中西元男 対談バックナンバー

 
 

第6回(2000.7.31)


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船曳: 船曳さんもともと不動産事業から始め、アメリカ型のインテリアマートがデザインセンターと名乗っていたことから、「東京デザインセンター」という名前にしました。アメリカ型のインテリアマートは基本的にユーザーとはいってもプロユーザー、すなわちインテリアコーディネーターとかアーキテクトといった人たちを対象にしていて、中にはメーカーショールームがあり、小売店や流通も入っているというところです。そういう性格のものですから登録制をとっていて、一般のユーザーは基本的には入れません。
アメリカの場合はともかくあれだけ広い国ですから、インテリアコーディネーターが小売店的な要素を担っている部分があります。インテリアコーディネーター自身が複数のプライベートユーザーを常に抱えていて買い付けに来るわけです。ですから、デザインセンターはユーザーと供給側とを取り持つミーティングプレースになる。
ところが日本の場合は、全国的に流通のネットワークができあがっている。その中で、プロユーザーと呼ばれるところを狙っても、非常に需要が少ないわけです。そういうことを考えると、具体的に一人ひとりのユーザーにアピールできるようにしておかなければいけない。だから東京デザインセンターの場合は、アメリカ型よりもユーザー側にシフトさせているのが特徴だと思います。

ビジネスと一番かかわるところですが、うちで扱われている商品はグッドデザインと認知されるプロダクトがほとんどだと思います。これは私たちが考えるグッドデザインをここに集めようと思って始めた結果ではなく、クオリティを追求した結果としてあるんです。クオリティというのは形状的に美しいということだけではなく、ユーザーにとって価格合理性がある、価格について透明であるということです。価格合理性は、素材とか商品の機能的なクオリティが高いということにつながる。たとえば、上代が100だとして、卸価格が25のものは、25で商品のクオリティが決まっているわけです。でも、100のところを卸価格が65のものは、65のところで商品がつくられている。つまり、同じ100の上代でも25の原価と65の原価のものだったら、65の原価のもののほうがいいと考えるのが合理的ですよね。
私がテナント募集で追求したのはユーザーの目から、この価格だったらこのクオリティが保証されているところで見ていったことが、結果としてグッドデザインとしてグローバルに認められているテナントが入ってきた、ということが言えると思います。

中西: ということは、東京デザインセンターのお客さんたちは、ある意味でいうと価格に対する信頼感がかなりきちっとできあがってきている。
船曳: と思いますね。そういう信頼感をつくっていくためには、まずプロユーザーに十分なアピールができないといけない。そういう面でプロユーザーがマーケットをリードしているわけです。もちろん、それはメディアにどう取り上げられるかという具体的には小さな出口かもしれませんが、プロユーザーに認められたところだという情報は、口コミなりメディアなりを通じて広がっていくわけです。
いまの消費者は商品選択について相当目が肥えてきて、メディアが紹介するものについても、かなり読みを深く受け取ることができるようになっている。ですからうちは、最終的にエンドユーザーにアピールできる、来ていただけるようなデザインセンターにしたいと思ったんです。
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中西: ここ9年というのは日本の経済が一番悪い時期ですよね。この間、ビジネスとしての成果という面からは、どういう傾向をたどってきているのでしょうか。
船曳: テナントを集めていくことには非常に苦労しました。それは業務の内容ではなく、いわゆる貸ビル業という業態自身が大変な時期ですから、そういう点での苦労です。でも、このところにきてようやく、貸ビルの中でも非常に特異な位置にあることを認めていただけるようになりましたので、いまとしてはかなり成功しているかなと思っています。賃料とは全く別の価値を認めていただけるようになった。というのは、うちに入りたいという出展企業は、ある個性を持っていて、このビルに入ることで自分自身のバリューアップができると思われているということです
中西: 中西さん いまお話を伺っていて、東京デザインセンターについて種々のことが分かったのですが、考え方が非常にはっきりしておられるので、内容と共にポリシーがいろいろな方に伝わってきているのも大きいと思うんです。それは非常に確固とした信念と洞察力のある経営者がおられてこそ成し得たことだと思います。

