川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

川崎: 2003年の夏にビッグサイトで開催した2次審査の会場は、グッドデザイン・プレゼンテーションというかたちで、一般の方々にもご来場いただきました。そこで、グッドデザイン賞の審査基準や審査についてプレゼンテーションをしたのですが、今日のお話のとっかかりとして、まずはその内容をダイジェストしてお話ししましょう。

グッドデザイン賞という評価システムの背面にある論理体系は、半世紀かかってつくってきたものです。背後には哲学者の中村雄二郎先生などが論理構成を支援していただき、常に議論に議論を重ねながら一字一句を組み立ててきたものです。それこそ審査基準に「斬新な造形表現がなされている」と記されていますが、造形という言葉の意味は何なのか。デザイナーは安易に造形という言葉を使っているけれども、ちゃんと曰く因縁がある言葉です。僕は17年間、隅から隅まで徹底的に、言葉に関してはこういうことだろうことをやってきたつもりです。審査委員たちには「最初にそれを見せてくれよ」と言われますけれどね(笑)。グッドデザイン賞の審査においては、単にデザインの評価のことを話し合っているわけではなく、そのときどきの社会情勢において、デザインが社会にどういう貢献がなしうるのか、裏側ではそういうことをずいぶん話しながら臨んでいます。具体的にいえば、米国でのテロ事件や北朝鮮による拉致被害の問題です。Gマークの審査がやっていることは、こうした社会情勢から非常に遠いように思えますが、そうではない。いま日本は、とても悲しい国になっています。デザイナーとして、そうした時代状況をしっかり見据えて、考え、デザインしていくべきだということを、応募する人も、審査の場でも心掛けてほしいということです。

グッドデザイン賞の審査基準の考え方を紹介すると、これには全部で40項目が設定されています。大きくわけると、「良いデザインであるか」「優れたデザインであるか」「未来を拓くデザインであるか」の3階層の構成になっていることを知っておいてください。「良いデザインであるか」について、一定以上の水準にあり、「優れたデザインであるか」「未来を拓くデザインであるか」で積極的に評価できる点をもっているものが受賞にいたるわけです。

「良いデザインであるか」というのは、グッドデザインと呼ばれるものに求められる基本的要素で、まず、ここでネガティブチェック=減点的な審査を行います。ネガティブな要素があれば、そこで終わりです。最初の入り口といっても良いのですが、ここが実はものすごく難しい。次に「優れたデザインであるか」、「未来を拓くデザインであるか」はポジティブチェック=加点的な審査を行う。最初に「良いデザインであるか」を見て、次に、未来を拓くデザイン、優れたデザインというプラス、プラスでやっていって、最後に良いデザインであるかというところへもう一度、立ち戻るという話です。

「良いデザインであるか」というのは10項目からなります。一番難しいのは「美しさがある」という項目です。続いて「独創的である」、「使いやすさ・親切さがある」、「使用環境への配慮が行き届いている」、「価値に見合う価格である」という項目があります。「誠実である」ということは非常に重要です。「機能・性能がよい」、「安全への配慮がなされている」という項目もある。安全への配慮というのは、もっと付け加えた方が良いと思う。「安全と安心への配慮」というように、安全と安心は一体でなければいけない。今挙げた審査基準は、デザインを語るうえでとても適切な10項目だと考えています。

優れたデザインであるか、未来を拓くデザインであるかに含まれる審査基準は、デザイン、生活、産業、社会で分類していますが、審査委員長としては、機能性、性能性、効能性を見なさいと審査委員に言っています。一般にデザインは機能性で語られがちです。でもそうではなく、性能性や効能性をどうとらえるかということを良く考えてほしいということです。

