| 水谷: |
2000年夏のクレーム隠しの問題で、三菱自動車のユーザーに対する信頼は大きく失墜しました。そこで何とかしなければいけないという大きな問題となって、直後からターンアラウンドの方向に移りました。その後、2000年秋にダイムラークライスラーとの資本提携によって、ボードメンバーを受け入れ、本格的なターンアラウンドに移行したという経緯です。その時にダイムラークライスラーから迎えたのは、最高執行責任者(COO)兼代表取締役副社長としてロルフ・エクロートを筆頭に数名の取締役です。また、デザイン本部をエクロートCOOの直轄として、本部長にフランス人のオリビエ・ブーレイを2001年の春に迎え入れました。何となくヨーロッパの人たちが日本に攻めてきたというイメージもあるかもしれませんが、彼らは一人ひとりスタンスが非常にはっきりしていますし、三菱自動車のためにレールを敷き直して、新しい方向に向けて牽引車として導いていこうという非常に真摯な態度です。
もちろん私の置かれている環境も変わりました。それまではチーフデザイナーという立場で、デザインの現場、スタジオのデザインにどっぷりとつかっていた人間です。それがいまは部長という立場で、幹部室みたいなところにいるわけです。下に絨毯の敷いてある部屋です。自分としては柄ではないし、そういう立場を望んで仕事をしてきたわけでもないので、当初は断ったんです。だけど、広い意味ではマネジメントをしていくこと自体もデザインだと思うし、どうして私かといえば、いままでの部長とは違うタイプの人を望んでいるのだろう。それだったら部長という既成概念にとらわれずに、みんなが望む、あるいはなりたいと思う部長を私自身が作り上げればいいと考えて引き受けることにしました。だから、いままでこうだったという引き継ぎの資料は参考にせず、全くの白紙からスタートしました。自分流にすべてのことを考え、組み立てる。いままではこうだったよということはあるかもしれませんが、基本的にはすべて自分で将来のことを見据えながら考えています。
ターンアラウンド以降、社内の様々なことが大きく変わりました。まったく別の会社にいるといっても過言ではないと思います。ですので、1年ぐらい前のことを思い出したり、1年前の人に会ったり、昔話をすると、よく考えたら去年だよねということが多いですし、何かすごく遠くの景色を見ているような感じになります。この半年間という時間は、僕らにとっては何十年に匹敵するぐらい大きく変わってきています。 |
| |
|
| 川崎: |
モーターショーなどを見ていると、オリビエ・ブーレイ氏はかなり精力的に活動されているなという印象を受けます。デザインのトップが海外の方になると言葉の面などで壁を感じることはありませんか。 |
| |
|
| 水谷: |
彼は年齢的には私よりも若いですが、非常にフレンドリーな関係の中でデザイン本部はうまく動いていると思います。彼は個性が強く純粋なところがありますが、いままでのボスにはなかった、はっきりした方針を打ち出しています。言葉の障壁があることは確かですが、私だけではなく多くのデザイナーたちが、いままで以上に意思が通い合うというのは実感として強く持っています。彼はこの半年間、本当に激務続きで、倒れるのではないかと思うぐらいにスケジュールがぎっしりで、三菱自動車のために骨を折ってくれています。それくらい強い愛情を持って接してくれていますので、われわれの側もモチベーションが非常に上がります。もちろん欧米人特有の、われわれとは違った面について、私は非常に勉強になっています。
以前は日本語としては通じるが、玉虫色で何を言っているのかわからない、「要するにどうすればいいの」というケースが多かった。しかし新しい本部長のブーレイ氏はそのへんのところを非常に具体的にバシッと示す人です。一方で、彼はややもすれば、非常にわかりやすいディシジョンを下し、ある意味で新鮮ですが、その代わり間違うと大変です。そこで気を付けなくてはいけないのは、もちろんデザインをフィックスさせる過程においてブーレイ氏に承認をもらうことは、一つのプロセスとしてあるけれども、それがわれわれの最終的な目標ではないということです。われわれは企業のデザイナーとして世界にどう貢献するか。また、企業としての責任もある。さらに、世界中の老若男女問わず一人でも多くの人に潤いを与えたいし、買ってもらいたい。そういうことが目標なのであって、本部長一人に目が向いてしまうことはとても危険だと思います。
