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| 名児耶: |
たかが輪ゴムと一言ですまされそうなモノを深く理解していただいていることに深く感謝しています。
アニマル・ラバーバンドは、デザイナーと私の会社であるアッシュコンセプトのコラボレーションにより生まれた初めての製品なんです。そもそもの出会いは、友人のデザイナーからの紹介でした。「名児耶さん、友人のデザイナーが、あるコンペに出した作品で、商品化してくれなくて、悩んでるんですよ。こんなのなんだけど」と手をパッと開いた中にアニマルラバーバンドのモックアップがあった。私は勉強不足でシャチハタのコンペを知らなかったので、見た瞬間「何よ、これ。輪ゴム?」と強く興味を引かれた。さまざまな大きさと形をした、ゾウ、ワニ、カバ、犬、アヒルなど、一筆書きの動物輪ゴムたちでした。「かわいいじゃない。誰がデザインしたの。会わせてほしい」と言って、すぐにお会いする機会をつくってもらいました。お会いして、パスキーデザインさんとお話をしているうちに、どんどん好きになっていき、すぐにでもつくりましょうということになったのです。
店頭でこれを買って下さる人たちを観察していると、にこっと笑ってくれない子はいません。私もそうだったのですが、このデザインの一番の特徴は、見てにこっと笑えるようなユーモアがあることだと思っています。 |
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| 川崎: |
僕はデザインというのは極めて日常的なところにあるものだと考えています。そこでのグッドデザインというものは最終的に、美しいもの、みんなの笑顔を引き出すようなものだと考えています。われわれデザイナーという職能は、そうした日常性を成立させるために重要な存在だと言っても過言ではないでしょう。僕が審査委員長を務めている3年間は、非常に悲しい事件が続きました。1年目は米国ワールドトレードセンターのテロ事件があって、2年目は拉致事件の問題が明らかになった。さらに今年に入ってからは、12歳の子が4歳の子をあやめるという事件が起こりました。それで審査委員団の中にも、Gマーク、グッドデザインが社会における問題とどういうかかわりを持つかという問題意識がありました。社会状況が徐々に悪化する中で、理想主義をその根本に据えるデザインだからこそ、理想をきっちりと語る場としてのGマーク制度は絶対に必要だろう。賞を出すことによって、日本にはまだこんなに豊かな発想があるということを社会に対して発信することが、この制度の一番重要な点だと考えてきました。
手に取って笑顔になれるというのはデザインの極致ですよね。それをどういう発想から展開されていったのかが興味深いところです。 |
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| 大橋: |
悩みに悩んでコンセプトが生まれたという感じではありませんでした。オリジナルのアニマルラバーバンドは、シャチハタのコンペに応募するにあたって、ステーショナリーという範囲の中で何をデザインしようかと考えているときに、羽根田が「輪ゴムは?」と。聞いた途端にこのアイデアに手応えを感じて、スタートしたという経緯があります。それで、「落ちていたら拾ってもらえるような輪ゴムがいいね」と話しました。 |
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| 羽根田: |
輪ゴムって子供のころから慣れ親しんでいるものですよね。伸びたり縮んだりしていろいろなものを縛ったりと実用的であるのと同時に、遊ぶのにも使えます。子供たちは輪ゴム単体でも遊びをつくりだしますし、割り箸を縛ってたりして鉄砲をつくったりと、遊び道具の一つとして活躍しています。私自身にももちろんそういう体験がありましたので、ステーショナリーと聞いたときに輪ゴムがいいな、と素直に直感的に思い付いた。最初に輪ゴムに対する愛着がポンと前に出てきたので、大橋に「輪ゴムはどう?」と聞いたら、すんなりと受け入れてもらえたので、すぐにどういう輪ゴムにするかという話になった。 |
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| 大橋: |
輪ゴムというのは、いつ買ったかは憶えていないけれども、つねに家の中のどこかにあるという存在で、大切には扱われないものです。使い捨てで、用がなくなれば捨てるか、どこかに置いたまま忘れ去られてしまいますし、それこそ床に落ちていたら掃除機で吸い取っても気にしないでしょう。それが落ちていることに気がついたら、ポケットに入れてもらえるようなものにすることができたら、正しくデザインしたことになるんじゃないかと考えました。落ちていても拾ってもらえる輪ゴムはまずないから、道端に落ちていても、しゃがんで手に取って見てみたいという欲求を持たせるようなデザインにしたいと考えました。そうしたものがもし仮に創ることができれば、それはちゃんとデザインされていることになるんじゃないか、つまり良いデザインなのではないかという話を2人でしましたね。 |
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| 川崎: |
