中西元男 対談バックナンバー

 
 

第12回(2000.12.27)


Before
松隈: 今回のMimehand IIでは、手話ソフトをビジネスとして育てていこうというスタンスで開発を始めたわけではなく、日立製作所の中央研究所で、先端技術として研究開発していこうという話からスタートしています。センサーが取り付けられた手袋によって、コンピュータにさまざまな入力を行うデータグローブという製品が世の中に出た頃からですから、約10年前の話です。それと福祉関係のニーズをうまくマッチングさせて、手話のデータベースをつくろうという研究プロジェクトが、中央研究所で起きました。
松隈さん入力をする人がデータグローブを装着して手話の動作をすると、それが画面上のキャラクターによって再現される。コンピュータグラフィクスとはいえ非常にプアなキャラクターですが、そういったかたちで、手話の動作と手話単語とをデータベース化することが当時としては非常に画期的だった。それを作りあげるだけでもかなりの時間がかかりましたが、これがある程度の完成を見たころでMimehand バージョン1を出しています。今回Gマークでインタラクションデザイン賞を受賞したMimehand IIが、バージョン2に当たります。当時は、非常に高価なワークステーション上にシステムが構築されていました。このバージョン1自体が高価でしたし、プラットホームはUNIXだし、3次元CGが動かせるような高いマシンスペックを要求するもので、つまり非常に限られた環境下でしか動作しなかったものですから、やはり限られた数しか販売できませんでした。一般的な製品開発の場合、売れなかったらやめようとなることも多いのですが、この開発の場合、社会的な意義も大きいということから、そのまま開発が進められました。

バージョン1の一番の特徴は、こちら側で入力したアニメーションと「手話単語」を1対1、または多対1の対応で収めたデータベースだったんですが、問題だったのは、手話単語が、われわれが日常使っている日本語とは異なるということもあり、手話を知っている人にしか扱えないということでした。一般の健常者は手話単語を知らないので、このシステムの用途は限られてくるわけです。
そこで今回のMimehand IIでは、日本語から手話単語への翻訳支援機能を持たせること、また、こうした福祉関連の商品は値段が高くては使いものにならないので価格を下げることを目指しました。期せずして、ここ数年でパソコンの性能が3Dコンピュータグラフィクスをリアルタイムで処理できるほど高まったという背景があって、仕様的な問題点をなんとかしようという気運も高まってきていました。ただ、日本語を手話単語に変換する部分は、従来コンピュータを扱ってきた人間とは毛色の違った人間を投入しないといけないというので、AI(人工知能)を専門に手がけてきた研究者にこのプロジェクトへ参加してもらいました。彼らが中心となって日本語を手話単語に変換するという作業を一つひとつ行っていって、そこでまた新たなデータベースをつくりあげ、これによって、日本語から手話単語への自動変換が、完璧ではないんですが、できるようになった。日本語から英語への翻訳ソフトと同様に、意味をどこまでとらえるかという部分で完璧ではないのですが、それがある程度変換できる。これが今回のバージョン2の最大の売りです。

バージョン1の頃はキャラクターの見栄えは重視されなかったのですが、パソコンの表現力が向上したきたことで、画面の中のキャラクターの見栄えや表情といった部分での要望も出てきました。今回、共同で開発を進めてきた聾唖連盟の人たちにいわせれば、表情のない手話は手話ではない。普通に手話をやっているときに、悲しそうな顔をしているだけで、ネガティブな話をしているということが伝わる。ですから、表情が伴わない手話は使いものにならないというわけです。そういう話を受けて、バージョン1でもある程度の表情は持たせたのですが、バージョン2では情報量を多く持てるような仕様になったので、より微妙で自然な表情を与えられないかということで、AIをやっていた中央研究所の研究者たちと一緒に表情をつくってきました。AIをやっていた人がいろいろな人にアンケートをして、絵の表情と言葉との関連を調べてくれたりして、表情を作り込んでいったわけです。

今回はMimehand IIのソフトウエアと同時に手話辞典を出しました。価格は1万8000円です。手話が3次元情報で辞典としてまとめられたことはいままでなかったわけで、それが電子辞書のかたちで出版されるということは手話の世界で画期的なことです。いままでテレビはありましたが、それはもちろん2次元です。対置した状況で、自分の目の前で起こる3次元空間の動作、プラス時間軸がありますから4次元空間ですが、それをどこからでも自由にインタラクティブに見られるという辞書が、今回初めてできたわけです。
この辞書の監修は聾唖連盟にお願いしました。単語の一語一語をほとんど手作業で、聾唖連盟から派遣された方に監修を受けながら、つくっていって、最後にやっとできあがったという感じです。これまで10年間の多くの苦労を考えると、今回の価格はほとんどないに等しいと言って良いくらいのものです。

