中西元男 対談バックナンバー

 
 

第4回(2000.5.31)



建築・都市開発や地方自治体とのかかわりからユニバーサルデザインの実践的な活動を続けてこられた梶本氏、「ユニバーサル・デザイン・フォーラム」の中心的な存在であり、ユニバーサルデザインを具体的なビジネスとして実践されている中川氏をお迎えし、この領域を巡る日本の課題などについてご対談いただきました。
(編集部)
中西元男 梶本 久夫 中川 聰
中西元男 PAOS代表
2000年度グッドデザイン賞
審査委員長
梶本 久夫
株式会社ジィー・バイ・ケイ
 代表取締役社長
季刊『Universal deign』
 編集長
ユニバーサルデザイン・コンソーシアム
 代表
中川 聰
トライポッド・デザイン株式会社
 専務取締役
ユニバーサル・デザイン・フォーラム
 副理事長
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中西: ユニバーサルデザイン(UD)という言葉が一般にも急激に浸透してきていますが、その内容の理解となるとまだまだだと感じます。また、基本的にアメリカからの輸入論ですので、ユニバーサルデザインの7原則についても、どのように日本流に咀嚼改案していくかということが重要だと思います。
日本ではいろいろな現象をすぐに流行にしてしまって、ストックとしてのデザインも全部フローとしてのデザインにしてしまう。一時はちやほやするけれども、すぐに次の流行探しを始めるという悪い癖があります。しかしユニバーサルデザインはきちんと世の中に位置づけて、ストック化をしていくことが重要ですので、今からきちんと宣言をしておくべきと考えています。

今回のインタビューを企画した背景の一つにあることですが、通産省の資料によると現在ユニバーサルデザイン市場が1兆円を超えているとあります。今後も10%強の割合で成長し、2025年ごろには16兆円ぐらいにはなると予測されている。いよいよこれからユニバーサルデザインの時代がやってくるわけですが、これはただ待っているわけにはいかず、誰かが牽引していかなければいけない。その旗手として特に実践面で成果をあげておられる梶本さん、中川さんにおいでいただいて「ユニバーサルデザイン最前線」という題目で、最前線でいま何が起きているのか、これからどうなりそうかということを伺っていきたいと考えています。

お招きしたお二方にはアプローチの仕方に違いがありますね。梶本さんは、建築、施設、あるいは都市や地方自治体とのかかわりといったところから実践的な活動を続けてこられて「ユニバーサルデザイン・コンソーシアム」という組織を先導しておられる。中川さんは「ユニバーサル・デザイン・フォーラム(UDF)」の中心的な存在で、さまざまな日常づかいの身の回りのプロダクトから提案されていますね。先日はトライポッドデザインという会社を設立し、同時に新しいブランド「トライポッド」を発表されました。これはなかなか具体性が高く、デザインインパクトが強くて、新聞、雑誌、テレビにもずいぶん取り上げられ、ユニバーサルデザインのいわば露払い、啓蒙という点で大変大きな役割を果たしておられると思っています。

梶本: 流行と呼べるほどユニバーサルデザインが話題になっている。しかし、一般の人から見れば新興宗教の教祖みたいなのがいっぱいいて、どれが本物だか分からない。中川さんも新興宗教、私も新興宗教といった扱いですので、このままフローとして流れてしまわないよう注意深く進めていくことが必要です。私は施設、都市、環境で30年前からやってきた結果、ユニバーサルデザインに出会ったわけです。それ以前は医療福祉施設環境研究会なるものを起こして、建築家であったり、企業であったり、あるいは利用者の人たちとともにコラボレーションで活動してきましたので、そんなに特別なこととは思えない。

たまごの割れない道づくりたとえば、ユニバーサルデザインという言葉を上にかぶせなくても、すでにそれに近いことをやっている例があります。「たまごの割れない道づくり」というユニバーサルな考え方のプロトタイプが高知県にあります。女性だけの市民団体でつくった540mの道路なのですが、スーパーで買ったタマゴを自転車のカゴに積んで走ってもタマゴが割れないということです。市民団体といえどもなかなかのグループで、拡幅工事と合わせてユニバーサルな道路をつくりました。私は「ユニバーサルな道路」と呼んでいます。

また、行政でいちばん最初にユニバーサルデザインを取り上げられたのは静岡県だと思います。企画部に「ユニバーサルデザイン室」を設置していますし、「差別を超えて全ての人が暮らしやすく、活動しやすい社会」を築いていくということで、全庁的な調整活動に着手しています。

