| 川崎: |
コペンという名前はある種独特で、審査の時から個人的にずっと気になっていたのですが、この由来はどこにあるのでしょうか。 |
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| 石崎: |
コペンは1999年のモーターショーに出品されたわけですが、私は昔の「ダイハツ コンパーノスパイダー」という名前に憧れていたこともあって、ダイハツスパイダーという、ダイハツが持っている登録商標で出そうとしたんです。ところが、今の新宮会長が「昔の名前で出ていくのはだめだ。新しいのを用意しろ。たとえば軽(K)のオープンだからコペン(KOPEN)でどうだ」とぱっと言ったんです。しかし、ネーミングをもう1回検討するという時間的な余裕がなかったので、それでいこうということになった。非常に単純な話です(笑)。会長がたまたまその場でぽっと言われた名前が、そのままモーターショーで使われたんです。
その後、生産車はどうしようかという議論のときに、あれだけモーターショーでも反響があったわけだから、名前もそのままコペンでいいじゃないかと。ただし、KOPENとなると、将来的に、この車を輸出することになったときに、「軽(K)」というレギュレーションは日本にしかないということで、海外にも出すチャンスはあるんだぞということを意味づけるためにも、KOPENではなく「COMPACT OPEN」、COPENに直しました。確かになんだか変な名前とみんなに言われるんですが、ひょっとしたらいい名前なのではないかという感じがします。某社のポカリスエットという名前も、語感が意味に結びつくというものではなくて、何か耳にこびりついてしまうという類のものだと思うのですが、コペンもそれと同様だと思うんです。姿形とイメージと語音というのでしょうか、ジャストフィットという感じではないけれど、何となくぴたっとおさまっているような気がしないでもない不思議な印象がある。
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| 川崎: |
モーターショーでの反響もさることながら、発売以降の反響もすごいですね。 |
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| 石崎: |
ここまでくるとは予想外でした。軽自動車のユーザーは女性が7割、車種によっては8割ぐらいです。主婦のつっかけ代わりに使われたり、地方では通勤の足として若い女性が買われていくケースが多い。そいうわけで商品企画コンセプトのターゲットユーザーは必ず女性になります。コペンの場合でも、もちろんかなり女性を意識していたんですが、現実には82%が男性です。実は軽自動車でこんな車種はないんです。購入される年齢層も、20代の若い人たちが40%ぐらいですが、あとは30代が20%、40代が20%、50代以上が20%というように非常に幅広い。ユーザーが集中しない、年齢層も非常に広いというのが特徴で、小型車ユーザーの買い替えのケースも多いですし、いままでの軽自動車のお客様とはかなり様相が違うということは言えると思います。
おかげさまで予想以上に売れていて、いま注文が1万台を超える勢いです。お客様のところには4000台ぐらいしか届いていないので半年ぐらいお待ちいただくかたちになってしまっていますが、こういうジャンルの車は、産みっぱなしではなくて確実に育てたいと思っています。手づくりに近いような生産形態を採っていますし、大手メーカーにはできない、日本の自動車業界の中では珍しいつくり方ですので、できるだけ長くつくっていきたいと思っています。 |
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| 川崎: |
見てくれは明らかにスポーツカーで、特殊なものに見えるじゃないですか。でも、それだけ間口が広い。そこでコペンという車が投げかけたもの、ああいう機構がついて投げかけたという問題だけではなくて、文字通り、これまでの軽自動車というのではなくて、「コンパクトカー」として、どうあるべきかを誠実に組み上げていくと、こういう人たちに対して魅力があるんだということを実証したことになりますよね。 |
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| 石崎: |
