川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

川崎: パナソニックデザイン社が設立される前は、社内分社や関係会社にデザイナーの方が属していたわけですが、そのデザイナーを集結させるにあたって、処遇などの面でも新たな試みをされているそうですね。
   
植松: 松下電器には、創業者が真野善一さんをコアとするインハウスデザイン部門を日本で最初につくったという歴史と自負があります。それ以来、50年になりますが、今回の改革についても日本のインハウスデザイン部門がどのように21世紀型に脱皮していくか、構造改革をしていくかという一つのモデルケースになりうると思っています。

振り返ってみると、インハウスデザイナーは経済成長が右肩上がりのときは、仕事が次から次へとくる中で、一つの流れ作業としてそれを消化していれば良かった。しかし、個々の能力をグローバルに、いろいろな姿でネットワークできる時代においては、必ずしもインハウスであることは必要ない。逆にいうと、インハウスデザイナー自身が、エキスパートとして成り立っていくだけのコアコンピタンスを持っているのかという大きな反省点があったわけです。この問題は当社だけではなく、日本のデザイン界全体にあるのではないかと思っています。当社でも主任、主事、副参事、参事という特称によって、その人のステータスなり、役割なりが決まっていました。今回、それをまったくゼロにするわけにはいかないのですが、それに加えるかたちでシニアデザイナーという呼称を設け、能力と実績によって、お金の面でインセンティブ、ならびにさらに広い活動の場の提供という要素を入れた制度を計画しています。雇用なり処遇の面も含め将来的には、パナソニックデザイン社として、世界に通用するエキスパート、新しい創造集団、新たなインハウスデザイン部門としての在り方を築きあげていきたいと思っています。それが一つの取り組みです。これと同時に、私どもパナソニックは世界中で非常に多岐にわたる商品を手掛けていますから、シニアデザイナーには世界のエキスパートの方とコラボレーションをしていくリーダーとして、戦略的に重要なテーマを自分の担当に関係なく大きなフィールドでやっていただく。これも運営面では特筆できる点だと思っております。
   
川崎: これから企業デザイン部門のマネージャーとして、戦略を練り、企業実績を積み重ねながら、投資したものを回収してこなければならない。一方でデザイナーたちのクリエイティブな能力を引き出さなければいけないという大変なお仕事になると思います。そういう中で、将来の見通しをどのように考えておられますか。
   
植松: 21世紀型のデザイン部門ということを考えるときに、私はインハウス内の創造活動にはこだわっていなくて、エキスパート集団であることにこだわりたい。いま弊社の社員全員に言っているのは、パナソニックデザイン社のミッションである“革新デザインの創出”に向けての取り組みは、「価値をつくる」、「道を究める」、「競い勝つ」の三つであるということです。「価値をつくる」というのは、言うまでもなく、われわれの重要な役割であり、それは有形無形を問わず革新的なデザインをしていくことである。ここでいう無形はインタフェースその他の要素も含めてです。そのために、「道を究める」ことが必要です。つまり、間口はいろいろあると思いますし、領域もあるでしょうが個々人が世界に通用するスキルを持つ。アウトプットを高めるために、個々のデザイナーの資質を高めていくということです。

「競い勝つ」というのは、言うまでもなくわれわれは事業をやっているわけですから、唯我独尊ではありえない。だから商品なり、事業なり、システムなりで、他を凌ぐということで、競い勝つのは重要なことです。もう一つは、個々として道を究めていく中で、自分なりの計画がありますよね。3年後にここまで目指そう、5年後にこうありたいとか。では、この1年は、たとえばドローイングはこの領域までやっていくとか、三次元の入力もこのレベルまでやるとか、TOEICの点数を何点上げるとか、そういった“目指すもう1人の自分”に勝つということです。ターゲットにむけて自らPDCAのサイクルでやっていく。当然そのレフェリーは自分自身です。パナソニックデザイン社は、そういった人の集団であり続けたいという意味も含めています。さらに、組織として、そういう考えが基礎になっているかという自問の意味で、競い勝てるような体制、運営になっているか。常に競い勝てるような状態にあるか、自分が目指したものに対して、きちんとそこに向かっているのか自分自身の鏡を置いておきたい。こんな思いで、この三つを掲げさせて頂いています。

目指す方向がそういうかたちですから、デザイナー個々の管理もコミュニケーションプログラムというものによって、その人の目指すターゲットとこの1年間のターゲットを、上司と合意をもって設定し、その達成度に対して評価していこうとしています。ライフワークとして世界に通用するようなレベルを各々が設定し、それにチャレンジする中で、あるところで見極めてあげる。本来、建築やデザインはコンペティションの世界ですので、やはりエキスパートの中で自ら能力を高めてやっていくという姿の新しいマネージメントスタイルが出来ればよいと思っています。

