中西元男 対談バックナンバー

 
 

第11回 松下電器産業「ユニリッチ」 (2000.11.30)


Before
南部: まず、ユニリッチの開発の背景として、私どもの事業の話からしなければいけないと思います。松下電器ではキッチンやバスといった設備商品はけっこう長くやっていますが、事業規模としてはかなり小さい部類に入ります。もともとは、日本の住宅を豊かにしていかなければいけないというところで厨房機器事業部ができまして、その中で、お風呂も空間であるという観点から事業化されてきました。ただ、この分野には専業メーカーさんが多々いらっしゃいますし、今でもシェアは数%ほどです。

座・シャワーの開発がスタートしたのは1990年でした。今で言えばユニバーサルとかバリアフリーになりますが、開発当初の着想点は都市部の若い方はバスタブに入らないという生活スタイルに合った、新しいシャワーライフを創り出せないかというところにありました。ここから、もたれたり、座ったりしてシャワーにかかることができるものという原型を作ったんです。奇しくもこの年から全社的に「フレンドリープロジェクト」という、人にやさしい商品づくりがスタートしましたので、それにも沿って、いろいろ実験する中から、お年寄りも含めた商品に仕立てていこうということになったわけです。

この座・シャワーを商品化し、評価をいただいて、いろいろなご意見をいただく中から、お風呂の基本機能として求められているものが明確になり、松下電器のバスに対する考え方のベースが形作られていったのだと思います。それは、体を洗うこと、最近ではリラクゼーション、癒し、そして、家族のコミュニケーション、介護という中での人と人の接点といった場面で果たす機能があるなということがだんだんと分かってきたんです。そこで、お風呂自体をそういう発想でやってみようということで、一昨年、われわれの発案で社長プロジェクトがスタートし、それからユニリッチの開発を続けてきました。
このように開発当初から確固たる戦略を立てて進めてきた結果として生まれてきたわけではなく、いわば松下流のものづくり、まず商品に落として、ご意見をいただいて、また新たな開発に生かしていくという連環から、生まれてきた商品だと思っています。

中西: たしかにこれは一面ではエージレス、ユニバーサルデザインが非常にはっきり現れていると思います。一方で、いまの日本の社会が成熟化していく中で重要なことの一つといわれている家族の復権、再生に考えが至っていることも興味深い。核家族化が進むと、設備系商品がどんどん機能商品化していって、人間あるいは家族はどんどん無視され、損なわれていくという傾向の中で、こういう発想が生み出されてきたこと自体が大きいと思います。この商品は一見、機能に目が奪われがちですが、人との関係、家族の関係の中での価値がうまく伝わってくれればと思いますし、そういうところをもっとアピールしていただくのがいいのかと思います。

また、この分野のシェアが数%という状況で思い切って開発に着手された、トップの方たちの意思決定もすごいなと思います。ただ、それだけシェアが低いと、マーケティング活動の話になったときに、宣伝にどこまでお金がかけられるかという問題は非常に大きいですよね。

