また、たぶんA-POCの藤原さんを始め現場のデザイナーたちの感覚は、いま若い世代がつくり始めているものとまったくイコールなんだと思います。それを強く感じます。ここで三宅デザイン事務所が先鞭をつけたことは、いま澎湃と起こってきているテキスタイルを中心とした若いデザイナーが裏側に潜在的に持っている意識に直結するものを感じます。
その意味では、今年のグッドデザイン大賞に選ばれたA-POCも同じ路線上にあると私は見ています。これまでもまだ産業に資するかどうかよくわからない段階で選んで、結果から見ると産業に資する方向に動き始めたのです。大賞の受賞がその動機づけになっていった。そういう流れで見ても、A-POCが今後産業に資するものに育つかどうか、まだよくわからない状況にある。その部分に「なぜA-POCなの?」という疑問をお持ちになる方もおられるのではないかと思います。
いま、お話に出た、ミズノのファーストスキンはスポーツギアで、しかも記録を出すというところですばらしい成果を上げています。しかし、スポーツの世界ではかなり画期的なものであり、スポーツ人口から見れば大変なボリュームゾーン商品になるかもしれないが、汎用品にはなりえない。
僕は松下のユニリッチも非常に評価したんですが、これはエイジレスバスとかいろいろな形でこれまでも各社トライをされていますが、その中で一段上の完成度の高さがある。この完成度の高さというのは、以前G マークでユニバーサルデザイン賞を受賞した座・シャワーを組み込むことができるとか、いろいろなものの集積の結果の成熟度である。しかも、機能や使い勝手から考えて、1坪ではなく1.25坪にすることに踏み切った。それによって日本の住宅モジュールの中に組み込むことが難しくなり、市場性を狭くするかもしれないが、逆に人間性という価値を取って熟成度を上げた。そういう点でユニリッチは非常に高いレベルに仕上げられている。それは積み上げによって完成している。
三宅デザイン事務所の藤原さんに聞きましたら、まず製品のイメージがあり、こういうものがほしいなと思って探したところ、ストッキングと下着のシャツが同じようなものではないか。あれはもともと袋状に織機から出てくるものだから、これでいけるんじゃないかと思ったそうです。それは非常に簡単なことで、コロンブスの卵みたいなものです。布、布と考えるからいままで思いつかなかったけれども、最終的に出てきた洋服と考えれば、全然違うジャンルで使っている織機に目を向けていいわけです。デザインセンスのある若い人は、出来合いのデザイン、決まったブランドではなく、もともと非常にフレッシュにモノを使いこなしているということがあります。そのへんの空気を反映させて、しかもそれを実際の生産の中でどうしていくのかという技術を追求している。私はコロンブスの卵のように感じてしまったんです。
A-POCをどこで評価するかといったときに、いろいろな可能性があっておもしろいと思ったのは今までにないユニークさを持っている点です。いま船曳さんが言われたように、個人が参加できる、自分のものをつくっていける可能性まで含んで、作品的個性でおもしろい。それと同時に、これ自体、多くの人たちが賛同し購入してくれると新しい市場的価値が生まれる。いままでになかった市場をつくる可能性を持っているわけです。また、衣類からなるべく無駄なところを除いていくことを含めて、社会的な価値も持っている。 三宅一生さんというと、つい一品物の作品的な価値をみんな頭に描くんですが、これは非常にベーシックなプロダクトと言えるものであって、サインの入るような個別の作品性はない。それだけにアパレルの世界の国際間競争で、日本がこの技術を制覇することによって一つの勢力を作り出すことができる。いまは設備の初期投資からイニシャルコストがかかっているので高いものになっているかもしれませんが、量さえ出れば極端に値段が下がっていくものだと思います。ですから、産業として、製造業としてそこまで持っていけるような育て方をすることによって、いままでと違う新しい可能性の芽が日本に生まれてくるという、A-POCのポテンシャルやパワーはそこにあるのではないかと評価したんです。
ともかく今年度、去年もそうかもしれませんが、Gマークというのは、単にデザイン村で格好いいデザインをつくりました、どうですかと持ってくるというよりは、世界のマーケットに日本が打って出ていくときの一つの関門みたいなものになりつつあるという気がしました。
