中西元男 対談バックナンバー

 
 

第8回(2000.9.30)


Before
中西: 中西さんもう一段遡ると、ワルター・グロピウスは、「デザインはあらゆる分野の共通公分母(コモンデノミネーター)」だと言っていますが、まさにその言葉が出発点になっていると思います。これを自分なりに解釈してみると、人間がつくり出すあらゆる人工物は、デザインが関与しようとしまいと、そこには必ずデザインを必要とする。しかも人との関係で言うと、あらゆる人工物はなるべくなら美しくあるほうがいい、快適であるほうがいい、安全であるほうがいいという与件でデ存在していると考えられます。そこに審美性・快適性が加えられていくこと自体は、人間の文明の成熟化という点で非常に重要であって、そこから新しい文化が形成されると考えてきました。

また、日本の生活文化を本当の意味で成熟化させていく重要な要素としてデザインを活用すべきだとも思いました。つまり、バブルが弾けるまではどちらかというと産業振興としてのデザインであり、物欲主義型の人間の存在、日本人の存在が幸せであったかという問いかけがそれ以降起こり、人間にとって本当の豊かさとは何かをみんなが考え始めた。そうすると、デザインの果たす役割も、産業振興よりもむしろ人間振興を主に考えるべきではないか。そのことを真剣に考えようとの風潮が、誰が言うともなく生まれ出てきたのではないかという気がします。
そのような流れの中で、98年にGマークの民営化が行われた。民営化とい、ことはこの制度そのものが自立自営していかなければいけないということですから、世の中の風潮と民営化ということを重ね合わせて何ができるかを考えていくことが、委員長をお引き受けするに際して、一番重要なことなのかなと考えました。

Gマーク: 98年に委員長を初めてお願いしたのですが、その年は民営化1年目ということで、これまでの総括と新しい指針探り、次なるステップアップのためのポイント抽出をしていただいたと考えています。2年目はそれらを「Good Design is GoodBusiness」というわかりやすく、また共有できるスローガン・テーマにまとめていただき、具体策に向けた幾つかの試みの展開を行うことができました。また「Gマークが動く」ということで、柔軟性・多様性などの必要性を指摘していただき、それがなければ発展は生み出せないとご指摘いただきました。
中西: 僕が委員長をお引き受けした初年度は総合審査委員長、次の年から審査委員長になりましたが、僕はこの間は総合審査委員長のほうが正しかったと思うんです。つまり、単なる審査をするだけではなく、Gマーク制度をどう経営していくかということに積極的にコミットメントするのも重要な任務という考え方です。その意味で、民営化すれば自立自営し、そのための理念構築から始めることが一番重要であると考えたのが1年目で、Gマークとはそもそも何なのかという原点を把握し、理解するとともに仮設法的に必要とされる理念構築を試みた年だったと思います。
つまり、Gマークを一つの存在として見る場合には、強い主義主張、どちらを向いて進むのかというディレクションを持っていることが非常に重要ですし、加えてそれまで積み重ねてきた資産をいかに活かしていくかも非常に重要です。何を残し、何を捨てていくのかを見極める作業も、初年度には重要であったと思います。

中西さん何かを新しくするというとには破壊を伴いますが、それを無目的的に行えばいいということではない。どの方向に向かってそれを行うかが大切です。先ほど申し上げたように指針づくり、Gマーク審査の価値体系を、制度全体に広げていくことがなされていった。部門ごとの特色がありますから、施設で通用することが全部門に通用するわけではありませんが、そういうことがなされていきました。審査をどうするか、どういう方向に向かって実施していくか、Gマーク制度の存在意義をどこに求めるかということの方向づけは、ひょっとすると審査委員みなさんが求めておられたのだとより強いも感じました。そこで2年目はもう一度ジャブを出すのではなく、その延長上に向かってストレートを打つべきであると考えました。

では、何のためにデザインはあるのか、資本主義の中でのデザインとは何か考えた時に、これ自体がビジネスにつながっていくことが非常に重要事ではないか。いいデザインがいい生活を生み出すということが、今度は購買という行動につながり、結果的にいいビジネスにつながっていく。それをきちっと明示し貢献できるデザインこそ推薦していくべきではないか。こうした考えをまとめる言葉として出したのが、「Good Design is Good Business.」というキーフレーズでした。
この言葉そのものは、すでにいろいろなところで使われてきた言葉ですし、特に新しいというわけではありません。ですがGマークにとってこれはまったく新しいことで、これをどうリアライズしていくかが、次なる大きな目標だと考えたわけです。

