川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

御園: 今回いただいたどの賞もデザイン部門だけの成果だとは考えていません。ラウムもG-BOOK対応のナビも、当社の人間工学部門がデザインと密接な関連を持って共働していますので、そういう意味ではデザインだけの賞ではなく、一緒にやってきた実験部門の人たちと一緒に褒めていただいたんだなと思っています。特にプリウスとラウムについてはそれぞれ2代目ですが、2代目のデザインというのは非常に難しい面があります。初代のイメージに囚われすぎて失敗することが多いのですが、そういう意味では両方とも良い進化ができたと自画自賛しています。

プリウスの場合ははっきりしていて、初代はとにかくハイブリッドというコンポーネントを初めて量産ベースに乗せようとしたのが主要なコンセプトでした。そのためにどういう車にしたらいいかということで、パッケージングから考えていったわけです。もちろんこの部分は重要なのですが、同時に、背の高いセダンというコンセプトを一緒にやったことが、一番ユニークな点だと考えています。ハイブリッドのコンポーネントというのはパワートレインだけの話ですから、極端なことを言えばカローラにも載せられるわけです。それをわざわざボディを一つ起こして、ぜひとも新しいパッケージングの車にしたいということで、デザイン部門が一生懸命取り組みました。振り返れば、ああいう新しいパッケージングで新しい名前をつけて世に出さなかったら、あれだけのインパクトはなかったのではないかという気がします。

初代のプリウスは、たまたま私がアメリカのデザイン子会社のキャルティデザインに副社長としているときに開発されたのですが、当初から「普通の車とは違う、新しい時代の車なんだ」というイメージでデザインを進めています。パッケージングがそれまでとはまったく違いますし、スタイリングもまったく違うというものを確信犯的に練り上げていった。社内に「ビートトヨタ」(打倒トヨタ)という言葉があるのですが、プリウスの場合、その感覚をとりわけ強く持っていました。評価の良い悪いはもちろんあると思いますが、そういう意味ではまったく違う車をつくろうという意識を強く持っていたのは確かです。

セールスの面で言えば、価格の面で割高だという印象をどうしても拭いきれなかった。特に日本はそういう傾向が強いのですが、乗用車の価値はサイズに比例するんです。これはインテリアのサイズではなく、外形サイズでヒエラルキーができている。そうやって見てみるとプリウスはサイズ的にはカローラとほぼ同じで、エンジンの排気量は1.5リッターしかない。そこでなぜこの車でマークIIクラスの値段になるのかということをお客さまに納得していただくのには難しい面があった。

今回のプリウスでは、この値段で納得してもらえるものにしなければいけないということが大きな課題としてありました。あの値段でお客さまに納得していただける立派さが必要だろう。ただ、立派にするといっても、こういう性格の車だから、あまり大きくしたくない。けれど室内は広くしたい。こうしたことがデザインとしてのチャレンジだったと思います。それから、1代目のセダンスタイルにこだわらななくても良いのではないかという意識が強かった。通常、2代目プリウスのような5ドアのハッチバックは重量的に不利です。セダンに比べると後ろのドアの分だけ重くなりますし、燃費効率も落ちる。もちろんコストも余分にかかります。しかし、あえて普通のセダンではなく、むしろセダンの進化型を示したいということを考えた。営業的な面での要件とセダンの進化型を示したいということ、この二つは開発当初から固まっていた考え方でした。技術的な面では、動力性能でのパフォーマンスがだんだんよくなってきたものですから、ハイブリッド=エコではなく、エコ+ドライビングファンと言いたいという考えがあった。この三つが開発の大きな柱でしたね。

それから当然のことながら初代ラウムでユニバーサルデザイン賞をいただいたので、ああいった考え方は当然プリウスにも入れていきたい。「ユニバーサルデザインインデックス」という考え方を当社の人間工学の人たちがつくりだしてきましたので、それを評価尺度に活用しながら開発に役立てました。
   
川崎: 実はもう公開できますが、グランプリ候補を選出するにあたっては、プリウスとラウムの両方の名前が挙がっていたんです。個人的には甲乙つけがたいものでしたので、両方をグランプリ候補にして良いのではないかという意見でしたが、やはり5点のグランプリ候補に乗用車が2台あるのは基準も不明快になるかもしれないという話しがありましたので、どちらかを選ぶということになった。結果的には、ユニバーサルデザイン賞の目玉ということがありましたので、ラウムをグランプリ候補から外すことになりました。国家戦略的なことを考えると、車はT型フォードを起点にすると、ちょうど100年ほどの歴史を持っています。これはつまり石油文明の歴史ともいえますが、いま世界各地で起こっている問題の核心には石油があるといってもいい。プリウスには、ものづくりの世界からこうした世界的なテロ問題の根幹を解決できる、ようやくその出口が見えてきたという、期待感を持てる。それが日本から発信できるということでいけば、審査委員長としてはプリウスこそグランプリ候補に相応しいと考えました。