もう一つは、デザインというのは問題解決の方法論だと言えます。これによって導かれた答えは、回答、解答、応答の三つの形式になっていると判断しています。これらはそれぞれ、デザインの課題、問題、議題は何だったのかということに対応します。答えといっても、課題と回答は「クエスチョン・アンド・アンサー」、問題と解答は「プロブレム・アンド・ソリューション」、議題と応答は「トピックス・アンド・リプライ」です。これをどう論理的に体系づけるのか。雑に言ってしまえば、市場に対して単純にリプライしているようなものが本当に良いのかという話です。また、クエスチョンにアンサーしているもの、たとえば営業マンがQ&A集というものを持っていたりしますが、これだけではだめです。日本人は、この考え方がとても強いのですが、われわれは2+3はいくつということばかり教育の中でやってきている。議題と話題、何と何を入れたら5が出るか。応答というのは、このグレーのゾーンの話をすることです。問題と解答というのは、何と何をたしたら何になるか、両方ともわからない。この問題と解答という捕らえ方が一番重要です。この三つがどうなっているか、審査委員長として審査委員団に細かく問いただすことを心がけてきました。

応募される方たちはみな「これはグッドデザインでしょう」と確信して応募してきます。だからこそ、受賞にいたらなかったときは、審査委員としてその理由を的確に答えてほしいと言い続けてきた。僕は応募者側に立って、「君は駄目だというが、私はこう考える。さあ、反論しなさい」ということをやる役割にいると思っています。一般の人にとっては、川崎和男がやっていると非常に厳しい審査をするように思われるらしいですが、実はまったく逆なんです(笑)。これ以上は長くなるので、簡単ですが、これくらいで終わりにします。一つは機能性、性能性、効能性という問題、それと課題に対する回答、議題に対する応答、問題に対する解答をデザインの中にしっかりと置いたうえで、「Gマークをあげましょう」ということを審査では行っています。
   
山本: グッドデザイン賞の審査基準はパンフレットやホームページに詳しく書かれています。これはGマークのいい点だと思うのですが、ホームページがものすごく整理されていて、審査基準についても細かに記載されています。しかし、審査委員長の肉声で聞くのと文書で読むのとはまた違ってくるでしょう。ナガオカさんからは、審査基準についても多少の疑問があるというお話を伺っていますので、川崎さんにストレートに投げかけてただければと思います。
   
ナガオカ: その前に、現時点での私の思考の中に変化があったことをお話しておきたい。それは、川崎さんのお話をうかがっていた、この短い間に起こった変化です。山本さんから紹介のあったUSED G MARK展はだいぶ前から考えていたと格好いいことを言っていますが、やろうと決意できたのは、グッドデザイン賞のプレゼンテーション審査の最中でした。「USED Gというマークを入れて、こんなことをリサイクル屋さんとして成立させたいから、私らが買い取れないようなものにGマークを与えるのはやめてくれ」と川崎先生に直接言ってしまったわけです。そのとき川崎先生は、にやっと笑った。笑いを取れたことに自信を持って、これは展覧会にしようと決心した。そこが一つのきっかけです。誤解を恐れずに言うと、ある強い言葉を投げかけて相手の反応を引き出すということでは、私はある種の喧嘩師だと言える。Gマークが嫌いだと公言しながら、では自分がGマークのことをよく知っているかと聞かれると、良く知ってはいないというのが実際のところです。川崎審査委員長のお話を聞いているうちに、「知らない」ということが気になりだした。そこで今現時点でGマークに対して辛口の訴えがあるかというと、むしろ川崎さんのお話をもっと聞いてみたいというのが本音です(笑)。そういう変化です。

では何を聞いてみたいかというと、私が今現在でも疑問を感じるのは、グッドデザイン賞をあげたあと、それが売れるという仕組みはについて、どうお考えなのでしょうか。たとえば全国のコンビニエンス何万店のこの棚に置くことができますよ、全国にGマークショップが120店舗あってそこで販売できますよというように、物理的に売るということを川崎さんはどのようにお考えなのでしょうか。
   