これはあくまで一つの例ですが、それが一般のデザインに対する今日的認識の兆しであるとすると、これはテーマ部門ではなく、新領域デザイン部門と名前を変えるべきではないかというのが、今年の春、議論をしてきた中で出てきたネーミングです。 この分野で対象としたかったのは次のような3点です、まず一つ目はコンピュータソフト、バイオのような21世紀の産業につながっていくような領域、時代の先端をデザインの中に入れていきたいという部分です。次に、いまある領域を、これもデザインだよと横に広げていきたい。エコロジーデザイン、ユニバーサルデザインとなると、デザイナーだけでは解決できないような領域のものがたくさんあります。たとえば今年出てきたものでは、高知県の「たまごの割れない道づくり」がありますが、これはデザイナーの力だけでできたかといわれるとそうではない、ある種の市民運動と言えます。こうしたデザインを横に広げていくような部分が二つ目です。三つ目に、われわれは過去の優れた技術的資産、あるいはその土地々々での地場の殖産振興の延長上の所産を持っている。たとえば各地の土産物、工芸品、特産品と呼ばれるものです。そういうものに現代デザインの光を当てることによって、新しい価値を生みだし蘇生させることも大切で、それが地域振興、地場振興になる。今年度の中小企業庁長官特別賞を受賞した淡路の山田脩二さんの瓦もその一つだと思います。瓦は屋根だけに使うものではないというので、いぶし瓦の材質感や趣きに有名な建築家の人たちが着目して、敷き瓦や飾り瓦など非常に広い範囲に使うということになり新しい素材分野や結果としての景観を生み出しているわけです。こういう可能性もデザインの世界にはありうるわけです。
そういうものを全部ひっくるめて、デザインという切り口から範囲を広げていったというのが非常に重要な着眼で、それを新領域と呼ぼう、一応そういう仮説は立てました。が、むしろ応募者が自由に新しいデザイン領域を提案し、つくっていってくれればいいということで、一つの石を投げかけたわけです。初年度ですから、応募される方もちょっと迷われたかもしれませんが、そこはできるだけ審査委員推薦で補うかたちを取ることによって、新領域はこういうものかとある程度見える状況になってきたのではないかと思います。
ところで、いま、新しいライフスタイルを提案するというマーケティングの手法が、家電も含めてどんどん増えています。そういうことでいうと、インテリアを中心として、生活に密着した産業分野で、もっともっとGマークに関心を持ってもらいたいと思います。私の周辺の分野は、Gマークという点では遅れているので、これをもっと参加させていきたい。
何年前でしたか、韓国の最初の文化庁長官である李御寧さんが『「縮み」志向の日本人』という本を書かれて、僕にはあれが非常におもしろかったんです。日本人は何でも小さくして、それによって世界を制覇する。例えばソニーが強くなったのは、すごく小さいところに高機能を与えてきたからです。そうした手法を取り入れる時に欧米型のインテリアとは違う日本型のインテリアの新しい価値、日本の空間に対するアイデンティティに光を当てて、新しいインテリア領域がつくられていくということがあっていいと思いますし、日本人がつくりだしていかないといけない部分だと思います。
今までの歴代の審査委員長の長老会、そういう方たちにもGマークはどう変わってきているかをお知らせすると同時に、そういう方たちの意見もできるだけ入れていけるような深みも必要だと思います。今の日本のデザイン教育でも同じですが、これ以上、デザイン学校を増やしてもデザインがよくなるわけではない。それよりはデザインの発注者・理解者のデザイン教育を充実させていく。もう一つは、その使い手である生活者・市民のデザインに対する目を育てていく、あるいはそういう人がどんどんデザインに興味をもって取り組んでくれる。デザインの市民教育みたいなもの、いや、教育というよりは勝手にどんどん学習してもらいたい、そこの美的快適おもしろさを楽しんでもらいたいということだと思います。
Gマークを核に据えながら、デザインの社会的・時代的価値のパラダイムをきちっとつくり直す。民営化して3年、方向は見えてきたわけですし、財務的にも成り立つという目途が立ったので、ここでもう一度Gマークのパラダイムをきちんとつくり直すということが行われるべきかと思います。
●船曳 鴻紅 (株)東京デザインセンター 代表取締役社長 2000年度グッドデザイン賞審査副委員長
東京デザインセンターのHP: http://www.design-center.co.jp/