現在の日本が置かれた状況もこの元禄に近いと思います。日本人が持つ1,300兆円もの個人預貯金は、世界の預貯金の3分の1とも言われています。高齢者に限ると、パーヘッドで2,500万円以上持っているとも言われます。このような状況下で何にお金を使うのかとなると、デザインの果たす役割は非常に大きい。つまりいいものを持つ、それを楽しむという喜びにお金を投じて、自分たちもそこで刺激を受け、快適な生活をつくっていく。それが文化や社会、また、経済の成長につながる。それはある意味では文化成長、福祉成長、環境成長が経済成長を牽引していく構造です。グランドデザインとしてこれから重要なのは、デザインを楽しむ生活をどうデザインしていくか、あるいはデザインビジネスをどうデザインしていくか、ということです。この推論上で何ができるのかを考えたときに、Gマーク制度、あるいは日本産業デザイン振興会との連携、あるいはその資本主義的発展とデザインというテーマを考えたところで、「ワールドグッドデザイン(WGD)」という発想が出てきたわけです。
日本にGマークがあり、アメリカにIDEA、ドイツにiF、イタリアにコンパッソ・ドーロがありと、世界中にたくさんのデザイン顕彰制度があります。こういうものをみんな情報として知っておくべきであり、あるいはそこで選ばれたものを購入して使う喜びを味わう、楽しむことも重要ではないか。しかも、これがインターネットの世界になって、そんなに難しいことではなくなってきた。そこで、ワールドグッドデザインという誰にでもわかるような平易な言葉で、運動でありながら、ビジネスとして成り立つものを起こしていきたい。この発想を日本産業デザイン振興会に相談し、皆さんとのお話し合いの中で、ぜひこういうことをやりたいので支援していただきたいとお願いして、快く了解を得ましたので、そちらの準備を進めてきました。今の予定では、今年の10月13日、すなわちGマークの大賞審査と表彰式の日を起点として、正式にスタートさせたいと考えています。
このワールドグッドデザインはいくつかのねらいを持っています。世界的なボーダレス状況の中で日本人のデザインを楽しむ生活をどうデザインするか、デザインビジネスをどうデザインしていくか、この2つを大きな目的としています。デザインを楽しむ生活をデザインするということは、ある意味では新しいデザイン運動であり、これによって経済の活性化に少しでも貢献できれば、そこに新しいデザインビジネスが起起こっていくと考えています。
この会社の正式名称も株式会社ワールドグッドデザイン(略称WGD)にしようと考えていますが、この会社をつくっていくにあたって、なるべくデザイン関係者にも参加していただきたいと願っています。その内容は二重構造を考えています。まず、お金を出して参加してもいいよという方には資本参加して頂き、この会社は将来的に株の公開を考えていますのでかなえば上場益を得ることができるという、デザイン関係者自身の自律的参加による会社づくりがひとつ。また、もっと広い意味合いで、なるべく多くデザイン好きな方にメンバーシップで参加してもらい、グッドデザイン商品の普及と情報共有の運動として盛り立てて頂くことがもう一つです。要は世界最大のデザインのポータルサイト、バーチャルマーケットをつくり上げたいのです。そのためにまず日本のデザイン関係者でこの運動が支えられ、ビジネスとしても支えられていく。いままでは守備型の受注産業であったデザインが、攻撃型の受注産業・サービス産業を自らの手でつくることによって、そこに新しい産業分野を起こしていくということを、インターネットを活用しながら推進していこうという発想です。
デザインという実は生活や社会に密着したところで仕事をしているわれわれが、最近の状況を眺めると、世間に対して、あるいは時代の先をつくっていくことに関する影響力・指導力について、明らかに分野間競争では後塵を拝し始めているのではないかという危惧を持っていて、ここで何とか巻き返しを図らなければいけない。デザイン関係者がそれ以外の人たちも巻き込んで、新しい流れをつくっていかなければいけないと考えています。そういう意味でも、WGD運動は非常に大切ではないかと思います。それゆえこの主義主張に賛同いただける方には、ぜひご協力をお願いしたい。メンバーシップも、年間1,000円〜2,000円くらいの安い会費にしたいと考えていますので、どんどんできるだけ多くの人に参加していただきたい。そして、ホームページに、その人たちがアクセスしていただくこと自体が、新たなビジネスを生んでいくわけです。そこでたとえばバナー広告が成立すれば、一つのビジネスが起こっていくわけです。そういうしくみを共につくりあげ、デザインはおもしろいことを考えたり、いいことをやってくれるんだなということを世の中に訴えていくことによって、インタラクティブに自分たちの存在価値を確立していく。今やそういう時代に差しかかっていると考えています。
また、ワールドグッドデザインではデザイナーに対して「デザイニスト」というキーワードを設定しました。ここのところますます強く感じているのは、デザイナーは最終的にものを生み出すところのみに結びついている。でも、世の中が求めているデザインは必ずしもそうではなく、最近は仕組みのデザイン、価値体系のデザインが求められていて、ユニバーサルとかエコロジーというと、まさに従来型のデザイナーだけではできないことが重要になってきています。それを考えると、デザイナーという言葉は非常にわかりやすいんですが、逆に非常に狭い幅で見られてしまう。あるいは、デザイナーだけが職能的に集まったところで、できる範囲は見えてきているのではないか。それよりも周りの人たちを巻き込んで一緒にやるという状況をいろいろつくりあげることによって自らを生かしていくという方法論もこれから考えないと、仲間が集まって傷をなめあったり、補助金探しをしているということにもなりかねない。これは社会的価値の創造行為になりにくい。他分野従属型のデザイン界のあり方から今後はどう脱皮するかが重要だと思います。
ですから、広い意味で、よいデザイン、優れたデザインビジネスをつくりあげようという考え方の人、あるいはそれを生活の中に入れていって楽しもうよ、社会をよくしていこうよという考え方を持つ人を、広くデザイン主義者=デザイニストと呼ばせてもらって枠を広げ、むしろいま世の中に求められているデザインの領域を幅広く充足する。もちろんデザイナーが核にはなっていますが、デザイナーを含め、主義主張に同調していただける方たちをデザイニストと呼ぼうではないか。デザイニストが集まって、この運動を繰り広げ、このビジネスをつくっていくというのが、WGDの一つの理想です。
われわれ自身の手でこの変革の時代をおもしろくしないといけないと思います。世の中は確実にデザインの時代になりつつあると思いますから、他者にデザインの時代を人につくってもらうのではなく、デザインに関係している人たちが、自分たちが中心になってつくっていくことが重要だと思います。