コンペの審査員の人たちはそれを見抜いて「良い」としたけれども、コンペの主催である企業側はそこから先が読めなかったんだね。これはシャチハタさんに限ったことではなく、いまの日本企業全体の大きな問題にはなっていないだろうかと思います。
たしかに最近のコンペは商品化を前提にする形式が増えました。僕が審査委員をやっているところでは、和歌山県海南市でも実現を前提としたデザイン・コンペティションをやっています。ここは実現しているものもありますが、地場産地だと組合だから、お金がなくてなかなかできない。実現までの道のりはなかなか大変です。富山県でも商品化を前提に開催していますが、なかなか商品化、そして流通までは実現が難しいように聞いています。 |
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| 名児耶: |
日本にはデザインコンペがいくつもありますが、非常にデザイン力がある無名のデザイナーによって生み出され、グランプリを取るような優れたデザインのものでも、なかなか商品化には結びついていません。まさに絵に描いた餅で終わってしまっている。5年ほど前の話しですが、新宿のOZONEの萩原さん・石渡さんと「雑貨コンペ」というものを仕組んだことがあります。商品化を謳いながら、それを実現しないコンペが多いから、絶対に商品化を実現するコンペをやろうと。蓋をあけてみたら850名近い応募があって、びっくりしてしまいました。この経験から、有名ではない日本人デザイナーでも、非常に能力が高いということが良くわかった。海外でいろいろな方に会っても、自国のデザイナーより日本人のほうが優れているとよく言われます。これがなぜ在野に埋もれているのだろう。そうしたことから、こういう人たちを世に羽ばたかせてあげたい。日本のデザインはこんなにすごいんだぞと世界に伝えたいと思って、このアッシュコンセプトという会社をつくったんです。これが2年程前のことなのですが、最初に出会えたデザインが今回のアニマルラバーバンドだったということは、神さまに感謝するような気持ちでいます。 |
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| 川崎: |
そいういうデザインを名児耶さんが見つけられたわけですが、ひとつ心配なのは、一方でシャチハタさんのコンペでのデザイナーの権利はどのような扱いだったのですか。 |
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| 羽根田: |
シャチハタさんに製造権があるのは1年間だけだと募集要項に明記されていました。それで1年が過ぎて、「さあ、つくるぞ」という感じでした。 |
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| 大橋: |
寂しいことに製品化のお話は全然ありませんでしたね。コンペの授賞式のときに主催者の方といろいろお話をさせていただいたのですが、「輪ゴムが切れやすいので難しいですね」ということで、その時は製品化にあまり積極的ではありませんでした(笑)。そこで、1年間じっと我慢して、これを過ぎても話がないから、もう自由に動けると。この1年間は長く感じましたが、シャチハタさんのスタンスはデザイナーにとっても、また作品にとっても大切な配慮です。入賞者の意匠権や製造権を主催者に永続的に譲り渡してしまうかたちは、デザイナーにとって非常に辛い足かせになるからです。特にプロのデザイナーはそのあたり非常にシビアに見ていると思います。良い作品が集まるコンペには、それなりの理由があると思うのです。誰が審査員か気になりますし、また製品化を真剣に考え、ロイヤリティー契約を前提にしていれば、プロのデザイナーの応募者としては必然的に力が入るものです。シャチハタさんにはこのスタンスをぜひ守り通していただきたいと思います。 |
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| 羽根田: |
名児耶さんも権利に付いては非常に気にしていらっしゃいましたので、募集要項をコピーしお渡しし納得していただき、製造に着手していただきました。 |
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| 名児耶: |
商品化に当たっては、コンペで入賞したものそのままではなく形を煮詰めたり、いろいろなところに手を加えています。 |
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| 大橋: |
種類もコンペのときはワニやヘビがあったんですが、商品化が決まってからそれを絞る方向でセレクトしていきました。形も、毎日ちまちま、ちまちまとやっていました(笑)。 |
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| 羽根田: |
動物のフォルムは時間をかけて練り直して、コンペのときよりもさらにブラッシュアップしています。輪ゴムが切れないよう、カーブの急な所ではゴムの幅を広くしています。微妙な幅の差ではありますが、この幅の差が機能的に切れ難くしているのと同時に、輪ゴムの形の魅力にもなっています。 |
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| 川崎: |
