川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

川崎: 一般の方々の前でオープンに審査をしたことでは、乗用車メーカーのデザイナーや企画展示に参加された企業のデザイナーによるプレゼンテーションをしまたし、審査委員の立場からいえばクローズドで行われたプレゼンテーション審査もあり、いろいろな次元のプレゼンテーションを試みました。なるほどそういうことでこの企業は成功しているのかというのを目の当たりにしたところもあるし、大手企業に向かって、小さな企業がここまで果敢に戦いを挑んでいるのかという気持ちよさを感じたプレゼンテーションもありました。とりわけ大企業に限って、そんな時代遅れな開発はないだろうというのもあり、デザイナーとしてそんなプレゼンテーションをしていて大丈夫なのか、というのもありました。学生バイトが大企業に対して相当がっかりしたという話も私には届いています。

ともかく、デザインが拡大してきて、さまざまな人がデザインに対して知恵を結集しているという姿はよく見ることができた。また民営化されて5年目に、なんとかこのGマーク制度改革を通して、デザイン振興のプレゼンテーションが進展しそうな傾向が出てきたことは、手前味噌ですけれども非常によかったと満足しています
   
森山: 審査の面でいえば、ビッグサイトでの2次審査会当日だけではなく、審査委員がきちんとプレゼンテーションを聞くという機会が、いろいろな段階で設けられたことは良かったと思います。そういうプレゼンテーションを聞かないと、応募されたものの本当の価値がわからないままに審査をしていたかもしれないというものもありましたよね。プロダクトについては、量産化されて市場に出るものなので、理解の度合いはいろいろにせよ、まだしも手に取ることを通して得られる情報も多い。しかし評価の主軸をモノが生まれてきた背景にある戦略的な部分に置かなければならない場合、応募データからだけではなかなか価値が見えてこない。だから、プレゼンテーションを通してしっかり見せていただいて、そのうえで公平な審査をするということは、これからの審査のあり方を考えていくヒントになりました。逆に反省する材料にもなって、わからないことがたくさんあることを謙虚に認めようという気持ちになりますよね。
   
川崎: 僕が思いついたアイデアは、インターネットから応募していただくときに設問が非常に多いので苦痛だという意見もありますが、そこだけでは語りきれないという人たちに対して、審査委員に対するプレゼンテーションを希望するという応募の受け方をしてもいいんじゃないか。そのような応募の仕方も今後、盛り込んでもいいかなと思っているんです。

審査の流れとしては、今年度のGマークは決まったわけです。これからいよいよその中で本年度のエクセレントデザインと呼べる、ベスト20が決まるわけです。ベスト20とは、すなわち金賞14点であり、ユニバーサルデザイン賞、エコロジーデザイン賞、インタラクションデザイン賞が総計6点です。さらにグランプリはベスト20からトップ5くらいを選んで、公開で審査を行うということを試みてきました。その決め方も、毎年さまざまなご意見をいただいておりますので、そうしたことを踏まえながら試行錯誤を繰り返して、良いものに変えていきたいと考えています。
   
森山: そうですね。2006年が50年目なので、私も副委員長になったときに、2006年を目指して、とりあえず実験をする猶予が与えられているのだろうと思って、幸い、委員長は川崎さんだし、いろいろやってみるといいんじゃないかなという気はしています。

大賞審査のあり方については、そもそも大賞というものを選ぶ必要があるのかということをはじめにいろいろなご意見を耳にしますが、Gマークがスタートしたのは1957年ですよね。日本のデザインプロモーションの始まりは、戦後でいえば1950年前後です。デザインコミッティーもJIDAもできたわけだから、52年といっても過言ではない。もっと遡れば、国立工芸指導所が仙台にできた1928年としたっていい。何が何年にあって、というように人間の記憶力、イメージというのは、何かに収斂しないとなかなか残らないじゃないですか。1980年はあれ、85年はあれと、思い出すのはやっぱり大賞なんです。

Gマークは長い間、グランプリ、賞がなかったじゃないですか。1980年から大賞の授賞をはじめたんですよね。松下の縦型のプレーヤー「SL-10」のとき、オリンパスの卵型で横にスライドするカメラ「XA-2」のとき、ホンダシビックのときと、大賞受賞製品からその時代が思い浮かぶ。四、五年連続して外国製品が大賞を受賞したことがあったでしょう。89年のデザインイヤーの翌年からですよね。当時の日本はバブルでデザインパワーを蓄えたつもりで、89年にデザインイヤーが開催されて、行け行けドンドンだったはずなのに、その一方で日本のデザインには若干空洞化的な現象が見られた。
   