失礼ながら、私は初代のプリウスに強い魅力は感じなかったのですが、今回のプリウスは独特な外観もさることながら、システムは格段の進化を遂げたものになっているし、非常にびっくりしました。同時に自分がいままで持ってきた車に対するまなざしが大きく変わったことを実感しました。「これからはこっちだな」と直感したんです。お恥ずかしい話しですが、マイバッハに興味を持っていたのですが、プリウスを見てすっかり熱が冷めてしまいました。プリウスみたいな車が欲しいと強く思うようになったんです。僕はいまキャデラックのロングリムジンやベンツに乗っていますが、プリウスにならないか、トヨタさんに持ち込んで改修していただけとスタッフにむちゃくちゃ言ったりしている(笑)。
   
御園: そう言っていただけると嬉しいですね。エコロジー、ユニバーサル、インタラクションという三つの言葉は、日本のものづくりの一番重要なポイントを表しているのではないかと思います。プリウスはもちろん環境問題ですが、環境だけではなく、車のおもしろさ、楽しさみたいなものを充実させることを目指している。ラウムについてはユニバーサルデザインを目指していますし、ナビについても日本の得意な領域で、日本はこうした分野をものづくりの中心にしていかなければいけないのだろうと思います。ここで本当の意味での日本人の独創性をしっかり出していって、競争力のあるものをつくっていかなければいけないと思うんです。

社内でもよく言っていますが、ものづくりというのは、常に二律背反する要件をひとつにまとめようとしている。プリウスの場合は環境問題と走りの性能、ラウムで言えばコンパクトなサイズと乗りやすい車をつくるということです。そういう工夫のようなことがこれからの日本のものづくりのポイントかなと思うんです。そういう意味で今回グッドデザイン賞を特別賞を受賞した3件は、典型的な事例だと思いますし、そこを評価していただいたのは大変嬉しいことだと思っています。
   
川崎: トヨタさんの社風、純粋に日本の企業のあり方を堅持しながら、あるいは保持しながら、日本人固有の発想で技術をここまで昇華して世界に訴えたということは、日本人として非常に誇れることだと考えます。カローラで100年間のガソリン自動車の集大成を示し終えられたと思いますし、その次の指針をプリウスとラウムが明確に示してくれました。Gマークには「未来を拓くデザイン」という評価基準がありますが、これを一番指し示してくれたのがこの2台だろうと思います。乗用車というのはプロダクトデザインの象徴と呼べるものですから、ことに特別賞に関しては、非常に一般的にも厳しい目で見られます。これがいつも評価が分かれてもめるんですが、今回の場合は非常に早かった。それは優れたデザイン、未来を拓くデザインが一目瞭然だったということが言えます。

インダストリアルデザインが対象にしているものはツールの世界とメディアの世界があって、車はもうメディアの世界に存在していると考えています。同じ車に乗っているというだけで見知らぬ人同士が共感を覚えたり、車の選び方がその人のライフスタイルを象徴することもあるから、単純に走る道具としての機能を車に求めている時代は終わった。こうしたことがメディアとしての車の価値だと思っています。自分の中でも車選びは難しいと思っていて、しばらく乗ってみて、やっぱりどうも馴染まないなというときに何だろうと考えると、ツールとしか見ていないことが多い。ハイブリッドカーというのは、とりわけメディア的な価値が高いと思いますし、この出現によって、車はますますメディア化が加速するのではないかと思っています。
   
御園: おっしゃるとおり、メディア的な側面が強くなってきている感覚はありますし、インダストリアルデザインではないのかなと思うようなところがあるのは確かです。ファッション性が非常に強いということ、いろいろな意味で擬人化されるといった要素が多くあって、純粋なインダストリアルデザインと分類しきれない面がある。だから、グッドデザイン賞の審査においてもいろいろな方がいろいろな意見を言って、なかなかまとまりにくいことがあるのではないかと想像します。