そういう方向づけで、2年度目に審査員の方に申し上げたのは、良い悪いという言葉と好き嫌いという言葉を使い分けていただきたい、自分がいいと思っているものと、個人的には好きではないけれども、存在してもいいと思えるものを分けて、どちらも選定していただきたいということです。頂点の作品主義的なものを選ぶだけではなく、ボリュームゾーン的なデザインレベルを上げるところに、Gマークの大きな役割・使命がある。であれば、従来、花柄がついているようなものはGマークには選ばれないという通念がありましたが、花柄だっていい花柄はあるわけです。それを受け入れていくことによって、日本の生活文化が豊かになっていく、あるいは資本主義の根本にある、選べる自由、選べる楽しさが取り入れられていくことに、デザインが強くコミットメントしている状況をつくりあげていくことが大切ではないか。そういう観点に立って審査をしていくことが重要ではないか。そうしたことを折に触れて申し上げてきたつもりです。

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Gマーク: いまお話しいただいたようなかたちで、Gマークの新しい理念、ある種の戦略的な策定をお願いしまして、3年目の今年を迎えました。審査は、先日の二次審査会で無事終了して、あとは10月13日の大賞審査会と表彰式を残すだけになっています。今年の審査を振り返って、印象に残ることがありましたらお話しいただければと思います。
中西: 3年目に目指した一番大きなポイントは、デザイン領域の拡大というところだと思いまキ。今は時代の激変期で、新しいものがどんどん出てきて、どの分野に属すかよくわからないものが世の中にいっぱいあると思います。そういうものをできることなら積極的にデザインの中に取り込んでいきたい。僕は「核拡デザイン」という言い方をしてきましたが、デザインの考え方・哲学・歴史を核にしながら、デザイン領域を広げていくという方針で、Gマークが一つの役割を果たしていくことも重要ではないかと考えています。。

その発想の中で象徴行為的に出てきているのは、今年スタートした「新領域部門」だと思います。新領域というのは、まずは、これからの時代を切り拓いていく高度通信情報社会を牽引していくデジタル系と、バイオ系に代表される分野です。2番目は、現在のデザイン領域の門をできるだけ広げていく、デザインを一つのキーワードにしながらチャレンジし、既存の価値や技術を横に広げていく分野です。デザイナーだけでなく、企業家も、あるいはそれを使う人たちも合わさって、デザイン活用の幅を広げていくということです。3番目のポイントは、過去のもの、あるいは東京中心で世の中が動いてきたカウンターパワーとして、これから地域の自立が言われている中で、そこにデザインが結びつくことによって、過去の物産や技術に新しい価値を与えていくことができる。いわば既存のものに新しい光を当てて、今までなかったような価値創造をしていくといった分野です。
大きく分けるとこの三つのジャンルを新領域という考え方で呼んでみたわけです。これは今年緒についたばかりですが、個人的な言い方をさせていただくと施設部門で考えてきたことがGマークの民営化、見直しというところで一つの広がりを持ち、今度は新領域部門で考えていることが、次のGマーク制度をつくっていくということになるべきではないかと考えています。そういう意味で、「新領域部門」は今後の発展が楽しみだと考えています。

Gマーク: 先ほど核拡デザイン運動というお話も出ましたが、中西先生はずっと形のデザイン、ビジネスのデザイン、企業体そのもののあり方のデザインといった目に見えるものにとどまらず、新しい生活様式や社会的価値にまでデザインの領域を広げ、その分野でご活躍されてきたものと思います。先生のある種のライフワークなのかもしれませんが、そういったことをずっとやってこられて、Gマークの審査もそこに接点をもたれて、委員長としてその改革をお願いしてきました。
その中、中西先生が来月、Gマークの表彰式と同タイミングで、新しいプロジェクトを発足されるというお話を伺っております。ワールドグッドデザインという名称とお伺いしておりますが、その新しいプロジェクトについて、少しお話をいただければと思います。まずそうしたプロジェクトを発足される経緯、どういったアイデア、目的を持ったお話なのか、そのへんを少しお話しいただけますか。
中西: Gマークにずっとかかわりを持たせていただいて感じることなのですが、いまの制度はいろいろなことができると同時に、制約も持っているわけです。「Good Design is Good Business.」といっても、財団法人日本産業デザイン振興会は公益法人ですから、自らバリバリとビジネスをやっていくことはできない。またそれをやることは、対等の距離で応募企業・デザイナーと接していくというニュートラル性を失うことにもなります。