川口: ほんとうに発売ぎりぎりまで事業部に頑張ってもらいました。逆にいえば、Gマークが追い風になってくれた面もあると思います。Gマークのインタラクションデザイン賞の受賞があったから、これを一つのマイルストーンとして頑張ってくれたということもあると思います。家電事業のように3カ月サイクル、半年サイクルといった性格のものではありませんから、マイルストーンがなかなか立てにくいんです。自分たちで決めざるをえない。だから、極端にいえば10年かかってしまったということもいえるわけです。一方で、社会性が高いだけに、いい加減なことができないという緊張感もあります。ちょっとバグが出ましたではすまされない世界ですからね。
topへ
中西: Gマークには賞金がついているわけではありませんが、ある種の公的な認知、オーソライズという意味では非常に高いものがあると思います。ですから、大企業の中でも、いまの例のような役割がありますし、中小企業もGマークを取ることによって、金融機関からの資金調達が可能になったという事例も出てきています。
もう少しディテールに入っていきますが、この開発をしておられて一番ご苦労なさった点はどういうところですか。
松隈: 松隈さんと川口さん私どもデザイナーの立場からは2点ありました。1点はキャラクターデザインです。というのは、バリエーションとしてもっと楽しいキャラクターがほしいという意見もありましたが、そうはいっても一歩間違えれば、ふざけているととらえられかねないわけです。また、デザイナーの個性、気持ちを込めていろいろやったりしますが、そこはあえて抑えてもらいました。手話ニュースでも、画面があって、そこに右下に丸く合成される手話通訳者がいますが、そこで使われることを強く意識しています。そこでは手話通訳者のキャラクターの外観よりは、伝えるべき手話情報そのものの方が重要ですから、華美な洋服を着せる必要もない。逆の意味でこれは担当デザイナーにとって、実は大変なことだったかもしれませんね。
もう1点は、手話ではたとえば顔や頭に触れる動作があります。この動きのデータを複数のキャラクターで共有するのですが、キャラクターによっては、微妙に髪の毛の中に指が入ってしまう可能性があります。これは手話として相応しいのか、そうでないのか。どのくらいまでだったら離れていてもいいのかというところが、非常に難しい。何センチだったらいいという定義はないので、そのへんの判断に苦労したということはあります。

デザイナーとは直接関係はありませんが、キャラクターの表情の面で、たとえば手話で「ウソをつく」という表現は、頬の内側を舌で押して、そこを指差します。舌で頬の内側を押すと、あごが開くといった変化が起こりますが、キャラクターはそうした人間の骨格構造や筋肉の動きも再現しています。「あいうえお」というときも、口の中はほとんど見えませんが、舌の形もそれに合わせた状態を再現しています。このように、微妙な動きがもたらす表情にも気を使っています。

中西: いまCGアニメーションでよく使われているのは、体にセンサーをつけた人間のモデルに実際に動いてもらい、その動きをキャプチャーしてCGアニメーションの動きを人間らしくするという手法ですね。そういう方法はお取りにならなかったということですか。
松隈: ベースは手話通訳者の方にデータグローブを装着してもらって入力したデータですので、中西さんがおっしゃった方法を使用しています。ただ、やはり手間がかかるのはそのデータの編集作業です。一口に手話といっても、手話通訳者の人によって微妙に異なるところがあったり、また、このソフトにはキャラクターが3人いますので、この個体差もあります。頭の大きさが違う、目の位置が違うという「差」をどう吸収するかという部分です。その2種類の「差」の許容範囲の判断が難しいわけです
川口: そうして非常に苦労してできあがったキャラクターだったんですが、ある人からは表情が地味だねと言われたりしています。このへんの加減は非常に難しいところがありましたね。
もう少し市場がサチュレートして進化すれば、キャラクターの個性を際だたせたバージョンもあってもいいかと思いますが、まだこれからですから、われわれとしてもさらに研究を進めていきたいと思います。
topへ
中西: 普通のキャラクターは個性が強いところに一つの作品性があるんですが、このMimehandの場合、ニュートラル性がはずれると問題を起こすところがありますね。
このソフトによって、ある意味では展開のための橋頭堡を築かれたわけですから、このあと、いつの時点で何ができるようになるかはわかりませんが、今後の開発目標のプログラム化をなさっていくと、将来的にはおもしろい可能性がありますね。 話は戻ってしまうのですが、こういう研究プロジェクトは御社の中でどのように具体化していくのでしょうか。
川口: 日立には、研究のバックグラウンドとして、全社研究制度と依頼研究制度があります。今すぐ事業にはならないけれども、将来を見据えてやってみようというものは、全社の拠出金によって研究ができるというのが全社研究制度です。それも上長がやれと命令するのではなく、研究者がこういうことを研究してみたいというものを提案して、取り上げて、認められるという制度です。ここの研究所でもいくつかやらせていただいていますが、そこから事業の種が生まれてくることがあります。全社研究の成果を事業部に売り込んで、事業部がそれを買ったとなると、全社研究から依頼研究に変わるわけです。息の長い対象については、全社研究と依頼研究が共存している場合もあります。

