| 盛: |
建築業界にも様々な賞があり、電通ビルはこれまでに日本経済新聞社・ニューオフィス推進協議会のニューオフィス推進賞、照明学会の日本照明賞、日本サインデザイン協会のSDA賞などを受賞しています。これらは、もちろん歴史もあって業界内では権威があるものとみなされていますが、一般の人にはまだあまり知られていません。当社の役員にとっても馴染みが薄いんですね。そうしたところで、ネームバリューのあるグッドデザイン賞を受賞した。しかも金賞を取れたというので、関係者は大喜びです。この広く認知されている賞で金賞を受賞できたということは、社内では大きなインパクトがあったと思います。たとえば、当社の広報室が社内だけで放送しているチャネルがあるのですが、そこで今回のグッドデザイン賞の授賞式の場面や、審査委員の隈研吾さんのコメント、建築家のジャン・ヌーベルのコメントなどが放送されました。普通は長くても1分くらいしか枠がないのですが、この賞に関しては5分くらいの枠で放送していた。社員にとってもわかりやすい、いい賞をいただいたなと思います。
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| 川崎: |
本社ビルを変えることは、電通のイメージ、伝統とか格式にも相当影響を及ぼすことですので、非常に難しい面も多かったと思います。次にビルができるまでの経緯、背景的な事情などをお話しいただければと思います。
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| 盛: |
丹下健三さんに設計をお願いした築地の旧本社ビルができたのが昭和42年でした。ちょうど昭和の高度成長期にあったこともあり、予想をはるかに超えて業務が拡大していきました。これと連動して急激に社員が増加したため、旧本社ビルの収容力は完成後4年で足りなくなってしまい、それ以来社員が増えるたびに周辺のビルを借り増してきました。最終的には、聖路加タワーの25フロアを借りるなど、約10カ所のビルに分散して業務が行われていたのですが、当社はプロジェクトチーム単位で仕事をしますから、誰かがどこかへ行かないと打ち合わせができない。非常に業務効率が悪いわけで、長らく問題視されてきました。解決に具体的に動き始めたのは90年代に入ってからで、とにかく分散しているオフィスを1カ所に集中することで業務効率を高め、クライアントに対するサービスを迅速に、かつクオリティを高めて、グローバルコンペティションを乗り切らなければということで動き始めたわけです。用地の取得は難航していたのですが、1997年2月3日、清算事業団の汐留再開発地区の土地の入札で、運良く落札することができました。そこで同年の3月1日に新社屋建設推進室ができて、そこから5年半の一大プロジェクトが始まったわけですね。
当社は2001年に創立100周年を迎えたのですが、その時期に上場と新社屋という二つのプロジェクトが同時進行していました。それまでの株主は、自社や社員持株会、共同通信、時事通信という身内だけでしたが、上場によって第三者の株主ができます。つまりアカウンタビリティを果たさなければならず、新社屋プロジェクトに関しても、株主に問われたら即答できる状況をつくらなければなりませんでした。何ごとにもきちんとした手続きを踏んで決めていかなければならないということで、非常に難しい面もありました。
用地が確保されるまで、新社屋について社員には伏せられていましたが、入札で土地が確保できて、そこで初めて社長が全社員にメッセージを出しました。その直後にわれわれは、どんなビルをつくればいいのかという社内アンケートを実施しました。この結果は、意匠よりもむしろ機能、超高層になるために安全性といった点に重きを置く社員が大半で、デザイナーはいなくてもいいくらいの極論もありました。社員一人ひとりの意見がストレートに伝わって、それを適確にエンジニアリング的にこなしてくれる設計者のほうがいいという意見が過半だったわけです。
ただ、社員が機能、安全性を望んでいるといっても、デザイン的に何の評価も得られないものができてしまうと、当社の社員は絶対に文句を言うんです。社員の半分以上は何らかのかたちでクリエイティブな業務にかかわっていますから、デザインを無視すると恐ろしいことになる(笑)。そこで基本設計、実施設計を大林組さんにお願いして、パートナーアーキテクト、デザインパートナーを探そうといことになりました。
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| 川崎: |
電通さんの事情から、そういう判断をされたことは何となくわかります。また、クリエイティブ集団であるがゆえに、社内の声をどのようにまとめるのかということも重要な仕事だったかと思います。デザインパートナーとおっしゃっていますが、建築家もジャン・ヌーベルというスター建築家を採用されていますし、マスターアーキテクトというかたちで大林組さんをパートナーにされています。その経緯についても簡単にお聞かせください。
