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| 矢木: |
私はこれまで約10年にわたりポータブルオーディオを手がけてきましたが、これまでは記録用のメディアというのがカセットテープであったり、CD、MDであったため、それらのプレーヤーは大きく言えばメディアを収容する「入れ物」としての機構であったわけです。入れ物をどう使いやすくするかがポイントだったのです。それを軽薄短小化していくにも、シルエットは結局はメディアのフォルムに束縛されるわけですが、この点で今回は私にとって初めてのシリコンオーディオということもあって、まずどのようにそれを作るのかを考えました。
そのときに、メディアのシルエットに束縛されることもないのだから、本体を構成するのに重要な要素は人間と直接関わりを持つインターフェイス、つまりディスプレイやボタンといった要素がもっとも重要であるだろうと考えました。本体を小型化する中で、これらの要素を一番大きくしていくのに、ただ理詰めでやるとそれだけの話になってしまいます。そこで、これだけプレーヤーが小型化してくると、身に付けるというアクセサリー的な要素が出てくるのだから、身に付けても違和感がないといった点もすりあわせて、シンプルさを考慮して外観を決めました。
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| 喜多: |
重さも首からぶら下げても気にならないですね。素材は半分がプラスチックで半分がアルミ? |
| 矢木: |
アルミと、スイッチ部はバックキャビネットがプラスチックで表面はシリコンゴムになっています。 |
| 喜多: |
3つの素材とメタリックな色の組み合わせがユニークですよね。色もとても大人びています。この点にも何か意図があったのですか。 |
| 矢木: |
この商品は四色展開にしていますが、金属のような見え方を狙っています。パッと見にはアルマイト調で硬く思えるのに、触ってみるとラバーで柔らかいという意外性、触感のおもしろさを狙いました。それでシリコンゴムの上に塗装をしたのですが、これがなかなかむずかしく、私も初めての試みで色出しなどにひじょうに苦労をしました。またメインのイメージカラーを白にしています。今回は半導体オーディオプレーヤーらしいものを作りたいと思い、半導体オーディオはシリコンオーディオとも言われますが、シリコンの原材料が硅素と呼ばれる白い砂粒なんですね。それで白がシリコンオーディオらしいかな、と。中の半導体がシリコン、指に触れる部分もシリコンゴムという、内と外の「シリコンつながり」が個人的にはとても気に入っています。 |
| 喜多: |
矢木さんは日頃からいろいろな素材に興味を持たれてこれまでの製品でも使っていらっしゃったのですね。ところでデジタルオーディオプレーヤーのサイズはいまのこれくらいで最小ですか?
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| 矢木: |
理想としては厚みはもう少し薄くてもいいと思います。ただし表面積は文字のサイズもあるのであまり減らせないですね。 |
| 喜多: |
この製品は先日の大賞決定のプレゼンテーションでもユニークな見せ方をされていました。積み上げたイメージというのも面白い発想だと思いましたよ。
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| 矢木: |
スケッチを描いている段階から、合わせてプロモーションの方法を営業部門にプレゼンテーションして、そうした見せ方をしていきたい商品であることを踏まえたデザインなんだと訴えていました。これはグラフィックのひとつの素材でもあるんです。 |
| 喜多: |
このプレーヤーはこれまでと比べても思い切ったコンセプトの製品かと思いますが、今日はパナソニックデザインの全体の総合プロデュースをされている水間さんにもおいでいただいたのでお聞きしたいのですが、パナソニックのデザインのプロジェクトの中で位置付けはどのようなものですか。 |
| 水間: |
