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| 紺野: |
よろしくお願いします。ナレッジ(知識)デザインという言葉は語呂合わせですが、デザインの知というのは人間にとって普遍的な創造の方法論です。僕は建築がバックグラウンドなので、建築の中に埋もれている創造の知がいろいろなジャンルに活かせるのではないかと考えて、知という切り口でデザインを見ていくことを心がけてきました。それをビジネスの世界に生かしていく。そこで知識デザインという言葉が出てきます。
工業社会の時代には、デザインはインダストリアルデザインというかたちで現れてきました。この工業社会は終わってはいませんが、その上に次の新しいレイヤーとしての知識社会が訪れた。知識社会という概念は60年代から使われてきましたが、インターネットが広がった90年代後半以降、よりリアルなものとして浮き上がってきた。そこからも知識デザインという視点が生まれてきます。
いまアメリカのように非常にプラグマティックな国が、知識というかなり抽象的なものを大事だと言っているわけです。それは知識が経営や産業にとって相当有効だと現実的に認識しているということです。プラグマティズムは、簡単にいえば真実とは何かと言ったときに、役に立つものこそ真実であるという実利的哲学です。アメリカ型経営はそれによって成り立っているわけです。その中に、当初ITを使ったナレッジマネジメントというかたちではあるけれども、知識が入ってきた。同時期に、日本からも暗黙知という観点から知識をとらえて、知識経営が世界に発信されていきました。
知識デザインというのはいくつかの面を持っています。まずデザインという面から見れば、工業社会の工業デザインに対して、知識社会の知識デザインであり、デザインのあり方、やり方が変質する。企業や産業の側から見ると、工業はモノをつくって価値を生み出しますが、それに対して、どう知をつくるかが主たるアクティビティになっている。そこで価値をつくる新たなプロセスやシステムとしてのデザインが求められる。たとえば商品形態だけでなく、アーキテクチャやモデュールなどのデザイン言語が産業の知として重要になっているのです。そうした経緯から、「新領域」デザイン部門をとらえてみることには意味があると思います。 |
| 森山: |
Gマークにおける新領域デザインというと、どんなイメージが浮かびましたか。 |
| 紺野: |
僕が理解している限りでは、Gマークは具体的なモノや環境、オブジェ、つまりモノを対象としてきましたが、最近ではモノそのものよりも、背後にある考え方やモデルが大事になってきている。その意味では、たとえば独自のノウハウやビジネスモデルがどうあって、それが表面的なデザインにどう現れてくるのかという視点で見ていくと、単純に美しい、よくできている、機能的にすばらしいという以上に、プラスの価値が見えてくるのかな、ということが一つあります。
新領域デザイン部門はそういった新しい時代のデザインのために創られたと思いますが、僕自身の関心からいえばイノベーションに着目したい。工業社会の商品は、自動車なら自動車というジャンルが決まっていて、その枠組みの中でデザインを新しくしてきた。しかし、いまは、携帯電話にはカメラやテレビ、ミュージックプレーヤーなどいろいろなジャンルの機能が混在していますし、自動車などもハイブリッド化している。僕らはハイブリッドイノベーションと呼びますが、特定の領域だけにとらわれず、いろいろなものがいろいろな形を生み出す時代に入ってきた。イノベーションが企業活動にとってクリティカルになってきた。そこではずっと車だけをつくっていく、特定の商品だけをつくっていくという発想では競争できなくなってきたんです。
そこでデザインのあり方も変わってきました。新領域のデザインというのはまさにイノベーションを起こすためのデザインで、イノベーションとほぼ同義に考えていいととらえてよいのではないでしょうか。ただしイノベーションといっても、従来からあるテクノロジーのイノベーションや画期的な革新と改善の組み合わせではなく、事業や商品のあり方、ユースウェアなども含めて、マーケットや顧客、社会や文化の側から見たイノベーションの時代であり、オープンなイノベーションの時代です。それにデザインが大きく貢献するようになったのだと思います。パッと見ると形はこれまでと変わらないけれども、背後にある考え方が大いに違うというものが新領域デザインのジャンルに入ってくると思います。 |
| 森山: |
紺野さんがシステムデザインと言われたときに、テーマ性はもちろんですが、アーキテクチャやプラットフォーム、プロトタイプにかかわるものとして見ることが可能なものを期待するということですか。
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| 紺野: |