山本: 今回のUSED Gという企画展を通してナガオカさんは、流通の問題、ロングライフの問題、リサイクルの問題を強く訴えてきたと思います。D&DEPARTMENTという販売の現場にいるから、特に流通に関しては強い思い入れがあるのでしょう。川崎さん、いかがでしょう。
   
川崎: 流通の話とは直結しないかもしれませんが、グッドデザイン賞を受賞したのでGマークをつけてみたけれど、売れないではないかという話しがありますね。それは売れないのではなく、売っていないのだという言い方ができる。営業マンが「こんなものは売れないよ」というものは山ほどありますが、「そうじゃないでしょう。“営業は売る”ことでしょう。Gマークがついているのだから売れるはずです。だから、売ってきなさい」という立場に立つことが重要です。

僕がデザインを手掛けるものは、必ずグッドデザイン賞を取るようにクライアントに仕掛けます。それはどういうことかというと、まず、グッドデザイン賞を受賞することを目標としていただく。そのためにも、製品開発の際には、グッドデザイン賞の審査基準を常に意識することを心掛けるようにしていただくんです。そうして、Gマークの評価に乗らないようなものは、基本的には世の中に出してはいけない。優れたデザインで出してきているものだったら売ってよろしいという、ある種のベンチマークだと理解してもらうんです。こうして出来上がった製品を応募すると、審査委員であることが災いするのか、非常に厳しい審査をされて悔しい思いをすることも多いのですが、僕がGマークを取ったものは全部商業的に成功している。その一例を挙げるとすれば、ナナオという企業があります。EIZOというブランドのディスプレイでグッドデザイン賞を受賞して成長してきました。1995年に僕がコンサルタントとして関わるようになって、2部上場して、1部上場して、今では株価が3000円を超えています。それは何かというと、この企業の商品はGマークをポイントにしていますから、もしGマークが取れなかったら商品として世の中に普及させないというくらいの心構えがある。もう一つの問題は、EIZOは量販店に対して商品を卸していない。それはなぜかと言ったら、自分たちがつくっている商品はグッドデザインだし、それこそ性能性、効能性、機能性に優れるから、量販店の安売りで勝負をしなくても十分に勝てるということです。具体的に言うと、大手メーカーが100万台売って100万円儲けているところで、EIZOは2万台売って200万儲かるビジネスモデルをつくりあげようということです。デザインオリエンテッドで、早い段階でGマークを取る。店頭でもGマークを使う。海外に向けてGマークをプロモーションする。そういうことを戦略的にやっている企業です。

歴史をよく見てもらうとわかりますが、ボルボのステーションワゴンがなぜ日本で花開いたのか。グッドデザイン賞でグランプリを獲得して、それを大々的に巧みにアピールしたんです。だから、Gマークをつけても売れないというのではなく、それによって売るという手法を開発する努力をすべきだろうと思います。流通に対して言えるのは、ここだと考えます。
   
山本: Gマークをつけたからと言って店頭で売れるわけではないという問題は、たぶん共通認識としてあると思います。川崎さんがおっしゃった、「Gマークを取って売るんだ」という方向や意思を、ナガオカさんは流通の現場にある身としてどのような思いで聞かれていましたか。ナガオカさんは、USED G MARKのカタログ巻頭文でも、流通の現場の話、売るということの話、作品でなくて製品、商品であるということを語っていますが。
   
ナガオカ: まず、ごもっともだと思います。自分の中で、辻褄が合わない、取り繕うようなお答えをいただいて、はらわたが煮えくり返るのではないかと半分予想していた面があったのですが。でも、USED G MARK東京展でトークショーに登場いただいた、日本産業デザイン振興会の青木理事からの「これはみんなで考えないといけないんだ」というお答え、そして今回の川崎さんのお話で、私はいらだちの半分が“ばさっ”となくなりました。しかし、疑問はまだあります。受賞企業がGマークを販促に使用すると費用が発生するじゃないですか。年間使用料があるので、売り場がGマーク商品として販売したいのに、当のメーカーはGマークをつけていないということがある。これはどうしたらいいのでしょうか。
   
