喜多俊之 対談バックナンバー

 
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喜多:

今回の製品は使う方の要望に応じて自在に組み替えができる。もともとシステムキッチンはそういう仕組みだったのですが、ヨーロッパやアメリカから来たキッチンのスタイルから進化した日本のオリジナルキッチンとも言えそうですね。

田口:

そうですね。欧米のものを原型とするシステムキッチンの進化の一部をわれわれも担っていたのでしょうが、アクティエスの場合はその基本精神を受け継ぎながらも、全く違う方法論による原型をつくったと考えています。

喜多:

扉のパネルを裏返したり、色を変えたりできますが、そういった発想もユニークですね。

田口:

長く使ってもらうために、ステンレスを使って物理的な耐久性を高めるということはこれまでもやってきました。しかし、それ以上に人に対する耐久性、つまり人間は飽きたり気が変わったりするでしょうから、そういう変化に対応する製品のあり方を考えたときに出てきた提案です。

喜多:

使う立場から言えば、キッチンは清潔感、掃除がしやすいということがけっこう重要です。その面でもゲートシステムによって真ん中に何もないという構造には清潔感が感じられます。配管関係を全部端へ持っていかれましたが、そうした特徴について少しお話しいただけますか。

田口:

フレーム式のキッチンは、いままでにもいくつか出されていますが、配管関係はむき出しでストレートに下へ落ちているものしかなかったのです。業務用のイメージでキッチンを捉えている方はそれでもいいのでしょうが、一般の家庭では未完成品のようなイメージにしかならない。そこで今回はそれを脚の中に収めることで、潔いシンプルなデザインにしたい。そして空いたスペースをカスタマイズに使いたい、さまざまな用途を持ったキューブ(編集部注:小物の収納ユニット)の収容に使いたいと考えました。ですから、特殊な構造にはなりますが、配管を脚に収めるということが一つの条件でした。

喜多:

サンウエーブといえば、ステンレス流し台というイメージがあります。アクティエスも主材料がステンレスですし、そうしたアイデンティティを強く持った上での商品であるという印象があります。そのあたりのことは意識されましたか。

田口:

そのように感じていただけるのであれば、ある部分は成功しているのだと思います。昨年は当社がサンウエーブという称号になって50周年ということもあり、日本で初めてステンレスキッチンを量産化し普及させた立場として、次世代のステンレスキッチンの姿を提示したいという意図がありました。

喜多:

これまでのシステムキッチンとはディテールが少し違っているように思います。たとえば引き出しが前後どちらへも引き出せるというのはユニークですね。

田口:

あれは全くのオリジナル設計です。

喜多:

メカニズムはどうされたのですか。

田口:

デザイナーがアイデアを出して、基本設計は日本で行いました。レールのメーカーはドイツですが、設計者がドイツに渡って現地の技術者と協同してつくりあげました。

喜多:

日本発のオリジナルですね。あとはやはり、配管をうまく脚に収納しています。その納め方にも苦労をされたのではないですか。

田口:

普通に設計するとゲートの下に配管が露出してしまいますが、そこをフリーな空間にするためには、配管をゲートポストという脚の部分に収めなければいけない。そのためにシンクも新規に起こしましたし、配管類も全部新設計です。そこまでしてもこだわらなければいけない。ああいう構造自体が世界初、いままでにはない構造です。

喜多:

強度はどうですか。

田口:

ゲートの真ん中に脚を立てないで、何が何でもコの字型で強度を保つということで、設計者は大変だったと思います。強度計算をしたり、実際に何回も試作品をつくって試験を繰り返して所定の基準をクリアしました。

喜多:

ゲートの中にはフレームが入っていますか。

田口:

ステンレスの角フレームが入れてあります。

喜多:

フレームも含めてステンレスで統一されたことも特徴ですね。間口のサイズも設定が複数ある。

田口:

小さいものは2,100mmくらいから、大きいものは3,000mmくらいまで、最低限必要なバリエーションは揃えています。

喜多:

流しの槽のサイズは一つですか。

田口:

今回はシンクの部分は一つに絞っています。キッチンの両側から使って、同じ使い勝手になるシンメトリーなデザインになっているのが特徴です。

喜多:

両方から使えるから、水栓の位置もちょうど真ん中のあたりにあるのがポイントですね。これもいままでのものと違っています。

田口:

キッチンを挟んでどちらから使っても、ほぼ同じ使い勝手になるような水栓のセッティングにしています。

喜多:

アクティエスのデザインのプロセスにおいては、正式な商品化の段階に至るまでに3年、非常に長期にわたったということですが、そのストーリーを紹介していただけますか。

田口:

社内に初めて提案として出したのは2001年2月です。当社の中期構想の中で、先ほど言ったような開発者のわだかまりのような部分を、こんなかたちで解決したいという次世代のキッチンの姿で見せたんです。しかしそのときは経営層への理解を得るまでには至りませんでした。開発作業のゴーサインがかからず、正式な開発テーマにはならなかったのですが、そうした思いを持っていたスタッフが定常業務を持ちながらも、別のところで地道に作業を続けていました。
そして社外の意見を聞いてみようということになって、ハウスメーカーの開発者やマーケティングの専門家、建築家などに、このようなキッチンのプランをどう思うかというヒアリングをしてまとめました。その結果、皆さんから非常に高い評価をいただいたものですから、社外の専門家はこのように捉えていると社内にもう一回示して、正式な商品化に向けて動くことになりました。

喜多:

自分たちの提案の訴求力の高さを実証してみせた訳ですね。

田口:

そこから始めて、何度か試作をしながらプロジェクトを進めている中でも、基本のコンセプトは維持していったのですが、それが実際にモノとして体現されているのかという部分で葛藤しながら取り組んでいたものですから、最終仕様がフィックスするまでかなり長引きました。

喜多:

デザインについては今うかがってきたような機能的な特徴が多くありますが、アクティエスのシリーズとしてこれからさらに目指したいことはありますか。

田口:

基本となる部分はかなり吟味をして完成度を高めています。ですから今後はよりアダプタブルな部分での展開を広げていきたいと考えています。それは機能性を高めることからライフスタイルを提案することも含めて、いくつかの方向性があると思います。

喜多:

キッチンという場を通じて、親と子や、遊びに来る友達など、いろいろな人たちの関わりが考えられますね。

田口:

そうした発展も考えたいと思います。デザインもいまはモダンなものをベースとして、扉のパネルを取り替えられるという構成ですが、もっと基本的なテイストが違うものがつくれるという試みもできないかなと思っています。

喜多:

たとえばお年寄りの男性はこれまではあまり料理をしなかったけれども、時間があるので料理を始める。奥さんに習ったり、これを機会に料理を楽しむということもいいですよね。また小さな子供向けの料理番組で、子供たちもなかなか上手に料理をしているでしょう。先ほどおっしゃられたように、お母さんと小学生の子供たちが一緒に料理をするというのは微笑ましいですよね。アクティエスを見ているとそういうシーンが実現できそうな感じがしますね。

田口:

そういう可能性があるものを次にやってみたいですね。背の低い子供のための台になるようなものがゲートの下にセッティングできる。そんな仕組みがあれば、キッチンの空間はより楽しいものになっていくと思います。もちろん子供用という一時期しか使用しないものならば、後で交換できることが重要になります。

喜多:

これでさらに照明計画などにまで踏み込んで手がけられると、料理をつくるといったシーンを中心として、暮らしの新しい一場面がこのキッチンから生まれてきそうです。それが何よりもいいですね。
ここで織田さんにおうかがいしたいのですが、システムキッチンが日本に普及し始めてからどのくらいになりますか。

織田:

当社が昭和58年(1983年)にサンヴァリエを出しましたから、20年以上になります。

喜多:

この20年で、家庭の主婦の台所に対する意識が大きく変わりましたよね。

織田:

システムキッチンはもはや常識です。新築ではシステムキッチンを採用していただいている率は90%を超えているのではないでしょうか。ビルには別の需要がありますが、家庭用のキッチンはほとんどシステムキッチンです。

喜多:

家庭の主婦は、使いやすさ、利便性だけでなく、最近ではインテリア全体に対する関心が高いですね。

織田:

ここ何年かはキッチンの機能を充実させてきましたが、アクティエスは扉のパネルを変えられるといったインテリア性を充実させました。扉を変えたいというお客様はここ10年でものすごく増えています。「基材は何も悪くなっていないから扉だけ変えて下さい。」というお客様がけっこういらっしゃったのですが、このアクティエスの方式によって、廉価で好みの色を簡単に選べるという仕組みができました。