いまの日本の実情からいって、Gマークの応募点数は増えたものの、日本のデザイン全体が本当に元気が出てきたかというと、そうではないようです。今年のグッドデザイン賞の受賞対象全体を眺めてみると、極めて地道で着実と言えて、派手さは控えめだったという印象を持っています。そういう中でアニマルラバーバンドは一輪の花を咲かせてくれました。「たかが輪ゴムじゃないか」とも言えますが、これほど日常的なものはないわけですし、日本中の輪ゴムがこんなかたちになってくれるとありがたいし、ほかの国に持っていってプレゼントしたりするのにもいい。取扱説明書にまで細かく気を配られていて、とても丁寧に造り込まれている。デザインによる商品化というのはここまでちゃんとやるべきだと思うんです。僕はよく言いますが、アイデアとしては輪ゴムを思いついただけ、それを形にして思い込んだだけですよね。思いついても思い込んでも、そんなものは思いつきでだめだ、思い込みすぎだからだめだという話ですが、アニマルラバーバンドの場合、そこを超えて思いやりまでが感じられますね。
今、日本製品が見失っているのは、こういう種類の思いやりだと思うんです。だから、安さだけに気が配られていて、見ていてどうしようもないモノがテレビ通販に現れてきたりする。それをデザイナーの力で何とか変えていきたい。僕は日本人のデザイナーはすごく優れた人が大勢いると思うけれども、企業内でつぶれている人やつぶされてしまっている人が多いんです。その意味ではデザインの力を象徴的に示す良いモノをつくっていただいて、そういう人たちにも自信を与えることになると思っています。 |
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| 名児耶: |
輪ゴムを大切にできる心が芽生えたら、ものを大事にしますよね。 |
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| 川崎: |
そうですね。80年代にアメリカへ行ったときに、アメリカの友人たちがたくさん鍵を持っているのを見て、「何だそんなに多くの鍵、マンションに入るのに鍵をそんなに開けるのか」と疑問に思ったものです。ところが今年の4月に自分のマンションのドアがバールでこじ開けられて泥棒に入られました。そんなことが起きたので、いまでは鍵が三つついています。警備会社と契約して、中に警報機までつけました。それくらい日本は不穏な国になりましたよね。その照り返しが子供たちにも現れているのではないかと思います。講演会でよく話すのですが、子供の世界は大人の世界を鏡写ししたものです。14歳以下の子は殺人をしないというこれまでの常識が共同幻想でしかなかったのかという不安を、われわれは抱えています。そういう社会不安に対してもデザイナーは何で支えてあげられるかというと、こういう輪ゴム一つでも支えてあげられますよ。ものを大切にすることが基本で、そこから人を大切にしていくことが始まる。それに対していままでの輪ゴムでは味気ないものね。
このパッケージは2種類あるようですが、カード型の方はPOPになっているわけですか。 |
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| 名児耶: |
POPを兼ねた商品です。パッケージに関してはグラフィックデザイナーの山本陽子さんという方にお願いましたが、世界中で売るために言葉でなく形で理解できるようなものを目指しています。取扱説明も、PL法に縛られた、「べからず集」的な表現はしたくない、生活者と製品がフレンドリーに接することができるようなかたちにしたいということをお願いしています。
メインとなる製品のパッケージは、6種類の動物が、スタンダードな色と半透明な色でそれぞれ2個づつ、透明のギフトボックスに合計で24個が入ったものにしたのですが、これだと、売り場に置かれたときに、中に入っているバンドひとつひとつのフォルムが判別しづらいんです。この問題が見えてきた時に、POP代わりにもなってくれ、ちょっとしたプレゼントにも適していてる、6個入りのカードタイプのパッケージを彼女が提案してくれました。簡単に言えばこれは、厚紙のカードに両面テープをつけてそこに6個のアニマルラバーバンドを貼って、それを透明のプラスティックで包むというかたちです。ふつうだったら絶対やってはいけないことなのですが、売り場ではPOPをつけてくれないし、しかし、商品にすれば置いてもらえるということがあって生まれたものです。
ギフトボックス(写真手前側)は500円で、6ピースのカードタイプ(写真奥側)は300円です。6ピースパックを見て、ボックスを買ってくれればいいじゃないかということです。発売間もない頃、売り場を何時間か観察していたのですが、6ピースパックを見てフッと笑って、レジ行こうかなと思ったときに横にボックスを発見して買っていってくれる人がいたので安心しました。 |
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| 大橋: |
おみやげに持っていくにはパックの方が喜ばれますよ。友人の子供は、輪ゴムをはずして遊んでは、また元通り両面テープに貼って大事にしまいなおしていました。POPとしても使えるようにグラフィックデザイナーの方にデザインしていたきましたが、輪ゴム自体動物の形であるために、優しく扱う気持ちが生まれ、パッケージには本来の機能以上の効果が生まれていると思います。 |