特にハイブリッドカーというのは技術的なアドバンス性、効用はもちろんですが、現在のところハイブリッドカーに乗っているということそれ自体が一つのメッセージになっている。ここはいままでの車の概念とは少し違った意味合いが加わってきたように感じています。ただ非常に冷たい言い方をすれば、ハイブリッドエンジンはパワーユニットの一つにすぎない。それは非常に新しいかたちのパワープラントですが、当然のことながら、これから様々な車に展開していくわけです。すでにエスティマが出ていますし、次はハリアーに積みますし、現実にいまどんどん計画が進んでいて、いろいろな車にハイブリットエンジンを展開していきます。そうした計画が進んでも、プリウスのハイブリッドカーの象徴としての位置づけは変わらないはずですし、これは運命づけられているとも言えます。われわれはそういうふうにプリウスを扱っていきたいから、ハイブリッドカーの新しい実験はいろいろな意味でまずプリウスでやっていきたい。そういうふうにとらえています。

ハイブリッドの性能も向上してきていますので、極端なことを言えば4気筒エンジンのハイブリッドでV6エンジンと同じようなパワーが楽しめるわけです。そういう意味では画期的な技術だと思いますが、商売としてもうちょっと利益が上がるようにしたいですね(笑)。
   
川崎: たしかに、あの内容でナビシステムをつけて250万円という値段は、僕は安すぎるとびっくりしましたね。そういうことがありますが、プリウスのようなものが、かつてのウォークマンのようにハイブリッドカーのブランドに育ってくれると一番いいと思うんです。日本のものづくりのブランディングは何だというところの根本は、やはりモノから進展させていくべきだと考えています。同様にラウムもユニバーサルデザインのブランドになってくれると一番いい。そしてそれらをG-BOOKで情報制御するとなると、新しい交通システム、あるいはシステム交通を生み出せそうです。そういう意味で、トヨタさんの企業戦略が非常に明確に出てきたのではないか。プリウスには、環境問題を考えると車のことは真剣に考え直さないといけないと思わせるメッセージ性がありますよね。自分もデザイナーですから、そこにメーカー自らが先導してひとつの解答を示すということは、インダストリアルデザインにとっても、これからのデザイン解決による解答のメッセージ性があると考えます。

今後ハイブリッドカーからバッテリー自動車に替わっていくときには社会のインフラは当然変わっていくでしょう。一方でG-BOOKは通信インフラそのものも変えてしまうような情報のネットワークになっているわけです。大メーカーがそういうところにちゃんと手をかけられていることに対して、今度は技術や社会のインフラに対応していけるのかという、デザイナーの能力の問題もあるのではないかと思うんです。
   
御園: 2001年にせんだいメディアテークがグッドデザイン大賞を取られて、当社のソアラが金賞になったのですが、そのときにヤマハ発動機さんが仮設プール「水夢21」で金賞を受賞されましたよね。この3点はいずれも大賞候補だったわけですが、私にとってはこの仮設プールが非常に印象的だった。

なぜ印象的だったのかというと、あれは必要なイベントがあるときに組み立てるものだから陸上競技場であろうと空き地であろうと、どこにでもつくれる。そしてその必要な期間が過ぎれば撤去すればいい。この発想は、地方自治体の箱物行政という考え方を変えるきっかけになるかもしれないという話があって、なるほどと思ったからです。これは社会の仕組みそのもの、政治の考え方みたいなものまでを変えるきっかけになる製品だろうと思って、非常に興味深く見ていました。翻って車はどうかと考えてみると、われわれはそこまでの発想はまだしていないなと、つくづく反省させられましたね。
   
川崎: その仮設プールはグランプリ候補として非常に前評判が良かった。僕から見ていても、あのプールは地方の行政をこれから変えていくだろうと感じた。ところがせんだいメディアテークは、すでに変えてしまっていたんです。僕も現場に視察にいって、これは、建築がメディア化という計画に、デザイン界はしてやられたなと思いました。言ってみれば、あの建物それ自体は公民館ですけど、従来のものとはまったく異なっている。ハードウエア的な面では、たとえば定禅寺通りと床の高さが10mmも違わないんです。細かいことですが、ソフトウエア的な面では、中に置いてある書籍や雑誌も、ベストセラーはベストセラーに応じて何冊か用意していて、汚れると捨ててしまう。図書館というのは図書館法でそういうことはしていけないことになっていますし、普通は1冊しか置かない。それから各階ごとに管理体制が違う。これはもうそんな制度的な古くささを変えてしまったんです。ただ、これは「市」という単位だからこそできたことで、それが国であれば実現できませんが、市が特別な条例の下にそれをやってしまった。これは必ずしも建築のデザインがよかったわけではなく、ソフトウェアとハードウェアの刷新によって、建築というモノの存在が社会での「存在性そのもの」を変えてしまったということです。