川崎: 僕も伝統工芸の分野を手掛けていますが、こういうところはパッケージをつくるお金すらありません。みんなにグッドデザイン賞を目指せと言って努力させて、晴れて受賞して帰ってきた。ところが、そこでGマークを使おうと思ったら、パッケージ代よりかかってしまう。職人さんたちはこう言うんです。「俺たちはGマークを取った。テレビでは車などがGマークを取ったといって、Gマークがバンと出てくる。俺たちはGマークを取ったけれども同格じゃないじゃないか」。だから申し訳ないけれども、ちょっとがまんしてくれと言う。それは、受賞後10年経過すれば、Gマークは無料で使えるようになるという仕組みを作ったんです。

ただ、10年売り続けられる商品は本当に少ない。自分がやっているものでも、1996年に発売したCRTは、形は一切かえずにモデルチェンジなしでやってきて、これが2006年まで持てばロングライフデザイン賞の応募資格が発生するわけですが、実はCRTというディバイス自体の供給が2006年まで持たない。2002年くらいから工場がCRTをつくらなくなってきた。そういう事情があって、技術進化が激しいものは10年持たせることが事実上できない。そういうこともあるのですが、受賞後10年を経過していれば、Gマークを無料で使えるということをもっと多くの企業の方に利用していただきたいと思います。また、事務局が提供するシールには、使用料が発生しません。これをパッケージに貼って使うだけであれば、シール代だけですみますので、こういう仕組みも活用していただきたい。

Gマークを使いやすくするという問題がある一方、グッドデザイン賞事業の収支の面は、とんとんの状態です。ドイツではGマークに匹敵するものでiF賞があります。これは1回賞を取ると一商品だけで60万ぐらいかかる。一方、グッドデザイン賞は小さくて安価なものであれば、Gマークの使用料を含めてもこの3分の1で済んでしまう。iF賞のようににお金を集めてしまうシステムをGマークでもつくろうではないかということで、いろいろ模索はしていますが、そうすると小さな企業がGマークを使いにくくなるという問題に直面してしまう。そういう意味では努力と模索を続けて、Gマークがある種のブランドとして認知されるようにもっていけるといい。しかし、そこにいたるには、まだ時間がかかるだろうと思います。僕はこれを、育てていきたいと言い続けてきました。
   
山本: 先日、東京のD&DEPARTMENTで開催されたUSED G MARKのトークショーで、会場の方に「Gマークを使うことにお金がかかるのを知っていましたかと」聞いてみたら、ほとんどの人が知りませんでした。Gマークは審査してもらうのにもお金がかかりますし、書類審査を通ると現品審査会場の場所代もかかりますし、2次審査を通った時点で年鑑への掲載料が発生します。Gマークを販促に使うのにも10万円から100万円かかる。一般的には、賞や大賞を取ると「おめでとうございます。賞金100万円です」といったように、お金をもらえるのが普通ですが、Gマークの場合、賞をもらう側が逆にお金を払っているわけです。わざわざお金を払って出品しておきながら、「なんだかこの賞はおかしい」と言っている人もいる。じゃあ、出品しなければいいじゃないかと思うけれども、やはり出品を続けている。これは奇妙な現象です。

こうした様々な不思議を抱えたグッドデザイン賞を称して、ナガオカケンメイさんは、「未確認飛行物体」と表現しました。いきなりビームがピーッと飛んで来て殺されてしまうのではないかと(笑)。その化け物的なところ、未確認飛行物体の実態は何なのかということが、外側からはなかなか見えてこない。ところが今日、川崎さんをお迎えして徐々にクリアになってきた部分があります。川崎さんは、Gマークはある種のベンチマークであるとおっしゃった。「Gマークを取れないものは世の中に出してはいけない」、現在のところ、これは最低基準であると。
   
