喜多俊之 対談バックナンバー

 
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北山:

当社はCTスキャナ分野での国内シェアはトップで、性能面でもこれまで非常に高い評価をいただいています。デザインでは、今回のAquilion LBの前に発売している標準機種で、楕円形デザインの架台(CTスキャナ本体)を開発し、オリジナリティの高いデザインとして国内外から評価されるなど、性能、デザインともトータルに高い定評を得ております。

喜多:

医療の現場では特に思いやりが大事です。CTスキャナなどは従来の機械のようなメカニカルな要素だけで構成される製品ではなく、たいへん高度な電子テクノロジーと人間の心理面とのかかわりなども含めた開発が必要な点では、まさに開発者もさまざまな要素に真正面から向き合わなければなりませんね。

北山:

開発の際には外観ばかりが先行してもだめですし、技術だけが先行してもだめだと思います。デザインが先に進むべき方向を示し、それに向かって技術サイドが新しいテクノロジーを開発する。今回の機種のベースになっている標準機種では、その関係がうまく作用したといえます。円形にすることも、そもそもいちばん初めはデザインの描く夢として、私たちデザインセンターの側から、患者さんにやさしく感じられる丸い架台を先行提案したのがはじまりです。それに対して現状のテクノロジーでは実現が難しいもののいずれは実現 させたいという賛同を得ていたので、その流れの上で前のモデルで丸い架台が実現しました。

喜多:

いわば患者の側に立って、患者が主役となる提案をされたのですね。開発サイドと使い手とのバランスが図られたという意味で、それはとても大切なことです。デザインはバランスの問題であって、どこにバランスの必要性を見出し、誰がコンダクターを務めるか、その過程を経ていいものができるわけです。

北山:

私たちはあくまでもメーカーのインハウスデザイナ−なので、企業として売り出す商品をデザインしています。さらに自分でもふだんはあまり使うことのない特殊な製品をデザインするので、長い期間デザインを担当することでさまざまな情報を蓄積していかなければ、製品本来の使われ方や製品そのもののあり方を考えることができません。私も最初に手がけたCTスキャナから、自分なりに抱いていたデザインとして解決したい課題がありましたが、このAquilion LBでは大柄な患者さんにも対応できる大きい開口部や、それこそ今までは削りたくても削れなかった架台数センチを削って真円のデザインを実現するという進化が果たせました。この機種は決して従来機種の後継機ではありませんが、デザインを改革できる機会を捉えて半歩ずつでも進歩させるというステップも今回は評価していただけたのかなと思います。

喜多:

私もこの製品に対しては、デザイナーをはじめ担当者の思い入れがずいぶん反映されているのではないかと思っていました。デザイナーとしてつねにユーザーの立場に立つということはとても大切です。そうした姿勢を製品開発の段階では重視されているようですね。

石本:

いかにして患者さんの視点に立つか、患者さんがリラックスして検査を受けられるか、そのための取り組みも私たちは早くから始めてきました。CTスキャナなどの市場については、病院の経営者にしても医師・技師にしても、装置を購入する際には性能を優位にする傾向があります。そうしたニーズに対してデザイナーとして性能面でどれだけ寄与できるかを考えたとき、ある所までで限度があるのではないか。そこでデザイナーとしてはさらに何ができるのかを洗いなおした時期があるのですが、そのときに一つの切り口として、患者の視点に立つことでデザイナーも何らかの提示ができるのではないかと考えたのです。それで病院での調査を年に何回か実施しました。まず患者さんが装置に対してどのような不満を持っているか、検査に際して何が不安なのかを抽出することから始めました。そうすることにより、スタイリングを中心に追い求めていた時とまったく異なる新しい要素を見つけることができて、それを実際の商品開発に生かしていくことができたのです。

喜多:

今回、デザインとして特に苦労された点はどのようなところですか。

北山:

架台を従来の楕円からさらに真円に近づけることがまず大変でした。また架台開口部(検査の際に、患者が通り抜ける本体中央の開口部分)の径を当社標準機の720mmから900mmに拡大しました。これまでの720mmも標準タイプでは世界最大でしたがそれをさらに広げています。

喜多:

外観では、色彩にも工夫が見られますね。

北山:

今回はツートーンにしました。患者さんに向かう側は明るめにして開放感を高めるように、それに対して外側は装置の大きさも考慮してなるべく空間に溶け込むような色を意識しています。

喜多:

いままでになかったものを生み出す挑戦という意味で、この機種は一つの典型的な事例として注目できると思います。高度なテクノロジーをベースにオリジナリティを追求することで世界オリジナルの製品になっていくこと、さらにグローバルな視点で世界の多くの人のためになるものを開発しているということですから。とてもシンプルでエレガントに見える製品ですが、その中のテクノロジーは相当に高度なのでしょうね。

石本:

そうした部分にはメーカーとしての既存の技術もあり、総合力が生かされているところも大きいですね。デザイナーとしてもそのことに恩恵を感じています。

北山:

たとえば安定した回転のためにリニアモーターの技術を応用しなければ、丸い架台は実現できませんでした。従来の架台の土台の部分にモーターを収めたベルトドライブ駆動では、どうしても高回転時のベルトの歯飛びや振動を誘発しやすいため快適な検査環境も望めません。新しい回転方式では回転部と同軸にモーターがあるため、安定した高速回転と騒音の低減が図られています。

喜多:

そういった高度なテクノロジーに裏付けられ、しかも重要な役割を持った製品では、デザインにも心理的な要素が深くかかわると思います。デザインがテクノロジーと心理的な要素との狭間でどのように解決策が見出せるかが問われますよね。外観や機能に加えて、心理的なことに対する配慮が特に求められたのではないですか。