ですから、Mimehandの場合も、一番最初のデータグローブの手話システムをCGやAIの研究者がやってみたいと言い出したのがルーツになります。これが全社研究としてスタートし、公共システムグループが商品化したいと手を挙げ、そこが研究を引き取って、依頼研究になっています。研究所はそういうシステムになっています。10年かかりましたが、全社研究から依頼研究に移って事業化されたという、シナリオからいけば日立の考えているとおりの研究スタイルだと思います。このような研究にいきなりはないですね。

中西: 中西さんそうですね。どこかの部分で、そのテーマについて興味を持っている方が集まってやったとか、気がついてみたら生まれていたというAIBOのようには、やりにくいテーマですよね。
せっかくここまでできあがってきたら、これを知らせる、使ってもらうという、活かし方のデザインが非常に重要になってきますね。バージョンアップするにしても、そこから出てくる問題をできるだけ拾っていかなければいけない。そういう意味でのフィールドサーベイが、このソフトを育てていく上で大きな役割を果たすでしょう。点字は、ボランティアで点字翻訳を勉強してやられる方がいますが、ボランティア団体で手話を勉強していただくときに、このソフトを使いながらやっていただくという仕組みができればおもしろいと思います。
では、ここから少し話題を変えて、御社のデザイン研究所の組織上の位置づけや特色、ねらいをお聞かせいただけますか。
川口: 日立の中には、全社研究所といわれる社長直属の研究所が7つあって、デザイン研究所はその一つに位置づけられています。その中でもデザイン研究所の売りは、「人中心の発想」による「人中心の技術」という、唯一、「人」を考える役割を持った研究所であるということです。
そういった点でデザインは、日立製作所ならびに日立グループ、全事業に貢献できる技術だと考えています。ハード、ソフトを含めて、デザインが入らない商品はないという認識を原点に、マーケティング活動を行っています。最近では、非常に技術寄りだった日立がずいぶん変わってきています。デザイン研究所のPRに行き、最初に、デザインは色・形だけではないんだということから説明すると、必ず、ではこういうところをお願いできますかと、デザインに対する理解の裾野がどんどん広がっている。

デザイン研究所は7つの研究所の中でも、一番小さい組織ですが事業領域は一番広い。実際、テーマ数や仕事をいただいている事業部数は一番多い。私としてはこのことは経営幹部に誇っています。デザインがこの会社で理解されてきた、「人」が理解されてきた。いまの社長方針は「お客様視点」であることから、私どもとしても非常にやりやすいんです。技術の日立で突っ走ってきたところから少しずつ変化してきて、いまは「人」中心ということで、あらゆる面で改革が行われている最中です。