川崎: 1998年にグッドデザイン賞事業が民営化されたときに、制度ということはいったい何なのかということを、徹底的に検証してみようと調べていったら、話が荻生徂徠まで戻るということが分かった。荻生徂徠は『政談』ということで制度論を提示しました。制度というのは、日本の場合は罰することだった。要は「こういうことをしたらこれだけ罰金を取るぞ」というようなことです。外国語で言うとサンクションという言葉になりますが、これは誉めてあげる、「あなたはこんなにいいことをしたのだから誉めてあげよう」という意味合いがある。この二つの考え方をGマークに援用してみると、まず応募してください。お金をいただいて審査をします。それで、あなたのは残念な結果に終わりましたといった場合は、このお金がある意味、取り上げられるわけです。つまり、罰している。もう一つは、優れたデザインでした、グッドデザイン賞を受賞しました。Gマークをお使いください。ただしお金を払ってください。誉めているけれども、お金まで払ってこの賞をもらったのだから、あなた方はこのブランドを擁して売ってくださいということです。日本人というのは、それだけ金を取っているのだから、これを運営しているところがちゃんと宣伝してやれよという。でも、そうではない、お金まで払ってGマークを使ったら、自分たちでそれを活用する方法を開発してくださいという話です。自分たちだけで「これはグッドデザインだ」と言っているのではなく、審査委員が寄ってたかって「グッドデザインだね」と言ってくれた。僕は、それを背負い込んで、自分たちの力で、投入した費用以上を稼いでほしい。それだけのことを適切にプロモーションできたら、日本人に美的な感覚がつくと思います。「グッドデザインとは何ですか」とよく聞かれますが、「Gマークがついているものがグッドデザインだ」と思ってくださいと言うことにしています。僕は、ものを買うときにGマークがついていたら、悩まずにそれを購入できるというぐらいのものにしていきたいと考えています。

このようなことを言うようになったのは、僕が審査委員長になってからです。そこを言ってしまったものだから、企業としては罰せられるようなところに応募できるかという話になります。ただ、Gマークはベンチマークであるいうことに大賛成してくれている企業が増えてきました。これがデザイン振興の根本だと思っています。
   
ナガオカ: 感想になってしまいますが、たとえばロングライフデザイン賞を受賞しているようなものを、私が店頭で売りたいと思うのであれば、ただなんだから使いなさいよとメーカーさんに言うべきだと思いました。また、川崎先生からブランドという言葉が何度か出てきましたが、Gマークはある種、共同でブランド価値をつくる運動なんだということが、なんとなく見えてきた。話しはそれてしまいますが、もし仮にGマークのような仕組みがなかったとしたら、誰かがこんなのがあったらいいねと言い出すことでしょう。そこで、じゃあ、やってみようという話しになって、10社集まってやってみようというと、必然的にお金がかかるようなことになる。そうしてスタートして成長していこうとすると、実力と名声を備えた審査委員の人たちを引き込んで盛り上げないといけない。そうしてどんどん規模が大きくなっていったときに、未確認飛行物体のような様相を呈するのだろう。そう思いました。

今日はスピーカーというよりは、聞き手側として勉強するようなつもりになってしまいましたが、このGマークという仕組みは、デザインを愛好するものとして、一緒に盛り上げていかないといけないものなのだなということが分かった。いままでそういうケースがあまりにもなかっただけで、売り場としてメーカーに、ロングライフだったらもっと使いましょうよという話をしていくべきだなと思いました。
   
山本: 川崎審査委員長とナガオカさん、このお二人が揃った場面でしか聞けないことを一つお聞ききしたいと思います。D&DEPARTMENTがグッドデザイン賞の審査委員長特別賞、つまり川崎委員長が与えた賞を取っている。ナガオカさんは、「Gマークはおかしいと思います」と公言している方です。そういう人にどうして審査委員長特別賞を出したのですか。
   