そのように各県を見ていくと、高知県、静岡県、岩手県、宮城県、それから福岡県もそうでしょうか。ユニバーサルデザインが具体的な施策として動いているところが出てきた。これは非常に早く広がっているのではないか。また、大きな傾向として、市民参加のワーキンググループによるものづくり、施設づくり、まちづくりが多くなってきました。たまごの割れない道づくりもそうですが、他でも市民参加の施設づくりが目立ってきています。

中西: 一方の中川さんは、一般の企業との関係でいろいろ先導的な役割を果たしておられます。中川さんが進めておられることのおもしろさは、単にプロダクトデザインとしてユニバーサルデザインをなさっているというよりは、むしろそこからきちんとしたビジネスに仕上げていくところにあります。これはGマークが掲げている「Good Design is Goos Business.」という考え方と合致している点で、非常に興味を持っています。同時に、ユニバーサルデザインは一つの世直しであるという発想にまで広がっていっている点も非常におもしろい。やはり今の日本は何か世直しをしなければだめな時期にきている。明治以来のパターンがある意味で行き詰まって、それを支えてきた日本型経営も完全に崩壊状況ですから、それに代わる仕組みが随所で必要になってきているということだと思います。その内容についてお話しいただけますでしょうか。
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中川: ユニバーサルデザインは社会全体で総合的に取り組まなければなりません。狭い日本でユニバーサルデザインをバラバラにやっていてもだめだと思っていて、企業もまた自治体と同じ状況といえます。私も長いことプロダクトデザイナーをやってきて、ユニバーサルデザインとの関わり方は、梶本さんと同じで自然にそうなってきているだけです。アメリカでもみんな、「Good Design should be Universal.」と言っています。つまりグッドデザインは当然そうあるべきなんだということです。

日本の企業がどういう状況かというと、エンジニアリングやマーケティングといった部分はしっかりしているんですが、全体的な関係やその組み方、ストーリーが非常に不明確なまま曖昧にものづくりをしてきたため、みんながわからなくなってきている。たとえばカミソリメーカーでもそうであって、メインの商品は相変わらず古いタイプのT字型の金属のカミソリで、その次は女性の顔剃り用カミソリ刃です。実はこれが仕事の道具として使われるようになってきている。用途が代替されてきていて、糸を切る人とか、造花をつくる人とか、そういうプロの道具として様々な作業に使われているらしいんです。これは産業デザインとしてはおもしろい現象で、つまり道具の使われ方がユーザーの中で変異もしくは進化しているわけです。今や商品や流通をつくってきても、実はコンテンツがない。しかし、日本人はどうしても直裁的に「愛しているよ」とは言えない民族ですから、ものを買ってあげようとか、ものをつくってあげようとか、お金でどうにかするという方を追いかけてきたわけです。こうした精神的要因に着目すると、私はむしろ今後の市民の意識の進化に期待していています。広い意味で言うと、デザインがそうした心理的技術においてすごく進化しようとしている。

ユニバーサル・デザイン・フォーラムに参加している企業においても自治体とまったく同じで、次の世代に向けてものづくりをどうするのかと、みんなで集まっています。現在日本では産業の技術としてのデザイン、エンジニアリングとしてのデザイン、システムとしてのデザインというアプローチに対して、核となるものが喪失してしまっているという現象が起こっている。企業のトップもそうした点に相当気がついてきているので、そういう意味ではものづくりの原点に返るいいチャンスが到来しているような気がします。

中西: 先ほどは自治体について伺いました。ユニバーサルデザイン・コンソーシアムの方は、現状の主な先端のテーマはどういう状況ですか。
梶本: ユーデコスタイル 任意団体ですから、なるべく間口は広く持とうと思っています。第1は、「ユーデコスタイル」(Ud&Eco style)です。これはユニバーサルデザインとエコロジーをくっつけて、分母にスタイルをもってきた造語です。コンソーシアムの中の一企業を中核にスタートさせました。ユニバーサルデザイン市場とエコロジー市場をくっつけると、とんでもない規模になって、2010年にはだいたい46兆円市場になる。ユニバーサルデザインの需要とエコロジーの需要をくっつけると、これがいちばん大きな市場かなということで、ユーデコスタイルがあるのではないかと思うんです。このユーデコスタイルを投げかけて、メーカーの広報誌をつくりました。従来の企業の一方的な押しつけではなく、いわゆるユーザー参加というところからのスタイルという、カッコいい方にもっていきたい。

