別にグループ分けした「審査ユニット」ごとに行われました。ここでは「審査ユニット総評」として審査を通じて見られた領域特有の傾向や課題をまとめています。
ユニット01装身具・衣料品・携行品ユニット02パーソナルケア用品ユニット03文具・ホビーユニット04生活用品ユニット05生活家電ユニット06映像/音響機器ユニット07情報機器ユニット08産業/医療 機器設備ユニット09家具・照明・建材ユニット10住宅・業務・公共 機器設備ユニット11モビリティユニット12建築(戸建て住宅〜小規模集合・共同住宅)ユニット13建築(中〜大規模集合・共同住宅)ユニット14建築(産業/商業施設)ユニット15建築(公共施設)・土木・景観ユニット16インテリア空間ユニット17コミュニケーション・メディアユニット18システム・サービスユニット19地域の取り組み・活動ユニット20一般向けの取り組み・活動
本田 敬
プロダクトデザイナー
ユニット01では、装身具・衣料品・携行品が審査対象となるが、ここ数年、個人的な好みや流行といった嗜好性に基づいて「デザイン」を捉えた応募製品は減少傾向にある。直感的な美しさや美観的価値は、いかなる時代においても不可欠であり、あらゆる製品や市場で求められる要素である。しかし、グッドデザイン賞の審査においては、他のユニットと同様、その視点のみで評価することは難しい。長年議論されてきた通り、「デザイン」の定義や概念自体が社会の変化とともに変容しているからである。本ユニットでは、今年度の上位受賞作においてそうした社会的な視点=ビジョンを明確に読み取れるものが目立った。
地球温暖化に伴い世界各地で熱中症対策が急務となる中、今年度も装着部位や機構、素材に工夫を凝らした対策製品が複数受賞した。中でも「REON POCKET 6(26G010026)」は、6年間にわたり改良を重ねることで極めて高い完成度に至り、SONYブランドならではの信頼性を際立たせた。モバイルバッテリーの発火リスクが問題視される現在、小型ウェアラブル機器における安全性・信頼性は、今後一層重要視される点である。また、弱い立場にある人々に向けた製品では、当事者と一体となって開発を進めるインクルーシブデザインのプロセスが結実した。「たびまるアーチ(26G010036)」は、ダウン症児に多く見られる外反扁平足に対し、足の動きを過剰に制限することなく成長を促す高機能タビ型ソックスである。理学療法士である父親の実子に対する想いと、靴下産地の伝統産業技術が融合して生まれた、とても素敵な製品である。
今年度は特に、健康の維持や回復といった生きることの本質に迫る受賞作が際立ったように思う。目の前の「大切な一人」に向けた作り手の強い想いが質の高いプロダクトを生み出し、その背後にいる多くの同じ立場の人に届けられる、という理想的なデザインプロセスが、身につける小さな製品において実現されている点に強い感銘を受けた。さらに、プロダクト開発が地場産業との連携や地域コミュニティの形成に寄与する事例が数多く見られたことも、今年度の大きな成果であり、より一層その広がりが期待できる充実した審査会であった。
このユニットの審査委員
秋山 かおり
プロダクトデザイナー
本ユニットは、育児や介護、ウェルネス、美容、衛生用品等を対象とする。ライフステージの変化に伴い「ケアをする側」「ケアされる側」となって初めてその重要性に気づかされる専門性の高い領域である。近年は、国内で遅れていたベイビーテックやフェムテック、エイジテック等、テクノロジーをケアに応用した製品が国内外から着実に応募されている。
例年通り育児・介護用品の充足が主要な論点となった一方で、今年度は新たな傾向として、初心者層へと視野を広げた美容関連製品の台頭が目立った。SNSやメディアによる外見へのプレッシャーの高まりを背景に、若年層の抱えるコンプレックスに向き合い、これまでにないアプローチで新たな価値を見出した製品が高く評価された。
今年度の審査テーマ「ビジョンに資するデザイン」に対しては、本ユニットに期せずして企業のメッセージがストレートに結実した製品が多く並ぶこととなった。創業当初より長きにわたってビジョンを貫いてきた企業は、こうした複雑化する社会に対しても軸がぶれることなく、シンプルで力強い製品を生み出していることが実感された。
高評価を得た貝印「なでそり(26G020058)」は、手のひらで撫でる動作で容易に剃毛できる画期的な構造を見出し、子どもでも安心して使えるデザインへと昇華させた。同社が掲げる「切れ味とやさしさ」というミッションを見事に具現化した好例である。また、パナソニックの「ヘアバリカン(26G020073)」や、花王の「ビオレ キッズスタンプUV(26G020049)」のように、専門性を培ってきた企業が初めて使う層へと視点を広げ、製品の本質を見つめ直して強く訴求したアプローチは、今後他ジャンルへも波及していくことが予見される。
今回の審査を通じ、他者へのケアに対する深く広い洞察の重要性を再確認するとともに、セルフケア領域においてもデザインの視点で小さな声を掬い上げ、未来へ導く役割の大きさを強く実感した。対象を広げる中で求められるのは、まさに「ささやかな後押し」と「確かな安心感」である。真に適切な製品が必要な人々へ届くよう、今後も健全な選択肢が広がっていくことを期待したい。
このユニットの審査委員
安西 葉子
デザイナー
当ユニットは「文具・ホビー」であり、文房具からキャンプ用品、ペット用品から釣り用品まで幅広い範囲の製品の応募があった。
