センター制によって、ひとつだったデザイン部がいくつかに分かれたときに、みんなの意識をひとつにまとめる意味でトヨタデザイン理念がつくられました。その中で世界の自動車デザインをリードするとうたって、みんなに檄を飛ばすと同時に、そういう車づくりをするにはどうしたらいいのかとずいぶん議論しました。いろいろなシステムがつくられ、やり方もいろいろ試行されましたが、車のデザインの品質を高めるには、やはりコンペ、競争だという結論に達しました。たまたま海外にも拠点があったことから、まず拠点と本社とを競争させよう。開発的には無駄弾と思われるかも知れませんが、デザインの質を高めるために最初は弾を広く撃って、そこから収束化させて決めていこうという考えです。1点だけを狙った場合、市場が変化し外れてしまうと大変なことになりますので、いかに幅広くするか。そういう意味もあってアメリカ、ヨーロッパ、東京、本社の4拠点でしばらくやっていたんです。
ところが、海外では日本の事情がよくわからないため、設計的にかなり無理なことを提案してくるので、先行開発デザイン的に位置づけられて、一度つくってからまた焼き直すということが繰り返されました。これは効率が悪いということもあって、本社のボディ設計部署からエンジニアをデザイン部に異動してもらい、海外のデザイン拠点にも必要に応じ出張させ、大きな設計の当たりをつけるようにしました。するとパッケージの大きなずれがなくなって、同じ土俵に乗るようになる。そうすると、日本、アメリカ、ヨーロッパ、東京と、重要な車になると最低4案が提案される。加えて、デザインを行っている様子はお互いにわからない。何をやってくるかわからないという状況に置かれ、常にデザイナーも活性化するわけです。
それでも、海外の案はやはり設計的に成立しないことも多かったことがあって、同じ仕組みを国内でもできないだろうかと議論がなされました。車種によって担当チームがありますが、これとは別にスタジオをつくろうということで、チーフ・クリエイティブ・デザイナー(以下、CCD)という制度をつくりました。プロジェクトに対して、CCDに絶大な権限を与えよう。仕事のやり方からスタッフの人選まで任せようということで、CCDをデザイン分野から公募するわけです。そして何人か応募してきた者の中から、委員会で面接をし、やる気や意気込み、車に対する考えをそこでインタビューして、よし、この人に任せようという感じで選んで決めます。自分のチームのスタッフもいろいろなところから集めてくるのです。そうしてできあがるのがスタジオです。またそれとは別に本来のチームでも開発も実施します。本社の中に2つのチームをつくって、コンペをさらに活性化しています。
一方で、デザインの社内公募制度も設け、自分の担当以外の車種に対しても提案したいものがあれば、手を挙げ、提案できる制度です。開発の中では、10数案から20案ぐらい出てきますが、その内の数案は、そういったところから出てきています。そして、最終的に選ばれることもあります。 本来の仕事をこなす中で、自分で時間を捻出してやってくるので大変なんですが、逆にそれだけのことをして提案してきますから、本来のチーム、スタジオもうかうかしていられない。なお一層切磋琢磨する。先代の部長が、デザインの品質を高めるのはやはり競争だ、社内コンペをやっていかないとレベルは上がらないという想いで始めたことが、ヴィッツなどいろいろな車で実を結び始めたのではないかと思います。
最近トヨタのデザインが変わってきたというのは、いまご紹介したいろいろなことが効いてきているのだと思います。しかし、他社も頑張っているわけだから、歩みを遅くしたのではすぐに追いつかれてしまう。よいときにこそ組織を変えよう、やり方も変えようということで、この1月1日からデザイン本部制を敷いて、またやり方を変えようとしています。
一方で、自分のセンターにいる優れたデザイナーを離さなくなるという弊害もあり、デザイン機能で話し合い人を流動させています。人が流動すると、あちらのセンターとこちらとではやり方が違うということで刺激を受ける。すると、デザイナー個人個人がいろいろなやり方をトライする。そういうことが非常に大事かなと思います。 トヨタ社内で比較しても、事務や技術といった他部門では、3年から5年するとスタッフの半分以上は入れ替わってしまい、やり方も変わって活性化する。ところが、デザイン部には人の入れ替わりが少なく、ファミリーのようになって甘えも出る。そういう意味でも、リソーセス統括室がやるべきことは、常に人を流動化できるようにする。それが結果的に育てることにもなる。それは一番大事なことだと思います。
●中西 元男 PAOS代表 2000年度グッドデザイン賞審査委員長