ややもすると、企業内デザイナーはそうなっていることが多いんです。歯車のひとかけらで、この歯車は何の機能を持っているのかということもわからず、言われたままトレースしている。デザイナーというかパターンナーというか、アレンジャーというか、そういうかたちになってしまっているケースが多々あると思います。そうではなく、われわれはデザイナーとしてどうあるべきか、一人ひとり本当に考えなければいけない。その中で現在地、いま私はどこに立っていて、どちらを向いているのか、全体の中でどうかかわっているのかということを常に確認していかなければ、上下左右のコミュニケーションは取れない。
これをいい機会に、ただターンアラウンドするのではなく、われわれデザイナーは本質的にどういう役目を担っている職能なのかということを一人ひとりが考える必要があるのではないかと思っています。学生時代はそういうことを純粋に考えた時期もあるのだろうけど、会社に入ってしまうと、日常の雑事も含めていろいろな不純物が入ってきますから、そういった純粋さは徐々に失われていく。今回の不祥事で著しく信用を失墜したという事実の根本に、そういったことも関連しているのではないか。これはデザイナーに限った話ではなく、社員一人ひとりがそうだと思います。それだけが他社と戦っていく武器になるとは思わないけど、ピュアなものから生まれてくることはすごく強い力があると思いますので、これは大事にしていかなければならない。
こうしたことと同時に考えなくてはならないのは、開発プロセスにおいて、もちろんデザインのところでうまく回っていかないことで承認が遅れていけば、それだけあとの工程の負担が増す。そうすると、そこで試験をどれか一つパスしなければいけないという問題にもつながりかねない。それはデザイナーの責任ではないというかもしれない。でも、ではデザインがきちんとオンタイムで回っていたかというと、ほとんど標準日程に乗ったことはなく、どこかで承認が遅れていた。その原因は何かということをもう一度われわれの責任としてしっかり見つめ直したい。デザインというのは上流にあるわけで、それによってすべての工程が動いている。そういったところをいま確認し合いながら、システム、役割分担も含めて見直しているところです。 |
| |
|
| 川崎: |
僕は交通事故、車というモノでもって自分の人生が車椅子生活になったわけですから、車というアイテムに対しては一通りの考え方を持っています。必ずしも格好よくてスピードが出る車がいいわけではない。だからといって、合理的で燃費がかからない車がいいわけでもない。一ユーザーとしての車に対する自分なりの選択する哲学は持っていて、たしかに「車メーカーさん、もっとこっちを見てよ」ということを感じることがある。いま企業は消費者に非常にしっかり見られていますよね。これだけ情報が行き渡っているから、牛肉偽装事件ではないけど、ああいう裏切り方をすれば企業の存続すら危うい。逆にいうと、デザインという部門を持ってモノづくりをやっているところは、そこからは一つ救われるのではないかという感じがしています。デザインの持っている力、「誠実さ」を素直に表現できたら、また一挙に信頼を獲得できると思います。
僕は21世紀は去年の9・11から始まったのではないかという認識があります。地球全体がどうやって生き延びていくかということに直面している。そういう中で、果たして現状が長続きするのか。それは自動車に限らず、すべてのモノ・製品が改めて問い直されているのだろうという気がしています。そういう文脈で、グッドデザイン賞などもう無くせという人も一部にはいます。やっと45年たちましたが、しかし言ってみれば、デザインというのはまだ45年しか歴史のない職能ですので、職能の社会観としては未熟な面もまだまだあることでしょう。そういう中で、いま三菱自動車さんがつかもうとしている、見つけだそうとしていることは、各企業が同じようにやらなければいけないことだろうと思います。先ほど「上流」という言葉を使われましたが、デザインセクションがCOOの直轄になったということで変わったことはありますか。 |
| |
|