第2は、これは建築寄りですが、フラットな環境をどういうふうにつくっていくべきかです。まだ「UDフラット」という研究会レベルなんですが、素材メーカー5、6社と設計とゼネコン、あとはデベロッパーを集めて敷居がきわめて低い環境を目指しているプロジェクトがあります。たとえば、都市型の若者向けのマンションではテラスは居住空間の一部となっており、晴れている日にはテーブルを引っぱり出して、そこでご飯を食べたり、お酒を飲んだりする。敷居が低いということは、都市型マンションのセールスポイントでもあるんです。それは一方で、車椅子とか障害者にもいい。これはまさにユニバーサルデザインでいっていることと一緒じゃないかということです。

第3は、芝浦大学とゼネコンでやっている環境調査で、環境が患者の治癒にどう役立つのか、働き手に対してもどういうふうに効率的に効果的にできるかを病院や福祉施設を対象にやっています。病院とは、患者、働き手、それからそこを訪問する人、関係者はカスタマーであるという認識です。そのための環境、器というものは、どうあればいいのか。施設のつくり方から見て、ユニバーサルデザインは非常に波及効果がある、いろいろなことに広がっていく。教育、モラル、モチベーション、そんなようなものにも広がっていく。環境が効率・効果にどうなのか、快適さ、アメニティのためにどうなのか。もちろんコストの問題はそこに加味しなければいけませんから、その評価基準は勇気をもってやっていこうと思います。やはりアセスメントという問題がないといけない。ユニバーサルデザインには、最後に評価するという重要な部分が、従来のものとの違いとしてあるのではないか。

この三つが、コンソーシアムの具体的に動き出した形なんですが、一番人気は何と言っても評価でしょうか。特に東京都からは、30ぐらいの病院をやってくれと言われているんですが、とりあえず厚生省の国公立の病院に取り組んで、間もなく評価を出すところです。

中西: Gマークでは、「Good Design is Good Business.」を掲げていて、グッドビジネスというと、ものをつくって売れればグッドビジネスではないかと受け取られてしまいますが、そういうことではなくて、何がグッドビジネスでとなっていくかなのです。そこにつながるデザイン振興とは、いいデザインを生み出すこと、デザイン業そのものの振興、デザイン分野全域の振興ということで、今の梶本さんのお話を伺っていると、まさにそういう模式です。でも実際誰がやれるのか、どういう体制でやるのかというと、むしろ要望が進んでいくと、それをやれるプロがどこにいるのという話になりそうだと思います。一方で、中川さんはユニバーサルデザイン・フォーラムをおやりになっています。これはどういう方向を目指しておられるんですか。
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中川: 私どもも注目している観点は基本的に同じです。いま注目しているのは高齢化する社会が普遍的にニーズとするものです。

中川氏まず、一般情報の確立。亡くなる数ヶ月ぐらい前まではどんな方でも余程のことがない限りは普通の日常生活を送るといわれていますし、高齢期に元気で暮らす人たちは実態としてはかなり多いというのが私たちの見込みです。そういう人たちがより豊かでより自由な意思で主体的に社会生活を送るためには、環境ももちろんですが、人間がつくり出した人工物との関係を適応しやすいものにしていく必要がある。そのときに生じてくる問題点は生理的なものですから、カルチャーに関係なく全世界にかなり普遍的なものだと思います。これこそがユニバーサルデザインの原点にもかかわる視点です。人間には社会的な成熟と生理的な老化という二つの問題があって、社会的にはマチュア、成熟であるんですが、それに対して肉体のほうは生理的には老化している。身体的には、アルツハイマーの問題、転倒や移動の障害の問題があり、いろいろな問題が生じてくる中で、五感の変移も進んでくる。そうした老化における諸問題の中で企業が考えておかねばならないことを調査して、できるだけ普及させるようということを一つの大きなフォーラムの活動テーマにしています。これは一般情報としても、高齢社会においては社会の誰もが知っていなければならないものでもあります。

次に、ユニバーサルデザインの創造的な解決。ただ単に問題解決するだけであるならば、それはバリアフリーで終わってしまう。もちろんバリアフリーの経験は、ユニバーサルデザインをつくりあげる上では重要ですが、バリアフリーは一つの問題提起、社会的告発です。それに対して企業というのは、企業の創業の精神である社会目的のために働かなければいけないというのが大前提です。それをしなければ、ユーザーはついてきません。ですから、ロナルド・メイス氏たちがやったものを客観的に理解し、日本型にして取り込んで、世界にこれを技術として売っていけるようなものに育てたいというのが、フォーラムの大きな目標です。次の日本を支える産業技術にしたい。そうしないと、会社だけが日本に集まって、工場は全部アジア地区に行って、デザインはヨーロッパに頼むということになってしまいます。そのためにもまず米国におけるユニバーサルデザインとか、ヨーロッパにおけるユニバーサルデザインの発生と発達における歴史的な背景をまず理解し、どのような社会がどうやってこれを生んできたのかというバックグラウンドの理解、そして次にロナルド・メイスを中心にセンター・フォー・ユニバーサル・デザインが整理した7原則をきちんと客観的に理解することが必要です。