川崎: 1990年にワークステーションのNextが受賞してから、B&OのBeosystem 2500、デンマークの眼鏡でエア・チタニウム、IBMのシンクパッド、そしてボルボの850エステートと、5年連続でしたよね。
   
森山: だから、賞が次の時代をつくることに若干影響を与えるという面と、日本のデザインがどうかということが賞に映し出されるという面と、両方ある。それは産業全体の競争力、産業全体のパワーと必ずしもイコールではない。先行指標だったり、フォローアップさせられるようなかたちで反映されたり、産業を中心にいえば、デザインには両方の面があって、先行するんだという説と、フォローアップばかりさせられているんだというネガティブな説がある。内輪では、デザインって、企業と産業の尻ぬぐいばかりさせられているという言い方がときどきされるじゃないですか。でも表立ったときには、問題を解決するなんてとんでもない、問題を自ら提起するんだという言い方をする。もちろんそれも正しいでしょう。どちらもその場に応じて正しい。産業との関係でいえば、両面が折衷するのではなく、どっちが強く出て、たまたまどういう時期かということはあるけど、両方があるんですよね。

いま2002年のGマークを見た限りでは、デザインが完全に先行指標になっているとは言えない。そう言い得ている部分は、全体の中のある限定された部分です。デザインの次の時代を示すんだ、次の時代の提案をしているんだということが見える部分はあっても、多くは少し踊り場的な状況にある産業のフォローアップをしている。尻ぬぐいというのはちょっと言い過ぎなんだけど、その両方が見えているような気がするのね。

だけどデザインが次の時代を拓く、Gマークは企業の未来を拓くと言っている限りは、全部ではなく、ある限られた部分であれ、それを表に出していって、それを制度として応援するというスタンスが当然必要じゃないですか。大賞をどういうふうに決めようかという話は、いろいろな意見があるけれども、プロモーション的に見ると変えてみる時期ではあるでしょうね。
   
川崎: 去年、僕が審査委員長になったときに、グッドデザイン賞の50周年は「儀式」であると書いたんです。審査委員長の在任期間である45から47周年は「祝祭」、お祭りにしたいと表明しました。特に新しい世紀に入っているということもありますし、もっともっと多くの方にGマークを知っていただくことと、まだまだGマークを通してデザインのよさをプロモーションしなければいけない時期にあると考えるからです。一方では、電機メーカーにしても、海外の電機メーカーの進出が激しい中で、モノづくりに迷っておられる企業があります。けれど、従来型のマーケティングで消費者を可処分所得に応じてセグメンテーションして、このランクの人たちはこういう商品でしょう、このランクの人たちはこういう商品でしょうということをやっているところがいまだにあります。そういう既に終わってしまったモノづくり手法やデザイン手法に対して、デザインサイドから企業全体の手法や戦略の革新をやっていただかなければいけない。そのためのGマークは評価システムでもあるわけですから、よいデザイン、優れた開発手法など特別賞を受賞したベスト20を通してプロモーションしていかなくてはならない。また批判を受けるかもしれませんが、審査委員団のある種の主観性が批判を受けることであらためて客観性が鍛えられていくと考えています。何に対して賞を贈るのかということを考えると同時に、ベスト20の選び方も、トップ5の選び方も、その頂点のグランプリの選び方も探っていきたいと考えているんです。
   