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| 羽根田: |
ただギフトボックスの方はちょっと味気ない。第二弾ではボックスのほうを創り込みたいですね。 |
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| 名児耶: |
ここまでお金がかけられなかったので、箱はありもので、それにシルク印刷をかけています。本体以外であまり無理をしてしまうと、実現ができなくなってしまう。買う人の手元に妥当な範囲の価格で届かないと意味がないですしね。第1回ということもあって、いい意味でいろいろと勉強させていただきました。 |
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| 羽根田: |
コンペに入賞したものは、パッケージも込みだったんです。箱に鉄格子が入っていて、この鉄格子をグニャッと曲げて蓋を開けると、動物が逃げ出す。使ったあとは動物を檻に戻すというイメージでした。入賞したのはそういうかたちでしたが、実際に商品化する際に、このパッケージで本当にいいのかなとずいぶん悩みました。格子というのはどうなんだろう、そもそも野生の動物をつかまえてきて1カ所に入れておくという行為はどうなのだろうと思いはじめて、檻はちょっと違うんじゃないか、かわいそうなのではないかという結論に達した。
檻じゃなかったら、地球の中に動物が詰まっているイメージがいいんじゃないかとか、いろいろ考えましたが、コストと発売時期の問題もあって実現はしなかった。商品化するときのパッケージについては、不幸なことに、発売までにパッケージデザイナーの方と直接会って煮詰める時間がとれなかった。最終的には名児耶さんとパッケージデザイナーの方がいろいろ話してくれて、こういうかたちになっています。パッケージがこの形になったときには、PL法についての表記の方法には共感できましたが、私達のイメージと違うものができていましたので、そこは名児耶さんとやりあいましたね。 |
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| 大橋: |
パッケージに関しては、すったもんだがありましたし、出荷する直前にこれができて、名児耶さんが詰めて貼って出荷するみたいな感じでしたね(笑)。 |
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| 名児耶: |
パッケージはお二人に怒られたりしました。ニューヨークのギフトショーに持っていかなくてはなりませんでしたので、前日に私と会社の人間でパッケージを組み立てて、出来上がるとすぐ飛行機に飛び乗って売り込みに行くというあわてぶりでした。 |
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| 羽根田: |
でも、名児耶さん自らがアッセンブルしてくれていると聞いたときは、ぐっと来るものがありました。いろいろありましたが、今ではこういう会社につくってもらって幸せだったなと思っています。いまは次の動物をつくっていますが、パッケージについては地球ではありませんが、優しいイメージでつくりたいと考えています。 |
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| 名児耶: |
羽根田さん、大橋さんと出会えて仕事をご一緒できたというのは、本当に偶然に感謝したい気持ちです。私は、もともとデザインをやっていた人間ですが、自分より優れた人が世の中にはこんなに大勢いるのだからということで、デザインを捨てた人間なんですよ。そういうことで、決定できる側でバックアップをするという立場をとることにしました。ただ、たまにデザインしたくなるんですよ(笑)。でも、抑えないと恥をかいてしまいます。だってみんなのほうが全然すごいですもの。 |
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| 川崎: |
それはデザインを捨てたのではなく、そういう役割になられただけです。それはデザインディレクター、デザインプロデューサーになられたということでしょう。そういう人がこれからたくさん生まれてほしい。だからこそ、名児耶さんがデザインしたくなる気持ちは良くわかりますが、それはぐっと抑えたほうがいいかもしれない(笑)。 |
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| 大橋: |
名児耶さんは私たちのデザインを本当に気に入って、売ってくれている。それはほかの企業にも見習ってほしい部分です。自分のところで売っているものが好きじゃないんじゃないのと思うようなものが多いですからね。こんなに商品を愛せる人はなかなかいませんよ。 |
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| 名児耶: |
私がやっている動きはまだまだ小さいものですが、いま「リボーンプロジェクト」という、アニマルラバーバンドと同じような境遇にある良いデザインを、再び生まれ変わらせてあげようという新しいプロジェクトをスタートさせました。これも、頭の中で考えていることを実行に移すチャンスをくれたのはこの二人だと感謝しています。 |