そうですね。私たちが一番最初に小さなラフスケッチでぱっと描くときに心がけたことは、小さい偽物みたいなイメージは絶対に避けたいということです。本物感という言葉自体も偽物っぽくていやですが、小さい「本物」をつくりたいという気持ちでした。大げさではありますが、スタイリングもロングライフデザインを目指そうと。日本では一般的に、小さいものは何かおもちゃ然としていて価値を見いだしにくいスタイリングが多い。しかし、ヨーロッパの昔の車を見ていると、小さいけれども非常に内容の充実した自動車が多くありますよね。そういう自動車は、ギミックに逃げることなく自然に、小さい自然な形を素直にスタイリングに表現している。我々が考えたのは、そういう自動車のエッセンスをもらおうということでした。それはコピーするということではなく、そういうエッセンスの背景にあるであろう自動車づくりの考え方を汲み取って、応用してみようということです。
今回のコペンはターゲットユーザーがここだとか、ターゲットの年齢がここだというのではなく、作り手側がピュアにつくりたい自動車がたまたま日本の軽サイズのレギュレーションに納まっている。そういうつくり方をしているものだから、結果的に僕らが目指した表現を素直に実現できていると考えています。40代、50代、60代の人にもユーザー層が広がり支持されているということを見ると、意図が通じたのかな、そういう部分に共感していただいているのかなと感じています。
軽自動車は、一般通念として、自動車全体のヒエラルキーの下層に位置するものだから、ちゃんとしたものだと認めてもらえていない部分があります。「軽みたいな断面だな」とか、「軽みたいな処理だな」と、「軽」という言葉が差別用語的に使われることが多いのですが、そんな差別されるようなものではないという自負は常にあります。「軽だから鉄板が薄いのね」と言われたりもしますが、実際は大きな車と同じ鉄板を使っているんです。軽だから割り切らざるをえない部分があるのは事実ですが、手を抜いている部分はない。ところが昔のイメージが強くて、軽は鉄板が薄い、軽は危ないというイメージがある。いまは安全基準も含めて小型車と一緒になりましたから、事実上そういうことは全くないんですけれどね。
私も大きいのと軽自動車と両方使用していますが、週末はカミさんと軽自動車の奪い合いになります(笑)。それは便利だからなのですが、同時に、基本的な安全性や快適性が上のクラスと差がなくなってきているからだと言えます。いまは小さいメリットだけで光っているのが、もっと光ってくる時代になる。われわれのデザインポリシーとしてスモールメリットを生かすということを掲げていますが、これからはそれがもっと光る時代になるでしょう。 |
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| 川崎: |
僕はよく言うんですが、審査委員が5人いれば5人の主観性があります。語弊はあるのですが、デザインはまずある種の主観性で判断しますが、5人がそこで論議をしていくと、これが見事にある種の客観性に変わります。5人の審査委員団の、一人ひとりの主観性が論議を通して、客観性にバンと変わってくる瞬間がある。この論議をユニット長や部門長で行うと、その客観性がさらに磨かれます。日本の国としてこのデザインはどうなのか、日本の自動車文化がこのデザインで進歩していくのか、このデザインは未来を拓くのかというところに、基準が上がっていく。そういうプロセスを勝ち残ってきた金賞は非常に重みがある。審査委員長だから言うわけではないんですが、そういうふうに判断しています。
グッドデザインの審査そのものはプロの視点で見ているわけですし、その客観性を常に問うていますが、今年の審査委員団にもう一つだけお願いしたのは、「デザイナーが生き生きと仕事をした結果か否か」、それを読み取ってほしいということです。その意味では、コペンを選んでくれた審査委員団の見識が非常に高かったと僕は捉えています。 |
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| 石崎: |
