| 川崎: |
2000年には事業の情報管理を電子化し、インターネットからGマークにエントリーできるというウェブ応募を開始しました。審査委員はCD-ROMに収められた応募情報で1次審査の個別投票を行うということが始まり、20世紀最後の年に遅ればせながら事業の情報化に着手したわけです。事業の中にはインタラクションデザイン賞を設けているのだから、事業自体の電子化にも本格的に取り組んでいこうという意図でした。当時は、審査委員全体にはなかなか浸透せず、書類審査と電子審査が混在している状態でしたが、2001年になるとすっかり定着したようです。応募されてきた作品がそのままアーカイブになる、その年の日本のデザイン事情がその時点で電子化されるというメリットが実現されたわけです。
さて、審査委員になった最大のメリットは何かというと、現品審査の場でその年の日本の最新デザインの実物が見られることだと思っています。初めて審査委員になったときは嬉しいものですが、審査は非常に厳しく、たくさんいらっしゃる偉い先生方に論議をふっかけていくのも勇気の要る作業でした。そうした大変な作業の一方で、その年のありとあらゆるジャンルのモノが一度に見られるというのは、デザイナーにとっては非常に貴重な体験だと思います。
これは、一般の人たちにとっても貴重な場になるのではないだろうか、これをもっと知ってもらいたいという話が中西委員長時代から出ていました。そこで関係者だけにご案内していた内覧会を「グッドデザイン・プレゼンテーション」という名前に変えて、デザイン業界の人たちだけでなく、もっと一般の方々に見ていただこうという試みを開始したわけですね。僕個人的には、このイベントは商品見本市というよりは、デザイン見本市みたいなものになっていってもらいたいという思いがあります。
そこで最初の年は、東芝さん始め大手3社にアドバンスデザインを出品していただいた。これがデザインを一般の人に伝えていくうえで、非常に良いことであるという手ごたえがありました。どの企業もアドバンスデザインを行って研究しているわけですが、これは企業戦略的には企業秘密なので、なかなか公開しづらいものです。ということもあって、一般の人の目に触れないという状況が続いていたのですが、それも少しづつ変わりつつあります。こうしたことも含め、次にはグッドデザイン・プレゼンテーションということではなく、もう一つ新しい名前を考えて、各社にブースを構えていただく。僕の審査委員長時代にはできませんでしたが、やがては応募してくる企業すべてが一つのブースを構えて、応募作を見せるようになるといいと思います。そこでは、どの企業や行政や団体がどういうデザイン理念、企業理念でモノづくりをやっているかということを一般の人に知らしめていく。これは非常に重要なデザインプロモーションになると思います。そういうようなことで、デザインがイニシアティブを取るという意味で、「デザイン・イニシアティブ」という名前を付け、2002年には15社、今年は19社の参加が決まっています。この中にはデザインのプロだけでなく、デザインを目指していく人、職能団体も含めて参加していただいています。今年は自治体も参加してくることになりましたし、そういうふうに参加に拍車がかかってくれれば一番いいなと思っています。
二次審査会場の公開審査あるいはグッドデザイン・プレゼンテーションに足を運んでいただければ、どれほど透明性が高いかがおわかりになります。実際に足を運んで、ご自分の目で見ていただきたい。ただ報道されている一面だけを見て、いまだに審査委員は素人が多いと言う方がいらっしゃいますが、僕はこれには全面的に異論を唱えておきたい。審査委員長をやっている私自身、自分で言うのもなんですが、デザインではプロ中のプロだと自負していますし、教育もやっているから学識者でもあるわけで、それだけの責任を背負ってやっています。それは審査委員全員がそうです。ですから、こういう批判をする人こそ、ぜひともグッドデザイン・プレゼンテーションに来ていただきたいし、公開審査にも出ていただきたいし、グランプリに1票を投じられるよう自分の作品で勝負してほしい。
これはある企業のトップがおっしゃっていましたが、Gマークは市販商品化するためのベンチマークである、と。Gマークを取れないようなものは世の中に商品として存在させてはいけないとまで言われるところが出てきています。民営化されて以後の透明感、一般の人たちに来ていただくといったことが評価されてきたのではないかと思います。特に昨年、会場を見回したら、親子で来ていただいている姿が多く目につきました。そうした方が増えていけば、ここは子供たちの学びの場にもなる。大学人としては、デザインを学んでいる学生たちには必ず全部見てほしいという気持ちを持っています。 |