ユニットの中でも割合の高い文具の応募では日本メーカーの高い技術を伴う着実なアップデートに対して、海外メーカーの提案性の高い自由な商品展開にその差異が目立った。応募が多かったペット関連用品は、製品の完成度は低くないものの特筆すべきコンセプトや他製品とは異なる特徴がみられないものが多く、受賞を逃していた。
本年度のテーマでもあった「ビジョン」という言葉。企業自体が持つ指針となるようなビジョンという意味で使われていると理解したが、まさにどんなビジョンを元に製品設計がされているか、どんな未来を提示できているか、どんな文化的価値をユーザーに提示できているかが問われた審査となった。
特徴的な受賞例をあげてみると、まだ市場では確率していない価値に未来の希望を見出し、企業として丁寧に組み立てている製品に評価が集まった。住宅設備メーカーによる猫の呼吸をカウントする壁付のセンサーは、人のための生活環境だけでなく、人と動物がよりよい関係を築いてゆく生活環境に未来の価値を見出していた。また音楽をより豊かな人生に必要不可欠なものと捉え、管楽器の練習用マウスピースを発展させて誰もが魅力を感じるプロダクトに昇華させ参加障壁をさげている楽器があった。
どちらも企業自体が明確な未来を描いて、そのための製品を完成度の高いレベルで世の中に提供していた。
また一方で、地道な研究の積み重ねにビジョンを感じる製品もあった。
100年以上前からある特殊厚紙に再度向き合い、新しい機能を発見して美しいプロダクトにしたクリップボード。あたりまえに存在している物にも隠れた可能性や価値がまだまだあるという強い意志が感じられた。
展示会などで配られる名札ホルダーをすべて紙製に置き変えた製品は、一見地味で当たり前のような存在であるが、すべて紙にすることで使用後に分別可能になり廃棄するゴミが削減される。大手メーカーがこのようなことに丁寧に取り組んでいることに未来の環境へのビジョンが感じられた。
世の中に何を提供できるのか、企業側の設定の自由度が高いカテゴリーだからこそ、その内容の濃さが問われた本年度の審査であった。来年度の応募にも、ぜひその点を明確にして応募されることを期待したい。
このユニットの審査委員
石橋 忠人
プロダクトデザイナー
ユニット4が対象とする「生活用品」は、日々の生活を支える器や道具に加えて、仏具や防災用品などその守備範囲は多岐にわたる。その広範な審査を通して人々の営みの変化や、世界のモノづくりの動向を肌で感じられることがこのユニットの審査の醍醐味だ。
4年間にわたり本ユニットの審査に携わってきたが、昨年の総評で指摘した懸念は未だくすぶっている。他社製品との差異が曖昧で評価に窮するもの、審美性に課題を残すもの、そして何より道具としての使い勝手への配慮に欠けるプロダクトが、依然として散見されるのは些か口惜しい。世に送り出そうとする情熱が大きいからこそ、開発者は一歩立ち止まり、冷静なユーザー視点から「この体験が真に人々の共感を呼ぶか?」を点検するプロセスが必要だ。
一方で、今年も思わず膝を打つような鮮やかな切り口で、審査員が感嘆した製品との出会いも多くあった。
『10Good / 砥ぎ場(26G040159)』は、単に砥石そのものの品質を磨き上げるだけでは、「家庭で包丁を砥ぐ」という失われつつある営みを再生できないという強い危機感から誕生したプロダクトだ。初心者でも正しい所作が体得できる「砥ぐ環境」を現代的にパッケージングし、見事に新たな市場を切り拓いている。
また、本ユニットで見逃せない製品の試みとして、「不均一性の価値化」が挙げられる。従来の工業製品において、製造工程で生じる色や形の揺らぎは「欠損」として廃棄の対象であったが、それを製品の個性として捉え直したものが目を引いた。ガラス器『インパーフェクト(26G040162)』はその顕著な例だ。従来廃棄されていた不純物入りの原料も余すことなく使い切ることで、泡や筋、不純物などが美しいテクスチャとなってグラス表面に現れ、量産品にはないリズミカルな魅力を放っている。資源の有効活用という理念を超えて、新しい価値を示す試みであり、同様のアプローチは木工製品などにも波及しつつあると感じている。
さらに、未だ改善余地の多い防災用品の領域でも素晴らしい製品との出会いがあった。『ソク・ミニット マットレス(26G040209)』は、一次避難所において柔らかい寝床を確保するという命題を劇的に解決するポテンシャルを秘めている。ロール状のポリエチレンシートを空気充填機にセットするだけで、僅か20秒で1枚のマットレスが完成する。備蓄のハードルを上げていた保管スペースの問題を大幅に開放した点で画期的である。
「生活用品」は、日常の繊細な観察を通じて堅実に変化してきた。そうした生活に寄り添う丁寧な手当てはもちろん今後も大切であるが、視座を上げれば、急速な少子高齢化、原材料の高騰、地球規模の気候変動や災害など、我々を取り巻く現実はより大きな変化を求めている。従来の延長線上にとどまらない、大胆にデザインされた「生活用品」との出会いを、今後も大いに期待したい。
このユニットの審査委員
平川 真紀
プロダクトデザイナー
ユニット5は生活家電、主に暮らしの中で使用される製品が対象である。卓越したデザインにある誠実な姿勢に触れ、改めて製品開発に携わる人々の研鑽を思う審査となった。
時代にある背景
クライテリアの多様化、ソーシャルメディアの普遍化やDXの高度化などにより、製品やブランドにあるストーリーや社会的価値などへの共感がより重要視される時代となった。それらを背景として、製品開発のスキームに変革がもたらされている。