森山: その手法は様々だと思うのですが、一つの思考実験として、日産を例にとってみましょうか。今回プレゼンテーションにありましたが、日産のゴーン社長の改革の一つは、せっかくのデザイン部隊という資源を、ものづくりだけでなく、企業のブランド価値を高めるような活動にできるだけ有効に使うということだった。プロダクトはもちろん、それこそ株主総会からモーターショーや店舗ショールームの空間デザインまでにデザイン部隊が総合的に取り組んでいる。私は株主じゃないから行けないけれども、日産の株主総会は少なくとも日本の従来のやり方とは大いに違う場づくり、時間づくりができたようです。株主総会は誰のためにやっているかというと、もちろん株主のためですよね。それを参照して、Gマークの直接的な<株主>は誰なのかを考えると、大賞選考の方法も導けるような気がするんです。IR、インベスター・リレーションシップのインベスターといえるのが応募している企業なのか、製品・商品のデザイナーなのかははちょっと微妙だけど、とにかく応募してくれる<株主>が支持する制度であり、組織でなければいけないわけですね。だからたとえばある部分の審査に関しては、Gマークという制度の内側の審査委員が決めるんだという考え方を外して、株主に相当する人たちが、こうあるべきだと発言するやり方があるような気がするんですよね。株主総会と、川崎委員長のおっしゃるお祭りを合わせたものとして。
   
川崎: それは僕も賛成です。今のお話で株主にあたるのかなというのは、たぶんウィナー、アワードを取った人です。つまりグッドデザイン賞を受賞したものをデザインしたデザイナーたちですよね。インベスター・リレーションシップではなく、ウィナーズ・リレーションシップ。そういうことで、たとえば審査の場面に、グッドデザイン・アワードを取った人たちに来ていただく。受賞者が出来る限り集まっていただく。その皆さんにこれからベスト20なりトップ5なりはどうなるだろうというそれこそデザインの総会に参画していただいたらどうかという、それが実現したときのデザインプロモーションの成果がきっと共感できるデザインを選別できるのではないかと想像します。

20点も大臣賞が出る賞はわが国では皆無です。グッドデザイン賞の制度としては、それが特質なんです。だから、大臣賞であるベスト20、その中のトップ5は審査委員団の明確な意思のもとにしっかりと決定したい。ただ、トップ5から選ぶベスト1について、ウィナーが投票をする。表彰式の場を同時に設けて、ウィナーの人は来てくださいというようにしていったらどうか。そうすると、ウィナーになることで1票が投じられるし、審査委員にも当然その投票権を与えて、その場に呼ぶべきでしょう。そうするとウィナー同士の交流も生まれるし、審査委員とウィナーとの交流も生まれていくはずです。
   
森山: 投じられるという考え方ではなく、日本の今年のグッドデザインのグランプリは何か、受賞者自らが信任の意志を示すという行為には、責任が発生し、見識が問われる。そのように考えるべきですよね。ウィナーになるためには、少なくともまず応募するという行動が伴う。それからウィナーになり、グランプリの投票権を得る。少なくとも自らの意志で行動しているわけですからね。
   
川崎: メディアを通して、今年のGマークはどうだったというのではなく、フェース・ツー・フェースで議論ができる。そういう場が設けられれば、その効能は測り知れないと思うんです。たとえば残念ながらウィナーにならなかった人にもその場に来ていただいて、懇親会のパーティか何かのときに、なぜ自分のデザインが選定されなかったのかと、審査委員に質問をぶつけていただけばいい。そのような場を設定して、交流を促すとともに、その場でみんながデザインについて議論していくことになれば、日本のデザインの質を挙げていく一つの場になることは確実です。
   
森山: 審査委員団が選んだトップ5に、グランプリの1票を投じようと思ったら、全部について知らないと困るじゃないですか。だから投票を行うのであれば、当然プレゼンテーションをしたほうがいいと思う。それから、投票券のようなものに、投票権を持つ人の名前が書いてあって、誰が投票したかを署名してもらう。そうすると不在者投票もなければ、代理投票もない。まさに同じ条件下でノミネート作品のプレゼンテーションを聞いた人が、その日、一気に決めるという方法はあっても良いかもしれませんね。インターネット時代に、そんなリアルワールドだけを信じているようなことはという批判は出ると思うんです。だけどノミネート作品については、同じ条件下でプレゼンテーションを聞いて、そこで事前の情報、事前に触ったもの、実際にやった人がどういう顔かたちで、どういうふうにプレゼンテーションをしたかまで含めて、全体でデザインプロモーションが完結すると考えれば、代理も認めず、不在者も認めず、とりあえずインターネット投票というのはないだろう。こういう考え方が十分に成り立つような気はします。
   