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| 盛: |
社内アンケートの結果でもそうでしたし、社長も同じ意見でしたので、華美な建物や過剰な装備は避けたほうが良いだろうと。そうしたことから、形をデザインすることが設計だと思っている建築家はやめようということはありました。また、超高層ビルになる予定でしたので、ビル風、日陰、電波障害といった様々な問題が起こりうる。周りに迷惑をかけることになるわけですし、使う素材によっては視覚的な圧迫感を与えてしまいかねない。こうした問題を十分咀嚼したうえで、華美にならずに軽快にしたいという想いがあった。電通という会社は、銀行が持っているような重厚感とは対極のイメージを持った会社だと思いますので、そういうテイストを表現できる建築家がデザインパートナーになって欲しいと思っていました。
また、旬を迎えた人よりはこれからを期待させる人を選ぶのも電通らしいという意見もあり、大林組さんには、ヨーロッパ、アメリカだけではなくアジアも含め百何十人かの40代から50代前半の候補をリストアップしてもらいました。プロジェクトへの取組み姿勢をプロポーズしてもらうというヒアリングコンペ的な選考手続きを経て、ジャン・ヌーベルに決めました。最後の決め手はヒアリングをしたときに感じられた熱意のような面でしたね。
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| 川崎: |
僕も最近建築コンペの審査をしていますが、見ていると作品ではなく建築家、その人物を選ぶような面がある。インダストリアルデザインでも同様で、その人物がデザインしなくてはいけない対象物にどのくらいの情熱で望もうとしているのかということが一番重要だったりしますよね。テクニックではなくて、最終的にはその仕事に対するクリエーターの思い入れになるのだろうと思います。それがヌーベルが一番強かったということですね。
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| 盛: |
そうですね。彼は1000のコンペに応募して3つくらい受かればいいくらいの感じで、バリバリやっている。僕が一番すばらしいと思ったのは、ボツになった作品も含めて彼の作品を一覧してみると、同じものが一つとしてないことです。同じ建築的な文脈でつくられたものが一つとしてない。環境やクライアント、予算、社会的な情勢などに応じて、まったくのゼロから仕事をスタートさせている。すごく体力・気力の要る仕事だと思うんですね。大概の建築家はそれぞれに独自のスタイルを持っています。しかし彼にはそれが全くない。ですから、コミュニケーションによってクライアントの要望を洗い出して、私たちの考えもつかない新しいデザインに置き換えてくれるだろうという期待感は非常にあって、実際にそういう仕事をしていただいたと思います。
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| 川崎: |
ジャン・ヌーベル氏自身の手法論なり考え方に特徴はありましたか。
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| 盛: |
プロセスの進行にともなって、出てくる形は違っていても、彼の考え方そのものは常に一貫していました。彼は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』がすごく好きで、いつも読んでいる。そのせいか、光の入射や反射の仕方、一日のなかでも光の向きはつねに変わり続けるといった条件と建物の関係をどうしていくのかということを常に念頭に置いている。同時に、建物は内部で人間が活動するための器なので、その活動が外からどのように見えるのか、あるいはどのように隠すのか。そういったことからアプローチをしていました。哲学者的な面がありましたね。初期の頃はとくに発想を積み重ねてイメージを言語化する。そういう方ですので、スタート当初のしばらくの間は全体像を示すスケッチがありませんでした。ですから、私たちも開発の初期段階では、どんな建物ができるのかまったくわからず、社内説明に往生した記憶があります。細かい部分部分の機能、ここはそういう感じにしようということが積み重なって、結果ああいう建物になったという感じです。
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| 川崎: |
大林組さん側は彼のスタイルをどのように受け止められたのですか。
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| 猪飼: |