社会課題への挑戦
テーマとして社会課題への挑戦が背景にあるものも多い。猛暑、感染症への警戒、飲料水への関心などを背景に、空気や水に関する製品は多様に進化している。
環境負荷を低減する開発も浸透し、環境配慮型素材の使用、金型共用や部品統合による資源消費の削減、長寿命化の技術の搭載などは増加傾向にある。
ビジョンを具現化する技量
事業や製品のビジョンの具現化には、デザインの高い技量とエンジニアリングとの調和が不可欠である。
室内に設置される製品は、インテリアとの親和性から静かな佇まいを求められることが多い。「ブルーエア ブルーシグネチャー SP4i 」(26G050257)は、家電製品の在り方を一新するおおらかさを達成するために細やかな配慮がなされている。「Panasonic 浄水型ウォーターサーバー TK-RSS1」(26G050236)も、清閑な佇まいを実現するための入念なデザインがある。
道具としての製品も進化を遂げている。「HOTO PenVac Pivot Air Duster & Vacuum」(26G050268)は、体系的な思想を具現化しながら高精度な仕上がりを実現している。
正当な進化への評価
製品やシリーズの正当な進化への評価は、このカテゴリーにおいて重要な要素のひとつである。「Panasonic F-VX70D シリーズ」(26G050261)は、ひとつの製品の成功をシリーズとして進化させた好例である。中長期視点のディレクションの重要性が高まっていることを感じる。
新たな潮流
示唆的な例として「Aarkeの家電シリーズ」(26G050225)がある。家電と非家電を統合したディレクションには、領域を超えた製品開発とブランディングの可能性を感じた。 この他にも自社技術を生かした新事業、地域発信の製品開発などの新たな芽に未来への期待が高まった。
時代と共に暮らしの文化を創造してきたこのカテゴリーにおいて、今後も新たなビジョンと共に優れたデザインが生まれることを願っている。
このユニットの審査委員
村上 存
設計工学研究者
本ユニットの2026年度の審査において印象に残ったデザインと、その理由を考えてみたい。
一つ目は、従来とは異なる特徴的な技術を用いたデザインである。熱音響冷却システムONE-LOOP(26G080502)は、熱音響現象により、電力を使わずに工場などの排熱のエネルギーを利用して、冷熱、低温を作り出す。ハイパースペクトルカメラAG-HSV10M(26G080503)は、ランダムフィルタ技術により、感度と通常のRGBカメラより高い波長分解能を両立している。超微細水浸透技術ハイドレイド(26G080504)は、独自の特殊膜技術で生成される微細水粒子で、髪や肌の表面を濡らさず内部へ直接水分を送り込み定着できる。全身用X線CT診断装置Ultimion(26G080505)は、X線を量ではなく光子の数で計測する技術で、診断性能の向上と被ばく量の低減を両立する。
二つ目は、製品のあるべき機能の追求で到達したデザインである。双眼倒像検眼鏡IO-Vega(26G080506)は、軽量化と新たな機構により、医師の診察と患者とのコミュニケーションを向上する。フェラーバケットグラップルGFB-90S(26G080527)は、油圧ショベル等の先端に装着し1台で伐倒、掘削、転圧、集材の作業を可能にし、人手不足の解消と安全性の向上をもたらす。次世代高圧ガス容器CubiTan(26G080553)は、従来の円筒状のボンベではなく球状の圧力容器と運搬や保管が容易な直方体状の筐体に、IoTによる残量、位置確認機能も搭載することで、次世代のガス流通インフラを提供する。菊ハンドル(26G080554)は、指の確実な掛かりとスムースな回転操作という機能性と、誰もが見たことがある識別性やブランドを実現している。
三つ目は、新たな素材としてのデザインである。Ceraluminum(26G080574)は、アルミニウムの軽さとセラミックの耐傷性などを両立させた、見た目も触った質感も金属と石の中間のような独特の素材である。ライスシリカ(26G080575)は、日本で最も発生する農業廃棄物であるもみ殻から、環境負荷が低い独自の製法で高純度シリカを製造する。真球状シリカ サイカス(26G080576)は、次世代電子基板のための、真球度とサイズ均一性を追求した超高精度な球状シリカである。
これら以外にも、さまざまなアプローチで産業、医療、生活、社会を支える優れたデザインが提示されていた。
このユニットの審査委員
佐藤 弘喜
デザイン学研究者
本ユニットの審査対象は家具、照明、建材であるが、今回の審査では全体傾向として家庭用、業務用に関わらず、ミニマル、ノイズレスといった傾向が感じられた。それらの製品は生活環境におけるユーザーの志向を反映しており、現代のライフスタイルと価値意識を感じさせる。ただし、単にシンプルにすればよいわけではなく、ミニマルでありながら質の高さや魅力を生み出すためには、高い表現力が求められる。
また同時に、過剰さを削ぎ落としたミニマルなデザインは材料や加工の削減など、ものづくりの効率化にもつながり得る。廃棄物問題や労働力不足などの面でメリットは大きいが、それが効率化だけに偏って、生活の豊かさをもたらすものでなければ良いデザインとは言えない。今回の審査で高い評価を得た製品の多くは、今日的なミニマルな表現を取りながら、効率や機能性と質の高さを同時に実現している点が高評価につながっている。
