デザインの意味の拡大・審査視点の変化・産業の軸の変化
1999年度グッドデザイン賞 審査副委員長  黒川 玲 Rei Kurokawa

デザインの意味の拡大

今年度Gマーク審査の際だった特徴を一つ挙げるなら、それは「デザインの意味の拡大」に対応した部門(テーマ部門)が成立したことだと思う。昨年までの審査は「モノ」の良し悪しを評価基準によって見極めることが中心だったが今年は、モノそのものだけではなく、モノが成立していく過程に対する解決の方法やシステム(例えば既存建築物の再生提案、或いはモノを生産する環境型生産機構など)、また様々な社会的問題や地域活性化課題に対する解決の方法やシステムなど、今までの審査では対象になり得なかった「考え方」や「システム」などが評価対象になったことである。
これらのことは、デザインの意味や意義が時代と共に拡大してきたことを示している。「デザイン」が、「モノの形化=モノそのもの」から、「考え方」「企画力」「計画力」「関係・関連力」「システム力」へと広がって、「目に見えること=モノ」と同時に「目に見えないこと」までを包含して成立してきており、今回の審査で、デザインの意味の変化や拡大にGマークが追いついたと言えよう。Gマークのあり方自体、「時代の変化」に敏感に対応することなしには成立しないだろう。そして随時時代の変化を見直し再検討しながら、より良いGマークのあり方を追求し続ける柔軟な姿勢が大事なことであると思う。そのような意味で今回のこの部門の設立を高く評価したいと思う。


地域のデザインへの視点

Gマークの45年の歴史の中で、今までに「Gマークスタイル」というか「Gマーク好み」と言われるものが出来上がってきてしまったように思う。当初は当然のことながらデザイン的混乱の中から、一つの、Gマークスタイルとも言うべきものが確立していく意味が大いにあったといえる。それが一般社会に「良いデザイン」或いは「良いモノ」として受け入れられ、ものを選ぶ(=買う)基準の一つになっていたことを考え合わせれば、ある時期までの「Gマークスタイル」の意味、またGマーク事業の意義が社会的にも認知されていたことの証しでもあったと言えよう。しかし45年の間に、そのこと自体が「Gマーク」のある種類の欠点にもなってきていたのではないだろうか。
「Gマーク好み」のカタチが目をつぶっていても思い浮かぶ、と言うことはデザインの幅を狭め、一つの方向性に視点を絞り込んでしまい、デザインが持つ時代的変化や楽しさ、或いは地域の独自のカタチなどを締め出してきてしまったと言えよう。そしてこのことがまた、社会の中で一般(生活者)からも次第に遊離し、Gマークが「つくり手」にとってだけ意味があり、「売手」や「使い手=買手」不在の今日のありようの一因を成してきたとも言えるのではないか。
今回、北海道と大川の家具が特別枠で推薦され審査対象になったのは、日本の中の各地域にはそれぞれの歴史や生活文化に基づいたデザインや産業が存在し、また新たなものを付加しながらその地域の生活文化をつくり続けている、そこに視点を向けて行こうと言う試みであったと思う。ややもすればGマークタイプやGマーク好みのものになりがちなデザインに、今回の試みは、デサインの幅や奥行きを与え、また何よりも地域の独自性を認めていこうとする姿勢にほかならず、この視点をGマークが持ちえたことは評価されるべきであろう。それにつけても審査する側(=審査委員)も、専門性だけではなく複眼的見識と柔軟性が必要だとつくづく感じさせられた


AIBOへの期待・テクノロジーへの期待

今年度の大賞がソニー株式会社のAIBOに決定した。「犬のロボット」そのものより、この中で表現された「考え方」に多くの共感が得られたからではないだろうか。言わば20世紀のテクノロジーは、「人に役立つ、人に資する」方向性で発達発展してきたといえるが、このAIBOが示して見せたのは、「心を助ける、心に資する」テクノロジーのあり方であり、まさに21世紀の産業の一つの軸を指し示したということだと思う。またこの画期的なロボットが1999年に出現したという時期的なことも、大賞に選らばれたことと関連があったと言えよう。それは20世紀の反省と同時に、21世紀への人間の夢や期待が「那辺にあるか」を、この「AIBO」が明確に示唆していたからなのだ。