本当に情熱的な人なのだということはすぐに分かりました。彼はいろいろなデザインを提案してくれましたが、いろいろな理由から実現できない案も数多くあるわけです。採用されないとわかると、それを作り替えて別のデザインを提案してくれますが、彼の思い入れやプライドを損なわないようにしながら再提案してくれる関係になるまでが結構大変でした。われわれが機能上とかメンテナンス上でここがだめ、あそこが難しいと言うと、何故だめなのか彼が完璧に納得するまで徹底的に説明を求めてくるのです。彼を納得させないと次の提案をしてくれない。ただ、彼はCGで提案してくる事が多かったのですが、そのCGは大変すばらしく、会社に持ち帰って当社のCGグループの参考にさせてもらいました。
そうしたことを繰り返しながら、次第に形になっていったわけですが、彼の自由な考え方には感心させられました。こういう形の超高層建築は日本人には決して考えつかないと思います。日本人の場合、構造が優先してしまって、必ず対称形にしてしまうでしょう。機能に相応しい形を構造的にどう解決するかがわれわれに課せられた問題だったのです。 |
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| 川崎: |
しかし、形態は奇抜ではありませんよね。極めて抑制されている清潔な印象を受けます。
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| 猪飼: |
ディテールについてはわれわれのほうでかなり抑制したところがあります。しかし、彼はそれをデザイン的にうまく消化してくれました。
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| 川崎: |
もちろん、彼のアイデアを具体化するにあたっては、新しい技術を要するような多くの挑戦もあったかと思います。ここは大林組さんの腕の見せ所ですね。このあたりで新しいチャレンジはありませんでしたか。
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| 猪飼: |
今回の電通さんの本社ビルの特徴のひとつに、ファサードのやわらかい表情が挙げられます。これを実現しているのが、セラミックの細かいドットを焼き付けたセラミックプリントガラスなのですが、視覚的な効果と同時に省エネ効果をどのように両立させるかが、一番大きなテーマだったと言えます。ヌーベルの途中段階のアイデアに、昔の洗濯板を立てたような波型曲面の外観もありました。このアイデアも省エネ的には効果があるのですが、調べていくと日本の技術ではガラスを鋳型でしか作る事ができませんでした。最終的にセラミックプリントガラス案に決まった訳ですが、セラミックプリントガラスは光学的に解析されていませんでした。今回それを解析して省エネに結びつけられたところが大きなポイントだと思います。
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| 盛: |
話は戻ってしまいますが、社内で建物のデザイン論を展開すると、いろいろなところからいろいろなリアクションが来ますので、説明は全て機能論で通しました。「何でこのデザイン?」と聞かれれば、「これは日射を遮るためです」。「どうしてここはRなの?」には「浜離宮庭園への圧迫感をなくすためです」。「向きはどうやって決めたの?」「東京タワーから出ているテレビ電波を東京湾のほうに反射させるためです」というような具合でした。
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| 川崎: |
ひとつお聞ききしたいなと思っていたのは、サスティナビリティについてです。建築家もそうですし、日本全体としてももそうですが、サスティナビリティをエコロジーに取って代わる言葉のように使うのは間違いだと僕は言っています。サスティナビリティは英語ですが、ヨーロッパで生まれています。彼らが生き延びるためにどうするか、EUをつくるための経済用語が源であったとというのが本来の意味なんです。サスティナビリティという言葉は1回きちんと定義しなければいけないと思っています。それはあくまでも経済用語で、要するに経済的に長持ちさせ、ロングライフを維持し、そしてなおかつ生態学的にも必要だということがサスティナビリティです。
電通ビルは、本社ビルのあり方をクリエイティブ集団として提示されたと見ています。それはGマークで金賞になってもしかるべきことで、逆に本社ビルをつくるなら、どんな小さな会社でも1回あそこを見てきなさいよ、その縮小版でもいいじゃないですかという見本、ある種のサンプルをつくられたと一方で評価できる。そこではサスティナビリティは一般性を持ったうまいコンセプトの言葉になっています。 |
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| 盛: |
サスティナビリティという言葉は、狭義では省資源、省エネになりますが、プロジェクトのメンバーの間ではそれに加えて、デザインのサスティナビリティのことも考えていました。消費され、陳腐化するデザインにはしたくありませんでした。建物は一度つくってしまうと最低でも50年くらいは周辺環境の一部を形成し、人目にさらされるわけです。馴染んでいくのはいいのですが、すぐ飽きられてしまったり、周りの環境が変わっていくと古く感じられたりするということは避けたいと考えました。そのためには、デザインを抑えなくてはいけない。もちろん、素材の種類も可能なかぎり少なくする。視覚的な要素を少なくする、色やディテールの種類を少なくするように心掛けました。