一方で、運営自体を競い勝てる仕組みとしていくべきと考えます。そのために国籍、性別を問わず、世界のエキスパートの方々と多様なかたちでコラボレーションができるような形態にしていく。世界の主要なところ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、東京、そして大阪はわれわれの開発基盤がありますから、そのサテライトスタジオにお越しいただく、またはジョイントして一緒にやる。このコラボレーションのかたちは、個人としてでもいいし、オフィスとして契約してもいいし、あるいはテーマだけ、お知恵だけいただくということでもいい。たとえばインタフェースの開発などは、そういう能力に長けている方とコラボレーションを臨機応変にやっていく。それをブロードバンド時代ですから、ネット上で集い、ネット上でグローバルにやっていくという姿だっていい。こういう姿で、われわれと思いを共有できる、いろいろな領域の世界のエキスパートの方とパートナーとしてやっていく。それをマネージメントしていくのが次の時代のデザイン部門であろうと考えているんです。

グローバル・エキスパート・フォーメーションと呼んでいますが、そういう姿で運用していけないか。それができれば、結果的にわれわれが個々がエキスパートになると同時に、新しい領域にチャレンジすることができる。今いろいろと述べてきたことは、現状との間にずいぶん温度差がありますし、全社的な制度上の問題もありますが、目指すべき方向として定め、その基盤づくりをしていきたいと思っています。
   
川崎: 大きな経営改革の中で、デザイン部門が大きく変わられる。僕自身、インダストリアリズムがバブル崩壊の直前から揺らぎはじめたときから、インダストリアルデザインは相当変わらなければいけないだろうということで、アソシエーションの時代は終わって、フォーメーションの時代が来るということをずいぶん書いたんです。それを今回ものの見事に、本当の意味での少数精鋭主義で、なおかつグローバルにパートナーシップを結んでいくサテライトスタジオというかたちでという方策をとられるとすると、松下が抱えておられるモノづくりの資産を生かしていくデザイナーのキャリアプランはどうなのか。パナソニックデザインが期待される次の世代のデザイナー、どういうデザイナーを求めておられるのか。それをお聞きすれば、パナソニックデザイン社がいまいるデザイナーを継続していくという資産継続、また人材を「人財」として見るというところがはっきりするかと思います。
   
植松: 松下電器の改革の中で私が非常に痛感したのは、デザイナーの専門性とはいったい何なのかといことです。松下電器では、この3月までに1万3000人程の方が早期退職されましたが、経理職能出身の方の多くは、一流企業に再就職された。それはなぜかといえば、まさしくエキスパートであったからです。翻って、世の中で専門職といわれているデザイナーはどうかというと、当社に限らず、必ずしもそうなっていない。それはエキスパートとして、社会が求めるレベルと求める内容に達していなかったからなのではないか。インハウスの中だったらできますよという、非常にいびつな性格の専門家だったのではないか。そういう意味でこれまでの人づくりのあり方を修正すべきではないか。はたして1人で世界という水の中に飛び込んだときに、溺れてしまうということでは具合が悪い。そういう意味で、この会社は、価値をつくるのがメインだけれども、価値をつくると同時に一人ひとりのデザイナーが道を究めるようにしようじゃないか、このことを目指したいと思います。

このような思いもあって、4月1日にこの会社が発足したときに社員の皆さんに話したのは、ターゲットはもちろんお客様にご満足を頂くことですが、ある意味では松下グループの各会社がわれわれのクライアントになる。そうしたクライアントにとって、当然アウトプットの質が高い、いいものをやってくれたな、ストーリーがいけるなということも含め、この会社を絶対に価値ある良い会社にしたい。ただ、今の弊社デザイナーにとっては、この会社は必ずしもいい会社ではないだろうと否定的に言ったんです。会社に入ったら仕事があって、ある程度したら人並みに昇格していくという、20世紀型のインハウスデザイナーのままでやっている人たちにとっては、この会社は決していい会社ではない。いままでの延長線上では、デザイナーの成長もなければ、それを抱えている企業の存在もない。われわれは役立ち料といいますが、社会に対する役立ちとしての価値を生むことが出来ないと思うんです。しかし、先ほどの道を究める、競い勝つことを目指し、実践しているデザイナーにとっては、絶対にいい会社にする。私はそう思っていますので、現状肯定型の人にとっては極めて住みづらい会社になるでしょう。自らがエキスパートになる、また求められるエキスパートにチャレンジしていく過程が、その人の存在だと自覚し、とことんトライアルしていったらいい。それに定年はない、ライフワークじゃないですかと言っているんです。基本的には松下電器および松下電器グループですから60歳定年がありますが、道を究める、競い勝つ中で専門性を究めた方には、パナソニックデザイン社は再契約いたしますというかたちです。多様・多種にわたる雇用形態を取っていきたいと思いますから、要は間口が狭くても奥行きがドーンとある方であれば、その部分をライフワークとしてさらに究めていただければ体力的に可能であれば弊社で働いていただけるということです。