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| Gマーク事業部: |
審査委員と審議委員合計6名程度による討議から導いていた大賞審査を、昨年、受賞者の投票によって選出する方法に変え、好評をいただいています。ある意味で事業の聖域でもあった大賞選出の民主化は、開かれたGマークのシンボルとしての意味は大きいと感じます。年度の象徴ともなる大賞を、受賞企業と審査委員が一丸となって選出する事の意義を改めてご紹介下さい。 |
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| 川崎: |
事業の公開性を高める中で最も大きなものが、グランプリ審査の透明性です。グランプリ候補は金賞あるいは特別賞の中から数点選び出すのですが、もちろんその審査の場でも客観的な評価軸がはっきりしています。そこで選ばれた数点、いわゆるグランプリ候補は、建築、環境、新領域、コミュニケーション、商品、それぞれの分野の応募が並ぶことで、その年のある種のプロットを成していて、日本全体のデザインを語る文体ができあがっていると思うんです。それによって語られるストーリーに、グランプリは題名を与える、シンボル的な意味合いを持つという考え方を僕はしています。
部門が商品デザイン、建築・環境デザインからコミュニケーションデザイン、新領域デザインまであるので、あんなにいろいろな領域のものがあるにもかかわらず、なぜ1点だけのグランプリを選ぶんだという批判が常に上がってきます。それだけに、僕は日本のデザインのシンボル性という意味で、その時代のデザインを一番表現しているものということで、グランプリは絶対に必要だと思います。必要だと思うからこそ、グランプリ選出の透明性こそ象徴的でなければならないと思うんです。そこで、受賞した人たちに1票の権利があり、公開の投票によって決めるというかたちにすることにしました。この投票による大賞の選出の場では、同時に表彰式も行っているのですが、受賞される方々にとって、大きな楽しみになるのではないかと思います。 |
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| Gマーク事業部: |
2次審査後の会場を公開するグッドデザイン・プレゼンテーションに先駆けて、1次審査を通過したノミネートデザインをGマークのウェブサイトで公開しています。昨年から始めたオンラインイベントで、ここに一般の皆さんからの応援メッセージを寄せてくださいという試みです。今年も8月1日から実施しているのですが、非常に好評を得ています。今年はデザイナーや開発者の方の顔写真を添えて、応援メッセージの第一声も担当されたデザイナーの方から直接アピールして下さるようお願いしてみました。あるいは一般の方から寄せられた応援メッセージに励まされて、企業の方がコメントを返して下さるというコミュニケーションも始まっています。参加企業、審査委員、そしてユーザー、始まったばかりのこの3者のコミュニケーションへのご期待はありますか。 |
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| 川崎: |
よく言われるように、インターネット上で匿名的なやり方をすると非難・中傷が集まるものです。それはインターネットが持っている一つのマイナス面だと言われていますが、僕は一概にそこばかりを取り上げるつもりはありません。世の中はいいことがあれば、必ず悪いことも現れてくるもので、悪口もネガティブではなく、ポジティブにとらえればいいと思うんです。悪口というのは、そのことに極めて興味を持っている人が言うわけですから、もしそういうものが登場したとしても、それはそれで世間の表層的一面性でしかないわけです。悪口をそういうところに載せるというのは、その人のある種陰湿な品格の問題ですね。
昨年も初めて応募してきたインテリア作家のノミネートデザインに集中して応援メッセージがありましたね。これはそのデザイナーを世の中に早く認知させたいという周りの友人たちの応援の声だろうと思います。僕はそういうものを抱えているデザイナーが出てくるのは当たり前のことだと思うし、それはサッカーのサポーターみたいなものです。そこで問題となるのは品格あるサポートかどうかです。書き込む方々には品性正しくやっていただきたい。それはデザインが目指すところでもあります。デザインは品格が非常に重要です。なぜかというと製品、商品、あるいは品物には、「品」という字を使っていますから、世の中に存在しているモノには存在しているだけの価値がなければいけない。そこでは品格というデザイン性が問われます。