「大型建造物雨とい」(26G090690)は近年の自然災害に対応する高い排水性能と耐久性を実現するとともに、スリム化することで建築と調和し景観を向上させる社会的意義のあるデザインとなっている。「「スツール「オールラウンド」(26G090624)はアイコニックでプリミティブなデザインでありながら、金属による高い質感と堅牢さを備え、フラットパック梱包により輸送コストの削減も可能としている。「「グレーチング「ファインスルー」(26G090677)は厨房などの作業空間に求められる、導水性能や清掃性の向上をシンプルで一体感のあるデザインで実現し、外観も含めて作業環境の改善が期待できる製品となっている。「建具用隠し丁番」(26G090686)は、開閉時に視覚的ノイズの少ないドアデザインを生み出すと同時に、取り付け作業を容易にすることで職人の人手不足や経験不足の問題に対処している。これらの製品はミニマルなデザインアプローチによって、高い商品性と機能向上や問題解決が融合した優れたデザインとなっている。
審査では例年、既存の類似製品との違いや、提案として新しい点はどこかという点が議論になる。技術的なイノベーションだけでなく、そのデザインがどのような新たな視点や価値を提案しているのかという点が重視される。完成度は高いものの、既存製品との明確な違いが認められない製品は高い評価が得られなかった。
このユニットの審査委員
橋田 規子
プロダクトデザイナー
このユニットの審査製品は多岐に渡るので、ジャンル毎にその傾向を説明する。まず、人の移動に関する製品では、認証ウォークスルー改札機が秀逸であった。日本が培ってきた高精度な顔認証技術を公共交通に実装したもので、改札をストレスなく自然に通り抜ける体験へと進化させた点がある。こうした人の移動をスムーズにする製品として、他には、スーパーでの買い物に関する製品があり、ゲート式やカートに取り付けるタブレット式のものもあり、さらなるストレスフリーへの展開に期待したい。。
次は蓄電充電関係である。災害時の停電に際して、大型の家庭用充電器の応募が多い中で、最も必要な食料や医療品のための冷蔵庫用充電機があった。その薄さや自由な置き方が実用的で評価された。またEV車用の充電設備は従来の床置き式でなく、省スペース壁掛け式という斬新なものがあった。その薄い大判タイルをパブリックアートに使うなど、都市景観向上に活用した点が面白い。
玄関廻り、インターホンでのセキュリティー機器では、共働き世帯の増加や高齢化、宅配利用の拡大、防犯意識の高まりなど、年々その役割が高まっている。4Kカメラ、モーション検知、AI顔認証や自動応答、荷物の預かり、サイレンなど様々な機能を搭載し進化をしている。それぞれのUXデザインも充実しつつある。集合住宅における宅配ボックスは以前からも応募が多いが、冷蔵冷凍ものを保管する機能は、配達側受け取り側、両方にありがたい。ホテルなど、ラグジュアリーなパブリックでの荷物預かりボックスとしてインテリア性の高い製品が出てきていて、今後の充実を期待する。
水廻りでは、衛生性を今まで以上に極め、さらに省力化する機能を追加した製品が多かった。キッチンではシンクの排水トラップ内を自動洗浄するもの、トイレでは完全非接触の操作や、便座裏洗浄機能、部品の分割ラインを最小限するなど徹底している。
一方、シャワーでは多機能のものが多く、ミストやウルトラファインバブルなどの美容効果、癒しを狙うものが多い。また逆にシンプル機能で掃除や子育てペット用に、軽く扱いやすさを全面にデザインしたものも登場している。
空調系では、訴求ポイントが明快な製品が海外品で見られたが、国内品は抑えめの印象であった。中では施工・修理の現場を起点に、作業性や安全性、品質の安定、省資源化までを見直したものがあり、特に多数の機種を共通の思想で再構成したものは評価された。
設備機器全体のデザイン傾向としては、建物や空間のノイズにならない、また、人の動きにストレスを与えない、シンプルでかつ機能が分かり易いデザインとなっている。
このユニットの審査委員
根津 孝太
クリエイティブコミュニケーター
今年のモビリティ分野では、例年以上に、これまでの枠組みを越えて新しい価値創造をしようとする提案が多くなされた。モビリティという範囲を超える、あるいは、その定義そのものを変えようとする挑戦が描き出す姿は、様々な社会状況の縮図のように見える。
車椅子とロボティクスが結びつき、階段の昇降をも可能とした身体拡張型のモビリティ、ホテルのラウンジの延長として、水上からの視点を体験価値へと昇華した船、エンジニア自らが立案し、居心地がよく没入感のあるレコーディングスタジオとして作り込まれた音声中継車、ゆっくりと進むことで自由な乗り降りを実現し、搭乗者や周囲との間に新たな関係性を生み出した、動く家具のような小型モビリティ。これらはみな、本来のカテゴリーを越境し、その価値の再構築を試みた提案と言える。
また、鉄道や船では、地域との密接な関係性を保って開発・運用される機運がさらに高まり、その地域の歴史が持つ物語性をデザインへと落とし込んだ提案も見られた。舟運の歴史に想いを馳せ、車体デザインへと取り込んだユニークな鉄道車両、半世紀近くも走り続ける鉄道車両をモチーフに、隅々まで丁寧にオマージュした路線バス車両、現代では都市の裏側となってしまった水辺空間を、かつての賑わいのある表舞台へと転換することを試みた船など、地域の歴史と一体となった価値の創出を試みている点が興味深い。