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| 川崎: |
僕の研究室に入ってくる学生にはトポロジー形態論をやらせるんですが、この概念を分かりやすく説明するために、最初は輪ゴムを使うんです。輪ゴムはふつう丸いわけですが、こうやって3点をつまむと三角形だよね、こうやったら四角形になるよねということをコンピューター上で立体でもやるという、トポロジー空間論が僕の研究室のテーマです。要するに、ユークリッド幾何学では三角や四角などの図形は全部形が違うということになりますが、トポロジー空間論では形は全部同じだと語り切ってしまえるんです。これからのデザイナーにとっての数学の領域も、ユークリッド幾何学を捨てて、トポロジー空間論を教え込んでいく時代に入っているのではないか。これから学生たちに教えていくうえで、これはその教材にもなりうる、すごく良いものだとと思っています。医学や数学などの専門的な学会などでは、人間の体内の臓器類も全部トポロジー空間で説明しようとする発想が出てきています。本屋さんでは「超ひも理論」関連の本が出てきています。それを見ると、僕はとてつもなく時代性に合ったものが出てきたという感じを受けています。最近は、コンピュータ上のトポロジー空間で、なぜ伸び縮みするのかということを遺伝子と一緒になって考えているという話にまでつながっています。そう考えると、この製品はある種非常に哲学的です。難しい話になってしまったのですが、そこまで含んでいると思います。
ここで少し聞いてみたいのは、その製造の方法です。こういうものこそ非常に高度な技術が必要だったはずだと僕は思っているのですが、可能な範囲でお話いただければと思います。これはシリコン系のようですが、そうするとこの型の定着に、かなり苦労されたでしょう。 |
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| 名児耶: |
シリコンです。シートを成型して、抜き型を作ろうかという案もあったのですが、そうすると、捨てる部分ばかりが多くなって材料費がかかりすぎるし、ゴミが出るということで、違う方法を採っています。つくり方はオフレコにしていただきたいのですが(笑)、厚みを1.6±0.05くらいの精度でカットしています。そのカットの方法がおもしろくて、まさにいまおっしゃった理論、すべて同じ形だよというものです。このヒントで許してください(笑)。 |
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| 川崎: |
なるほどね。だいたい想像がつきました(笑)。こういうデザインを見つけて商品化しようということですが、たかが輪ゴムで投資効果はどうなんだという話に悩まれたりはしませんでしたか。 |
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| 名児耶: |
デザイナーが価格に走っているこの時代から、価値を追いかける時代をつくれるのではないかと思うんです。価値を売ればみんな幸せになれる。でも大手企業は価格、価格です。アニマルラバーバンドをふつうの輪ゴムに換算すると20倍くらいの価格になります。でもこれを買ってくれた人たちは、みなさんお金を払ってもニコニコしてくれる。まずは価値を大切にしていきたいですね。 |
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| 川崎: |
これまでの日本は何をつくってきたんだという話で、僕はアメリカ製のPDA、パームを愛用しているのですが、これを入れるケースはモンブランのもので、この2つの製品の価格は同じなんです。これがエルメスだったりすると、ケースのほうが高かったりする。日本は電子工学で中身を懸命に高度化してきた。けれど一方のこっちのケースは空っぽ、ただ皮を縫っただけ、しかし価値が高い。いまだにデザインは付加価値と言われますが、僕は30年以上付加価値じゃない、「全体価値を創り出すのがデザインの仕事である」と言い続けています。そういう意味で、アニマルラバーランドは全体価値を具現していますよね。輪ゴムに付加価値をつけたわけではない。形をつくり色をつけることがデザインじゃない。パッケージングから、つくり方さえ根本的に変わっているわけだから、そう考えれば全く新しい発想です。 |
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| 名児耶: |
最初に羽根田さんや大橋さんと話したときに、MoMAのミュージアムショップで売ってもらいたいよねという話をしていたのですが、実は運良く最初にそこで売れたんです。川崎さんのデザインのように永久保存のほうではありませんが(笑)。スミソニアン博物館でも売っていただいています。そうしたことで広げていって、全世界に250万匹生息してます。 |
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| 川崎: |