川崎: それはグッドデザイン選定という制度の問題提起にもなります。デザインは問題を解決するということもありますが、新しい形態を世の中に出す、新しい形式を世の中に問いかけるということも、デザインの一つの職能、重要な効能性の部分だと僕は思っているんです。だからこそ今日僕らで発案したウィナーズリレーションシップ・マネージメント=WRMで、今年度のデザインプロモーションをやってみたいと思いました。いまのところ、2人の正副委員長としては、そっちの方向をぜひとも事務局に提案したいと思いますね。事務局は、ますます大変だろうと思いますけど(笑)
   
森山: だって、デザインが良い、悪いと言っている私たちが、Gマークを運営するというときに、みんなが参加して、みんなが気持ちよくて、リターンを受けられるような気持ちになれる場をつくってみせないと、人様のことを言っている場合じゃないでしょう。(笑)
   
川崎: いまの日本の状況を考えると、経済的な側面で考えれば、金も国力も失いつつある。車は少し元気を取り戻しつつありますが、これまでの車でいいはずではないわけだし、IT産業はまったく活力が落ちてきている。もっと息絶え絶えになっているのは、地方の伝統産業、地場産業です。そうした中、いまの長者番付みたいなものを見ると、明らかに入れ替え、世代交代がきていますよね。それは活力が失われていると思われているような領域に、再び活性化の芽が現れてきている証左だと思うんです。それはGマークでいえば、コミュニケーション部門とか新領域デザイン部門で、非常におもしろいものが出てきているわけです。この領域で、今年こんなに優れたものが現れて、だから賞に入ったといったことが明らかになって、受賞を契機にその企業が成長し、さらに良いデザインを生み出すようになり、日本のデザインをリードしていく。そのような事例を増やしていくことが重要ですね。
   
森山: そういう具体的な例が出てくれば、企業とはいわなくても、デザインが生まれる場所はたくさんあるわけだから、非常にシンボリックな例になりうるような気がする。大賞に値するようなものは、過去にもそういったところも出てきているし、実際新しい展開が顕在化するような気がする。
   
川崎: 去年、「せんだいメディアテーク」をグッドデザイン大賞に選んだ。どれを選んでも出てくるのでしょうか、なぜあれなんだという批判が出てくるものですよ。でも、その批判をした人に対しては、せんだいメディアテークに行かれましたかと問いかけたんです。行っていなかったら、説得力がないでしょう。行ってみて、やっぱりこうだという回答ならいいけれども、行かずにあれはないだろうと続けておっしゃるのは、僕は全然、批判の資格すらないと思うんです。行って見てみないと、ここまでのことが配慮されているということがわからないはずです。モノでも同様で、評論家の方でも、必ず自分でお金を払って買って、確かめるという方がいらっしゃいますよね。こういう人の意見は、身銭を切ってやっている強さがあるから、それは非常に強い説得力を持っているんですよね。それは批評とは何かという話になっちゃうんだけど。
   
森山: その話をすると長いですよ。私もちょっと言いたいこともある。(笑)
   
川崎: 去年グッドデザイン・プレゼンテーションでは、ある企業にアドバンスデザインを提示していただき、今年はデザインイニシアチブで、ある大学が自分たちのプロジェクトを提示していただいた。あれを見て、うちの学生も、来年うちの学校もああいうのに出たいですと言ってくる。やっぱりそういうことだろうと思うんです。各企業も、Gマークに出品しているけれども、私たちはこういう考え方も持っているんだぞ、応募用紙で語れないところは、行って話をするから聞いてほしい。それでベスト20、トップ5、そしてグランプリになる。今の時代はわれわれがデザインした物事で語りたいんだということを言ってもらうことを、制度として、デザインオリエンテッドな日本をリードしていくことになる。そういう制度であってほしいなと願っています。制度が50周年を良いかたちで迎えられるよう、いろいろと考え、実現していきましょう。
本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。
   
  (2002年9月13日 東京プリンスホテルにて収録)
   
●森山 明子
武蔵野美術大学 教授
2002年度グッドデザイン賞審査副委員長

●川崎 和男
名古屋市立大学 教授
大阪大学大学院フロティア研究機構 特任教授
2002年度グッドデザイン賞審査委員長
   
2002年8月29日、30日に開催された  
グッドデザイン・プレゼンテーションのレポート:
http://www.g-mark.org/gdp/synthesis/41report.html

2002年度グッドデザイン賞の受賞発表(10月1日13:00より):
http://www.g-mark.org/winners/