topへ
中西: それは、日本がこれから取らなければいけない先端部分だと思います。Gマークで何を基準に賞を出していくか、大賞の一番の方針は何かというと、一昔前は良いデザインが輸出振興につながる、次にもっと広い範囲の産業振興という方針がありました。こうして、日本が経済大国になってよかったのかといえば、どうもそうではないらしい。というところで、バブルの崩壊以降、デザインで一番重要なのは、いまおっしゃったように人間振興である。人にとってどうなのか、あるいはそれによって人がどう育つ、どう変わる、あるいは新しい人間関係が生まれていくというところです。
そういう意味では、デザインは採用されるかされないかは別にして何にでもコミットできるという強みを持っている。極端なことをいえばデザインはあらゆる人工物に美しく快適で安全を与えるという可能性、必要性を持っている横断の実学である。それを方針として掲げ、はっきり明言してやっておられるというのは、非常にすばらしいと思います。
川口: 情報化時代から知識社会、あるいはIT時代といわれている社会では、たぶんお客様は価値にお金を払っていただけると思います。私はこの価値を付加するのがデザインだと思っていますが、付加価値というのは、逆に見ると余分な価値と見なされる。ですから、私は事業に価値を付加する技術と言葉を逆転して使っています。デザインは事業に価値を付加するのであって、事業を膨らませるものではない、質を高めるものであるという言い方をしています。それはいま経営幹部にもかなり理解していただいています。
中西: 文明論になるかもしれませんが、いままで日本の企業は精度が高い、効率がいいマシンのような会社をつくってきた。その成果として、日本は経済大国にもなったし、世界的な企業もたくさん出てきた。でも、考えてみると、それで幸せがやってきたかというとそうでもない。尊敬される国になったかというと、金を使っているわりには一向に尊敬されない。
どこに問題にあるのかと考えてみますと、効率経営、機械的経営に対して、欠けていたのは知的・美的経営という部分ではないか。最近はナレッジマネジメントといわれますが、これは人の能力の生かし方です。QCやTQCは、人が効率にどう合わせられるかという経営ですが、それに対して人間を生かすという側面でいうと、知的・美的経営にシフトしていくべきです。知的という点ではナレッジマネジメントかもしれませんが、経営の面にもう少し美的人材、あるいは「目の人」を入れていかないと、これからのデザインはよくならないし、生活文化もよくならない。デザインの一番大きな役割はそこにあるのではないかと思います。そうした観点からは、できあがったものに価値をつけるためのものではなく、価値を引き出したり増幅するものという意味合いで新しい世界をつくっていく、あるいは新しい価値をつくるための刺激源としてのデザインの存在価値はあるべきだろうと思います。
川口: 川口さんそれと同時に、いま日本が抱えている課題は、戦後の日本は製造、ものをつくるというところから再出発して、今日こうなりましたが、それが逆に手かせ足かせになっている。こうした中、日本は次の再出発点をどこに見いだし、何をやるのかという状況にある。いまソフト、サービス、ITといわれていますが、ソフトやサービスはまずモノがあって、それに付加されるものです。日立も製造メーカーとしての誇りを再認識しようということで、社長が、ものづくりを原点とした新しいサービスと改めて言っています。これはデザインも全く同じだと思います。
これも私の方針で言っていますが、デザインの原点は何かといえば、私は美しさだと思います。先ほど「人中心の発想」による「人中心の技術」と言いましたが、外観をきれいにするというのは、余人をもって代えがたい、われわれだけが持っている技術だと思います。それがいま失われつつあるのではないか。簡単にいえば、コンピュータによるデザインの検証、あるいは工場とつなぐためのCAD化は、スピード、効率という面では格段の進歩を生んでいますが、その反面、外観美でいえば退歩している観がある。デザイナーの技術も落ちているように感じます。こうした危機感から、世相とは逆転現象かもしれませんが、もう一回、モデルショップ、工房を見直そうということを考えていて、敢えて、今度塗装ブースをつくります。CADがマストな世界になってくるのはわかるんですが、あえていま真っ向から反対しています。工場とつなぐというプレッシャーがかかってきていますが、デザイナーはオペレーターではないと主張し続けています。
中西: 仕事レベルでいう美的精度は、グラフィックあるいはビジュアルデザインで見ても、昔の写植でいうところの文字間を詰め打ちする、あるいは切り貼りするという神経は、パソコンで処理すると全く生まれてこない。恐ろしいのは、それを見抜く力、美的感覚も失なわれつつあるということだと思います。
現在はパソコンが使えて、ある程度の美意識、あるいはそうしたセンスを持っていれば、誰でもデザイナーになれる時代だと言えます。それは全体の底上げという意味ではいいのですが、ハイエンドのレベルまで落ちているということが、現実に起こりつつある。日本の文化は、きめ細かいところに判断力を持っているという、日本固有の長所があったと思いますが、そういうものがデザインの世界から失われつつあるなと感じています。
スピード、効率、コストパフォーマンスだけで考えると、早くつくって、どんどん売れてくれればいい、だめになったらまた別にすぐつくればいいよという話で、スピード競争、コスト競争に勝つことが重要だとなりますが、一方でそれによってサイコロジカルなパフォーマンスを失っていく。ですから、そのへんの補いはぜひやっていただきたいと思います。