それを汲み取っていただいたのだったら、非常にうれしい限りです。コペンの場合は、生き生きどころか、間違いなく燃えさかってやった状況です(笑)。通常の開発では商品企画が先にあります。モーターショーですら、こんな企画を先行的に試してみたいという、あるルートからショーモデルが造られる。ところが、コペンはモーターショーでこんなものをつくろうという、デザイナーの自発的な活動からスタートしているんです。いってみればデザイナーはいつもスポーツカーをやりたがるのですが、私としては、ちょうどいい時期だなという判断でした。それまでもダイハツは毎回スポーツカーを出品していましたが、それはいつも世に出ないものでした。なぜかというと、真剣さが足りなかったのだと思います。フロントエンジン、リアドライブにしたい、ミットシップにしたいとか、少し子供めいたスポーツカーをつくってきたのではないかと思います。ホンダさんやトヨタさんならそれを実現することはできるでしょう。しかし、ダイハツでは夢物語から始めても、それを実現することは難しい。そんな中でも出せるスポーツカーはダイハツにもあるはずだと、結局ミラやムーブのユニットを使って、フロントエンジン、フロントドライブの基本構成の中でスポーツカーを考えた。デザイナー発の発想を実現に結びつけたということが、今回のコペンを評価いただける部分では、ものすごく大きなところではないか。
それから149万という価格も、これがフロントエンジン、リアドライブ、ミッドシップでやっていたら絶対に不可能だった。また、それでスポーツカーになっているかどうかは、乗っていただければお分かりいただけますが、立派にスポーツカーになっています。スタイリングも、フロントエンジン、フロントドライブがゆえの形を素直に表現していると思いますし、そこにはオリジナリティが存在していると思います。つくり手発の仕事として、胸の張れるものに仕上がっています。 |
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| 川崎: |
僕は「何人家族でお父さんが何歳だと年収がこれだから、この冷蔵庫でこの色だ」というようなマーケティング主導のモノづくりはもうやめてほしいと常々いっています。そういう点で、公開プレゼンテーション審査で、ダイハツさんが「自分たちがほしいスポーツカーはどういうものだ」という、自分への問いかけから入ったという話がありましたね。僕はそれに非常に共感しますし、それがすごく重要なのは明らかなのですが、一方で、車の開発というものには莫大な投資が必要となるわけですから、今度はそれを経営陣に説得していくというところで、「デザイナーのほしい車なんかつくろうと思ってないよ」みたいなお話は当然、取締役あたりから出てくると思うんです(笑)。 |
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| 石崎: |
それが社内でも一番辛いところで、一番チャレンジングなところでもあります。新モデルを開発するのに、シャシーができている状態で、上屋だけでだいたい50億といわれています。モデルチェンジをすると、規模の大きいものは別ですが、少ないもので50億、ちょっと大きな車種になると100億ぐらいの設備投資がかかってきますからね。コペンの場合は、20億を切るぐらいだと思います。簡易的な金型を使ったり、部分的に機械でやるところに人の手を入れて金型を減らす。そんなことで投資を減らしています。
コペンの前にもデザイン発の提案でネイキッドという車があります。いまもそこそこ売れていますが大成功と呼べるものではありません。私はあの車は大成功だと思っていますが、残念ながら、経営という観点からは「すきものが買っただけ」という評価も出てきてしまいます。しかしネイキッドを出したことによって、企業のイメージは非常に上がりました。採用のときに「なぜダイハツを」というと「ネイティブがあるから」という返答があるくらいです。そういう意味では、企業イメージに対して大変貢献できた車だろうと思います。
このコペンも、経営の助けにはならないのですが、こういうものをやってみようということに対して、結果的に経営者を理解させえたのです。その裏側にはさまざまな努力があるわけです。デザイナー以外で相当な協力をしてくれる人たちがいたことも幸いしました。それプラス、やはり一番影響が大きかったのはモーターショーです。モーターショーでは、通常の市場調査とは桁が違う反響があります。まさに意見の津波が押し寄せてくるようなイメージです。これは経営者にしてみたら非常に判断しやすい。これは儲からないけれども、うちのイメージを上げられる、あるいは社員のモチベーションを上げられる、という感覚をたぶんつかむんです。そういう意味では、コペンの場合、モーターショーという機会を使えたことが非常にラッキーだったと思います。 |
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| 川崎: |