南部: 南部さん開発に関して社長からは、思い切ったことをやろう、松下と思ってはいけない、もっと挑戦的に、逆に松下が本来持っている新しい夢、メッセージを伝える商品づくりをやろうという号令がかかりましたし、そういう意味では、シェアが小さかったからこそ大胆なことをやらせてもらえた。
マーケティングを含めてGマークをどう思っているかというところでは、正直言って松下はGマークを受賞しても当たり前と見られる。金賞クラスになると逆に、その業界なりグループの中でトップに値するようなものでないと、まず選んでもらえない。今回われわれの商品二つが金賞を受賞したのですが、だからこそその部分をアピールできれば、大きな広報価値があると思います。今回金賞を受賞したジューサーミキサーもユニリッチも、事業的にも商品的にも大々的に宣伝できないものです。そうした中で金賞を受賞したということで、最近問い合わせも多いですし、大きな反響もいただいています。
こうしたことも含め、ビジネスの中でいかに効果的にGマークを位置づけるかというスタンスで応募していきたい。いまはまず受賞したということを新聞など出していますが、松下はもう少し上位にGマークを見ていますよというところを出していきたいと考えています。ただ、それはある程度積み重ねていかないと効果は出てこないとは思いますが、デザイン界の中で常にメッセージを発信していく、魅力的なブランドを出していく企業でありたい。メッセージ性の高いデザインによってブランドイメージを高めていきたいと考えています。
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中西: 今年からGマークに新領域デザイン部門を設けたことの背景でもあったのですが、ものづくりの技術は日本は世界最高と呼べるのです。ただ、ものづくりの仕組みのデザインとなると、いま欧米一流、韓国二流、日本は三流ぐらいの観がある。ものをつくるためには当然いい仕組みが必要であり、そうするとシステムやネットワークまでを視野に入れて、いいものを生み出すこと、いいものを生かしていくことを戦略的にとらえていかないといけない。いわば工業化社会から情報化社会、あるいは成熟社会への脱皮だと思うのですが、日本はそういう時期にあると思います。
私がユニリッチをおもしろいと思ったのは、そういうテーマへのチャレンジがなされていると感じられる点です。ただ、これを売る、生かすという段階へどうステップアップしていくのかという部分が課題かと思いました。日本のメーカーの基本的な姿勢として、いいものさえつくっておけば売れるよという発想がどこかにあります。一方で、いいものは、いいという情報価値をつくりだすことによって認められ、それで初めて物的価値が追随していくというのは、情報化社会の宿命としてありますね。
南部: 松下がよくいわれているのはブランド価値の問題です。いまもナショナルとパナソニック、二つのブランドを並べて、どんな会社なのかわかりづらい。ナショナルといえば、信頼、安心、安全のブランドというものですが、そこは絶対にはずせません。ただ、一方で魅せるブランドという部分の熟成が、バブル崩壊以降、滞っていたのではないか。経営者もそこに気づいてきている中で、ブランド価値は再構築すべき時期にあるのかと思っています。
中西: いま魅せるとおっしゃったことは、現在の企業では重要な経営資源だと思います。経営資源というと人、モノ、金、情報、これはそれがないとどうにもならないという意味では、人間でいうと体力のようなものです。最近ではそれらに加えて、ナレッジマネジメント、創造性や開発力などの知力が必要で、これも重要な経営資源になってきた。さらに、それがきちんと表現され、演出され、伝達されていくことが、企業にとっては魅力という意味での経営資源になると思います。
この体力、知力、魅力をすべて揃えて初めて、現代の経営資源といえるのではないかと考えています。ところが、その魅力をつくるところに投資をする、それを構造的にとらえるということが、日本の経営者の中にはまだ浸透していないように感じます。
南部: その意味で、デザイン側が5年後、10年後の姿をどう描いていくかが重要だと思います。松下も「あなたとともに豊かな未来へ」というキャッチコピーを使っていますが、ではどんな豊かな未来だというところがメッセージできていないんです。言葉としては成立しているのですが、そこを打ち立てていく考え方が確立されていない。私どももトヨタさんのレクサスの開発、ブラウンの考え方、最近フィリップスはフューチャーデザインなどが、いろいろな企業さんの戦略を見ても、われわれが考える豊かさのビジョンをどのようにつくり、いかに発信していくかが重要だと感じます。そこでまず経営者と音合わせをしようということで、社内でもいろいろ提案活動をやるんですが、そこで、生活像、ライフスタイルの提示をいかに行っていくかという課題に、いま真剣に取り組んでいます。
中西: ところで、先日参加したある会議のテーマが「ミッション、パッション、ファッション」でした。これは国家のミッションという問題、あるいはわれわれはいま情熱を持って何がやれるのか、あるいは先端の価値をつくるという意味合いでのファッションをどうとらえ、どう結び合わせればいいかというテーマです。その会議にはデザイン界から出ている人がいなかったので申し上げたんです。いま仮にITで日本の産業が復興して技術大国、生産大国、経済大国になったとしても、結局、金の使い方のわからない金持ちをつくるというバブル以前の繰り返しにはならないか。ずいぶんお金は持っているけれども、まったく尊敬に値しない日本人になってしまうのではないか。そうならないためには生活文化など、美学のある成長を遂げないと絶対にだめで、そのためには皆さんにデザインに対する理解を深めてもらわないと困る。日本人はお金を持っていますが、そのお金は文化成長のために使ってもらって、その文化成長が経済成長を引っ張るという構造に変えていかないと、21世紀の発展、成熟化はありえないと多少の大口を叩いてきたんです。デザインは、いまそういう役割を担わなければいけないところに来ているのではないかと思います。