当然、それだけの能力があれば、世界のどこに出ていってもいいわけですし、その逆もあります。われわれが求めるものが世界のレベルであれば、その人たちに来てもらう。社員になりたくなければ、パーシャルに来ていただいてもいいわけで、そのようにできるだけフリーな姿を実現したい。われわれは勝つ組織にしたい、闘う組織にしたい。こんな思いなんです。結果的にその中で順応できる人は幸せなはずです。いままでの延長線上の組織ではデザイン会社として生き残っていけないと思うんです。
   
川崎: 一つはいままでのインハウスデザイナーは、ある種デザインのスペシャリストとして育てていって、ある時期になるとジェネラリストにするというかたちでしたが、フォーメーションというスタイルを基本に、パナソニックデザイン社がスペシャリストの集団であるとすると、ジェネラリストはどんなふうに配置するのかに非常に興味があるところです。
   
植松: いままではどちらかというと、会社の特称なり、ステップなり、ヒエラルキーの中で、デザインが優秀で主任になったからマネージャーもできるだろうというような流れでマネージャーの勉強もさせた。それでそっちの方面にちょっとだけ長けていたら、そのまま進んでしまったわけです。その人はクリエイターとして非常に優秀だったかもしれないのにマネージャーにしてしまって、それで社長までいけるのかといえば、中途半端で終わってしまったということが多々あったと思うんです。

そういう意味からいうと、マネージャーとしての見極めをするステップをいくつか置いてあげたらいい。その人はデザイナーとして歩んできたけれども事業のマネージメントで才能を発揮するようであれば、一匹狼になってもマネージメントだけで食っていけるように、その道を究めてもらう。トップのミッションは、業績を上げると同時に、後継者をつくることです。私の後任も、デザイナーから出てくれるにこしたことはないんですが、松下グループ全体のマネージャーとしても通用する人でなければ、私はマネージャーにする気はありませんし、デザイナーであることは必ずしも絶対条件ではないと思っています。

マネージメントというのは、今後、ITも使って、合理化、フラット化していくのでしょうから、そこでのマネージャーの育成は大きなミッションですが、業容を広げていくなり、フォーマットをきっちりやっていくということからいうと、それに最も適した能力は社内外を問わずに探したらいいとも考えています。
   
川崎: 松下電器さんは、ある言い方をすれば、それぞれの領域でつくっているモノがバラバラにあったわけですよね。その中で、デザイナーにとってみると、一方で営業の連中、一方で技術の連中の向こうを張って、このデザインを世の中に出したいという思いだけで突っ走ってやっていくわけですが、たいていは営業で潰される、あるいは技術がまだだといったバランス関係の中で常にやってきた。今回、いままでバラバラであったところを一つにまとめて、企業の遺伝子みたいなものを握っているデザイナーのチームがあって、グループがあってというかたちでいくと、様々な問題を引っくるめて、それぞれのデザイナーをどういうふうにフォーメーションしていくのか。そういう流れでいくと、これからはコーポレート・アイデンティフィケーションというか、プロダクト・アイデンティフィケーションが一つにまとまって、フォーメーションだからできることと、フォーメーションだからこそ難しくなるという部分も、たぶん植松さんは考えておられるのではないかと思うんです。
   
植松: 組織として今回、ブランドごとに一つのグループ「パナソニックデザイングループ」「ナショナルデザイングループ」を設けました。また、これは国内販売の事例ですが、パナソニックマーケティング本部ということで、マーケティングも一本化しています。ご懸念のように、昔は営業の声に大きく影響を受けたこともありましたが、マーケティング施策とデザインコンセプトを整合させてていくプロセスで潰されてしまう程度の希薄なデザイン活動では具合が悪いと思うんです。マーケティングも統合的に動くとなると、いろいろな意味のタイアップもありえます。マーケティング本部は宣伝部門を包括していますから、トータルとしてのマーケッティングなり、ブランドアイデンティティを構築をしていくことが可能になると期待しております。