デザインというのは、企業の一つの先行指標になっていかなければならない。これまでデザインは売れるデザインという課題をつねに突きつけられてきた。ただ、売れるデザインをつくってもグッドデザインにはなかなかいかない。そうではなくて、グッドデザインは「売るデザイン」です。売れるデザインと売るデザインは違う。売るデザインは売る人もみんなモチベーションがあがるし、自信を持つ。その積み重ねを日本は怠ってきたから、いまみたいな状況を引き込んでいるのではないか。ここのところ審査委員長になってから、きめ細かく商品の行く末を見ていますが、何がヒットしているかというと、デザインがリーディング・インディケイター、先行指標になった製品は、その企業なら次の商品で必ず売れるデザインを引っ張り出します。まず売るデザインをつくることがすごく重要で、取材などのときに「これからどういうメーカーが成功するか」と問われると僕は「デザイナーを優遇している会社です」と答えるようにしているんです(笑)。
そういういう先行指標を見つけたいという意図があって、今回、審査委員たちに、これはデザイナーが生き生きと仕事をしているだろうというものを見つけたら、絶対に評価してほしいということを言ったわけです。いまは営業にいじめられ、技術にいじめられ、その結果こうなりましたというデザインが多い。こんなことを言うと経営者の方に怒られるかもしれないけれども、ものづくりに燃えているデザイナーは、会社を儲けさせようということ以前に、世のため、人のためという純粋な気持ちを強く持った人たちが多い。それを支援するのが経営者だと思うんです。そういう経営者非常に少なくなってきました。 |
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| 石崎: |
量産しなければインダストリアルデザイナーの仕事は成り立たないけれども、殊に車のデザイナーの場合、昔のカロッツェリアのように、もっと限られた人たちのためにつくってみたいという気持ちを基本的に持っていることは確かでしょう。個人的にも、多く売れたからいいデザインかというと、私は大変疑問です。多く売るという問題は、乱暴にいえばセールスパワーで解決できる。多く売れることがグッドデザインで、そこに成功を見るデザイナーは、一番大きなメーカーへ行けばいいんです。そうではなくて、世の中には様々な人がいて、みんながこっちへ行くならいやだという人たちがいるがために、我々のような小さな自動車メーカーがあるのだと私は良く言っています。売るがために何でもやる、言ったとおりにやったら1万台売ってあげると言われたから、じゃあ、そのとおりデザインしようというスタンスは、基本的に私たちにはない。デザインの基本は、誰かにこの仕事を届けたいという気持ちです。変な商売っ気がないのは確かですね。ただ、企業人としては、本当はいけない部分もあることも確かではあるのですが。「売るがためには何でもせい」、「セールスの第一線があれだけ苦労しているのに、君らはのうのうと粘土をこねている」とよく言われるわけです。 |
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| 川崎: |
確かに高度経済成長の工業化、あるいは工業社会の真っ只中では、日本という国はそうしないと貧乏さから立ち直れなかったから仕方がなかった。でも、それが極端すぎたがゆえに、失ってしまったもの、育て忘れたものも多い。そういうことが根にあって、狂牛病の問題とか、売れるためだったらラベルまで偽ってしまう。そういう問題が発生することに繋がっているのではないか。そうすると、それに対してある種バイアスをかけたり、ブレーキをかけたり、こうあるべきだという理想を見せるのはデザイナーしかいない。そういうモノづくりの倫理の部分を社会にみせていくのが、グッドデザイン賞の役割の一つだろうとも考えています。 |
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| 石崎: |
我々が日々感じていることは、つくり手の意思がなかなか出しにくいということなんです。その前に、売り手の意思があったり、マーケットの声があったりする。マーケットの声というのは不思議で、いったい何なのか、納得しきれない、咀嚼しきれないことがたくさん出てくるんです。ただ、仕事をやっていくうえでは無視できませんし、ただ一方で私見を捨ててお客さんの気持ちになれと言ってもなりきれない。営業がこれがいいと言うから我慢してそうして、あとは知らないよというような無責任もできません。そのあたりが、私の違う側面での大きな苦悩ですね。