乗用車では、日本メーカーが、築き上げたヘリテージを大切に守りながら、その革新にも挑み、ブランドの伝統価値と時代に先駆ける革新性を高い次元で両立した提案をしていたことに、日本の自動車産業の底力を感じた。一方で、中国メーカーの躍進も目覚ましく、国策による強力なバックアップを背景に短期間での開発を成し遂げ、モデルごとに確実に品質を向上させていることは、特筆に値する。審査で出会った開発者たちが、活気にあふれていたことも強く印象に残った。
慢性的な働き手不足の状況を受け、鉄道運行やそれに携わる人材の育成を支援するシステム、物流の効率化や自動化を推進するシステムなども、完成度の高い提案が多くなされた。地道ではあるが、縁の下で社会を支えるデザインにも、引き続き注目していきたい。
総じて、ますます多様性を増すモビリティ分野において、様々な視点で新しい芽吹きを見出すことができた年であったと思う。
このユニットの審査委員
伊藤 博之
建築家
建築は、竣工という一時点の姿だけでなく、その後のあり方が問われるが、今年は、建築をより長い時間軸の中で捉え、竣工前を含めた「つくるプロセス」にフォーカスした、一枚の写真では伝わりにくいかもしれない対象が、多く上位に選ばれた。
「HAND MADE」(26G120846)は、インドの大規模なレンガ造りの住宅の計画である。熟練技術者が少ない現地の建設環境において、まず労働者のための住まいを建設し、技術指導を行い、彼らが施工可能な工法を用いた美しい空間がデザインされている。
「父子の家」(26G120847)は、大工であった父の住宅の骨組みと対話しながら、その価値を見出し、新たな輪郭をその外側に作った設計者の自邸である。構造的にも空間的役割としても、既存と新設が補い合う、新しい継承の方法が提案されている。
「蟻鱒鳶ル」(26G120848)は、自ら施工可能で耐久性が高く、即興的な細部を受け入れられる工法に加え、20年以上かけて「考えること」と「作ること」の一致を実践し自ら作り続けたこと自体が、建築の一つの理想の姿として高く評価された。
「ニカイメノイエ」(26G120844)は、古家を素材として買い取り、数年住んだ上で丁寧に解体・再構築した家で、サンカイメ、ヨンカイメ…と、これからの変容も想定されている。
グッドデザイン賞の全体像を踏まえて、当ユニットからの金賞候補として「蟻鱒鳶ル」と「ニカイメノイエ」の位置づけを議題に挙げたところ、様々な意見が交わされ、この賞のあり方を改めて考える貴重な時間をいただいた。デザインは、作り手の表現であると同時に、他者のための再現可能な技術や仕組みであるという整理を得て、ユニットに持ち帰った。
実見した「ニカイメノイエ」は、工務店も兼ねる設計者によるものづくりへの信頼と愉しさに溢れ、資材循環を徹底しながら地域を巻き込んだ展開を視野に入れていた。ユニット内で改めて意見を交わし、更新を続ける営為としての建築が、これからの時間と社会へ拓かれている点を評価すべきと考え、こちらを金賞に推すこととした。
このユニットの審査委員
栃澤 麻利
建築家
ユニット13は中〜大規模集合住宅を主な審査対象としており、社会情勢の変化が直接的に表出しやすいユニットである。近年、とりわけ都市部ではマンション価格が高騰し、専有面積や駅からの距離、都心へのアクセスといった市場的価値指標によってプロジェクトが強く規定される一方、建設費は高騰し、建築的な工夫や新たな試みにコストや空間を割くことが難しい状況にある。今年の応募作品総体としては、都市木造や新しい住まい方の提案など、集合住宅を取り巻く状況そのものを更新しようとする意欲的な作品は、必ずしも多くなかった。
一方で、集合住宅の新たな価値を考える上で重要な示唆をもつ作品も見出すことができた。「高円寺アパートメント(26G130918)」は豊かな共用部を設けることに依存せず、住民同士や地域社会との接点となる「小商い」を媒介として、暮らしの中に共有感を生み出している。「山口台の連棟(26G130919)」や「kinone 東久留米(26G130917)」は、地域の風景や建主の個性を丁寧に読み解き、「そこにしかない」空間をつくることで場所への愛着を育んでいる。また、「登戸・向ヶ丘遊園エリア開発|街に余白を編み込む(26G130916)」は、企画からリーシングまで、プロジェクト全体に深く関わることで、人々の営みと生業が共存し、その活動が街並みに表出する空間を実現しており、それらを地域の面的な価値向上に繋げているものである。
これらに共通するのは、集合住宅を単体の「商品」として完結させるのではなく、住民の共有感や場所への愛着を育み、それを地域社会との関係へと広げていく姿勢である。厳しい市場環境だからこそ、建築の価値を市場的な尺度だけに委ねるのではなく、人々の営みを支え、地域との関係を育み、時間とともに価値が成長していく仕組みをつくることが重要である。審査を通して得られたこれらの知見が、建築家のみならず、集合住宅に関わる多くの主体に共有され、新たな価値基準を社会に提示する契機となることを期待したい。
このユニットの審査委員
五十嵐 太郎
建築評論家
筆者は産業/商業施設を扱うユニットを担当して、今回で3年目となる。公共建築とは違い、民間のプロジェクトになるため、それぞれの施主の思いが強くあらわれるのが大きな特徴だろう。とはいえ、私有地として囲い込むのではなく、街に開くデザインによって、半公共的な性格をもつ作品が数多く入賞している。また地域の防災を意識したケースも散見された。ただし、昨今、話題になっている建設費の高騰が影響し、思うようにつくることに対し、ブレーキがかかっているのは、産業/商業施設の分野も同じである。それゆえ、新築ではない、いわゆるリノベーションに注目すべき作品が登場しているが、おそらく今後もこうした傾向はしばらく続くのではないか。