デザインで品を出すのは非常に難しいことですが、僕はモノづくりの品格という話をするときに、よく谷崎潤一郎を取り上げます。『文章読本』に、どうやって文章に品格を出すかということが書かれています。谷崎が言っているのは、まず饒舌になりすぎないということ。谷崎の時代には、日本人的な控え目なさまだったのだろうと思いますが、僕は現代の饒舌さはそうではなく、もっとしゃべればいいと思う。ただし、そのしゃべり方が問題です。もう一つは、言葉遣いを丁寧に、おろそかにしないということです。それは専門的になってしまいますが、デザインでいうと造形言語をむやみやたらに使わず、シンプルさをきちんと残しておくということだと思います。三つ目は、敬語や敬称を使うということです。けなすという言い方がありますが、僕も喧嘩師といわれているくらいで、相手のデザインに対して「そんなデザインだめだ」という言い方をよくします。でもそれは敬意を持って言うことが非常に大事で、批判・批評をするときの一番重要なことだと思っています。
品格というのはある種人間の志みたいなもので、志は真っ直ぐにという文章を以前書いたことがありますが、デザインというのは設計解として形態を出していって、最終的に形がある、あるいは形がないということにかかわらず、必ず美しさに統合していくものと考えています。そうした美を求めているという志をみんながそこに集中させて、ベクトルとして出し合うわけです。だから志が曲がってしまっている人たちには、美しいかたちを導きだすことができない。それは美しいものが見られない、ということにも繋がる。
これは岡倉天心の言葉を借りればよくわかりますが、「美しいものとともに生きてきた人は、美しく死んでいける」という言葉があります。われわれは日常生活の中で美しいものに取り囲まれて生活したい。自分の生き方そのものをよりシンプルにして、周りから見てもあの人は潔くて美しい生き方をしたと言われたい。そこがデザインが創り出し、支援していく最大の狙いだろうと思います。でもどのデザインを選んだらいいかわからないというときに、Gマークが一つの道案内、標識、インディケーターを示していくことが理想なわけです。
ウェブサイトを使って、デザインしている人とそれを応援する人との交流が、これからますます盛んに行われるでしょう。これはバーチャルな関係ですが、単なる出会いサイトではない。応募者はモノだけでなく、もっとデザイン意図を語りたいと思うんです。だからその場でもっと語ってもらって、出会ったこともない人たちがそこで言葉のやりとりができる。そこで共通の認識として持ってもらいたいのは、品格ある、品位あるコミュニケーションを取るということに尽きます。ウェブサイトがGマークの新しいコミュニケーションの手法に育っていってくれるといいと思います。 |
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| Gマーク事業部: |
この事業は民営化以降、かなり大幅に変わってきています。多くの変革の中で特に審査の公開に関して感想があれば、お聞かせ下さい。 |
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| 川崎: |
2006年の50周年が儀式であるのなら、私が務めている3年間はそれを迎えるための祝祭、前夜祭の真っ只中、それをつくっていくのが自分の役割だと思っています。僕も長老的になってしまったのですが、50周年までまだ3年くらいありますから、それが助走期間でしょう。祝祭の第1段階が3年かかってようやく完成してきた。それは情報を公開していくこと、情報を高密度にしていく手法ということで、ウェブサイトを持ったり、あるいはグッドデザイン・プレゼンテーションあるいはデザイン・イニシアティブという場を持って見せる。バーチャルの世界でもそれを見せる。僕はバーチャルとプレゼンスの世界をガラス張りの中に入れることができたと自負しています。
それは審査委員団の人たちや事務局に支えてもらったお陰です。審査委員団の中でも新たに審査委員になった若手の人たちと、ベテランの審査委員の人たちがかなりバックアップをしてくれた。バックアップには種類があって、一方では川崎を非難する人がいたし、それに対して誉めてくれる人もいた。人間は一方で叩かれ、一方で持ち上げられてという中でないと進歩しないものですから、そういう経験ができたことは素晴らしかったと思います。