北山:

少し前までは、CTスキャナに対する医師の関心も、いかによい画像が撮れて正確な検査ができるかといったことに主眼があり、機器の性能の向上が求められることが中心でした。しかし近年では医療環境のあり方に気を配るようになり、これまでにも増して患者の側に立った視点を持ち始めています。私たち開発者の側でも、機器のユーザーである患者さん、つまり検査を受ける立場の視点からデザインを考えていきたいという機運が高まっていたので、自然と患者さんにとって快適なデザインを提案するようになっていきました。
そうは言っても、私たちが実際の医療現場に触れる機会はなかなか得にくかったのですが、なるべくデザイナーとして患者さんから直接声を聞くように、病院に出かけたりアンケート調査などを実施してきました。そのような中で、患者さんにとっては検査の際に医師や技師の方からの気遣いが心強く思われていることがわかりました。それならば、装置の使い勝手がもっと良くなって操作などに煩わされなくなれば、余裕が増えて患者さんへの気遣いもさらに高められるだろう。装置のデザインがやさしいことや使いやすいことは患者さんと医師の双方にメリットがあると考え、日々デザインに取り組んでいます。

喜多:

この機種も見るからにやさしそうな印象ですよね。私自身も以前にMRIの装置を使った検査の経験がありますが、その時には少し恐怖感があったことを覚えています。

北山:

MRIはCTスキャナに比べて検査時の開放感の面で劣る部分もあるのですが、このAquilion LBでの経験なども反映させて改善を進めています。

喜多:

今回は今までの機種からかなり前進が図られたようですが、このCTスキャナをはじめとする分野はこれからどのように発展していくとお考えですか。

北山:

架台開口部の直径がさらに大きくなり、患者さんが閉塞感や圧迫感がなく検査を受けられるようになることは確かです。いっぽうで外形のサイズは大きくせず、開口径をどれだけ大きくできるかに挑まなければなりません。

喜多:

開口径が広がれば患者さんの姿勢なども無理のない対応ができますね。

北山:

実際にお年よりで背骨が曲がってしまった方の検査などでは、これまでは身体を伸ばして撮影することもあったのですが、そうした点も改善されます。さらに、これまでの開口径では位置決めの時、開口部へと患者さんをスライドさせると死角になってしまい、医師から患者さんの様子が見えにくくなることがありましたがそれも改善されます。これは逆に言えば、患者さんからもセッティング中に医師の表情が見えるということで、お互いのコミュニケーションが図りやすくなるメリットがあります。

石本:

私たちは製品開発の際の指標として、装置のあり方は患者さんと医師・技師とをつなぐ掛け橋でなければならない、とつねに念頭に置いています。機器を介して人間同士のコミュニケーションが図られるのがひとつの理想だと考えています。

喜多:

デザインとはそうしたコミュニケーションの要素を含んでいますからね。東芝の製品ジャンルの一つとして、今後のデザインのグローバルな戦略についてはどのようにお考えですか。

石本:

医用機器は東芝の製品のなかでも早い時期からグローバルデザインを推進し、すべての地域に受け入れられるデザイン提案をおこなってきましたが、たとえば人々から見られた時に東芝らしさが表現できていることが重要だと思っています。一口にやさしさを感じさせるデザインと言っても、東芝の製品を見た時にそこに込められているある種の同じ思想を理解してもらえるようなデザインをデザイナーとして心がけたいですね。かといって、ただ見た目が同じ印象であるというだけでは不十分で、今回のAquilion LBのように丸い形であれば、そのことが持っている意味性を使う方に自然に理解していただけることが理想です。

北山:

私たちメーカーとしては、患者さんのことを考えて、モノだけを生産するのではなく検査をおこなう空間そのもののあり方までも提供していかなければならないと考えていて、そのための取り組みも始めています。

石本:

現段階での一例として、患者さんが検査室に入った瞬間の不安を取り除けるような安心感を提供することができるのではないか、CTスキャナ本体と検査室の壁面を同じ図柄でラミネートして、よりよい検査空間を提供できないかと考え、いくつかの試行をおこなっています。子ども病院などでは実際にそれによってこれまで検査をいやがっていた子どもたちが喜んで受診したという話も聞いています。

北山:

私たちはデザイナーとして装置のデザインを改良して磨きをかけていきますが、さらに装置が置かれる空間や病院そのもののあり方とのコーディネートにも携わりたいですね。それによって、デザインと技術のバランス、装置と空間のバランスなどがうまく取れることで価値が高まっていくのではないでしょうか。この機種についていえば、光にあふれた明るい空間に置かれるようなものであってほしい、とも思っています。

喜多:

そのような発展の可能性も含めてたいへん興味ぶかく感じられます。このAquilion LBは、特に最先端、高密度のテクノロジーを用いて高性能な、世界的にもオリジナリティの高い製品開発をおこなったという点で、まさしくこれからのものづくりの方向を先取りしているとも言えます。何よりもその過程で「やさしさ」や「思いやり」という、今後ますますデザインの重要なキーワードになることを、さまざまな実践を通じて反映させながら、企業アイデンティティを導いていこうとする点でも、とても重要な意味を持った事例です。今後も人々のしあわせのために着実な提案をされることを期待しています。今日はどうもありがとうございました。

(2005年11月21日 東京・浜松町のJIDPOで収録)

●石本 尚嗣
株式会社東芝
デザインセンター 社会システム・開発デザイン担当 参事

●北山 雅彦
株式会社東芝
デザインセンター 社会システム・開発デザイン担当 主務

●喜多 俊之
株式会社アイ・ディ・ケイ・デザイン研究所 代表取締役
2005年度グッドデザイン賞 審査委員長

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