永久収蔵として陳列されることより、MoMAのショップで売られていることの意義の方が高いですよ。ちゃんとしたところ、たとえばクーパー・ヒューイット・ミュージアムやスミソニアン博物館だったら、永久展示は間違いないですね。スミソニアンに入ってしまえば、21世紀初頭にできた画期的な輪ゴムということで、歴史的にずっと残ります。仮にそうなったら、日本語のwagomuとしていただけるとありがたいと思うんです。 |
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| 名児耶: |
デザイナーに力があっても、商品化がなかなか進まない。それを打ち破ってものをつくりだして、ぜひとも世界に売りたいんです。いいお店に売りたい。いいお店というと語弊がありますので言い換えれば、心のあるお店ですね。経営としては、やせ我慢も多分にありますけれど。 |
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| 川崎: |
デザイナーなればこそ誰にでも、武士は食わねど高楊枝の時代はありますよ。今のお話でお店というのが、一番重要です。僕は眼鏡も手掛けていますが、販売店に関しても非常に厳しい選択をしています。安い眼鏡をやっているお店はわかるんです。ショーウィンドーに直に切り文字を貼って何%オフとベタベタと書いてある店、チラシ広告を出している店、そういうところとは一切取り引きをしません。コンピューター業界でEIZOというブランドも手掛けていますが、ここも量販店に対して独自の姿勢でものが出せる。それはものが持っている力だと思うんです。古くなった機種が安売りされることはたまにありますが、安売り広告を出すようなお店へは一切出さない。そこを大事にしなかったら、デザインは台無しになります。デザイナー自ら、あるいは経営者自らがそこをしっかり守らないと価値は簡単に崩れていきます。崩れていった結果が、いまの日本の経済状況になっているわけです。 |
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| 名児耶: |
大手企業の方からも引き合いをいただいたのですが、数量が瞬時に用意できないこともあって、結果的にお断りするかたちになってしまいました。いまの売り方は一般的に瞬時に売るという方法が多いのですが、このアニマルラバーバンドは長く売っていきたいと考えています。一生懸命頑張れば、1年間で1億くらいの商材にはなりますが、5年、10年で3億売れる商材のほうがいいのではないかという考え方に基づいています。これはパスキーデザインさんからの提案でした。 |
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| 大橋: |
個人的には長く売っていただく方がいいですね。この商品化にあたっても、パッと売ってサーッと引いてしまう作戦を採ろうという意見もありました。たかが雑貨じゃないか?売れるだけ売って、売れなくなっても、それはそれで普通の事だし、儲けた方がいいでは?という話しです。それをやってしまうと、いつまで経ってもデザインはわかってもらえません。いつまで経ってもデザインは余ったお金でやることになってしまう。衣食住足りたあとに、余ったらデザインを楽しむか、デザインを取り入れるかというかたちになってしまうんじゃないか。そのへんは名児耶さんに気持ちでわかっていただけました。 |
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| 名児耶: |
ドンと売れれば、ボンと払えるんですけど(笑)。 |
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| 大橋: |
そこを抑えて、抑えてやってもらいました(笑)。 |
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| 川崎: |
もちろんお金が欲しいことは事実で、明日ポケットにお金を入れたいなという経営者は多いですよ。でも明日ポケットに入るお金より、毎日少しずつでもちゃんと入ってきて、楽しい仕事ができることのほうがより重要です。利益にはお金で換算できる「プロフィット」とお金で換算できない「ベネフィット」がある。経営者は概して「プロフィット」を気にしますが、デザイナーは「ベネフィット」を大事にしていかなくてはいけない。経営者がその両方のバランスが大事であると言うことに気づいてくれたら、長く経営者とデザイナーのベストコンビで仕事ができますよね。
僕はタケフナイフビレッジという伝統工芸の産地とかかわっています。そこは母体できてから25年、タケフナイフビレッジという名称になってからは10年で、僕がかかわってから21年が経ちます。それこそ僕が20年前につくったデザインをいまだに製造していて、いまだにわずかながらにやっています。後継者も入ってきていて、次のデザイナーも準備していますが、僕のデザインを超えるデザインはなかなか難しい。僕も新しいデザインを出してくれと言われていますが、当時、思いきりいいものをつくったという自負心もありますし、出せないんですよ。じゃあそこでお金持ちになれたかといったら、ここ2年ほどロイヤリティが入っていないんじゃないかな(笑)。
でも、そんなことが目標ではない。世の中にいいものを出すことによって、まわりのほかのものもよくならざるをえなくなった。僕は20年前、その当時は3万円の包丁なんてありうるかと笑われたのですが、この包丁をバンと出した。僕が刃物をやりだしたころは、平均価格が2800円くらいだったのが、いま高級刃物は平均で8000円くらいになっています。そういう道筋をつけたいと思っていたのです。