話を別にしますと、これから日本の市場なり市民の生活なりがある種の成熟社会化していく。そうなってくると、デザインは非常に可能性があるし、だからこそグッドビジネスにしていかなければいけない。というのは、これからは量的に満たされていることがすばらしいのではなく、より文化度の高い生活に対してお金を投資する、あるいは生活を楽しむといった生活術が、これからの一つのライフスタイルになっていくのだろう。あるいはオフィスにおけるワークスタイルでも、そういう部分は非常に重要だろうと思うんです。つまり、変革しつつある時代の中でのデザインを考えないといけないと思っています。

では、Gマークとしてのグッドデザインはどうするのと言われると、いま申し上げていることについて日本のデザインインフラをつくっていこうとするときに、どうしてもモデルをつくらざるをえない。"Good Design is Good Business."と標榜する時に、何がグッドデザイン、グッドビジネスなのかという事例の存在が余りにも少ないのがいまの状況だと思うんです。やはり、いいデザインのものは売れるという事例、あるいは売る仕組みをつくることが重要ではないかということです。

それから、高度情報通信社会で売るということを考えた時に、ネットビジネスとグッドデザインをどう結びつけるのか、あるいはネット販売とグッドデザインの結びつきと言ったほうがいいかもしれませんが、そういうことを実践すべきではないかと、ここ1年ほど具現化策を考えてきているんです。この計画をそろそろ具体的に着手したいと考えています。
こういう時代転換というか時代変化とグッドデザインについて、ご意見があればお伺いしたいと思うんですが。