川崎: 個人的には、D&DEPARTMENTの活動に強い共感を持っています。過去に同じ様な試みはあったわけですが、結局のところ続かなった。そうした中で、世の中から消えつつあるような商品、大変にもったいないと思われているデザインがどこかに集結してくれないものかなと思っているタイミングに、ナガオカさんがぼんと、そのビジネスモデルを出してきたということです。審査のときは、僕はオブザーバーですので、あくまでも審査は審査委員が行う。この審査担当のグループの審査委員たちの話しをずっと聞いていて、終わったときに「君たちがこれを特別賞に選ばなかったら、僕が特別賞を贈る」という話をしました。この根底にあるものは、Gマークになっているものすべてが本当にグッドデザインであるかというと、実際のところは取りこぼしもあるし、何年か経ったあとになって、「しまった」と思うものもあるわけです。自分のデザイン活動を通しても、非常に新しい素材が出てきて、これを使ったらいいものがつくれるなと思って一生懸命デザインした。しばらくたって廃棄されるころになったら、ダイオキシンが大量に出てくるということが判明したりする。逆にいえば、審査当時は受賞はしたものの、そう高い評価ではなかったものを、しばらくの時を経て再度見直してみると、非常に良いモノだと思えることがある。そういう、当時の評価を現在の視点からの評価と対比してみる、検証してみるということに大きな意義を感じています。

批判するという面については、Gマークの社会的意味性を非常に意識されているからこそ、詳しく批判ができるわけです。批判する人を仲間に取り込んでしまえという気持ちはさらさらありません。時代の中で批判する勢力の存在は絶対に不可欠です。これを対極に置いておかないと、アウフヘーベン、すなわち止揚していくことができない、上に上がっていかない。進化するためには強い向い風も必要なんです。何でもかんでも仲間内で仲良くという話では先がなくて、批判してくれる人こそ貴重で、そういう人たちに対して聞く耳を持っていなければならない。本音をぶつけあわせなければいけない。ある種、批判勢力さらに抵抗勢力かもしれない、だけれども、われわれとしては、批判している人のものだから悪いものだという視点はまったくありません。
   
山本: ナガオカさん、お釈迦さまの手の平で踊る孫悟空のような気持ちになっていませんか。Gマークを批判しようとしらたら、審査委員長から「批判は非常に重要だ」と言われて、特別賞までいただいてしまった。
   
ナガオカ: 私はこれで賞を取れたらこういうことだと解釈しようということが、いま聞けたわけですが、要はグッドデザイン賞自身が売ることに関して無頓着であったことを反省したということです。D&DEPARTMENTが、ものを販売するという根本的な仕組みがGマークをいただいたということは、Gマークは反省をしている、売り方にもっと興味を示さないといけないというふうに思ったんだな、やった、という解釈です。勝手かもしれませんが。
   
山本: 未確認飛行物体などと呼ばれてしまうのは、もともと通産省が選定制度としてやっていて、お役所や政治の影がどこかで何となくちらついているような気がするし、蚊帳の外の人間には雰囲気だけが伝わってきて、正体が見えないからではないでしょうか。
   
川崎: もともとは通産省の持ち物だったわけですが、僕らに言わせれば、そういうものはもうどうでも良くなった。建築や環境デザイン、コミュニケーションデザイン、新領域デザインと、グッドデザイン賞の間口を広げてきた背景には、デザインというものの領域が広がってきていることがあります。デザインは全部に関わることですので、これから日本産業デザイン振興会の「産業」も取ったほうがいい。それからGマークという制度をうまく利用しながら、デザイン省、あるいはデザイン庁でもいいけれども、そういうものをつくりたいという思いが、僕個人の夢としてはあるんです。それをつくらないと、デザインを主体として美しい街や豊かな生活をつくれないのではないでしょうか。
   