今年のユニット14では、222件の応募があり、111件が一次審査を通過し、最終的に72件がグッドデザイン賞に選ばれた。審査の過程でもったいないと思うのは、ときどき資料が不十分な応募作があること。例えば、どのような背景と状況で、デザインが導かれたかの論理的な説明が足りなかったり、完成していてもCGだけで実物の写真が添付されていない、などである(特に後者は海外の作品に多い)。それでも、審査員はなるべく意図を読みとる努力はしているが、建築の場合は、現物が審査会場に並ぶプロダクトと違うので、より理解しやすいプレゼンテーションを心がけてもらえると助かる。作品について不明な点が残ると、確信をもって強く推せなくなるからだ。
さて、ベスト100に残ったのは、以下の5作品だった。いずれもデザインのクオリティが突出しているのは当然として、さらに地方自治体と避難所の協定を結んでいるYUKI office (26G141005)、都心において中高層木造ハイブリッドオフィスを実現した第一生命京橋キノテラス (26G141000) 、教文館の一部を改造して新しい顔をつくりだしたJINS銀座店 (26G141045) 、分散型本社によって街に溶け込む三島のオフィス (26G141001) 、そして役割を失っていた公共建築を大胆にリノベーションした霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ (26G141039) である。すでにモダニズムの再生事例はいろいろと出揃っているが、クセが多いバブル期のポストモダン建築はこれからさらに重要になる新しいモデルケースとして、霞ケ浦どうぶつとみんなのいえは特に高く評価した。
このユニットの審査委員
伊藤 香織
都市研究者
社会環境が複雑さを増し将来の見通しがつきづらい現代でも、公共建築やインフラは長い時間を見通してデザインしなければならない難しさがある。今年度、特に長い時間に向き合った作品が「常盤橋(26G151132)」であった。江戸城の石垣から来たる大規模開発の先までの東京の時間に、確固として存在しつつ柔軟に更新されてきた橋を、創意に富んだ方法でこの先に引き継いでいくものであった。こうした時間に向き合うデザインは、公共施設のリノベーションでも見られるが、そのなかでも「旧上野市庁舎SAKAKURABASE(26G151067)」「下田市役所新庁舎(26G151068)」はそれぞれ、地域の時間の流れの中で、何を未来に引き継ぎ何を柔軟に更新していくのか、そのビジョンが明確であった。
もうひとつの傾向は、非常に多くの作品で「まちに開く」「地域に開く」という言葉が使われていたことだ。敷地に閉じないことがいかに当然のこととなってきたかをよく表している。逆に、もはや「地域に開く」という言葉だけでは作品を特徴付けることができない。「開く」がどのようにデザインされ、それが地域にどのような変化をもたらしたのかを問いたい。「ランドスケープミュージアム / 長野県立美術館・長野市城山公園(26G151089)」は、いくつもの境界を超えた一体的なデザインに果敢にチャレンジし、それがエリア全体の回遊性やイメージを変えた。さらに「Kaohsiung Station(26G151101)」は、敷地境界も整備・管理セクターもまたがるプロジェクトで、融合された都市空間/インフラを創出するとともに、それが将来の開発の手掛かりになっていく。
加えて、「せんつく(26G151130)」「盆宿U(26G151105)」のように、建築家自身が企画立案し、周囲を巻き込みながら計画し、設計し、運営するというデザインプロセスを辿る成熟した作品が目立った。
こうした、時間、空間、プロセスを横断する優れた作品に出会うことができたのが、2026年度のユニット15の審査であった。建設状況は厳しくなる一方であるが、射程を広げることでさらなる価値を見出すデザインアプローチに今後も期待したい。
このユニットの審査委員
五十嵐 久枝
インテリアデザイナー
ユニット16は、インテリア空間全般にわたる審査を行う。今年で2年目を迎え、住居・オフィスから商業・公共・教育施設まで、応募数、ジャンルともに広がりを見せている。
今年は、オフィスのエントリーが増加した。働き方をめぐる検討や模索は、課題解決にとどまらず、企業が今後のビジョンや価値観、アイデンティティを社内外へ伝えるうえでも、オフィス空間を活用する動きにつなげている。また、誰もが利用できるコモンプレイスのあり方も、コミュニケーションや休息・癒やし、防災など、その目的を含めて多様化している。企業のスケールからそこで展開されるコンテンツまで、企業の姿勢を映し出す表現媒体となっている。
歴史的・文化的建造物を保存し、活用する取り組みが国内外で増えている。地域の原風景としてその場所に残しながら、美術館・博物館・ホテルなどへコンバージョンし、新たな役割を与える事例も見られる。一部の改変は、現在の機能を満たすために不可欠であり、何を継承するのかという目的を明確にして伝えていくことが重要である。
住宅のリノベーションにおいて、既存の建築を活かし現し再利用する事例が増えている。もともと存在していたものと新たに加えられた部分とのバランスや、両者が交ざり合う調和がオリジナリティとなる。より自由度を含んだリノベーションの仕組みが整い、コストや廃棄物の削減につなげられる。