いずれにせよ、われわれとしてはアウトプットである商品、またその集合体としてのブランドイメージを上げていくことが、大きなミッションであることは間違いないわけです。そのファンデーションとしては、個々が画期的なデザインであると同時に、その総体が、ある統一されたメッセージを出していく。イメージを統一するのは当然のことですが、たとえばユニバーサルやエコの問題は、個々で解決していくとどうしても温度差ができてしまいます。しかし、それに統合的に取り組むことによって、表に見える見えないは関係なく、われわれデザイナー個々の良心として、パナソニックデザイン社の良心として、全商品の共通基本方針はこれでいくんだという評価、考え方を埋め込むことができるはずです。

成熟社会においては、第一印象のよさ、一目惚れさせるような魅力を持っていることは必要ですが、一目惚れで買ったけれども、付き合ってみたら、やっぱりいいやつだったなとお客様が思われる。さらに環境、静脈産業的な部分においても、パナソニックのデザインは再利用しやすいように、よく考えているんだなというところまでが、ブランドの評価になってくると思うんです。われわれのブランドは10年、20年だけでいいと思っていませんから、ただ一過性で売れればいいということではなく、買っていただいた後で信頼関係が出てくることも大きな価値になるんです。そういう面においても、デザインのマネジメントを一元化したことで、レベルの高いものになっていくのではないかと考えています

ブランドイメージというのは、一つひとつを比べるとバラつきはあるかもしれませんが、やはり共通して源流となるのはお客様第一という考え方です。そしてなおかつ革新デザインの基盤になるようなこと、それはコストがかかる、または手間がかかるかもわからないけれども、パナソニックデザインのどこをとっても、ここまでのユニバーサル性は常に入る、ここまでのエコは考えているということです。たとえばカラーリングであれば塗装はできるだけやめて、その代わり、それがエクステリアとして価値のある素材にしようじゃないか。キラキラした一過性のものはやめる。二次加工も、できるだけ再利用を妨げないように解体が簡単なようなフォルムにして、なおかつ当初の機能であるデザイン性を損なわないようなものにする。そこには制約がずいぶん入ってくると思います。だけどそれをクリアするデザインの資質、レベルがなければいけないと思うんです。それは共通してやるという、いい意味の管理です。それを踏まえてやっていくという思いと意思を発することはできると思います。できない点というのは、あまりそれを言うと、デザイナーは自由なことをやりたいから縛りをやめてほしいということがあるので、それを経営としてわかったうえで、あえてタブーに挑戦するということは是としたいんです。だけどわからずにやるということだけはいけない。そういう考えがキッチリしているのなら、制約はできるだけ外したいと思っています。
   
川崎: 具体的なデザイン手法の話になると、いまはコンピュータがありますから、距離が離れた拠点間でもブロードバンド回線でつなげばリアルタイムでやりとりできる。ただ一つ問題は、私も植松さんも、育ってきた環境は基本的には手で描くスケッチでしたが、あの時代に比べれば、格段にコンピュータ化されています。われわれの世代がやってきた手で絵を描いたり、手で図面を描いたりという作業が、デジタル化されてしまった。この環境に、若いデザイナーたちがどっぷり浸かりすぎているから、たとえば形が似てしまう、あるいはグラフィックの表現を見ても、これはイラストレーターとフォトショップのあの機能でつくったのだなというのが見えてしまうということが起こってくると思うんです。一方できわめてデジタライズされた環境でデジタル的な発想で絵を描くというクリエイティブと、一方でアナログ的な発想でアナログ的に手で絵を描くクリエイティブとの間に、根本的なずれが出てきている。それは大学で学生を育てる立場として、非常に悩んでいるところです。いったいどこまでをコンピュータでやらせて、どこまでを手でやらせるか、それはどのようにお考えですか。
   
植松: コンピュータという便利なデザインツールが普及している今、ものによっては、機構設計のエキスパートにこういうツールを使わせてデザインさせたら、非常にいいものができるかもしれない。コンピュータのオペレーションにさえ長けていれば、そこそこのものができます。様々な形態が収められたライブラリーからデータを引っぱってきて、ヒュッと入れればできてしまいます。しかし、それだったら、デザインのエキスパートとはいったい何なのだという話になります。