コペンはそうした苦悩とは別世界で、自分たちが信じられる良いモノを考えて、実現して、お客さんも我々の期待以上に反応してくれて、というきれいな図式です。そうでない、もっときつい図式が日常の開発にはいっぱいあるんです。先ほどのお話で、日本のマーケットの急成長の中で、たくさんのメーカーがしのぎを削りながら伸びてきた中には、不純な図式から生まれてきた商品が相当あると思うんです。それが自動車メーカー、特に自動車デザインの難しい、あるいはある意味で人気を落としてきているところかなという気がしますね。本当はシンプルにもっとかっこいい仕事であってほしいんです。
だけど、生きるために、食べるためにというところがものすごくきつくあるものですから、その中でどれだけつくり手の意思を出せるかが私の課題でもあり、メンバーの課題でもあり、今回はその意思の部分を評価いただいたのがものすごくうれしくてありがたいと思います。 |
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| 川崎: |
今回応募された全車種が受賞された背景には、それはひょっとすると、コペンというものをつくる風土が全車種に流れていたのではないか。あるいはデザイン部自体にそういう活力があって、それが見事にほかの車種にも表現されていた。それはプロ中のプロという人たちが見たら、確実にその意志が通じるものがあったのではないかと思います。 |
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| 石崎: |
年末から今年にかけてたくさん車種が出たものですから、それを全部出しても確率は4割だろうという気持ちでした。コペンとほかの車種は少し様相が違いますが、マーケットが何をほしがっているかを会社の中ではいろいろな人たちが探るわけです。われわれも探ります。通常はこんなものをほしがっていると言って、どこかが企画を起こします。それは普通は商品企画という部署になります。ただ、市場調査は企業のある種の保険みたいなもので、こういう方向を好むだろうという、ある方向をつくる。往々にして、それは今をベースにしている。だけど、われわれは常に「いまほしがっているのはそれなの? 僕らがつくるのは次にほしがっているものだ」という言い方をします。それを土台に、もう一つ明日をつくるのが我々の仕事だとメンバーには常に言っています。
今回6機種全部Gマークをいただけたところは、そのあたりをかなり意識して商品に織り込んでいる。当然数を期待して売る商品ですから、コペンとは性格が違いますが、そういう気持ちが根底にあるのが、全商品に流れるわれわれのデザイン理念ではないかと思います。 |
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| 川崎: |
お互いに、次の世代にデザインを託していくという年代にあると思います。今回軽自動車が初めての金賞ということですが、これからの時代を考えれば、軽がベースになったコンパクト性は必要になってくるかもしれません。そこで、次の世代のデザイナー、いま抱えておられるスタッフの方々の次の世代について、たとえば教育界に求めたいということもお聞きしたいと思います。僕も学生を教えていてわかるんですが、石崎さんの世代と若い世代では、デザイナーもずいぶん変わってきたでしょう。 |
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| 石崎: |
変わってきましたね。まずは人気の職業ではないんです。われわれのころは卒業生の中で10人ぐらいが自動車メーカーへ行きたいというくらい憧れの職業の一つではありました。私自身も小さいときからのあこがれの職業だった。ほかのデザインをやれと言われても、僕は全然やりたくないというくらいです。自動車だからこそ、デザインしたい。そういう私みたいなタイプはかなり減ってきましたね。
学生のときに先生が「意匠」という言葉を黒板に書かれて、「意(い)」は意図、企みだ。「匠(しょう)」は匠(たくみ)、技だ。だから企てて、匠の技術で表現するんだ。この二つが常にいるんだと言われたことを非常によく覚えています。この受け売りなのですが、若い人たちには常に言っています。「この絵にはどんな企みがあるの? この絵は技の部分が足りないのではないの?」と検証しながら、ディスカッションします。もう自分では絵を描きませんから、若い人たちの中から引っ張りだす。何となく企みが見え隠れするんです。それを応援団みたいなかたちで育ててやるのが、私の一番の仕事かなと思っています。