そして次は、自らの仕事と環境に適したそれらの原則における事例を探し出して整理をして、自らのユニバーサルデザインの原則を創出していくといったようなことを、どうやって企業に定着してもらうか。途中まで国が導いて、将来的にはNPOでユニバーサルデザインの日本の先端研究を進めるのが私の大きな夢です。センター・フォー・ユニバーサル・デザイン・ジャパンを、みんなでつくっていきたい。一般的なユニバーサルデザインに関する研究調査情報はそこから出せばいい。あとは企業が、中小も大企業も、どういうふうにしたら自分たちのプリンシプルを見つけられるのかということです。そして自らつくった原則をより多くの人が使いやすいように、どのように客観的に検証していくのか。いかに厳しく自己評価するかということが今の日本の産業界に望まれています。いま、企業内調査はユーザーを理解するのではなく、社内稟議を通すためのものになってしまっている。そうではなく、いかに個々の企業が自らのブランディングや背景をもとに自らのUDプリンシプルを見つけだすか。それを自分で見つけだすためにどうすればいいかということで、毎月フォーラムで研究会活動をしています。そこでは技術としてのデザインを徹底的に数値化したり、情報化したりして1つのデザインシステムにしていこうということも大きなテーマになっています。

そして、4つ目は、独自のユーザー調査を推進している点です。ユーザーに向けてデザインの目的や目標を定める為の200人規模のフォーカスグループを使ったデザインのサーベイ(調査)活動などを行ってきました。 これは例えば、生活の中で一人の人を支えている様々なプロフェッショナルのグループを指します。そういったプロフェッショナルなフォーカスグループで、より多くのユーザーに現在又は将来こういうものが必要だということを客観的に調査してもらっています。私どもフォーラムが目指すデザインのテーマと目標は、誰もが自活しながら自由意志で、できるだけ長い時間この社会の中で楽しく暮らしていけるという点にあります。そう考えたときに、いままでの企業のデザインは答えを出しすぎているんです。買う商品の中に既に答えが出されていたら、自分が入っていく隙間がなくて、自己参加性もないわけです。できあがった商品では、ユーザーは黙ってそれを使うしか方法がない。左官の親方がコテを削ったりするように、自分のためにここをちょっと変えたいということも生活の中には多くあります。今の生活用品には、個人が入って変化させられるような対応性は極めて少ない。フォーカスグループではそういうことを客観的に評価しようとしています。

もう一つの私どもが保持している調査グループがモニターグループとそれらを使ったユーザー調査です。600人規模のこのグループを使って、2025年の世代別人口構成を想定したユーザー調査を試みようとしています。2025年になった時の状況をより正確にシュミレーションした方が、商品だって長持ちするデザインになるわけです。そのときの人口構成比、例えば何%が障害で、何%が内部障害であるというようにきちんと分けてやってきました。今デザインにおいて大事なのは正確なデータと数字です。デザインをもっと科学的にしなければいけないと思います。今まではどうも美学的な見地が多かったのですが、デザインは我が国では第3次の機能主義の時代に入ったのだと思います。私は新機能主義の時代と呼んでいます。1900年代前半に、初期の機能主義時代があって、そのときは機能開発一点張りでやってきた。そして第2次大戦後、再び一時、機能主義が台頭していきました、それが第2次の機能主義の時代と考えています。そうした動きに対する反省と反発から、サイコロジカルなインターフェイス、心理性やイメージ性へ傾倒した新しく、美しいデザインを求めていくことになったのだと思います。エルゴノミックスの考え方もデザインや科学が進化する中でパーソナルデザインを目指してきたともいえます。ある意味、パーソナルということを考えていくと、ユニバーサル(すべての人の為のデザイン)と一見矛盾するように見えますが、私はそれは違うと思っています。デザインがユーザーに向けて、完成に対して7割ぐらいのレベルのものが初めて提案されていて、あとの残り、例えば3割はユーザーが自分で色をつけたり、形に変化を与えたり、使い途を変化させるということで良いと思っています。最後にユーザーが答えを出せるデザインが求められる時代になったと思っています。

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