ナガオカ: 今年応募してみたりしてわかったのですが、グッドデザイン賞というのは、結構自由なものなんだなということです。たとえばUSED G MARKみたいな展覧会も、おもしろいからやってみろという感じでやらせていただいていると思います。これをやってすごく思ったのは、関係者が話しを聞いてくれるんだなということです。今回の展覧会のようなことから感触を見て、私たちが逆にGマークさんにこんなことをしたらどうかと提案をする。たとえば直接出資を募ることはできないと思いますので、私のほうで企業を集めて、全国に100店舗のGマークショップをつくるプランを提出するということも考えてみたい。
   
山本: でも、審査委員長が替わったら、変わるかもしれないですよ。次がナガオカケンメイだったらびっくりしますけれども(笑)。
   
ナガオカ: 川崎先生に審査会場で言ったのですが、私の夢はロングライフ賞の審査委員をD&DEPARTMENTがすることなんです。ナガオカケンメイ個人ではなく、ものを売るお店が審査に加わるというのもないかなと思っていて、とりあえずそれを目指そうと。その前に、Gマークを取ったらよく売れるということを考えてみる必要がありそうですね。Gマークを取ったから売れるという構図を消極的に待っているだけでなく、デザインのいいものを売る仕組みや売る意識を持って売ればいいんだと思いますし、そのためにこのD&DEPARTMENTはあるわけです。そういう意味では、私たちもそういう意識で頑張るので、たとえばインハウスのデザイナーの方やいろいろな方もこういう場所をうまく使ってもらって、うまく協力していって、Gマークを取れるようにプロモーションしようやということがあってもいいかなと思います。
   
山本: 川崎さんが審査委員長に就任されたとき、正直、私はびっくりしました。川崎さんはGマーク審査員の50歳定年説を唱えられていたし、そもそも、在野にあって体制を批判する立場にある人だと思っていたからです。なぜ、審査委員長を引き受けられたのですか? そして、この3年間で、何をされようと思ったのですか。3年間、審査委員長を務められての手応えについて、一言いただければと思います。私としては、今日の川崎さんのお話を伺って、3年ではまだ物足りない、川崎さんのやりたいことを達成するには、3年で辞めてしまうのはもったいないと思うのですが。
   
川崎: 実は審査委員長を引き受けることを決意したのには二つ理由があって、一つは僕の上の世代、60代ぐらいの人はみんないい思いをしてきている。僕は団塊の世代ですが、個人的なことを言うと、自分の同級生が二人、自殺しています。一人はばりばりのキャリアが自殺した。もう一人は地方の研究員でやってきたのが、突然管理職になって自殺した。その事実に対して、上の世代が何をやってきたのかと憤りを感じた。翻って僕らより下の世代に僕がなにをしてやれるのか。これは誰かがリーダーシップは取らなければいけない、引っ込んではいられないから、その話をもらったときに、よし、手を挙げようと思った。ここはリーダーシップを取って、その代わり僕がやる限りは日本産業デザイン振興会にも、あんなこと、こんなこと、全部突きつけていくよということを了承してもらって引き受けた。そういう中で共通点は、どう考えていっても日本の街をよくするためには、デザインをよくするためには、国家が持っているこの制度をうまく僕らの中に引き込んでしまう必要がある。そのためにはあえて自分もテレビに出て、そのときは必ずGマークの話をすることにしようと決意した。

僕が審査委員長になったとき、やってみたいと思っていたことは審査委員の世代交代でした。それはある程度達成できましたが、次の若い世代、40代や30代後半の審査委員の審査を見ていると、危なっかしいなと思えることが山ほどあります。そういう意味では、この3年で身を引くことが本当に正しいのかどうか、自分の中でもずいぶん悶々としました。しかし、そうではなく、今度は外側からかつての審査委員長としてかかわる。よく「院政を敷くんじゃないか」と言われますが、僕は中曽根さんじゃないよと(笑)。人間、とりわけ日本男児は、どこかで「潔さ」が必要です。
   