| 水谷: |
デザインを大事にするという考え方自体は以前からありました。ただ、実際どうなのかと言えば、デザイン会社とかデザインセクション、デザイナーというのは、日本の場合、さほど大事にされません。便利屋的に考えられています。私たちもある種サービス業だと思っているからいいのですが、ただ、極端なことを言うと絵描き職人的な扱われ方だと思うんです。
それが海外の企業と一緒にやるようになって、そこらへんの考え方はずいぶん変わってきました。現在、COOのエクロートが乗用車全体を統括していますが、彼は、デザインを一番の武器として、われわれの商品をつくるんだということを明確なメッセージとして持っています。スタイルオリエンテッドという意味ではなく、総合的なものづくりの技術としてのデザインを大事にしましょうということです。このメッセージが全社的に共有されている。これを設計や研究、実験といった開発に関わる全体に周知徹底させているんです。だから、直轄部門として必要のない要素を排除して、ドンと持ってくる。その代わり、いわゆるデザインの暴力は許さないけれども、デザインが正しいことを言っていれば、それに向かってエンジニアは努力するという、非常にやりやすい状況が現れてきました。すごくサポートしてくれます。
しかしプリプロダクションだけにそれを活かしていたのでは意味がない。ロングレンジ・プロダクト・プランニング、われわれはLRPPと略していますが、先行開発という分野での貢献をさらに強化しなくてはなりません。これは10年先までを考えるんですが、どういうものをいつ出して、どうやっていくかという大きな計画です。それが半年なり期によって見直されたり、早めたり、遅めたりという会議をやりますが、その中にもっと積極的に参加する必要がある。そうでなければCOO直轄としてのデザイン本部である必要はないわけです。ですから、われわれとマーケット戦略のほうでスクラムを組んで、横とのつながりを強化しています。以前はセクショナリズムが強かったので、横とのつながりが弱かったんですが、先行開発という一つの着地点を共有して、それぞれの立場でそこに向かっていくという状況をつくれるところにきました。こうした関係はさらに拡大して、縦と横の組織をきっちりと組み立てて、クロスファンクションでやっていかなければ難しいと思います。
こうしたことを含めて、車を包み込む空気までデザインしなければいけないということに、やっとみんなが注目するようになってきました。われわれが言いたかったことを今では上の人間が代弁してくれています。「彼らが一番多くの人とかかわっているわけだし、何かやるときはデザイナーを必ず呼べ」と言うんです。それはありがたいことです。「何かが決まってからデザイナーに話を持っていくな。何かをするときには必ずデザイナーを呼べ。あいつらは意外と頼りになる。あいつらはわれわれみたいにデータを積み上げたものではなく、直観的にすばらしいものを持っているから呼ぶといい」とCOOが言ってくれるので、必ず呼ばれます。それが第一歩で、すべての面で仕事がしやすくなったと思います。
彼らと一緒に仕事をしていて参考になったのは、日本人というのは、食事にたとえれば、わずか2本の箸で何でも操ってしまう。箸で豆もつかむし、肉も切るし、何でもやってしまう。器用なんですが、言い換えれば器用貧乏なところがある。その発想が他の面にも根づいているところがあります。それは良いところもありますが、やはり大企業としてこれだけ人が多くなれば、人をうまく活用するために、ドイツ人、あるいはフランス人のように専用のスプーンやフォークを使って食事をする、そうした概念を取り入れていく必要がある。要するに、あなたはこのことが大事だ、あなたに責任を持たせるというのが日本的には、なかなかありえない話で、合議制で「では、このことは5人が責任者ね」となってしまい、その責任分担は5分の1になる。こういったことが積み重なっていくと結構安易になるんです。