最近いつかはグッドデザインの審査委員になりたいと言う学生が出てきました。「先生、どうやったら審査委員にたどり着けますか」と聞かれましたが、それには経験を積んで、周りから評価されることです。要するにデザインの実力は周りの人が評価するもので、これはGマークも同じです。周りが客観的に見て、これがグッドデザインなんだと言ったときに、それが賞になる。良いデザインであるか、優れたデザインであるか、未来を拓くデザインであるか、これらをまとめて美しいデザインであるかということがデザイナーの最終目標だと思います。美しいデザインであるためには、これから日本のデザインは、品性のある美しさ、品格のある美しさを目指していかないといけない。日本が貿易立国として生きていくときに、品格のある物品、上品な品物、品性のある品物が出ていくことが、グッドデザインあるいはエクセレントデザインにつながっていくのだろう。そのためにこの事業が進化していって、究極にはこういう制度を通してではなく、自分の生活の中でモノを選ぶときには、誰もが自分の目、自分の判断基準で見定められるようになれば素晴らしいと思います。 |
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| Gマーク事業部: |
最後にぜひもう一度、グッドデザイン・プレゼンテーションのアピールをお願いします。 |
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| 川崎: |
若いときに花綵(はなづな)の国という言葉を使ったことがあります。花綵というのは花束がつながっているという意味で、日本列島を中心にアリューシャン列島、南西諸島のつながりの見え方を称して、そういったのだと思いますが、日本は日出ずる国であると同時に花綵の国である。マルコ・ポーロがジパング、黄金の国と言ったときに、花綵の国という言い方をしていました。そういう歴史や伝統のようなものを認識した上で、デザインで日本人のアイデンティティを再確認すると同時に、新しい日本人のアイデンティティをクリエートしていくことが求められていると思います。
グッドデザインという制度が新領域デザイン部門、コミュニケーションデザイン部門、建築・環境デザイン部門、商品デザイン部門と拡大していく中で、Gマークが新しい日本のアイデンティティをクリエーションする存在となっていくべきだと思います。昨今ブランドメイキング、ブランドの構築の仕方といった軽薄なハウツー本が出ていますが、ブランドというのは、明日ポケットにお金を突っ込んでやろうみたいな品性のない言い方ではない。文明と文化を見つめた品格あるものをきちんとつくりあげてこそ、本当のブランドになっていく。
日本のシンボルは何だと、そういうふうに考えていったときに、Gマークは一つの大きな手がかりになると考えています。今年のデザイン・イニシアティブには団体、学校もひっくるめて19社が出てきますが、デザイン・イニシアティブやグッドデザイン・プレゼンテーション、受賞者によるグランプリの投票など、是が非でも会場に足を運んで自分の目で確かめていただきたい。遠方にいらっしゃってそれができなくても、インターネットにアクセスすれば疑似体験いただくこともできます。ぜひ自分の目で確かめていただきたいと思います。
また、昨年のグッドデザイン・プレゼンテーションでは、自分が講演すべきかどうか非常に迷ったすえに結局やめることにしました。けれど今年は審査委員長最後の年ですから、最初に申し上げたプロの視点とユーザーの視点を持つ審査委員69名の代表として、かつ審査委員長として、また応募者の一人として、デザインの評価軸について、あるいはこれがデザインなんだという話を一般の方々にしようと思っています。デザインとは何かという問いは非常に難しい話です。いま学問の世界でも、哲学とは何か、数学とは何か、経済学とは何かと問うのは20世紀までの話で、新しい学問の領域は学際的に考えたときに、「何が学問になるか」というとらえ方をします。そこで何がグッドデザインとなるかという話を、私自身がデザイン・イニシアティブ、グッドデザイン・プレゼンテーションという場で、皆さんの前でしたいと思っていますから、ぜひともそこへ来ていただきたいと思います。 |
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(2003年8月7日 東京プリンスホテルにて収録) |
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●川崎 和男
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授
大阪大学大学院 フロンティア研究機構 特任教授
2003年度グッドデザイン賞審査委員長 |
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名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
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