商業空間では、人の居場所を内包した計画が現れている。ラウンジルーム、イベント、展示などが商材との関係を考慮し、訪れた人が滞在する価値を見つけ出す店舗空間である。
金融・医療機関では、お金や健康について、「これからどのように生きたいか」を一緒に考える窓口の存在が現れ、地域や個人の課題に対して関わり合える場が広がることを期待させる。
住まう側のシェアする価値が拡がっている。生活の質やコストを考え、何をシェアするべきか選択肢を知る機会になった。
戦後80年を迎え、毎年の災害に心を痛める。AIとの関係や経済への不安など、社会には懸念が存在し続ける。引き続き環境への配慮を考慮し、防災に対する提案も増えていくことを期待したい。インテリアには支え合う場が増えてきている。
このユニットの審査委員
森内 大輔
デザイナー
今年度の審査を振り返ると、生成AIの飛躍的な進展によって、情報やビジュアルがかつてない速度で生成・流通する時代において、メディア・コミュニケーション分野におけるデザインの本質的な価値とは何かがあらためて問われる内容だった。その中で高く評価されたのは、情報を効率的に伝えることだけを目的とせず、人々が実際にその場を訪れ、身体を介して経験し、テーマや対象物、さらには顧客や社会との関係を結び直す契機を生み出している作品群であった。
本年度の受賞作には、空間展示やイベント、パッケージ、ブランドコミュニケーションなど対象領域の違いこそあれ、共通して体験価値を再構築する視点が見られた。鑑賞者を参加者へと変える展示設計、空間そのものを対話の装置として拡張する試み、ブランドや施設の価値観を物質的な手触りとともに伝える表現など、いずれも人と人、人と社会をつなぐ新たな接点を生み出していた。
また、多くの作品に共通していたのは、完成した成果物だけでなく、その背景にあるプロセスや関係性を可視化しようとする姿勢である。多様なステークホルダーとの対話、文化や技術の継承、社会課題への理解を促す体験設計などを通じて、情報発信を一方向の伝達ではなく、共感や参加を伴う循環として捉える視点が随所に見られた。
さらに、受賞作群はデジタルとフィジカルの関係性について重要な示唆を与えている。生成AIによって大量の情報や表現が容易に生み出される時代だからこそ、現地でしか味わえない空気感やスケール、人との偶発的な出会い、身体感覚を伴う理解といった価値がむしろ際立っていた。テクノロジーそのものではなく、人間の経験を豊かにすることに主眼を置いた姿勢が高く評価された。
今年度の受賞作は、それぞれ異なる領域に属しながらも、「その場所、その機会、その人との関わりの中でしか成立しない体験」を丁寧に設計しているという共通項があった。
生成AIによって情報や文化の発信のあり方、そしてそれらとの接し方は今後も大きく変化していくだろう。しかし今回の審査を通じて見えてきたのは、テクノロジーが進化するほど、人間が身体を通して世界を理解し、他者と価値を共有する体験の重要性がいっそう際立つという事実である。人々の体験や価値観をつなぐ新たな表現や仕組みがこれからどのように生まれていくのか。その展開を楽しみにしたい。
このユニットの審査委員
左右田 智美
エクスペリエンスデザイナー
本ユニットでは、AIやDX改革、持続可能な社会形成等の潮流を受け、業務効率化から社会基盤設計まで、産業・行政・福祉・教育など多様な分野にわたる応募が集まった。審査にあたっては、社会課題の解決力、アイデアの新規性、デザインの完成度、技術・ビジネス・社会基盤への挑戦、持続可能性、実現性などの観点から総合的に判断した。とりわけ当ユニットは生活をより良くするシステム・サービスとしての新しさや社会的インパクトが大きな論点となった。
上位に選ばれたのは、社会課題を創造的な着眼点と新しい技術等を組み合わせて解決し、より良い暮らしの実現を感じさせるもの、あるいは文化的コンテンツを新しいエンタメへと変えるなど、未来の新しいビジョンを描き出すサービスであった。今年は特に、デジタルなサービスでもフィジカルな体験と接続するものや、AIを活用したサービスなどが目立ったトレンドとして見受けられた。
金賞のMiseMise (26G181310)は、自律移動ロボットによるマッピングで店舗をデジタルツイン化する店舗管理システムである。人手不足のニーズに応えるべく検証を重ねて開発され、いま注目を集めるフィジカルAI分野の新しいサービスとして高く評価された。MANGALOGUE (26G181363) は、マンガをロボットアームや演者、演出を融合した新しいライブコンテンツとしてのフォーマットで、今までにない驚きを与えるしくみとして評価を得た。そして、サステナビリティ推進のための事業指標を定めた企業の取り組みや、行政の根幹となるデジタルダッシュボードにデザインの力を注ぎ、情報へのアクセシビリティを高めたプロジェクトも高く評価された。
一方、アイデアの新規性、デザインの完成度、普及度やインパクトが乏しいもの、しくみが洗練されていないもの、社会的意義や倫理的観点から懸念が残るものは評価が低かった。新しいビジョンを形作る、独創的なシステム・サービスデザインが、これからも多く生まれることを期待したい。
このユニットの審査委員
内田 友紀
都市デザイナー
地域ユニットには、暮らし、学び、仕事、産業、医療など、人が生きる足元をよりよくしようとする多様な実践が集まる。その変遷を追うことは、デザインが社会にいかに関わりうるのか、その射程の広がりを見つめることでもある。また、地域に関わる営みは、所属や専門を越えた公共的な実践でもある。変化の激しい時代に、多様な主体が協働の回路をひらく姿に心強さを感じている。