私の恩師は佐々木達三先生で、初代のJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)の理事長、スバル360のデザインを手掛けた方です。佐々木先生がデザインするに当たってスケッチを作成しなかったのは有名な話で、粘土に触れるという、リアルな姿との対話を通して形づくりを指導していただいた。それから会社に入ってから個人的にもお付き合いさせていただいたのは、ロドルフォ・ボネットさん。いまはお亡くなりになられましたが、この方はウルム造形大の先生で、そこに行くと、壁面に球と平面、三角錐など、いわゆる基本的な造形の面構成のベストというのが何百とあるんです。それを見たときに、これはすごいな、これを全部修得できれば、自動車もできるし、あらゆるフォルムができる。そのままデッドコピーをするのではなく、光の構成、面の構成、面の張り方、それに対する印象などを自分の中で把握し、形と対話ができるなと思ったんです。そういう教育をウルム造形大ではきっちりやっていたんです。

最近はコンピュータを道具として、そのオペレーションのうまい人がいいデザイナーだと錯覚してしまう。そういう意味では、我々の世代は手に触れることができるもの、もしくは作れなければ、レンダリング、スケッチを通して、仮想空間と自分との対話、造形のシミュレーションをする。空間、造形、それに質感、それと常に対話しながら、大きさなり、アールなり、面の張りをどうしようという要素を総合的にスタディして自分の中に組み込んでいった。そういうことを体得する場は絶対に必要だなと思いますから、その基本のところは、もう1回きっちりと取り組まないといけないのではないか。そういうことを教育、スキルアップの中でやっていきたい。それと同時に、思い描いているものと結果的に描いたものとが違っていてはいけないわけです。スケッチに戻る、レンダリングに戻るということは、絶対にもう1回やろうと思いますが、それと並行してITを使うことで、業務効率の向上にも取り組む必要があると思います。

ただいずれにせよ、クリエイター、デザイナーとして、原点に返る、生涯ワークとしてそこに返る、という場所が必要だと思います。声楽家は80歳になっても毎日、声楽の訓練をして、音程と自分の声を常にチューニングしている。原点に返っているわけです。プロゴルファーもそうです。スウィングの基本に戻る。それと同じように、プロの造形家であれば、そこに返ることに意味のある基盤をつくるべきだと思っています。それが現在、ないような気がします。われわれの受けた教育は、いろいろなことを経験させていただきましたが、それをしないで、結論だけを追い求めても、本当のエキスパートにはならない。これは一企業だけでできるかどうかは別として、私はそんな思いを持っています。
   
川崎: 僕はいま審査委員長をやらさせていただいているので、最後にお聞きしなければいけないのですが、Gマークへの批判は山ほど聞いています。しかし僕は貿易立国としての日本は、世界に対して、これがわれわれが選んでいるGマークで、日本のグッドデザインの見方はこれなんだということを常に発信していかないと、デザイン界自体がポシャってしまうと考えています。最後に一言、パナソニックデザイン社としては、グッドデザインをどのように捉えていらっしゃるのかをお聞かせ下さい。
   
植松: 私の個人的な思いとしては、パナソニックデザイン社の商品はすべてをグッドデザインにしたいと思っています。グッドデザインというのは、これから求められるファンデーションであれば、社会性であったり、人との対話性といった要素がきちんと押さえられていて、なおかつ産業として、またものとして、それだけの存在感や新しい生活のビジョンがあるものを提案できたりというものが入っているというのが前提です。

そういう意味で、Gマークがこれまで日本で果たしてきた役割は大きいし、これだけグローバル化になったがゆえに、やはり日本のものづくりの一つの指針を示すビーコンとして存在することに非常に意義があると思います。逆にいうと、パナソニックデザイン社は、Gマークの評価が基本であるというようにしたいと思っています。先ほど言いましたように価値をつくる、道を究める、競い勝つということをクリアしたものであれば、絶対にGマークのはずです。Gマークというのは、そういう中でのもののコンセプトでなければならないと思っていますから、逆にご支援いただかなければいけない面もあるなと思っています。
   
川崎: ありがとうございます。審査委員長としては、それを聞いて非常に安心しました。よろしくお願いいたします。今日のお話をまとめると、明らかにアソシエーションからフォーメーションに変わるということ。それから価値をつくる、道を究める、競い勝つという三つのポイントは、結局は自分の価値をつくる、自分の道を究める、それから自分の弱さに勝つというデザイナーにしていくんだということでした。個人的に非常に共感できる部分が多く、興味深いお話が多かったと思います。
本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

(2002年5月15日 大阪・梅田のヒルトン大阪にて収録)
   
●植松 豊行
松下電器産業株式会社 パナソニックデザイン社 社長

●川崎 和男
名古屋市立大学 教授
2002年度グッドデザイン賞審査委員長
   
松下電器産業のHP:
http://www.matsushita.co.jp/
パナソニックデザイン社のHP:
http://www.design.panasonic.co.jp/