喜多:

その意味ではデザインの新しい提案でものの価値を変えていくという典型ですね。単に限られた空間の限られた機能の中だけでの発想だけでない、一人で使うのではなく何人かで使える、扉が変えられるなど、新しい価値観がこの商品に込められている。
システムキッチンという商品分野として、これからどういったことを手がけたいですか。

田口:

システムキッチンは完全な成熟商品だとは考えていませんので、これからやらなければいけないことはいろいろあります。始めにおっしゃられたように、価値観の変化ということが大きくあります。キッチンのレイアウト自体が、LDK、すなわちリビング、ダイニング、キッチンという連続的な機能別空間の中でのキッチンという限られた部分から、だんだんとリビング寄り、家庭の中心寄りに進出しながら3つの空間を一体化させつつあります。キッチンの位置づけとしても、主婦の家事労働のための道具から、楽しみを感じてもらえる場にしていきたいという思いがありますね。そのためには機能的な便益の訴求一辺倒から、よりエモーショナルな価値の提案が重要になってくると思います。

喜多:

料理が大変だというよりは、料理を楽しむというムードはずいぶん高まってきています。家族が一緒に料理をつくって、友達を呼ぶ。人と人がコミュニケーションする場としても、こういったキッチンのスタイルは日本に新しいライフスタイルをもたらしていくかも知れません。

織田:

大切なのは料理をつくって楽しいということと、後片付けが簡単ということです。食事の後の時間がものすごく節約できます。楽しい時間は長いほうがいいですよね。つくるときはけっこう楽しく、食事するときも楽しく、しかし後片付けは簡単ですよ、と。

喜多:

それは最高にいい仕立て方ですね。

織田:

そういうことがこのキッチンでは可能かなと思います。

喜多:

暮らしの中で、これは辛い、あれは大変というより、みんながどのプロセスも楽しめるということは、本来は生活をする上での基本なのかも知れません。台所仕事は大変だという意識が長い間ありました。しかし元を辿れば、意外にシンプルで、みんなで分担して楽しくやっていたのではないでしょうか。それが暮らしそのものであったように思います。
1950年代の後半から60年代にかけて、ドイツとイタリアでシステムキッチンが普及し始めた1960年代の後半、ちょうどキッチンが普及している真っ只中に私は現地に居合わせたのですが、そこで大変おもしろい現象がありました。政府が住環境の整備を奨励した。そのためにどんどん大きなアパートができてきて、そこに住む人たちはまずキッチンとリビングと寝室の三つのインテリアを整えていったのですが、その中でもキッチンには大きな需要がありました。そのブームで当時はシステムキッチンの会社が数百社できたほどです。いまは減って250社くらいでしょうか、一時は800社くらいになったことがあって、それでも追いつかないくらいキッチンの需要があった時代です。
そういう特異なことが起きたのは、狭い住環境を広くしたからです。大きな家に移ったから、お披露目などのパーティで家に人を呼んだんですね。家に人が来るようになって、家がサロンになっていったときに、キッチンはなくてはならないものになりました。家が社交の場所になった。そういう事情であっという間に一般に普及した時代だったのです。日本もアクティエスのような考え方と使い勝手を持った製品が出てくることで、人と人とのコミュニケーションが促され、外の人たちが家にやってくるようになれば嬉しいことです。日本では長い間コミュニケーション不足といいますか、家が扉を閉めてしまって家族だけになりました。でも家というのはもともとそうではなく、昔は外の人がもっと家にやってきていたのです。

田口:

最近はオープンな対面式のペニンシュラ型やアイランド型の需要が徐々に増えていますので、そうした暮らし方のベースができてきているのだと思います。ブレーク前夜くらいにきているのかも知れませんね。

喜多:

遊びに来てもらったり、遊びに行ったりというのは、暮らしの基本だと思うんです。こういった新しいデザインが一つのきっかけで暮らしぶりが変わっていくことは大いにありうるのです。

田口:

私どもも商品に対して生活シーンを一緒に提案していくようなかたちで、具体的にこれを使っていただくとこうなるんですという部分をもっと示していかなければいけないでしょうね。

喜多:

これは生活していくために基本的な製品ですから、機能や便利さだけでなく、いわば暮らしそのものです。そこでこうした思い切った製品が出せたことはすばらしいと思いますが、それだけに営業面でも従来の営業の仕方とは変わってきそうです。

織田:

アクティエスはつくり手の側から見ても可能性を秘めていておもしろいと思います。また、もっとおもしろい商品にしていかなければいけないんです。システムキッチン、ユニットバス、便器、給湯器はこの30年で長足の進歩を遂げました。そうした中で、キッチンが新たにいろいろな機能を持ち始めて、家庭環境の中に取り入れようとしている。私たちがアクティエスで発信しようとしているのもそういった新しい機能なのだと思います。

喜多:

50周年記念商品として相応しいですね。ところで、サンウエーブでは製品デザインは経営全体の中でどういう位置づけをされているのでしょうか。

織田:

開発サイドが様々な要素を考えながら商品を開発して、営業サイドが実際の商品を持たせてもらう。そのときに、いまは機能だけでなくデザインもよくなければ、お客様に納得していただけない。だから開発担当者にはお客様が見たらすぐに飛びつきたくなるような商品、機能がよく、デザインがすばらしいものをつくってほしいと考えています。デザインはお客様にまず訴える。「これ、欲しいな」と興味を持っていただける。アクティエスは奇抜なものではないですが、いままでにないもの、オリジナリティの高いものを出せました。ハウスメーカーさんや流通関係の展示会がありますので、アクティエスをそこに出すと、誰が見てもすばらしいと言って下さいます。あとは価格のことがあります。一目見て力のある商品であることは間違いない。それをいかにして売り切るかということが重要です。

喜多:

コストも含めてバランスよくデザインの効果を活かしていくということですね。こうした大型の製品でオリジナル性の高いものですから、少し時間がかかることも考えられますが、新しい価値観が込められていますから、いまある商品のコストに合わせる必要はないかも知れません。手をかけた分だけ価格も高くなるということを主張するのは大切なことですから。
先ほど田口さんがアクティエスを長続きする製品にしたいとおっしゃっていたでしょう。これは大事なことですね。特にこういったものはたびたび買い替えるものではないですからね。

織田:

いまは商品のサイクルがものすごく短いのですが、その代わりいいものは長く使っていただけるはずです。

喜多:

私たちも商品のサイクルを長くすることを本格的に考えないといけないのではないでしょうか。商品のサイクルを短くすることは、私は消費者は必ずしも望んではいないと思います。いろいろな日本の製品が目にも留まらない速さで次々とモデルチェンジすること自体、これからの主流ではないように思いますが、その点はどうお考えですか。

織田:

地球環境を考えたら、もっと長く使えることを考えないといけませんね。アクティエスはステンレス製ですから、リサイクル、リユースができるので、材質的に非常に適切な商品です。地球環境と併せて考えて、会社としてアクティエスを長く使っていただける商品にしないといけない。そうすると、デザインでは今回グッドデザイン賞の金賞をいただきましたが、これで3年経っても高い評価をもらえるように、さらに進化させていかなければいけないでしょう。

田口:

基本の部分は長い期間流通するようにして、キューブなどの後から付けられる部分に関しては、いろいろなバリエーションを整えていきたいと考えています。

喜多:

ぜひしっかりと育てていっていただきたいですね。いままでになかったオリジナル性の高いシステムキッチンが出現したことで、日本の台所、キッチンがずいぶん変わるのではないかと期待しています。日本の主婦は器用です。そして、世界中の料理の味を知っているので、和食、中華、西洋料理を全部つくれる。道具や食器の種類も多い。それだけにシステムキッチンが西洋から伝来したままでは、なかなか日本の実情に対応しきれなかったけれども、この製品で次の光が見えてきたように感じています。いま世界中の料理が日本の影響を受けているように、こうしたシステムキッチンがさらに進化していけば、将来きっと世界中が影響を受けてくると思います。
今日は長い時間ありがとうございました。

(2005年1月11日 サンウエーブ工業新宿ショールームにて収録)

●織田昌之助
サンウエーブ工業株式会社
取締役専務

●田口 哲
サンウエーブ工業株式会社
開発室 開発企画部 部長

●喜多俊之
株式会社アイ・ディ・ケイ・デザイン研究所 代表取締役
2004年度グッドデザイン賞審査委員長

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