パナソニックブランドとしてのデザインアイデンティティをきっちりと固めていこうということで、二年半前からキーワードなどを設けてそれを念頭に入れるという活動を進めていますから、こういった新製品のデザインにおいてもそうした方向性がしっかりと反映されていると思います。またデザインの検討時にも基準に沿っているか議論を重ねています。
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| 喜多: |
この製品はアジアを中心とする海外向けですね。メインマーケットではどのクラスに位置されているのですか。 |
| 矢木: |
アジア市場ではハイエンドに近く、中級から上級のマーケットが対象になります。 |
| 喜多: |
アジアでのデジタルオーディオプレーヤーの市場の現状はどのようになっていますか。 |
| 矢木: |
記録メディアである半導体の値下りに伴い価格の下落がどんどん激しくなっています。コスト面で考えるとアジアのメーカーが優位なことは確かなので、その分デザインで魅力を高めるようにしています。 |
| 喜多: |
パナソニックとしては、日本製品として新しい価値で価格を保持するということですね。それにしても今後もアジアのメーカーはそうやって安いものをどんどん出し続けるのでしょうか? |
| 矢木: |
ここ数年の変化を見ていると、価格も安いのですがデザインのレベルも上昇しているように感じますね。 |
| 喜多: |
私も先日の中国での第一回のインダストリアルデザイン・エキスポでは規模の大きさに驚かされました。中国などが驚くべき勢いで進出しはじめる中で、こうした日本オリジナルを出していくのはたいへん心強いことですが、同時に企画やデザインを進めていくうえでは難しいことも多いかと思います。
パナソニックデザインのひとつの方向性として、これは日本のメーカーが意識しなければならないことですが、ハイクオリティやハイセンス、もちろんハイテクノロジーであることも大事だと思います。そういった面での将来性は矢木さんとしてはどういう風に思われますか。 |
| 矢木: |
テクノロジーに関してはやはり軽薄短小は依然日本のお家芸として強みがあると考えています。あとはセンスについて、日本人はつくり手もお客さんも「小さいもの」をとても好みます。最近でいう食玩やフィギュアがそうですが、単に合理的に携帯しやすいから小さいほうがいいということではなく、感性面で小さいものを尊ぶ、そうしたものを美しいと捉えるセンスが非常に強い。だからこういったポータブルオーディオなどのジャンルは、日本人のそうしたセンス、アイデンティティが活かしやすいのではないかと思います。 |
| 喜多: |
そのことはよく分かる気がしますね。そういった方向性というのが、先ほど言われたこれからのパナソニックのデザインに反映されるとお考えですか。 |
| 水間: |
間違い無くこうしたものが、今後のパナソニックデザインを象徴する一つであると言えます。先日、当社の(植松豊行)社長がドイツのiF賞の審査を行ってきたのですが、海外から指摘されるのは日本にはハイテクがあって羨ましい、と。自分がデザインをする上でベースになるハイテクがあっていいなと異口同音に言われたようです。ただし、ではそのハイテクノロジーをどうデザインしていくのかという所には知恵が必要だと思うんです。ただ羨ましがられているだけでなく、それに相応しいデザインを与えていかなければならないのではないでしょうか。 |
| 喜多: |
それは私たちが持っている暮らしぶりなどにも反映されるのかもしれませんね。 |
| 水間: |
そうですね。特にこういった非常に軽薄短小なもの、私たちは「超軽薄短小」と表現していますが、こういったものでは絶対に妥協せずとことんやろうと思っています。 |
| 喜多: |
世界中には価格が第一という人だけでなく、金額は多少高くても「いいものが欲しい」という人はかなりいるのではないでしょうか。お金は高くてもあれが欲しい!という人ですね。 |
| 水間: |
そうした声には応えていかないといけないですし、さらに軽薄短小化が進むとどうしても制約が出てきます。たとえばボタンを付けるにも限界があるなど、従来のやり方でデザインをしようとすると無理が出てくるんですね。大きい文字、大きいボタンのユニバーサルデザインという考え方も一方でありますが、やはりこうした小さいものの良さも追求したい。そうすると、そこには知恵が出てくるのだと思います。 |