もちろんシステムもあると思いますが、たとえばハイブリッド商品はカテゴリーの狭間にあたりますから、カメラなのか携帯電話なのかわからない。システムの上に新しい何かをつくる。たとえば最近はエクスペリエンスデザインという言葉も出てきていますが、経験を創出するというのもイノベーションの一つのあり方、知識イノベーションだと思います。
過去の知識をうまく使う手法もあります。市場や顧客が持っている知識や知識資産をテコにして、新しい商品をつくるというイノベーションがあります。たとえばみんなが知っているけれども衰退してしまったブランドの商標権を手に入れて、いまにあったデザインをする。かつてのLVMHとディオールの関係がそうですね。日本ではコシナがフォクトレンダーというドイツの名門カメラのブランド使用権を活用したのもそうです。人々が持っている知識をベースにして、それに新しい技術を加える。ゼロベースで立ち上げるよりも、効果的にマーケットに入ることができる。こういうことも知識イノベーションです。
そのときにはデザインが非常に重要な役割を果たします。人々の記憶にある形態、あるいは形態素(意味を有する最小の言語単位。意味の最小のまとまりに相当する語形 *三省堂「大辞林 第二版」より)をうまく使いながら、現代的に変換することで、人々の持っている知識資産を活用して価値にする。こういう手法が、テクノロジーを使ったイノベーションとは違うやり方として出てきました。
良いイノベーションの条件というのは、ストーリーを少し語っただけで、お客さんがすぐ欲しがることです。形を見なくても、その考え方自体でお客さんが価値を感じてしまう。もちろんお客さんがフタを開けたときには、形になっていないといけませんから、視覚的によいデザインは必要です。 |
| 森山: |
その前に期待値が下取りされている。 |
| 紺野: |
そういうものがいいイノベーションです。これはテクノロジーだけではありませんね。テクノロジーのスペックを聞いても、お客さんは何のことだかわからない。お客さんにとってどういう意味があるのか、あるいは知識をどうやってつくり出すかが非常に大事で、それをデザインを通じて達成する。逆にいうと、それはデザインを通じてしかできない。スペックだけ並べてもできない。再構成、新しいものをつくるために、ある種の綜合(シンセシス)が必要になる。そういうかたちでいまの時代に使うのが知識デザインの一つの意義です。知識ベースのイノベーション、あるいはエクスペリエンスデザインは、モノだけではないこれからのデザインのフロントラインになるのかと思います。
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| 森山: |
知識というと、誰もが言うようになった暗黙知という言葉があります。Gマークはかつてはカメラや家電など、いわゆるIDが主体でしたが、逆に伝統工芸に近い地場産業にも対象が広がってきました。秋田の曲げわっぱや有田の技術を使ったもの、そういう事例に携わったり考えたりする機会はありますか。 |
| 紺野: |
伝統工芸、地場産業と直接の接触はありませんが、先ほどのマーケットが持っている知識と同じように、地場産業が持っている知識、地域が持っている知識、日本のクラフトに関して世界が持っている知識、それをどうやって結びつけるかが大事だと思います。 |
| 森山: |
蓄積の年月がものすごくあるから、それを上手く活かせればいい。 |
| 紺野: |
そうですね。逆にいうと、地場産業、伝統産業だから、お土産物みたいな目先だけの工夫に陥ってしまうと、マーケットもついてこない。背後にある知識をうまく掘り返していきながら、潜在的なものを構造化していくところに、うまくデザインを使うことが必要だと思います。表層的なデザインをするだけではなく、モデルも考えないといけない。
そのためにはデザイナーだけでなく、異種の才能を持った人たちが組んでデザインワークをすることがポイントになると思います。人類学者も必要でしょうし、歴史学者やアートヒストリアンといった人たちが入ってデザインワークをやる。それを束ねて形にしてあげるのがデザイナーかもしれない。あるいは優秀なデザイナーはそういうものを持っているかもしれないですね。 |
| 森山: |
紺野さんはコンサルタントもやっていらっしゃるから、仕事としてデザインマネジメントを依頼されますね。どのようなところが紺野さんに関わっているかが、いま言われたようなことを理解して期待する構図と重なっているはずですが、地場産業や伝統産業があまり紺野さんと関わっていないところに私は危機感も感じています。
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| 紺野: |
仕事としては大企業を中心にナレッジデザインを手がけています。ナレッジマネジメントや知識経営と並行して、デザインマネジメントを一つの軸にしていますが、ただしこれについて多少誤解があるかもしれないのでコメントしておきます。