ヤマハさんの仮設プールは「これから」変えるであろうということでしたが、せんだいメディアテークは「すでに」変えてしまっていた。ここに大きな違いがありました。これを大賞に選んだ次の年、メディアテークのどこがいいんだとID業界からさんざん、私は叩かれましたけどね(笑)。
   
御園: 今回プリウスを評価していただいたのも、そういう観点があったからだと思っています。要するに社会や環境という要素との連続性を持たずに、製品単体として完結していたら、大賞の候補にはならないだろうということです。その製品が世に出ることによって、どういう影響を与えていくか、既存の仕組みを変えるきっかけになるか、そういうことを感じさせるぐらいのものであってほしいというのが、たぶん大賞のイメージではないかなと私は勝手に思っているんです。だからこそ、今回大賞を受賞したことは大変ありがたく思っています。
   
川崎: 技術の進化もあると思うんですが、技術の集大成、21世紀のデザインの結晶体がやっと出てきたという感じでした。今回の大賞候補はすべてがプロダクト系になったのですが、たとえば洗濯機やクリーナー一つにしても、どれぐらいエコロジー性があって、ユニバーサル性があって、これまでとどう違うのか。パッソルも非常に優れたデザインですし、ビクターのビデオカメラもインターフェイスがマニアックな面でたいへん優れていた。そうした中で焦点となったのは、インダストリアルデザイン、プロダクトデザインが、技術を利用しながら世の中を形でどう変えていくだろうというところだったのだと考えます。そこで、プリウスがその象徴になったということはよかったと思いますね。

さて、インタラクションデザイン賞を受賞したのは、G-BOOKという情報サービスに対応した車載用の端末についてお話をうかがいたいと思います。ETCは僕のような障害者にこそ一番ありがたい仕組みなのですが、現状だと使えないものになっている。僕たちには料金の割り引き制度があるのですが、ETCのシステムがその制度に対応していないため、通常の有人ゲートを使うしかないとか、面倒くさいことになっています。ようやく変化の兆しが見え始めてはいますが。日本の交通システムに関しては、今後の交通システム、システム交通というのがまだ見えていない人が相当いるように感じます。そうしたことがある中で、日本の場合は携帯電話という特殊なものが非常に進化してきた。それとともに今度はG-BOOKというサービスが現れてきた。このG-BOOK、携帯電話、車という組み合わせは、日本独自の電子立国から世界への発信のきっかけになると感じています。一般の人にG-BOOKはまだわからないかもしれないけど、車にこれが付いているとものすごく、未来が身近に感じられるようになると思うんですね。
   
御園: いまのところは、携帯電話を使っていますから通信速度が気になるところですが、G-BOOKのサービスについては、これもある意味で人の動きを変えてしまうのではないかと思っている点があります。たとえば交通渋滞の予測が進化していますから、1年を通して、何月何日の何時ごろ、このポイントはこのぐらいの混み具合になるというデータを出せるわけです。いま研究をしていますが、経年の情報がありますし、これを総合してやると非常に精度の高い渋滞情報が出せます。いまの迂回路は単純にやっているだけですが、渋滞状況を見ながら迂回路を出してくれると、いろいろなことが非常にきめ細かくできるようになります。これはG-BOOKで絶対にできるようになります。多くの人たちがこれを使うようになると、必然的に渋滞を迂回するようになるから、人の動きがすべて変わってくる。逆に言うと、その情報は役に立たなくなるかもしれませんがね(笑)。

それが簡単にできるというのが一番重要なポイントです。技術者はしばしば難しいことを難しくやるように考えますから、難しいことを簡単にやるのが技術じゃないのといつも議論するんですけどね。
   
川崎: G-BOOKの進化型を考えると、町から交通標識が消える日が来るのではないかと思う。ここから先は一方通行ですとか、ここは駐停車禁止区域ですとか、あるいは近くに子どもがいたりすると、それを知らせてくれるとか、病人を乗せているときにもその連絡が取り合えるといったことですね。G-BOOKの将来像には、町の中にある煩わしい信号機や交通標識が消える日というのが何となく見えているわけです。このようなG-BOOKの将来を情報工学的に見ていけば、スピードの問題とコンテンツの問題からコンテクストの問題、それから走っているときにどれだけ情報が受けられるかという問題がある。日本はこれから携帯電話だけではちょっと苦しいなと思っているところに、自動車業界がIT産業に加わることで非常に期待できると見ているんです。