| 喜多: |
日常の暮らしぶり、比較的常識的な暮らし方については、日本人もアメリカ人もイタリア人も基本的には違わないと思います。しかし私たちの日常の暮らしのレベルを見たとき、たとえばヨーロッパなどでは羨ましくなるような暮らしぶりが一般的ですが、そうした人たちと我々が競争していけるのかな、と心配に思うこともあります。日本のこうした製品がそれをどう反映させていくのかにいつも興味を持っているんです。矢木さんもデザインをしていく上で、そうした日本人特有の暮らしぶりといったことなどにも行き当たるのではないですか。 |
| 矢木: |
限られたスペースの中で暮らしに楽しさや癒しを求める工夫が日本人としての特徴ではないかと考えています。無駄を排除することでスペースを確保してリラックスできる空間を生むような‥‥。 |
| 喜多: |
ヨーロッパと日本で学生を教える機会があるのですが、彼らの様子を見ていてわかるのは日本の学生が意外と優秀なんですね。なぜかというと、ものすごい量の情報に囲まれているのです。数多くのモノを見たり手で触れたりできる。たとえば新幹線なども我々には当たり前ですが、外国人が乗ればクオリティの高さにびっくりするようなものです。また商業建築なども世界の一流といえるし、海外の人が驚くようなショップなども見ることができる。さらに自然も四季があっていろいろな状況を体験できる。そういう中でモノ作りをしているのはとても面白い、素敵なことだと思うんです。私たちが自分たちの知らないうちにそういった状況にあることを反映した新しいモノを作り出す。気が付いたらすごく面白いモノが出ていた、といったことになるかもしれません。
しかしその一方では、世界の人びとの暮らしぶりやマーケティングの状況などのズレや複雑な要素がある。デザイナーはいろいろ大変だと思いますが、矢木さんはどう思われますか。
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| 矢木: |
世の中にはいろいろな問題や、逆にポジティブなこともありますが、そうしたかたちの定まらないさまざまな要素を抽出して、その時代特有のエッセンスに結晶化させていくのがデザイナーなのではないでしょうか。 |
| 喜多: |
日本企業のデザイナーについては、また企業内デザイン組織の中で水間さんのようなプロデューサーという立場はこれまであまりなかったのではないかと思います。 |
| 水間: |
これだけ広いパナソニックブランドを統轄して見るという立場はいままではありませんでした。私も正直にいえば今も戸惑う部分が多々ありますが、たとえば今回の矢木君のようにひとつの分野を突き詰めてきているデザイナーは、それなりのものの見方や商品のありようを真剣に考えてきています。だからデザイン検討をしていてもこちらが教えられる部分がいっぱいあります。そうしたデザイナーがグループ内に大勢いて、私は全体としての大きな方向性を示す。デザイナーはいわば皆バラバラです。それでいいと思うんです。デザイナーをコントロールすることなどできませんし、してもいけない。大きな方向性をみんなで考えて打ち出すのが私の役目だと思っていますが、今はそれに鋭く反応してこうしたものを生み出してくれるデザイナーが出て来てくれています。 |
| 喜多: |
私事ですが、これまで海外の企業とも長く仕事をしてきて、日本にはプロデューサーがいないことが決定的な違いだと思っていました。だから製品がどこへ行くのかが見えない。ヨーロッパの企業で言うと個人経営が多いですから、だいたいがオーナーかその奥さん、息子さんなどが名プロデューサー役を務めている場合が多いので話が早い。日本はそうした人がいなかったのでデザイナーに一任で終わってしまい、一体どうなるのかなといったことをずっと思っていました。しかしいま水間さんが言われたようなことで、今回のプレーヤーのような一つの新しい製品が世界に向けた日本の顔として徐々に形成されていくようになっていくのかもしれませんね。
パナソニックデザイン社としての新しい試みについても、着実に進んでいるのだろうと思いますが成果や今後の見通しはいかがでしょうか。 |
| 水間: |