それと、デザインに関しても、いろいろな試験項目に関しても、社内では△という表現をやめました。△というのは、責任を回避した状態になっている。それはよくないということで、いいと思うなら○、だめなら×にしなさいということになっています。この話に関連することとして、開発プロセスにクオリティ・チェック・ゲート・システムと呼ばれるものを取り入れました。これは開発プロセスの中に15の品質チェックゲートを設置し、各ゲートですべての要件を満たしてから次の開発ステップへ進む、そこのゲートを通過しなければ戻るというやり方です。途中からですが、eKワゴンもこのプロセスを入れて、きちんとやっています。そういう一つひとつの純粋でまじめな姿勢が、いつか認められるものだと思います。 |
| |
|
| 川崎: |
いまは所得階層で、いくらお金を持っている人はこの自動車を買ってという、マーケットセグメンテーションという考え方がほとんど適用できない時代だろうと思います。モノの見方が相当変わってきていますね。その中では組織も変わらざるをえない。たぶん20代、30代、40代とそれぞれの世代のデザイナーを抱えていらっしゃると思いますが、そういう人たちがどうやって自分の会社に対して自分の感性を出していくか。それをディレクターのトップとしてご覧になっているのだと思います。僕は、インダストリアルデザイナーというのは、みんなものすごくまじめで、正直いうと、会社を儲けさせてやろうというより、むしろ良いモノをつくってやろうと思っている種族だろうと思います。結果的に会社が儲かればいい。そこのところがグッドデザイン賞の中にも表れていて、願わくばそれが消費者に伝わっていくと一番いい。それがグッドデザインのある種の制度で訴求する役割だと位置づけています。 |
| |
|
| 水谷: |
たしかにそうですね。会社を儲けさせてやろう、最初の目的がそこだというふうにしてやっている人は少ないでしょうね。企業人としてはそれが先になければいけないのかもしれないけど、デザインというのは数値化できないし、こうしなければいけないというマニュアルもないでしょう。そこがおもしろいんですが、どうしても自分の感性、人生哲学も含めてドロドロしたものが出ますね。また、出なければ人の心を揺さぶるような作品は生まれてこない。そこがおもしろい反面、怖いところですね。
われわれはある種、料理人のようなところがあります。自分が厨房でつくった料理が、まずいと思っているのにお客さんに出して、それに対してお金をいただけるのかといえば、それは許されない。自分でもおいしいと思い、ぜひ人にも食べてもらいたいと思ってテーブルに出すのが基本的なマナーです。車でも同様で、自分が誇りを持って開発に携わって、本人が欲しいと思えるような車をお客さまに提供するという姿勢が、基本的なマナーであると考えます。そういう姿勢を持っていないのは、お客さまに対してとても失礼なことですし、そんな車が売れるはずがありません。当たり前のことだけれども、こういう意識は以前は希薄だったと思います。
ピュアな思いから生まれてくることはすごく強い力があると思いますので、これは大事にしていかなければならないと思います。ダイムラーから来ている人たちに共通しているのですが、彼らは純粋に車が大好きですね。趣味です。車に対する情熱が非常に強くて、本当に好きでやっている。そこがわれわれと意思が通い合う部分でしょうね。言葉が通じなくてもすごくわかる。これは昔の環境と大きく変わったところだと思います。
やはりいい作品、エバーグリーンなデザインというのは、たぶん、ある一人の情熱というか純粋な思いがぐっと濃縮されて入っている。それに一生を賭けたと言ってもいいぐらい強い魂が込められたものは、時代に流されない強い力を持ちます。私としてはそういうものが生み出されていくような環境をデザインしていきたい。
いいものを長くということを真剣に考え直す必要性もあると思います。車のデザインというのは、使い捨てにされている面がある。先行ステージから考えれば、2年、3年近くデザインに時間をかける。そこから設計に移行して、試作車をつくって、試験をしてということを合わせると、4、5年かかる。そして売り出した後、舌の根も乾かぬうちに違うことを言いだすのは、何か矛盾しています。何かが進化したことによって、やむをえず変えるというマイナーチェンジなら構いませんが、販売政策上、売りにくいからというのは、買ってくれたお客さんに対して、あなたのものは古いですよというメッセージを示しているわけですから、企業としてやめたほうがいいのではないか。もっと長期的持久力のあるデザイン、マイナーチェンジに費やされているエネルギーを最初のオリジナルモデルに投入すべきだと思います。それこそコストダウンにもつながる。それだけの工数を入れれば本当にいいものができるんです。われわれもじっくり腰が据えられる。人間らしい生活もできる。夜遅く12時、1時まで会社にいて、たんぼの中を往復していて、朝また8時や9時から働いていては、いいものは造れないですよ。人間は湯水のごとくアイデアがわきでるものでもないんです。やはり山谷あって、どこかでリセットする時間があるから、やろうという気持ちにもなるし、アイデアも生まれてくるんだろうと思うんです。