一方で、ライフサイクルアナリシス(LCA)、ライフサイクルコスト(LCC)という言葉があって、建築物の一生、50年とか60年の間にどれ位の費用がかかるのかを試算する仕組みがあります。設備を15年に1回更新する、あるいはプラスチック素材だと劣化していくから交換しなくてはいけない。外装のペンキを塗り替えなくてはいけない。また、50年間の水光熱費の総額も相当な額になります。そうした建物が生涯を遂げるまでにかかる総コストを削減するための仕組みです。たとえば排水パイプに鋳鉄管を使うといつかは錆びますよね。何年かに1回ボーリングして、ライニングして直したりしますが、それでもだめなときは総入れ替えをしなくてはいけない。使っている状態でその入れ替えを行うことは、非常にコストがかかる。LCCによってそうしたコストを評価することで、イニシャルコストは高くても腐食しないステンレスパイプを使ったほうが長期的には安いという結果を導けるわけです。ステンレスパイプはリサイクルすることできますので、省資源にもいい。LCA、LCCの仕組みを使いますと、多少初期投資額が上がっても結果的には安くついて得をする方法が見えてきます。それが建物のサスティナビリティにつながると思います。
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| 川崎: |
電通さんは黒子に徹しておられるので僕は若干寂しいのですが、本当は自社ビルをもっともっとプロモートしてほしい。というのは、東京はいまビルだらけですが、きれいなビルが本当にありませんよね。外国から来た友人たちは、東京はだんだん汚くなっていくと言います。何故かは解らないけど、バブルがはじけたあともやたら建築が建っていますよね。それも高層ビルが数多く建っています。しかし美しいビルがないと言うんです。個人的には、そうした東京に美しいビルが建ってくれたことは非常に嬉しい。これがサスティナビリティという言葉から生み出されたのであれば、そこをかみ砕いて提示してほしい。地方都市もいまは箱物行政その他ひっくるめて、建設に対して非常に風当たりが強い。それが建設業界が不況に陥っている原因にもなっているでしょう。
大林組さんのほうでは、クライアントの思いとデザインパートナーである建築家の思いを具現化していくわけで、そのへんの折り合いのつけ方はすごく難しかったでしょうね。 |
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| 猪飼: |
非常に難しかったですね。電通さんは「手づくりの本社ビル」というコンセプトを持っておられたので、われわれにしてみたら電通さんの社員全員がクライアントでした。一方でヌーベルは自分のデザインをどんどんやってくる。それを機能的に整合させ、なおかつ予算とスケジュールに気を配りつつ実現化していくというのは非常に大変な作業でした。
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| 川崎: |
僕は建築では設備がとても大きな問題だと思っています。ファシリティマネジメントという言葉はあるけれども、情報系のシステムは日々進化していくから大変ですよね。それを考えて、これから先サスティナブルなデザインを具現化していかなければならない。
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| 猪飼: |
設備廻りは読みきれないところが多くあります。われわれは電通さんが使っていらっしゃるオフィス、特に聖路加タワーの現状調査を様々な角度から行いました。たとえば各局ごとの電気使用量のピークを測定したり。また、新聞局、雑誌局、テレビ局、ラジオ局というメディア関係の館内物流は非常に大きなものがありましたので物流量を調査したり、そうした基礎データを集めて分析して、将来の予測を行いました。こういう調査の中で電通さんのオフィスを隅から隅まで見せていただき、社員の皆さんからもいろいろなお話を聞きました。また、電通さんのほうでセキュリティや物流等の25の専門部会を作って下さったので、まさに全員参加での議論をさせていただきました。盛さんはそれをまとめるのも非常に大変だったと思います。
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| 盛: |