それまで細かく分かれていた事業部を14のドメインに再配合し、そこでそれぞれにデザインがつくのではバラバラのデザインになってしまう。それで事業部の構造を大きく変える前にデザインをひとつにまとめたのですが、我々に対する「一目見てパナソニックと分かるデザインを作ってほしい」というミッションに対して、この二年間いろいろな施策をしてきています。しかし施策だけでは評価されないため、どんどん結果を出すようにしています。その取り組みの中からたとえばVIERAやD-Snapといった結果を出しているので、我々のめざす方向には着実に進んでいるかなと考えています。
しかし、私たちはたとえば自動車メーカーと違い、手がけているのが小さいものから大きいものまでいろいろなスケールに及んでいます。そうした種々雑多なものを、一目で分かるようなかたちにするのには相当な労力が必要ですね。
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| 喜多: |
日本の企業が今後存続していくためには一つのブランドイメージは重要ですからね。オリジナリティとブランドイメージをどう高めるかがすでに要になってきています。 |
| 水間: |
独自性、オリジナリティは絶対に重要ですね。 |
| 喜多: |
だんだん世界共通になりつつある技術に対して、センスの部分がますます脚光を浴びてくるでしょう。そうした中でパナソニックが大きく組織を見直して、いままたこうした製品が出て来ているということに、私としても先が楽しみであるように思います。
日本では国家がデザインをプロジェクトとして支援しているわけではないので、企業が取り組むしかない。私はデザインというのは企業の中から生えて出てくるものだと思っています。日本でも企業がもっとデザインを重要に考えて、本格的にデザインの総合性に取り組まなければいけないと思います。それは水間さんが言われた企業としてのアイデンティティを確立するためにも大事なことです。 |
| 水間: |
私たちもセンス、特にハイセンスという部分をどう捉えてどのように発展させて行くべきかをもっと真剣に考えなければいけない、と思っています。 |
| 喜多: |
この30年ほど、ライフワークとして日本の伝統工芸品と関わってきたのですが、いまはその中にヒントがあるのではないかと考えているんですよ。日本人にとって人よりもいいもの、センスのよいクオリティの高いものは昔からいつでも憧れでした。私もさまざまな伝統工芸品やその職人と接する中で、かたちを日本から発信するというよりは、ものづくりに流れるこころ、マインドが素晴らしいと思うようになりました。すべてのものがその時代その時代の知恵の塊であることがわかります。こころに響いてくる部分こそが日本のものづくりの次のキーワードではないかと教わった気がしています。 |
| 水間: |
以前、20世紀から21世紀にかけていったい何が変わるのか、アイデンティティをどうしていくのか、日本の良さは何なのかなどと議論をしたことがありました。20世紀には欠乏を埋めるように、泣く子をあやすためにアメを与えるように、ありとあらゆるものを出して、いわばどんどんあやし続けてきたと思うんです。これからはそうではなくて、何かを整理していくことが大きいのではないでしょうか。 |
| 喜多: |
私たちのものづくりのアイデンティティは、四季、自然そのものから精神を磨かれていると考えられます。恵まれた自然の中にいて、世界の情報を受け止めて、世界に向けて投げ返していこうとするのですからね。だから私たちの役割は地球規模でたいへん重要な所にある。そうした中で、私たちがセンスを磨く、自分たちの美学を探していくことはものすごく大切なことですよね。
今日はどうもありがとうございました。 |
(2004年11月24日 大阪・IDKデザイン研究所にて収録) |
●矢木良一
松下電器産業(株) パナソニックデザイン社
AVCネットワークデザイングループ パーソナルネットワークチーム
主任意匠技師
●水間健介
松下電器産業(株) パナソニックデザイン社
AVCネットワークデザイングループ グループマネージャー
●喜多俊之
(株)アイ・ディ・ケイ・デザイン研究所 代表取締役
2004年度グッドデザイン賞審査委員長 |
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