船曳: スタンダダイズとカスタマイズということが大きな問題としてあると思います。グッドビジネスになるためには、コストパフォーマンスをよくしなければならないし、そのためには量を生産しなければならないので、どうしても標準化、スタンダダイズという方向になると思うし、それが20世紀の工業製品であったろうと思います。これはデザインの大衆化が確立されたわけだからすばらしいことで、絶対忘れてはいけない。
でも、このモノ余りの状態でユーザーがどのような消費行動をとるかというと、やはり「私のもの」という感覚が当然あると思うんです。だからカスタマイズという方向がある。具体的にその最右翼はクラフト商品、インテリアだったら特注で手づくりのオークの椅子をつくる。それが30万円であろうと、消費者のほうは喜んでお金を払うという世界はあると思うんです。
それはそれでもちろんビジネスとして成立していますが、私たちが考えなければいけないのは、たぶんもっと広いことのほうだろうと思うんです。広いほうでカスタマイズもスタンダダイズの中に織り込むという手法だって当然あると思う。もっと広げていってしまえば、われわれモノ余りの状況の中でどういうライフスタイルを選んでいくかというときに、たとえば家に住まうことを考えると、モノ一つが必要なわけではなく、その部屋の空間の中で自分が住まうという行為がまず中心にあるわけだから、それを全体としてあるスタイルにまとめていくという、コーディネートを住まい手のほうはやっていくわけです。
このコーディネートをするときに、いままでだったら一つの存在感あるもの、昔だったら虎の毛皮を10畳間に敷くという一点豪華主義だったのかもしれないけど、これからのユーザーは、部屋全体のコーディネートのスタイルを見てくださいよというふうに入っていくだろうと思うんです。そうすると、そこに入ってくるモノ一つひとつは、それ自身としてはそんなに自己主張は強くないけれども、全体としてそのユーザーの何かを表すものが考えられます。
そういうユーザーのライフスタイルに適合するような商品を一方で標準化させ、標準化させてもバリエーションをもたせる。価格合理性がありながら、ある程度ユーザーのライフスタイルを満足させるような商品を、バリエーションをもって提供するという方法はあるのではないかと思います。
Gマークで言えば、本当はロングライフデザイン賞を受賞するような商品が一番のバリューを持っている。
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中西: 本当はそうなんですよね。今までの新しいものというのは、日本の高度成長期、安定成長期、バブル期に至る成長変化のプロセスの中ではフロー的な存在であり、新しいがゆえに価値を持った。知的・美的ストックとしてのグッドデザインという発想は、つくる側も買う側あるいは使う側も非常に希薄だった。時代を超えた価値を持つ、ストックとしてのデザイン力を持てることが、大きな価値だろうと思うんです。
でも、これだけ省エネとか省資源が叫ばれる現在では、多少価格が高くても、そういう思想売りというか、哲学を明示したデザイン商品が売れるようになっている。そこで今後目指すべき方向は何と言われたときに、ストック型のデザインをどれぐらい生み出していけるかというのも一つの企業力だ、あるいはデザイナーのデザイン力だという時代になってきていると思うんです。
船曳: 船曳さんそのストック型の商品を、大企業しかつくれないということは全くないと思うんです。実は先日、ドイツのハノーバー博に行ってきたんですが、人気のあるパビリオンは小さな国のものでした。たとえばブータン、ネパール、アイスランド、フィンランド、ハンガリー、アイルランドといった国です。中に展示されているものは、いわゆる商品という意味でのバラエティでは大国と比べようがない。でも、たとえば、アイスランドは水、ネパールは木彫り、フィンランドは子供と自然、アイルランドは石というように一つひとつのパビリオンのコンセプトが明解なんです。それが魅力的なパビリオンになっているということは、小企業といえどもコンセプトを明解にして、これが魅力だということをアピールし続ければ、ブランド構築はありうるのではないか。そして、そこが売り込むデザインも、ユーザーにとって非常にわかりやすいものになるはずです。
ネット上でものを売るというときには、売り場は全然必要としないわけです。物量で圧倒する必要はない。たとえばAというメーカーはこういうものを売っているんだぞという、はっきりとした見え方ができるほうが、ネット上は強いと私は思います。
中西: 本当にそう思いますね。工業化社会型においては、ある種体力勝負みたいな様相があって、小国のものはニッチ産業・ニッチ商品という捉え方がされてきた。それが体力ではなく、知力・魅力が大事だという、魅力勝負になってくると全く別の切り口が表れてくる。その場合に収益性がきちっと成り立っていれば、それは確実なビジネスとして成立すると思うんです。
船曳: 魅力はこれだぞというものを出して、合理的な値段であれば、世界の市場でも勝負できる。日本のマーケットの中だけで考えていると、どんなにいいアイデアで、発想力豊かで、知力が込められた商品であろうと、それを全く無視した商品と同じ価格帯で勝負せざるをえないから、どうしても利益率が低いということになる。世界のマーケットを相手にしたときには、別の考え方があるのではないかと常々感じています。
中西: おっしゃるように、コストの積み上げが値段だというコスト発想が日本ではあまりにも強いと思うんです。これは工業化時代型の発想です。オリジナリティや商品美学があって、価格設定権を自分で持てるというプライシングオリエンテッドなビジネスはつくれる。コスト発想が強いクライアントを相手にすると、どうしてもこれまでの商慣行からデザイナーは一方的に受け身型受注産業になってしまうんです。
しかし、これからは能動型・攻撃型で、むしろデザインによってバリュー(新しい価値創造)を生み出していくんだ、あるいは価格設定権をこちらがコントロールできるパワーを持つんだというぐらいの提案力、大きな意味でのデザイン力が持てる状況にどう持っていくのかが非常に重要だと思います。いまの日本の製造業には底辺で非常に安定した品質保持力があるわけですから、発想さえ変えればバリュー型の商品がつくりやすい状況になっているはずです。
船曳: とくに欧米ではデザイナーが企業を起こして、オウンリスクで商品をつくって売るというケースがかなりありますね。日本ではデザイナーが発想しても、結局いろいろなメーカーへ持っていくことしかない。どこかでメーカー頼りで、自分で資金を出して、こけたら全部自分のマイナスというところまで腹をくくる人はほとんどいない。それはなぜかというと、単にデザイナーに資本力がない、銀行から借りられないという以前に、日本のデザイン教育の中でビジネスの教育をしていないところに問題があると思います。デザイン教育に経営学を入れて、それを必修にしてほしい。
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中西: 中西さん 最近は大学でデザインマネジメントの講座が流行現象になり始めています。デザインマネジメントには、内なるデザインマネジメントと外なるデザインマネジメントがあると思いますが、デザイナーをどう使おう、デザイン部門をどういう具合に機能させよう、企業の中にデザインをどうやったら取り入れられるかという、内なるデザインマネジメントを中心にやっている。
マーケティングオリエンテッドなデザインマネジメント、あるいはコーポレートマーケティング戦略としてのデザインマネジメントという、外なるデザインマネジメントがなかなかできあがっていない。CIで一度それに成功した企業でもその後の内作化の段階ではほとんど内なるデザインマネジメントにしぼんでしまっている。これはデザイン教育がいまだに美術教育の延長上にあることも関係していると思うんです。だから、デザインがなかなか能動型・攻撃型になれない。もっと言うなら社会的価値の創造者になれない。デザインがビジネスを引っ張っていくという、"Good Design is Good Business."になるためには、ここを変えていく大きな発想の転換をいまや必要としてきていると思います。