でも、ビジネスの世界は競争の世界ですから、誰か勝者が生まれれば敗者が出るということは必ず起こります。そこにまでニュートラル性を求めることは不可能です。どこかでグッドビジネスができていくということは、どこかで敗者もつくっているということにもなりかねないわけです。

そういうことを前提として、言葉でいえば日本産業デザイン振興会が運営するGマーク制度の限界、あるいは特色と言ったほうがいいかもしれませんが、デザインを中心にしながら共存共栄していこうということが政策の骨子になるだろうと思います。しかしビジネスとなると、これは資本主義の基本だと思いますが、競争が善である。そこで、共存共栄に対して競争共栄という発想でデザインをとらえ、「Good Design」と「Good Business」を結びつけていくことの重要さがあるべきだろうと考えたわけです。

中西さんこれからは、われわれが新しい時代の中で、生きていることは楽しいね、日本の社会っていいじゃないのと言えるようなことを考えていく上で何が必要かとなると、これはまさしくデザイン普及の時代をつくることであると言えます。ものを沢山持つことを喜ぶ物オリエンティッドの中にではなく、美や快適、安全といった志向の中にこそ生きる歓びを持つべきだろうと考えています。昭和のある時期に、「元禄」と言われましたが、平成元禄のほうが正しいのではないかと思っています。というのは、元禄文化が栄えた時期を振り返ってみますと、このころに江戸時代の文化の基本がつくられている。戦争もなく、世の中が平和になり、文化的生活へ心を向けるゆとりができたからでしょう。いまの華道や茶道の基本システムも、そのころにできあがっている。市民みんなが文化的習い事をして、それを生活の喜びにしていったわけです。そのためにたくさんの先生が必要となり、そうした習いごとの中から素人でも和算や医学の勉強をして、プロ以上の腕の人も出てくるという状況になったのが元禄時代、あるいは元禄文化と言われています。

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  現在の日本が置かれた状況もこの元禄に近いと思います。日本人が持つ1,300兆円もの個人預貯金は、世界の預貯金の3分の1とも言われています。高齢者に限ると、パーヘッドで2,500万円以上持っているとも言われます。このような状況下で何にお金を使うのかとなると、デザインの果たす役割は非常に大きい。つまりいいものを持つ、それを楽しむという喜びにお金を投じて、自分たちもそこで刺激を受け、快適な生活をつくっていく。それが文化や社会、また、経済の成長につながる。それはある意味では文化成長、福祉成長、環境成長が経済成長を牽引していく構造です。グランドデザインとしてこれから重要なのは、デザインを楽しむ生活をどうデザインしていくか、あるいはデザインビジネスをどうデザインしていくか、ということです。この推論上で何ができるのかを考えたときに、Gマーク制度、あるいは日本産業デザイン振興会との連携、あるいはその資本主義的発展とデザインというテーマを考えたところで、「ワールドグッドデザイン(WGD)」という発想が出てきたわけです。

日本にGマークがあり、アメリカにIDEA、ドイツにiF、イタリアにコンパッソ・ドーロがありと、世界中にたくさんのデザイン顕彰制度があります。こういうものをみんな情報として知っておくべきであり、あるいはそこで選ばれたものを購入して使う喜びを味わう、楽しむことも重要ではないか。しかも、これがインターネットの世界になって、そんなに難しいことではなくなってきた。そこで、ワールドグッドデザインという誰にでもわかるような平易な言葉で、運動でありながら、ビジネスとして成り立つものを起こしていきたい。この発想を日本産業デザイン振興会に相談し、皆さんとのお話し合いの中で、ぜひこういうことをやりたいので支援していただきたいとお願いして、快く了解を得ましたので、そちらの準備を進めてきました。今の予定では、今年の10月13日、すなわちGマークの大賞審査と表彰式の日を起点として、正式にスタートさせたいと考えています。