第一に、個の切実な思いや情熱から始まり、人を巻き込みながら、場や仕組みの意味を更新していく実践である。「郷土誌『めぐる』」(26G191365)は、つくり手が地域の日常に向き合い続ける営みから、読者や支援者との関係を育み、土地の記憶と誇りを共有する媒体へと育っている。「函館ソラボレーションプロジェクト」(26G191367)や「おへそ学道場」(26G191366)も、既存の施設や制度の枠、所与の機能にとらわれず、地域にいま必要な役割を問いながら変革を重ねている。その過程で意味と関係を編み直し、他地域にも示唆を生む点を高く評価した。
第二に、デザインが関わる領域の広がりと、異なる主体のあいだをつなぐ役割の深化である。医療・福祉・ケアの領域では、固定的な関係をほぐし、人の暮らしや人生そのものを捉え直す実践が増えている。「おうち診療所神山」(26G191369)は、地域づくりの蓄積の上に医療を日常の風景として位置づけ直した。「いとち」(26G191397)は病院と地域が学び合う関係を育て、「F-TRAD」(26G191371)は産地の事業者とデザイナーの主従関係を解きほぐした。人や組織の間に立ち、それぞれの力を引き出すこと自体がデザインの重要な役割になりつつある。
第三に、担い手やプロジェクトの立ち上がり方の変化である。「閃」(26G191393)では、20代のメンバーが産地や工芸に身を置き、職能や地域の境界を越えてつながり、新たな表現と運動を立ち上げている。「檸檬派プロジェクト」(26G191404)も、異なる背景を持つ若い世代が複業的なネットワークから店、メディア、産業へと活動を広げている。地域に身を置く当事者が軽やかに結びつき、その土地に内在する可能性から文化や仕事を立ち上げる姿に、新しい地域との関わり方を感じた。
審査では、「その土地にふさわしいデザインとは何か」がたびたび議論になる。年を追うごとに、表層的な意匠ではなく、風土や歴史、現場の蓄積に根差した表現や仕組みが増えている。一方、その実践が地域に何をもたらし、どのような応答を受けて次へ展開したのかは、評価に欠かせない。息の長いプロジェクトが、影響や学びを携えて次の挑戦へ進み、その過程を再びエントリーする例が増えていることにも励まされる。
本年掲げられた「ビジョンに資するデザイン」を考えると、今年は多くの豊かなビジョンに出会った。ビジョンを描き、それを現実のものとしていく。その往復から地域に新たな関係と選択肢を生み出す実践に、これからの地域デザインの可能性を感じている。
このユニットの審査委員
田中 みゆき
キュレーター/社会福祉士
「一般向け取り組み・活動」は、環境、福祉、教育、防災、医療、地域、産業など、多様な領域や業種が入り混じるユニットであり、何を共通の基準として評価するのかという難しさは今年も変わらなかった。数年前から、なぜあえて「取り組み・活動」として応募するのか、プロジェクトにおいてデザインがどのような役割を果たしているのかを記載していただくようお願いしてきた。今年はさらにその点を明記するよう補足を加えたが、この二点が十分に伝わってこないものも少なくなかった。
評価された取り組みには、個々のプロダクトやサービスだけでなく、それを成り立たせる仕組みや関係性、参加のあり方までをデザインの対象とするものが多く見られた。なかでも印象的だったのは、既存の場や制度に新たな機能を付け加えるだけでなく、そこで前提とされてきた参加の条件や人々の関係性そのものを捉え直す試みである。
たとえば「LET'S EXPO (26G201428) 」は、高齢や障害によって万博への参加をあきらめていた人々の参加条件を当事者らとともにつくり、「サインエール (26G201429) 」は音に依存してきたスポーツの応援を視覚的な方法へと拡張した。いずれも「支援」を付け加えるのではなく、誰がどのように参加できるのかという前提そのものを問い直している。
こうした視点は、領域を越えて見られた。「プ活 (26G201458) 」は子どもを教えられる存在ではなく、自らの興味から挑戦する主体として位置づけた。また、「安平町立早来学園(26G201467) 」が学校を地域の人々が出会い、学ぶ場へ、「くわくわ(26G201431) 」が診療所を地域の日常へとひらくように、既存の施設や制度の役割を捉え直す実践も見られた。
さらに、「災害支援ローソン (26G201427) 」は平時の買い物拠点に災害時の支援機能を重ね、「湘南国際マラソン (26G201435) 」は使い捨て容器をなくすため、ランナーの参加方法まで変えた。領域は異なっても、既存の場や活動を土台に、人々の行動を含めて仕組みを組み替えている点は共通している。
社会課題を掲げること自体がデザインの価値を保証するわけではない。誰が課題を設定し、誰の経験や声を起点に、行動や制度の変化へとつなげているのかが重要である。評価された取り組みには、一時的な啓発にとどまらず、日常の選択や組織の意思決定、地域のインフラの中に変化を埋め込もうとする工夫があった。
「取り組み・活動」をデザインするとは、社会的に意義のある活動のなかにデザインの価値を見出すことに留まらない。課題の捉え方から、人々の関係性や参加の方法、既存の仕組みや制度までをどのように捉え直し、組み替えているのか。多様な応募を審査するなかで、私たち自身も改めてその問いに向き合う機会となった。