僕は部長になって、そういうことをやっていこうと思っているんです。かなり限られた資源の中、厳しい日程の中、人も増やせない現状の中で、理想像に近いことを言っているかもしれません。でも、ものづくりを総合的に見直していかないと、結局は粗悪品をつくってしまう。ご存じのとおり、車の開発には何十億、何百億と投資するわけですから重要なことです。
|
| |
|
| 川崎: |
いま学生を教えていて思うのは、学生たちが抱え込まなければいけない情報量は、自分が学生だった30年前と比べたらメチャメチャ多い。かわいそうなぐらいです。就職戦線は3年生ですから、3年間でやらなければいけない。そういう物理的な問題があるので、学生たちに対して自分の経験をどこまで話していいのか、非常に慎重にならざるをえないんです。水谷さんが若いデザイナーたちに接するときに心がけていらっしゃることはありますか。 |
| |
|
| 水谷: |
日本人の悪いところだと思うのですが、若いデザイナーが「水谷さん、見てください」と持ってきたとします。そこで、パッと見たときにまず欠点から探してしまう。日本人はそこがよくないと思うんです。「お前、何ばかやっているんだ。これはないだろう」とそこで三つぐらい欠点を言ってしまうと、言い過ぎたからフォローしようと思っても全然だめなんです。
われわれはあら探しをするチェックマンではないので、そこから1%の可能性でも見つけてあげたいと思っていて、いつもその種火は消さないように心がけていますが、それがすごく難しいですね。実際すごく難しい。彼らは1週間気持ちを込めてやってきたのだから、良いところがどこかに必ず隠れているに違いない。それが発見しづらいのは、言葉が足りないのか、あるいは表現力の問題なのか、整理してあげなければいけないと思います。完成度が低くても、きっと彼はこういうことを表現したいのだろうなというものを見つけてあげる。ダイヤモンドの原石を見つけだすようなことだと思うんです。それを二つ三つ見つけてあげて、「お前、そうしたかったら、ここをこうしたほうがもっといいぞ」と言うと、とても素直に聞いてくれる。
自戒を込めて言えば、新しいデザインというのはそういうふうに潜んでいるのだと思います。最初は人に笑われるようなものでなければ、新しいものはないんですよね。パッと見ていいなと思うのは、そこに多分に安心感が含まれているからでしょう。人間というのはどうしても新しいものに対する恐怖感がありますから、既存のものに安心を感じてしまう。また、どんどん経験を重ねるごとに「何々とはこうあるべきだ」というものが蓄積されてきているのでしょうね。自分はそうではない、一回終わるたびにリセットしているつもりだけど、それは感じます。
そういうことをやっていると非常に頭を使います。いままで使っていなかった脳が活性化されてくるようで、非常に楽しいですね。とてもおもしろい。ややもすると、このまま経験知だけで語ってしまう人間になりそうなところを、若い人と付き合っていく中で自分もリフレッシュできるし、年輪のように新しい情報が入ってきておもしろいですね。
付け加えると、私は、基本的に若い人のほうが偉いと思っています。時代というのは急激に進んだり、かなり低成長のときもあるけれども、基本的に人は進化している。若い人のほうが新鮮なものを持っているし、たくさん情報を持っているわけだし、それだけの負荷がかかってもいるわけです。僕らが生まれたときには車などありませんでしたから、環境からして全然違う。それと、部長ではなく、担当が一番偉いと思っています。その人が担当している案件は世界中探してもそこにしかないわけです。それは、その周辺も含めていろいろ研究もしているだろうし、最も造詣が深いわけですから、スペシャリストとしての誇りを持ってほしいといつも若い人たちに言っています。