このワールドグッドデザインはいくつかのねらいを持っています。世界的なボーダレス状況の中で日本人のデザインを楽しむ生活をどうデザインするか、デザインビジネスをどうデザインしていくか、この2つを大きな目的としています。デザインを楽しむ生活をデザインするということは、ある意味では新しいデザイン運動であり、これによって経済の活性化に少しでも貢献できれば、そこに新しいデザインビジネスが起起こっていくと考えています。
この会社の正式名称も株式会社ワールドグッドデザイン(略称WGD)にしようと考えていますが、この会社をつくっていくにあたって、なるべくデザイン関係者にも参加していただきたいと願っています。その内容は二重構造を考えています。まず、お金を出して参加してもいいよという方には資本参加して頂き、この会社は将来的に株の公開を考えていますのでかなえば上場益を得ることができるという、デザイン関係者自身の自律的参加による会社づくりがひとつ。また、もっと広い意味合いで、なるべく多くデザイン好きな方にメンバーシップで参加してもらい、グッドデザイン商品の普及と情報共有の運動として盛り立てて頂くことがもう一つです。要は世界最大のデザインのポータルサイト、バーチャルマーケットをつくり上げたいのです。そのためにまず日本のデザイン関係者でこの運動が支えられ、ビジネスとしても支えられていく。いままでは守備型の受注産業であったデザインが、攻撃型の受注産業・サービス産業を自らの手でつくることによって、そこに新しい産業分野を起こしていくということを、インターネットを活用しながら推進していこうという発想です。

デザインという実は生活や社会に密着したところで仕事をしているわれわれが、最近の状況を眺めると、世間に対して、あるいは時代の先をつくっていくことに関する影響力・指導力について、明らかに分野間競争では後塵を拝し始めているのではないかという危惧を持っていて、ここで何とか巻き返しを図らなければいけない。デザイン関係者がそれ以外の人たちも巻き込んで、新しい流れをつくっていかなければいけないと考えています。そういう意味でも、WGD運動は非常に大切ではないかと思います。それゆえこの主義主張に賛同いただける方には、ぜひご協力をお願いしたい。メンバーシップも、年間1,000円〜2,000円くらいの安い会費にしたいと考えていますので、どんどんできるだけ多くの人に参加していただきたい。そして、ホームページに、その人たちがアクセスしていただくこと自体が、新たなビジネスを生んでいくわけです。そこでたとえばバナー広告が成立すれば、一つのビジネスが起こっていくわけです。そういうしくみを共につくりあげ、デザインはおもしろいことを考えたり、いいことをやってくれるんだなということを世の中に訴えていくことによって、インタラクティブに自分たちの存在価値を確立していく。今やそういう時代に差しかかっていると考えています。

また、ワールドグッドデザインではデザイナーに対して「デザイニスト」というキーワードを設定しました。ここのところますます強く感じているのは、デザイナーは最終的にものを生み出すところのみに結びついている。でも、世の中が求めているデザインは必ずしもそうではなく、最近は仕組みのデザイン、価値体系のデザインが求められていて、ユニバーサルとかエコロジーというと、まさに従来型のデザイナーだけではできないことが重要になってきています。それを考えると、デザイナーという言葉は非常にわかりやすいんですが、逆に非常に狭い幅で見られてしまう。あるいは、デザイナーだけが職能的に集まったところで、できる範囲は見えてきているのではないか。それよりも周りの人たちを巻き込んで一緒にやるという状況をいろいろつくりあげることによって自らを生かしていくという方法論もこれから考えないと、仲間が集まって傷をなめあったり、補助金探しをしているということにもなりかねない。これは社会的価値の創造行為になりにくい。他分野従属型のデザイン界のあり方から今後はどう脱皮するかが重要だと思います。

ですから、広い意味で、よいデザイン、優れたデザインビジネスをつくりあげようという考え方の人、あるいはそれを生活の中に入れていって楽しもうよ、社会をよくしていこうよという考え方を持つ人を、広くデザイン主義者=デザイニストと呼ばせてもらって枠を広げ、むしろいま世の中に求められているデザインの領域を幅広く充足する。もちろんデザイナーが核にはなっていますが、デザイナーを含め、主義主張に同調していただける方たちをデザイニストと呼ぼうではないか。デザイニストが集まって、この運動を繰り広げ、このビジネスをつくっていくというのが、WGDの一つの理想です。

われわれ自身の手でこの変革の時代をおもしろくしないといけないと思います。世の中は確実にデザインの時代になりつつあると思いますから、他者にデザインの時代を人につくってもらうのではなく、デザインに関係している人たちが、自分たちが中心になってつくっていくことが重要だと思います。

Gマーク: 先生が始められる新しい運動でもあり、ビジネスでもあるWGDのプロジェクトに、デザイン振興会、Gマークとしても全面的にサポートというかたちで、ご一緒にことが進められるように努力いたしますし、このプロジェクトの成功を期待しております。
(2000年9月20日 東京・渋谷区のPAOSにて収録)
  ●中西 元男
PAOS代表、2000年度グッドデザイン賞審査委員長
  PAOSのHP:
http://www.paos.co.jp/

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