私どもも注目している観点は基本的に同じです。いま注目しているのは高齢化する社会が普遍的にニーズとするものです。
まず、一般情報の確立。亡くなる数ヶ月ぐらい前まではどんな方でも余程のことがない限りは普通の日常生活を送るといわれていますし、高齢期に元気で暮らす人たちは実態としてはかなり多いというのが私たちの見込みです。そういう人たちがより豊かでより自由な意思で主体的に社会生活を送るためには、環境ももちろんですが、人間がつくり出した人工物との関係を適応しやすいものにしていく必要がある。そのときに生じてくる問題点は生理的なものですから、カルチャーに関係なく全世界にかなり普遍的なものだと思います。これこそがユニバーサルデザインの原点にもかかわる視点です。人間には社会的な成熟と生理的な老化という二つの問題があって、社会的にはマチュア、成熟であるんですが、それに対して肉体のほうは生理的には老化している。身体的には、アルツハイマーの問題、転倒や移動の障害の問題があり、いろいろな問題が生じてくる中で、五感の変移も進んでくる。そうした老化における諸問題の中で企業が考えておかねばならないことを調査して、できるだけ普及させるようということを一つの大きなフォーラムの活動テーマにしています。これは一般情報としても、高齢社会においては社会の誰もが知っていなければならないものでもあります。
次に、ユニバーサルデザインの創造的な解決。ただ単に問題解決するだけであるならば、それはバリアフリーで終わってしまう。もちろんバリアフリーの経験は、ユニバーサルデザインをつくりあげる上では重要ですが、バリアフリーは一つの問題提起、社会的告発です。それに対して企業というのは、企業の創業の精神である社会目的のために働かなければいけないというのが大前提です。それをしなければ、ユーザーはついてきません。ですから、ロナルド・メイス氏たちがやったものを客観的に理解し、日本型にして取り込んで、世界にこれを技術として売っていけるようなものに育てたいというのが、フォーラムの大きな目標です。次の日本を支える産業技術にしたい。そうしないと、会社だけが日本に集まって、工場は全部アジア地区に行って、デザインはヨーロッパに頼むということになってしまいます。そのためにもまず米国におけるユニバーサルデザインとか、ヨーロッパにおけるユニバーサルデザインの発生と発達における歴史的な背景をまず理解し、どのような社会がどうやってこれを生んできたのかというバックグラウンドの理解、そして次にロナルド・メイスを中心にセンター・フォー・ユニバーサル・デザインが整理した7原則をきちんと客観的に理解することが必要です。
そして次は、自らの仕事と環境に適したそれらの原則における事例を探し出して整理をして、自らのユニバーサルデザインの原則を創出していくといったようなことを、どうやって企業に定着してもらうか。途中まで国が導いて、将来的にはNPOでユニバーサルデザインの日本の先端研究を進めるのが私の大きな夢です。センター・フォー・ユニバーサル・デザイン・ジャパンを、みんなでつくっていきたい。一般的なユニバーサルデザインに関する研究調査情報はそこから出せばいい。あとは企業が、中小も大企業も、どういうふうにしたら自分たちのプリンシプルを見つけられるのかということです。そして自らつくった原則をより多くの人が使いやすいように、どのように客観的に検証していくのか。いかに厳しく自己評価するかということが今の日本の産業界に望まれています。いま、企業内調査はユーザーを理解するのではなく、社内稟議を通すためのものになってしまっている。そうではなく、いかに個々の企業が自らのブランディングや背景をもとに自らのUDプリンシプルを見つけだすか。それを自分で見つけだすためにどうすればいいかということで、毎月フォーラムで研究会活動をしています。そこでは技術としてのデザインを徹底的に数値化したり、情報化したりして1つのデザインシステムにしていこうということも大きなテーマになっています。
そして、4つ目は、独自のユーザー調査を推進している点です。ユーザーに向けてデザインの目的や目標を定める為の200人規模のフォーカスグループを使ったデザインのサーベイ(調査)活動などを行ってきました。
これは例えば、生活の中で一人の人を支えている様々なプロフェッショナルのグループを指します。そういったプロフェッショナルなフォーカスグループで、より多くのユーザーに現在又は将来こういうものが必要だということを客観的に調査してもらっています。私どもフォーラムが目指すデザインのテーマと目標は、誰もが自活しながら自由意志で、できるだけ長い時間この社会の中で楽しく暮らしていけるという点にあります。そう考えたときに、いままでの企業のデザインは答えを出しすぎているんです。買う商品の中に既に答えが出されていたら、自分が入っていく隙間がなくて、自己参加性もないわけです。できあがった商品では、ユーザーは黙ってそれを使うしか方法がない。左官の親方がコテを削ったりするように、自分のためにここをちょっと変えたいということも生活の中には多くあります。今の生活用品には、個人が入って変化させられるような対応性は極めて少ない。フォーカスグループではそういうことを客観的に評価しようとしています。
もう一つの私どもが保持している調査グループがモニターグループとそれらを使ったユーザー調査です。600人規模のこのグループを使って、2025年の世代別人口構成を想定したユーザー調査を試みようとしています。2025年になった時の状況をより正確にシュミレーションした方が、商品だって長持ちするデザインになるわけです。そのときの人口構成比、例えば何%が障害で、何%が内部障害であるというようにきちんと分けてやってきました。今デザインにおいて大事なのは正確なデータと数字です。デザインをもっと科学的にしなければいけないと思います。今まではどうも美学的な見地が多かったのですが、デザインは我が国では第3次の機能主義の時代に入ったのだと思います。私は新機能主義の時代と呼んでいます。1900年代前半に、初期の機能主義時代があって、そのときは機能開発一点張りでやってきた。そして第2次大戦後、再び一時、機能主義が台頭していきました、それが第2次の機能主義の時代と考えています。そうした動きに対する反省と反発から、サイコロジカルなインターフェイス、心理性やイメージ性へ傾倒した新しく、美しいデザインを求めていくことになったのだと思います。エルゴノミックスの考え方もデザインや科学が進化する中でパーソナルデザインを目指してきたともいえます。ある意味、パーソナルということを考えていくと、ユニバーサル(すべての人の為のデザイン)と一見矛盾するように見えますが、私はそれは違うと思っています。デザインがユーザーに向けて、完成に対して7割ぐらいのレベルのものが初めて提案されていて、あとの残り、例えば3割はユーザーが自分で色をつけたり、形に変化を与えたり、使い途を変化させるということで良いと思っています。最後にユーザーが答えを出せるデザインが求められる時代になったと思っています。