教育に関しては、デザインというのは何か宙ぶらりんで、学問体系の中で非常にファジーな位置にいるわけです。だけど、建築をやる人たちは、歴史も含めて建築の勉強をするじゃないですか。逆に言えば、若い人たちにもっとしっかりしたデザインの勉強をしてほしいんです。というのは、自動車のデザインをやりたいという人に、「君はどのデザイナーが好き?」と聞くでしょう。すると「ジウジアーロ」とかをまず言うわけです。「じゃあ、ほかには?」「知らない」というようなものです(笑)。建築をやりたかったら勉強するでしょう。いろいろな建築家の作品を見たり、海外の建築を見たり、日本の建築を見たりすることを通して勉強するのではないかと思います。自動車のデザインも同様だと思うんです。新人たちには「こことここにあるから自動車博物館へ行ってきなさい」と必ず言ってます。100年足らずの自動車のデザインの中で、先人たちは、実にいろいろなことをやってきているわけで、それも知らないでいきなり白紙の上に絵を描くことはできないと思います。難しいことを考えなさいといっているわではなくて、先人が考えたこと実現したことを1回たどってみて、それから自分のキャンバスに絵を描くのだというスタンスが最低限ほしい気がします。 |
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| 川崎: |
いまはコンピュータを使うから、安易な形態がけっこう出てきてしまう。われわれから見ていると、曲線を手で描こうと思ったら大変だし、図面にしようと思ったら大変だけれども、コンピュータでできてしまう。ところがハイライトラインで見ると、想像どおりになっていない。僕らの世代だと、粘土でやっていって、その感触でハイライトレンダーで描けば、こういう曲線になるというのがわかるじゃないですか。いますべての世界において、そういうものが剥離現象を起こしています。これからの若いデザイナーにはコンピュータを与えざるをえない。ラピッドプロトタイピング的に、3D-CADを使ってやっていかなければいけない。いまちょうどその狭間にあるでしょう。 |
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| 石崎: |
まったくそうですね。スピードを優先したものづくりのアプローチも、いま各メーカーがどんどんやっています。ただ、自動車というのは画面の中でデザインして、ボタンを押したら削れているという、そんな単純なものではないんです。実は今だにいやというほどクレイをかき混ぜていますよ。そのぐらい複雑です。できた形を次の工程に持っていくのは、その複製をつくるわけですからコンピュータでいいんですが、匠となるものは手描きの絵と一緒で、手づくりのクレイモデルです。そこへアプローチするに、機械で1回削ってみたりして味見程度のことはやりますが、やはり手が原点なんです。
たしかに手描きのレンダリングスケッチは誰も描きません。でも、手描きのラフスケッチはいまでもやっています。どちらかというと、私とスタッフのコミュニケーションは手描きのラフスケッチのときが多いんです。ジウジアーロの昔の絵もそうですが、彼のメッセージを出す絵はラフな10分の1スケールの絵です。きちんとした絵はクライアントへのプレゼンテーションのためにあとで描いている。イタリアのデザイナーで、われわれの付き合いのある人たちもそうですが、非常に小さな絵で、まずメッセージをぱっと出してしまいますし、お互いにそれでコミュニケーションしてしまいます。コンピュータで絵を描くときれいな線ですっとできてしまいます。だけど、僕がよく言う意匠の「意」の部分がなかなか感じ取れるものにはならない。企てを一番見やすいのは、はっきり言って手描きです。やはり手で描いているメッセージは強い。デザイナー同士では手書きのスケッチでコミュニケーションが終わってしまうので、あとのレンダリングの工程はどちらかというと装飾をつくっているようなものです。
そういうラフスケッチの中から、これとこれとをレンダリングに持っていこうということで、コンピュータでやります。そのほうが早いんですし、写実的にできあがるものだから、デザイナー以外の人との場合はこちらの方がコミュニケーションが取りやすい。経営者や営業のような人たちに見せやすいのはコンピュータの絵です。だから、いま企業の中ではコンピュータの写実的なものが非常にはやっていて、そういう工程を経ないと次のセットへ行けないようなことになっています。シミュレーションとして、この車が街中に入ったらこうなるんだよ、ヨーロッパに持っていったらこうなんだよということも、コンピュータ技術を使ってつくることができるので、説得材料としてはものすごく活用できます。ただ、デザイナーがその部分にエネルギーをかけていてどうなのかなという部分もあります。 |