ただ、こういうことを説得していくには、サクセスストーリーが重要だと思います。こういう発想で、こういうことをやってみたら、こういう成果が上がりましたよという事例で目覚めてもらうことが非常に重要です。だから、"Good Design is Good Business."は、そうした役割の果たせる好事例をつくっていきたいと思っています。いまの時代のデザインは、グッドデザインをきちっとした情報価値にして、情報価値オリエンテッドなグッドビジネスを成り立たせるようにしていく。これはインターネット時代のデザインビジネスのありようだろう。これを誰かがつくるのではなくて、一番重要なことはデザインの関係者がつくることだと思っています。

いま考えているのはデザイニスト、つまり広い意味でのデザイン好きや普及愛好推進者という意味でのデザイン主義者が集まって、新しい事業を起こし、それをきちっとしたビジネスとして成立させていくことです。Gマークもそうですし、世界中にはいろいろなグッドデザインの賞を受けた商品がありますがこれらはまだ一般に良く知られているという状況にはない。また、これら全部をモノとして並べるのは大変なことです。しかし、それを情報的に並べることはそんなに難しいことではない。だから、まず情報産業型の事業興しをして、ウェブビジネスとしてのグッドデザインビジネスを構築することが可能な時代に来ているでしょう。これをデザイニストがどうつくっていくかということを計画として考えています。デザインは具体的に買おうとしたらモノですから、モノに直接触れられることも重要だとは思いますが、今の時代は、その前にまず情報ありきだと思います。

船曳: その情報も漫然とした情報ではなく、思想が入ってくると思います。21世紀のライフデザインはこうなんだよという思想を樹立させる。皆さんデザイニストだから、個々に思想をお持ちだと思うけれども、その方々の間で、ある程度の共通認識、古いけれどもイデオロギーがあっていいのではないかと思います。そこを明解にしないと、社会との積極的なかかわり方も生まれてこない。直観的にこれがいいよ、悪いよというものではなく、思想と呼ばれるような高度なレベルでのスクリーニング、尺度が必要だと思います。
中西: "Good Design is Good Business."といった時に、一番受けやすい誤解は、「グッドビジネス」をモノ売りの単体ビジネスとして受け取られることです。時代が変わって情報化社会になってくるということは、情報化社会においてのデザインの重要性という思想売り・哲学売りが先行してモノがついていく、という構造に変えないと駄目だろうと思います。そのためにはデザインにかかわる人たちが、そこのところを共有化して、一般のユーザーや生活者たちに、いいデザインのある生活は楽しいですよ、生活の質、レベルを高めますよということを、きちんと先導していく必要があると思います。そのためにはデザイン関係者、デザイニストは絶対に受け身であってはいけない。時代の先駆者、先導者にならないと、"Good Design is Good Business."は成立しえないと思います。
今日はどうもありがとうございました。
(2000年7月21日 東京・浜松町のJIDPO会議室にて収録)
  ●船曳 鴻紅
(株)東京デザインセンター代表取締役社長
2000年度グッドデザイン賞審査副委員長
東京大学文学部社会学科卒。輸入インテリア(株)DAWNを経て
1989年(株)東京デザインセンター設立

●中西 元男
PAOS代表、2000年度グッドデザイン賞審査委員長

  東京デザインセンターのHP:
http://www.design-center.co.jp/

ハノーバー博のHP:
http://www.expo2000.de/

PAOSのHP:
http://www.paos.co.jp/

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