アニマルラバーバンドで、もうひとつ感心させられたのは、デザイナーの名前が明記されているところですね。日本の製品ではなかなか見られないことです。 |
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| 名児耶: |
僕はデザイナーの名前を隠しておくという、日本人的な考え方には疑問を感じます。日本の閉鎖的な体質をオープンにすることで改善されることはたくさんあると思う。誰の誰兵衛が無農薬でつくった大根だよと言ったときに、その大根はとても美味しく感じるし、楽しくうれしく食事が出来るのでは。また、別の私の狙いとしては、世界に日本人デザイナーの実力をアピールしたいということから、デザイナーの名前を明記するようにしているわけですが、予想外の効能もあることが分かりました。羽根田さん、大橋さんの名前が製品とともに世に出ていくから、様々なことに関してうるさいんです。プライドを持っているし、もっとこうしてくれと真剣になってくれる。 |
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| 大橋: |
たしかにそういう面はあります。よほど気に入っていないと、自分の判子を押して世に出すわけにいかない。 |
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| 川崎: |
それは僕がデザイナーになってから長い間周囲に言い続けていることです。自分の名前を自由に出せるのは、いままで文学の世界だけでした。新聞を見たらわかるように、本のタイトルと同じくらいの大きさで、作家の名前が出ています。日本のデザイン界が変わらなければいけないのは、プロデューサーは編集者にならなければいけないということです。編集者は作家を大事にする。デザイナーもその編集者がいないとものが出ていかないから、お互いがウィン・ウィンの関係、フイフティ・フィフティの関係になれる。その役割分担がデザイン界では未成熟ですから、これからこうした契約のシステムや関係づくりを育てていかないといけないと考えています。
僕らの世代はアノニマスデザインが一番いいという教育を受けてきました。常に名前を隠すことがデザイナーの美徳であると教えられてきた。でも、ものづくりの根本である食料もそういうかたちになってしまった。どこの誰がつくっているということは非常に重要だし、自分の名前が入ってくるからこそ主張すべきことを主張しないと、その人自身そういう社会的な存在であっていいのかという話になります。 |
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| 名児耶: |
だから、悪いことはしないでねとよく言うんです(笑)。 |
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| 川崎: |
タレントもコマーシャルに出ていて、ちょっと何かが起こってしまうと叩かれますよね。デザイナーもそれと同じです。デザインというのはきっちりと倫理観を持ってやる仕事だと確信しています。 |
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| 名児耶: |
プライドを持って、誇りを持ってものを形にしてほしいですね。 |
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| 川崎: |
同感です。アニマルラバーバンドは、いろいろなことを極めて象徴的に、極めて単純明快に示してくれていると思います。ある言い方をすれば、それはユニバーサルデザイン性でもあると感じました。そういう意味で、Gマークに応募していただいて本当に感謝しています。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。 |
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(2003年10月17日 東京プリンスホテルにて収録) |
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●名児耶 秀美
アッシュコンセプト 代表取締役
●羽根田 正憲
パスキーデザイン
●大橋 由三子
パスキーデザイン
●川崎 和男
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授
大阪大学大学院 フロンティア研究機構 特任教授
2003年度グッドデザイン賞審査委員長 |
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アッシュコンセプトのHP:
http://www.h-concept.jp/ |
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名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
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