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| 川崎: |
僕はわりと早めにコンピュータをデザイン界に提案した人間だから、川崎は全部コンピュータでやっているのだろうと思われがちですが、実際はボールペンで描き、サインペンで描く。いまはグレイスケールで、バックもオレンジと黒ぐらいでぱっと描くぐらいしかやらないですけどね。いまは車メーカーもコンピュータだし、うちの研究室もコンピュータでいくと3次元CADですので、われわれがコンピュータ世代の子たちに、手のよさとコンピュータでできる合理性みたいなものをどのように結びつけてあげられるか。それが僕らの仕事ではないかと思いますね。
グッドデザイン制度は今年で46回目になりますが、46年かかっても、僕としてはまだデザイン振興の時代だろうと思っています。世の中の人たちは、いまだにデザインは好き嫌いで言われてしまうし、機能はいいけれどもデザインがまずいとか、分離してしか語られない。そういう風潮を改めていくためにも、カーデザインというのは言ってみれば車全体のことであって、これを統括しているのはデザイナーがディレクターであるんだという世界をもっともっと世間に見せてほしいと感じますね。 |
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| 石崎: |
そうありたいですね。現実にいろいろな人たちと仕事をしてできあがったものが、スタイリングというかたちになっていますが、一人でつくれないものですから、その会社の体質のようなものが出てしまいます。あれは不思議だなと思います。やっている人たちの集団としての個性みたいなものが必ず出る。誰かのキースケッチからその車ができあがったとしても、そこには会社のフィロソフィみたいなものが現れてくるんですね。ただのスタイリングではないところが自動車のおもしろさだと思います。会社のくせも出ますし、味も出てしまいますし、体臭みたいなものもある。たとえばスバルさんはスバルさんの不思議な味があったり、わが社にもそういうものがある。自動車というのは、よくわからないけれどスタイリングにその企業のフィロソフィーみたいなものが凝縮されてくる。だから、デザイナーとしては、一スタイリストで終わってはいけないなというのが私の考えです。 |
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| 川崎: |
グッドデザイン金賞というものは、日本が誇れるエクセレントデザインは何なのかということを探った結果です。改めて今年の受賞全体を見渡してみても、日本のモノを小さくする技術、凝縮感のあるもの、あるいは凝縮性にこだわった実装性のあるものが多く選ばれています。いま日本が貿易立国としてやっていくために、中国に絶対に負けない、あるいはアジアでトップの地位を保つためには、やはりこの技術は欠かすことができません。そういう意味では、今回コンパクトオープン、コペンというものに、象徴的にインダストリアルデザインを語ってもらえたと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。そしてあらためておめでとうございます。 |
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(2002年10月15日 名古屋市・千種区の名古屋市立大学芸術工学部にて収録) |
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●石崎 弘文
ダイハツ工業株式会社 デザイン部 主査
●川崎 和男
名古屋市立大学 教授
2002年度グッドデザイン賞審査委員長 |
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ダイハツ工業株式会社のHP:
http://www.daihatsu.co.jp/
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
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