話は変わりますが、いま立命館の経営学部の大学院で講義しています。経営学部の大学院ですが、経済の人、理工の人、美学の人、あるいは社会人入学の人、いろいろな人が入っていてとてもおもしろいんです。彼らはみんなデザインに関心を持っていて、何か新しい可能性をもってやれるんじゃないかと思ってくれている。デザインに対する期待というのは結構大きなものがあると思うのですが、デザイナー、デザインの専門家のほうが、それをあまり意識していないように感じるのですが。

topへ
川口: 期待されていることを意識していないというより、自信を失っている面があるのではないかと思います。デザイン研究所には全部で160名のスタッフがいますが、その中でも20名ほど、デザイン系の出身でない、機械や心理などをバックグラウンドに持ったデザイナーがいます。その中の数名はデザインをやりたいと自ら売り込んできました。また社内でも、ほかの研究所からデザインをやってみたいと言ってくることがあります。なぜかというと、うち以外の研究部門はモノを中心に動いていますが、本当はみんな人間中心に考えたいんです。実際そういうところがあるのかとなると、デザイン研究所があるというので、えっと思うんですね。ですから、ある意味では、デザイン研究所に限らず、いまデザインそのものが非常に注目されてきている時代ではないかと思います。それにもかかわらず、デザイン全体が自信を失いかけているのではないか。
中西: デザインはすごく可能性があるものだと思います。ただ、非常に難しいのは、デザインの本当の価値となると、誤解している人もまだまだ多いのも実状だと思います。たとえば私の専門のCIでいえば、ほとんどのCIがVI(ビジュアル・アイデンティティ)なんです。最近はブランド、ブランドといわれますが、それはVIに意味論的なものが加わって、ブランド戦略、ブランディングがある。しかし、知的・美的経営からCIという面で分析していくと、企業の経営資源としてこれが使えるではないか、こういうことができるのではないかということを見つけていくことが可能です。デザインにはそういう価値や能力がある。CIでコーポレートマークのデザインを変えたら、そのブランドの売上げが伸びたと一般的には思われているようですが、実際は理念の再構築や経営戦略面でのプランを描いたうえでやっているわけです。

デザインはコーポレート・マーケティングや経営戦略に踏み込んで提案できる潜在力を持っていますから、それこそ新しい価値創造に貢献できる。色、形ではないデザインは何かといわれれば、企業経営においては、そういう戦略デザインの世界があるし、文化機関的発展もある。それをいろいろな方たちに利用していただきたい。これは表層的なブランドというレベルよりは高いところで、理念を構築していく、新事業を開発していく、事業ドメインをもう一度見直すという世界で、デザインはけっこうやれるという思いを私は経験的に持っています。

川口: そう思いますね。所内でもデザインとは何か、デザイナーはどんな力を持っているのかとつねに議論していています。昔は3つだったんですが、いまは5つに膨らんでいます。それは感性力、仮説構築力、表現力、それに調整力、独創力です。この中でも仮説構築力は、デザイナーにとっての一番の武器だと思います。これはいまおっしゃった新ビジネスを創成する、新しい経営方針を打ち出すというものに繋がります。この仮説構築、将来を見通しビジョンを提示する力はデザイナーが持っている大きな力の一つだということで、私なりにPRしていますが、これは意外と知られていないようです。
中西: デザインは後処理屋みたいに思われているから、仮説構築が一番クリエーティブにつながる部分だということが、なかなか理解されていない。時代の先端を語るような場があっても、だんだんデザイン関係者が出てこなくなって、むしろコンテンポラリーアーティストや漫画家が出てきたりしています。しかし、そうは言っても世の中がどんどんデザインの存在や活用を求める世界になっているのは間違いありませんし、そこでは、仮説構築の能力を大いに発揮できる可能性がある。御社は大きなパワーになりうる、あるいは発言力をお持ちになれる立場におられますから、ぜひMimehandのような、はっとさせられるような成果を生み出していっていただきたいと思います。 本日はどうもありがとうございました。
(2000年12月20日、東京・南青山のFEELにて収録)
  ●川口 光男
株式会社日立製作所 デザイン研究所 所長

●松隈 信彦
株式会社日立製作所 デザイン研究所
コミュニケーションデザイン部 主任デザイナー

●中西 元男
PAOS代表
2000年度グッドデザイン賞審査委員長

  株式会社日立製作所のHP:
http://www.hitachi.co.jp/

2000年度インタラクションデザイン賞紹介ページ:
http://www.g-mark.org/library/2000/interaction/int1.html

GOOD DESIGN FINDER によるMimehand IIの検索結果:
https://www.g-mark.org/search/Detail?id=904

TOPへBefore
MOTTO'S VOICE