大変だったのは、情報システムをはじめとする設備です。情報システムは非常に早いスピードで陳腐化してしまいますし、その他の設備も新しいものが次々に現れるので、建築よりは更新時期が早い。ネットへの接続形態一つをとってみても、今は選択肢が多いので、当社の担当局がいろいろと悩んでいましたね。建築設備についてはマルチベンダー方式を採用しました。これまではあるシステムの導入を決めると、ある特定のメーカー内だけで完結してしまうというやり方でした。今回の場合、マルチベンダーを基本にすることで、どのメーカーの製品が来てもシステムに取り込むことができて、それなりにトータルコストが抑えられるというものを目指しています。新しくてコンパクトでより良い機械が現れたら、すぐにリプレースでき、かつ、それらを自由に制御できる仕組みを取っています。更新性を重視しているものですから、設備スペースにはゆとりを持たせてあります。設備の更新に当たって、作業中にサービスを停止するわけにはいきませんので、古い設備を動かしながら、隣に新しい設備を取り付けて、設置が完了したら新しい方に切り替えるという方法を採るためです。
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| 猪飼: |
今のお話は、大林組で開発している「フリゲート」というビル統合管理システムがありまして、これが電通さんの要求されていることとうまく合致しました。電通ビルの制御はほとんどパソコンベースで行っていますが、一般的には異なるメーカーの機器同士はほとんどうまくつながらない。それに対して、どのメーカーのどんな機器を組み込んでも、フレキシブルで自律的なネットワーク制御を行うことができるという、オープンネットワークシステムを開発していましたので、今回電通さんで大々的に使わせていただきました。
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| 川崎: |
クライアントをたくさん持っておられるから、照明にしてもいろいろなメーカーさんのものを満遍なく使わないといけないでしょう。旧社屋のたとえばクリエイティブディレクターといった方のデスクにうかがうと、その人がどんなクライアントの仕事をしているのかが、まわりの設備からなんとなく分かりましたよね(笑)。
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| 盛: |
旧社屋ではそうでしたが、新しい社屋では、できるだけそれが分からないように努めています。たとえばエレベーターでは4社のものを使っていますが、内装はすべて同一にしています。大林組さんと一緒にデザインしたものを製作してもらいましたから、メーカー名は出ていません。ある程度知識がある人であれば、メーカー名が入っていなくても押ボタンの形状を見ればわかるそうです。しかし今回は押ボタンまで製作してしまったので、見た目は全く同じです。ただ、外側に12台並んでいるシースルーエレベーターは、ドアが開く仕組みなどが見えますので、見る人が見れば、どこのメーカーだとわかってしまうのかもしれません。
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| 猪飼: |
一生懸命合わせたのですが、残念ながら少しずつ違います(笑)。
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| 盛: |
オフィスの天井照明も3社でつくっていただいていますが、メインになるメーカーさんと一緒にデザイン開発をしていただいて、他の2社にも同じものをつくっていただくというかたちを採っています。各社少しずつ納まりが違ったりしましたが、大きくは変わらない。ただ、壊れて交換しようとすると、メーカー名を消したものは納品に時間がかかりますと言われてしまう。1年経ってわかったのですが、このようなものはあらかじめリプレース用を何個かつくっておくべきだったと反省しています。
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| 川崎: |
その昔、ファシリティマネジメントという言葉が中身のないままに歩きはじめて、1980年代にインテリジェントビルが現れますが、コンピュータがパソコン化してくると、この考え方が全部いったん崩壊するわけです。その後パソコンはデスクトップからノート型に変わって、今では多くの人がノートブックを使うようになった。さらに、ネットワークもいつビル内に光ファイバーが張り巡らされるのかという話がのんびりしている間に、無線という新しいものが生まれてきている。僕はそういう変化に対して、建築の対応が一番遅れているのではないかと思います。住宅だ、本社ビルだ、働く環境だというすべてにおいて、情報のファシリティマネジメントが総崩れに崩れている。その中で電通さんのサスティナビリティ、ビルの設備やシステムを更新していくというノウハウは、今後みんなが使えるんじゃないかと思います。電通さんにはそういう意図もあるのかなと、僕は思っていました。というのは、かつて情報化の波が襲ってきた時に、一番儲かった企業はどこだという話がありました。それはコンピュータ会社じゃない。それは結局オフィス家具メーカーさんだと思うんです(笑)。電通さんにもそういう意図があったのかなと思ったのですが、あまりないみたいですね。