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南部: 口惜しいのは、海外に目を移してみたときに、フィリップスのトップがデザインを重要視しています。ブラウンなども、経営者とデザイナーの責任者が対等というか、デザインを重要な経営資源に位置づけています。われわれの責任として、一方では経営者への啓蒙もしなければいけないし、他方ではデザイナーのビジネス的な見方も育んでいかなければならない状況にある。うちもデザイナーが60名いますが、デザイン部門として何か事業を起こせないかと言っています。そういうことを発想する人を育てないといけないということを実感しています。
中西: 中西さん私はCIという観点から様々な会社とお付き合いをしてきましたが、CIはビジュアルの部分をどんどん見せますので、みんなあれこそがCIだと思ってしまう。でも、本来は経営戦略、事業戦略という部分と切り離して企業のアイデンティティを作り上げることはできません。CIに限らずデザインというのは単に表層的なものではなく、戦略立案からやるべきなんだということをアピールしたいと常々思っています。
もう1点は、高度成長、安定成長期の日本では、きちっと計数的にものごとをつかめる「数」の人、もう一つはロジック・説得力を持ってまとめていける「理」の人、この二つの要素が備わっていれば立派な経営者になり得た。最近ではそれらに加えて、いい情報、いいデザインを見分ける「目」の人であることも必要です。さらに加えて、環境や福祉の問題を考えますと、企業経営者は「愛」の人でなければいけない。
目の人、愛の人が経営の要素として加わり始めているというのが、非常に大きなポイントではないかと思っています。そういう部分で成長していかないと、尊敬される会社、あるいはこの会社はあってもらわなければ困るという会社にはなりえない時代になりつつある。そうなってくると、エコロジーデザインにしても、ユニバーサルデザインにしても、デザイナーだけではできないデザイン領域がどんどん出てきています。しかしこれらはデザイナー抜きには絶対にできない領域です。
南部: 海外の企業はビジョンと戦略がものすごく明快です。それに対して日本の企業は、ビジョンは持つけれども、戦略が描ききれない。いままでは、日本の産業振興の文脈の上で、ハード的な投資に対して、リスクヘッジしてどう収益を上げていくかというところのノウハウで進めてきた。いまはこれに加えて企業のあり方、企業のアイデンティティという芽を持たないと戦略にならない。それを解釈し、ビジュアル化してあげるのがデザインの役割というように感じます。そこまで来ているのが現状だと思います。
ただそこで、経営者が使う言語とデザイナーが使う言語が違うんです。何となくいいんだけどという曖昧な想念を、経営者側の言葉に翻訳してあげるなり、そういった情報も一緒に提示してあげるという責任があるということを最近特に感じます。では、ファイナンスの言語で置き換えたらどうなるのか。デザインが成長をつくっていくという部分をある程度取り込まないといけない。
中西: デザインには他分野に対し横断的影響力がありますから、新しいものをつくっていくときに、縦割の殻を破る力を持っています。ただ周りの人たちから見れば、デザインというのは色、形、模様の世界だという通念がありますから、それを一度創造的に破壊してもらわなければいけない。そこにどうアプローチするのかということが問題だと思います。でも、松下さんが出してこられる新しいものを見せていただくと、常に業界に先駆けての提案を感じますし、御社は開発費に大きな額を割いておられると思いますから、それが有効に活きるようなことを是非やっていただきたいと思います。グッドデザインはいいものだよ、楽しいものだよと、受け手の側が思ってくれたり、うるさいことを言ってくれるような状況をつくっていくことが重要だと思いますね。
南部: そこでグッドデザインというブランドも刷新していかなければいけないでしょうね。
中西: と思いますね。いいお話をいろいろ聞かせていただきました。ありがとうございました。
(2000年11月22日 豊中市日出町の松下電器産業株式会社 電化・住設社
デザインセンターにて収録)
  ●南部 泰司
松下電器産業株式会社
電化・住設社デザインセンター 所長

●中西 元男
PAOS代表、2000年度グッドデザイン賞審査委員長

  松下電器産業・システムバスの紹介ページ:
http://www.hes.matsushita.co.jp/navi/bath/index.htm

2000年度グッドデザイン金賞紹介ページ:
http://www.g-mark.org/library/2000/gold/family.html

GOOD DESIGN FINDER によるユニリッチの検索結果:
https://www.g-mark.org/search/Detail?id=527

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