|
| |
|
| 川崎: |
僕も大学を卒業して今年で30年です。そうすると、経験が先に出てきてしまう。経験が出たら負けだと思わないと、非常に怖いと思っています。いま盛んに美学の本を読んでいますが、経験による直観性で、これはすばらしいという簡単な言葉は生まれてこないという考察があります。これはすごく重要なことで、「経験すること」と「経験を加えて判断すること」とは明らかに質的な差があるということです。
いま宗教対立に発展しかねないようなテロの問題をはじめに様々な問題が山積しています。こうした問題を乗り越えて、新しい未来にいくときにはどこかでリセットをかける必要があるのではないか。いまその時代にいるので、こんなことを言うと失礼ですが、三菱自動車さんは幸いにして、ある種ダメージを受けて逆境に陥られた。そこのところでいまリセットすることができた。逆境を抱えた人間は優しくなれるはずだと思いますので、三菱自動車さんに非常に期待しています。 |
| |
|
| 水谷: |
リセットを余儀なくされていますが、これはありがたいことだと思うんです。そういう問題が発覚しなければ、かなり低いレベルでずっと低迷していたことでしょう。もうターンアラウンドしなければ生きていけないというはっきりしたものが出てきたので、根本から変わろうとすることができた。また、いま川崎さんがおっしゃったように、社会全体がそういう時代にさしかかっているのではないでしょうか。20世紀でずっと培ってきたものが、21世紀になって、これは本当に正しいのだろうか。正しくても本当はもっとこういう道があるのではないか。これは間違っているのではないか。一度リセットして、もう一回組み立て直す必要があるのではないかと感じます。 |
| |
|
| 川崎: |
一番怖いのは、そういうことに対して無関心になることです。Gマークも、僕が去年から63人の審査委員に言ったのは、加点法で見てほしいということでした。減点法はある意味すごく楽なんです。僕は、人間というのは何かを失うことは決してなく、全部得るものだと思っています。何か失うのではなく、失うことを得てくる、というふうに受け取らないと、自分というものが空っぽになってしまうだろうと思うんです。感性というのは心の中にものをいっぱい詰め込んだ状態を表しているので、たぶんGマークに応募したときにはその思いや信念がある。それを加点法で見ようと言っていても、やはり日本人だからでしょうか、減点という考え方を拭いきれない。先ほどと同じです。審査委員たちはいま、デザイナー仲間意識を冷静で知的にこれを乗り越えなければいけないことだと思っています。
だから、今年もぜひとも応募していただいて、Gマークでリセットするのはここだよということを発言していっていただければと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(2002年2月4日 名古屋市・千種区の名古屋市立大学芸術工学部にて収録) |
| |
|
| |
●水谷 弘
三菱自動車工業株式会社 乗用車デザイン本部 プロダクトデザイン部長
●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長 |
| |
|
| |
2001年度グッドデザイン賞受賞「エアトレック」のページ:
http://www.g-mark.org/search/Detail?id=1772 |
| |
2001年度グッドデザイン賞受賞「EKワゴン」のページ:
http://www.g-mark.org/search/Detail?id=1778 |
| |
三菱自動車工業株式会社のHP:
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/ |
| |
三菱自動車工業株式会社「パッセンジャーカーデザイン」のページ:
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/japan/design/index.html |
| |
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
| |
|