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| 盛: |
こういうノウハウをリセールするということはまったく考えていませんでした(笑)。しかし、見学者は多いですよ。新しいビルをつくるプロジェクトの方が見にきたりはしますが、お目にかけられるエリアにはそれほど新しい部分はないと思います。というのも、新しすぎてすぐ古くなるより、ある程度信頼性のある材料や設備を使っていますので。でも、選択肢をどれだけ多くするか、将来に向けた選択肢をどれだけ残すかということをずいぶん検討していて、その部分が新しいのですが、実はそれは見えないところにあります。見えるところはどんどんリプレースしていいという考え方でやっていますから、いまの姿だけ見てもそんなに新しくない。こういう考え方が商品として売れればいいのかもしれませんね。
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| 川崎: |
構造的なことでいうと、いつ襲ってくるかわからない地震についても相当に検討し尽くされた結果なのでしょうね。
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| 猪飼: |
地震については、なかなか難しい面があります。いままで大きな地震がありましたが、超高層建築は生き残っていますよね。通常、超高層の構造は地震ではなく風で決まってしまいます。神戸の大震災の際、市庁舎は多少変形しましたが生き残っていますよね。今回の電通ビルはあれより強い地震が来ても倒れることはありません。電通本社ビルの外装や耐震システムはかなり明快なものとしていますし、現在想定されているよりも大きな地震が来ても壊れることはありません。電通さんからは、その他の災害に対しても強いビルをつくってほしいという話がありましたので、水害等に対しても万全の対策をとってあります。また、災害によって水や電気といったインフラがストップした場合でも、インフラが復旧するまでの間、このビルでどう仕事をし続けられるかということを研究する専門チームもつくられて、われわれもいろいろ議論させてもらいました。
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| 盛: |
当社のライフラインが遮断されても、クライアントが1社でも機能していれば、それに対応しなくてはいけないという考え方に基づいています。また、東京で大災害があっても、関東以外の会社は無事なわけですから、それに対応しなくてはいけない。クライアントファーストでリスクマネジメントをしています。どのような事態が起こってもつねに業務が続けられる仕組みをつくろうということです。
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| 川崎: |
サスティナブル、安全、危機管理の面、どれをとっても本社ビルづくりのお手本ですね。見本ではないですね。県庁なども、まさしく情報を扱う地域のセンターであるわけで、電通さんのビルを大いに参考にしていただきたいと思います。市民から見てもこのような庁舎が欲しいでしょうからね。どこでも通用する、非常に良く考えられた施設だと思います。
Gマークは役員の方にもわかりやすい賞だったということでした。その点を利用して、行政の人たちを含めて、電通ビルの良い点をわかりやすくアピールしていただきたいですね。そのプロモーションが箱物行政を見直すことにも繋がっていってくれれば、審査委員長として最後の役目を果たしたかなと思います(笑)。
今日はお時間をいただき、ありがとうございました。 |
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(2004年2月4日 東京プリンスホテルにて収録) |
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●盛 和春
株式会社電通 プロジェクト・プロデュース局 シニアプロデューサー
●猪飼 富雄
株式会社大林組 東京本社 設計本部 設計部 制作設計グループ長
●川崎 和男
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授
大阪大学大学院 フロンティア研究機構 特任教授
2003年度グッドデザイン賞審査委員長 |
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名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
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電通本社ビル、Good Design Finder での紹介ページ:
http://www.g-mark.org/search/Detail?id=29311&lang=ja |
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