いま企業にとって必要なのはイノベーションです。もちろんデザイナーだけに頼んでも出てこない。企業の中にある人や才能を使って、知識を生み出す方法はいったい何か。それが僕の関心事で、『知識創造の方法論』(東洋経済新報社)もそういう主旨です。すでにあるものをどう価値に変換するかという「搾取」の経営から、価値とイノベーションをどう生み出すかという「創造」の経営に動いていかないといけない。そうしなければ、イノベーションの時代に適応できない。デザインマネジメントも、80年代、90年代とは少し違う方向に方向づけることが必要になってくると思います。80年代のデザインマネジメントは、どちらかというといまのビジネススクール的な感覚です。つまり、ビジネスをやる人たちが、デザインというリソースをうまく使ってどう価値を生むかということで、80年代末から90年代の初頭に言われ出した。どちらかというと自分でデザインはしない人たちがマネジャーになったり、あるいはデザイン以外の分野の人がデザインを使うのをデザインマネジメントと言っていた時代がありました。
本(『創造経営の戦略』ちくま新書)にも書きましたが、最近クリエイティブ・クラスターという言葉が出てきました。ドット・バブルがはじけて、アメリカはこれからどうしたらいいのかとなったときに、ニューエコノミーではなく、自分たちがイノベーションを起こさないといけないということに気づき始めた。そこで政策的に創造的な仕事をする人たちにフォーカスしよう。イノベーションができる人材を国内に確保しておかないと競争力がなくなるという認識が世界的にも生まれてきたと思います。
これまでクリエイティブな人、何かをつくる人、デザインする人はどちらかというと企業の外縁にいましたが、中心で創造を考える時代です。そうした構造の中でどうやってイノベーションを起こすのか。MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)という言葉がありますが、テクノロジーの側の人がマーケットを見るというだけではなく、マーケットの側から創造できる人たちが中に入って、デザインの方法論をうまく生かしてイノベーションを起こすのが、これからのスタイルになると思います。 |
| 森山: |
米国ではハーバードのMBAコースの合格率は10%なのに対して、UCLAの芸術学部修士課程のそれは3%と報道されていることなども、そういった傾向の表れなのでしょう。紺野さんご自身は建築がバックグラウンドということですが、卒業してすぐ博報堂に入り、国際マーケティングを担当していたという経歴ですね。それからご自分の会社であるコラムを設立するまでは何を考えてどういう仕事をしていらしたのですか。 |
| 紺野: |
博報堂ではずっとマーケティング部にいましたので、商品開発や商業施設開発などのコンセプトづくりをやっていました。もちろんコンセプトデザインにもいろいろなレベルがあって、ゼロベースでコミュニケーション・コンセプトに近いところを考える場合もありました。企業と一緒に新商品を考えて、市場調査から市場導入まで行うなどいろいろなケースがありますが、基本的にはコンセプトをつくるということをメインに、10年ほど続けていました。 |
| 森山: |
建築からなぜマーケティング畑になったのですか。珍しかったでしょう。 |
| 紺野: |
その当時は非常に珍しかったのですが、僕らの時代は建築以外にいろいろな可能性があるというのが世界のトレンドでした。たとえばアーキグラムのピーター・クックという建築家は、メディア化する現実を批判して建てない建築を主張した。一つひとつの建物の意味性が失われていく時代でした。その後、大都市の「ビッグネス」に対して個々の建築はある付加をするにすぎないといった最近のコールハースのような考えに発展していくわけですが、インテリアやメッセージ、ハードではないものに関心が向いていった。そういう時代にスピンアウトしたわけです。ハードウェアをつくるのでなく、建築で学んだ方法論を使ってメディアに働きかける、あるいは別の商品のコンセプトを出す。そういった方法論に関心があったからなんです。 |
| 森山: |
メソドロジーですね。 |
| 紺野: |
メソドロジーを磨いたり研究することが、基本的な関心事なんです。建築やデザインあるいは記号論などのメソドロジーをマーケティングやビジネスに生かそうというのが博報堂時代にトライしていたことです。よいメソドロジーは何らかの普遍性を持っているというのが僕の考え方です。普遍性があるのであれば、むしろ建築以外のものに応用できないかという考え方ですね。それはデザインの方法論と言ってもいいし、知識創造の方法論と言ってもいい。オーバーラップしているので、言い方はどちらでもいいのですが、デザインの方法論も単純に形態を生み出すだけではない。マーケットの深い暗黙知を獲得して、それを形態化していくというプロセスでやっているんです。
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| 森山: |