山本: そろそろ終わりが近付いてきましたので、ここで会場からの質問を受け付けたいと思います。
   
質問: 私はいま19歳ですが、いままでの話を聞いて19歳なりに考えたり、難しいなと思ったりしたことがありました。いま私もデザインの勉強をしていますので、参考までに聞きたいのです。19歳のときはどういう感じでしたか(笑)。目指すものがあったのか、どういうふうに考えていたのか。お二人に聞きたいのです。
   
山本: では、最後のまとめとして、今のご質問に少し付け加えさせていただきます。19歳の頃は何をしていましたか。そして、Gマーク初体験は何歳くらいのときですか。まずは、ナガオカさん。
   
ナガオカ: 19歳のときは不動産のチラシをつくっていました。工業高校を出て、18歳のときにグラフィックデザイナーに憧れ、上京しました。色指定も文字指定も何もわからない状態で、時給550円ぐらいで働きながら、デザインの勉強をしていました。Gマークはすごくいいものであるという漠然とした認識しかありませんでしたね。それと、マークをデザインしたのが亀倉雄策先生だったというところしか接点はありません。ですので、本格的なのは、今回のグッドデザイン賞への応募でしょうか。
   
山本: では、川崎さんの19歳のとき、そしてGマーク初体験はいつになるのでしょうか。
   
川崎: 19才の頃というのは、たしか大阪で浪人していたと思います。予備校で、国公立の医学進学コースにいました。その当時、いまはやっていますが『白い巨塔』という小説を読んでしまったものだから、医者になるのどうしようかなと迷っていた。そこで横尾忠則のポスターと出会って、こっちのほうが仕事が楽そうだなと漠然と思って美術学校を選んでしまった。金沢美術工芸大学に入学して、男だから工業デザインを選んだだけで、入ってみたらみんなものすごく絵がうまい。みんな車の絵を描いているので、「なんでみんな車の絵を描いてるの?」と言ったら、「え?」と周りから聞かれた。ここはカーデザイナーになるやつが来る学校だと聞いて、「カーデザインて何?」と聞いたのが19歳とか20歳ぐらいです。お恥ずかしながら、そんなもんですよ(笑)。

Gマークの初体験は、東芝でのインハウスデザイナー時代にGマークの申請書類を書く役割としてですかね。どちらかというと文章が書けたので、その季節になると僕のところに応募の記入用紙がどさっと回ってくる。回ってくると、「こうやって書いておけば大丈夫」という勘所をつかんでいましたので、自分が属しているチームものは必ずGマークを取るよう仕向けて、そうでないチームはちょっとだけ手を抜かせていただきました(笑)。東芝時代は、Gマークの発表のあとの朝礼で、真っ赤なGと入った表彰状がデザインの担当者に配られます。それをかるたを集めるように、何枚持って返れるかということを楽しみにしていました。150人のデザイナーがいる中で、「また今年も俺が1位か」(笑)。そういうようなゲームでした。
   
山本: Gマークはそれだけ歴史があるということで、大きな変化もあるし、未確認飛行物体にならざるをえない歴史と規模と生い立ち、事情、いろいろなことがあると思います。本日はその一部でもクリアになって、とてもいい会でした。この3年間、グッドデザイン賞の審査委員長を務められた川崎和男さん、そして、D&DEPARTMENT代表のナガオカケンメイさんとGマークについて対談をさせていただきました。皆さん、最後までどうもありがとうございました。
   
(2003年12月5日 大阪市西区のD&DEPARTMENT大阪店にて収録)
   
●山本 雅也
デザインジャーナリスト

●ナガオカケンメイ
ディアンドデパートメントプロジェクト 代表

●川崎 和男
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授
大阪大学大学院 フロンティア研究機構 特任教授
2003年度グッドデザイン賞審査委員長
   
デザインジャーナリスト・山本雅也氏のHP:
http://homepage1.nifty.com/design/
D&DEPARTMENTのHP:
http://www.d-department.jp/
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/