これもインタフェースデザインという観点から見ると、これに携わるデザイナーをどう育てればいいのか。すべてそうなんですが、今後これまでのようなカーデザイナーとは明らかに違う能力が必要とされそうですね。
   
御園: ちょっと違う領域の人間が必要になっていますよね。いまはこのようなインタラクションデザインの領域は、車のデザイナーとして入社してきた人たちを回しているわけです。いまその人たちが一生懸命勉強してやってくれていますが、それだけではたぶん足りなくなるときが訪れる。一方で、デザイナーは特に情報関係では専門の技術者と一緒に仕事をしていますが、技術者というのは一般的に、作れるものを作ろうとします。とくに情報関係はその傾向が強く、ある範囲の中で自己完結してしまう。車の中で使うようなものは特に簡単に使えなくてはいけないはずですが、なかなかそういう視点はもってもらえない。ある意味では、難しいことを難しくやるようなものを考えてしまう。こういう分野の開発では、うまくチームワークを組んでやるしかないのですが、デザイナーはこの領域のことをよく理解していないと意見も言えない。そういう点で、いままでのデザイナーとは異なった専門性が絶対に必要になると考えています。また、このようなチームにデザイナーがどんどん入っていって、刺激を与えていかないといけないのではないかなと思っています。
   
川崎: 僕は学者の世界にもいるわけです。そこから眺めてみると、日本の情報工学はなってないと思っているんです。情報を扱うことに関しては、大学の情報工学は遅れている。むしろ機械工学といった他の分野で情報工学的な手法なり知識を取り入られた先生方のほうが素晴らしいことをしている。情報が必要だからと自分で取り入れた人たちのほうが伸びているんです。お医者さんの世界でもそうです。いま医療情報という講座があって、心臓外科や放射線の先生方が多い。これからは論文の書き方も、医療情報学的な形式に変わるだろうといわれるぐらい、医学の世界でも情報工学的な切り換えが起こってきている。これまでは内科、外科が力を持っていましたが、医療情報学が急速に注目を集めつつあります。外科もコンピュータ外科学会に統合化が進展しています。

21世紀はこうした領域が中心になってくるはずですので、G-BOOKはインタラクションデザイン賞ですが、ひょっとするとG-BOOKからもう一回ラウムを見直す、プリウスを見直すという逆転がありうるなという気がしますね。そういう意味ではトヨタさんは、エコロジーデザイン、ユニバーサルデザイン、インタラクションデザインというテーマを見事に適切に押さえられていると思いますが、いかがですか。
   
御園: これはたまたまです。意識的に揃えたわけではなく、たまたま揃ったんです。G-BOOKはそれとしてやってきたんですが、本当のインタラクションデザイン、ナビの操作性などの骨格となるような部分は、当社の中にはかなり蓄積があったはずです。単純な話で言うと、ライティングスイッチとワイパースイッチの配置や、その操作性といった標準化の作業はずいぶん昔からきちんと取り組んできている。トヨタ車に乗ったら、だいたい同じところに同じ操作系があるということは徹底していて、これはずいぶん昔にスタンダードをつくっています。そういう考え方が根本にあるのでデザインのほうも、こういった新しいデバイスが入ってきたときも、これをどうやって標準化していこうかという発想になる。このようなデザインは、どのように標準化ができるかということが非常に大きなポイントになってきます。それはトヨタ自動車だけにとどまらないで、このシステム関係全体について日本の自動車全体の標準化、世界のISOなどを使った標準化にぜひ広げていきたいと思っています。

そうでないと本当の意味でお客さまのためにはならない。トヨタはトヨタ単独でできています。他社さんの車に乗ったら全然違いましたでは話にならないので、できるだけそういう方向で投げかけをして、お互いに協力していきたいなと思っています。ただ、標準化については、拙速というのはよくない。未熟なうちに標準化してしまうと、あとで大変苦労するし、お客さまに迷惑をかけることになります。しかしナビ関係は一つのパターンができあがってきていますので、そろそろ標準化の作業を始めてもいいのではないかと思っています。
   
川崎: 私の審査委員長、任期の最後に、プリウスが大賞になったということは、委員長として、そしてインダストリアルデザイナーとしては非常に良かったと思っています。本日はお忙しいところありがとうございました。
   
(2003年11月17日 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科にて収録)
   
●御園 秀一
トヨタ自動車株式会社 デザイン本部
グローバルデザイン統括部長/理事

●川崎 和男
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授
大阪大学大学院 フロンティア研究機構 特任教授
2003年度グッドデザイン賞審査委員長
   
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/