吉川元東大総長が言っていた、仮説提示、アブダクションにはデザインが一番効くというのに近いニュアンスを感じます。 |
| 紺野: |
中心的にはアブダクションですね。方法論としてとらえたときに、企業はデザイナー以外の人たちも含めて、デザインの方法論を共有し、イノベーションを起こしていくというモデルです。 |
| 森山: |
実際の企業の中で起こっていることはどうなのでしょう。企業はデザインの知のようなものにかなりの信頼を寄せざるを得なくなったのか、寄せているのか、それともまだよくわかっていないのか。外から見ると日本の企業は強みもあれば弱みもある。むしろ地位はだんだん低下しているという言い方もあります。二極分化しているという考え方もあるし、経営者の考え方次第だという言い方もあります。紺野さんからはどのように見えていますか。 |
| 紺野: |
まず企業は、イノベーション等を含めて知識創造をやっていかなければいけないという認識はできていて、そんなものは必要ないと思っている人はいない。でもこれまで使われてきたイノベーションという言葉は誤解を招きます。 |
| 森山: |
技術革新と見えるからでしょう。 |
| 紺野: |
だからマーケット・イノベーションというのか、どちらかというとソーシャル・イノベーション、その背後にある企業や産業のソーシャル・クリエイティビティの重要性は、各企業とも認識しているし、していないといけないのだと思います。いま必要なのは、多面的な知を持った人たちが集まる場をどうやってつくれるかということです。 |
| 森山: |
紺野さんが『創造経営の戦略』中「ワークプレイスのデザイン」で提出した一つが、ノマド型ワーカーのためのクラブ的空間でした。 |
| 紺野: |
一つはノマドのような組織的な場を創れる人材ですし、あるいはいろいろな人たちが集まってプロトタイピングできる場です。研究所でも、マーケットの暗黙知を獲得してプロトタイピングができること。すでにいろいろな才能の綜合、企業としての知力が必要だと言われていて、そこにデザインと言うのか、知識創造の方法論と言うのかは自由ですが、ある種の方法論が大事だということにも気づいています。それを研修で取り組む企業もあるし、組織にその機能を持たせようという傾向もあると思います。
日本の場合、多くの企業にデザイン部門がありますが、そのことについての評価は僕はわかりません。確かにインハウスデザイン部門を使えば、今のようなことができなくはないのかもしれませんが、まだそこには実際には直接つながっていないような感じがします。というのは、デザイン部門の側がそういった発想をしていないのかもしれないですね。 |
| 森山: |
紺野さんがお仕事で直接相手をする場合は、企業のデザイン部門ではないケースが多いのですか。 |
| 紺野: |
両方あります。そういうことを理解しているデザイン部門、変わらないといけないと思っているデザイン部門の場合もあります。 |
| 森山: |
変わらないといけないと考えているのはデザイン部門だけでなく、中央研究所といったところかもしれないし、もっと経営者に近いところ、経営企画のようなところかもしれない。
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| 紺野: |
実際に僕が関わっているインターフェースは、経営企画や研究所、デザイン部門だったり、新規事業部門の部門長だったり、バラエティに富んでいて、デザインだけに限った仕事をしているわけではありません。ただその中の共通言語として、デザインや知識創造、ナレッジマネジメントというプラットフォームの上で、何かやらなければいけない、何かを生み出さなければいけない、何かを変えないといけないという認識で、できるだけ実質的な場で仕事をするようにしています。 |
| 森山: |
そうした企業との活動もあれば、教育や執筆も担われている。さまざまな活動のアウトプットのかたちは異なるのですか。 |
| 紺野: |
マーケットを見るときは、知識の生態系、ナレッジエコシステムだと考えています。ですからそこには学校もあれば企業もある。全部エコシステムなので、バリアはありません。これは学校です、これは企業です、と分けるのではない。役割は少し違うけれども全部がひとつながりなんです。 |
| 森山: |
Gマークの新領域部門もまったく同じです。エコシステムの中に入っていますから、紺野さんがいつも考えていることからエバリエーション、評価していただければいいと思っています。
今日はお忙しい中をどうもありがとうございました。 |
(2004年6月11日 東京・赤坂アーク森ビルにて収録) |
●紺野 登
株式会社コラム 代表
2004年度グッドデザイン賞 審査員
●森山 明子
武蔵野美術大学 教授
2004年度グッドデザイン賞 審査副委員長 |
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