川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

宮脇: では、暮らし方として何を提案しようとしているかというと、今後、世の中は高齢化も進むし、少子化も進む。60歳で定年になって、90歳ぐらいまで生きるとしたら、あと30年生きなければいけない。そのときに、子供はすでに巣立っているでしょうから、何を楽しみに生きるのだろう。夫婦2人でずっと暮らし続けられるだろうか。もっとたくさん仲間がいたほうが幸せだよねといった具合に、これからは若い世代も人とのつながりを重視していくと思います。とはいいながら、世知辛い話ですが、これから所得がそんなに高くなっていくとは考えづらい。そうするとこれからの家は、自分の家で楽しむか、よその家に行って楽しむという、人がいっぱい集まってくれる場としての機能が求められるのではないか。そうした仮説のもとに、コンパクトでスタイリッシュなトイレ本体によってトイレ空間をもてなしの場にしようというコンセプトを掲げています。人を招くときにきれいにする場所としては上位にトイレが挙げられますし、人を呼ぶことを前提とする家は、おもてなしのできるトイレが必要ではないかということです。

トイレ空間は住宅設計の最後に押し込められるような狭い空間ですが、その中でおもてなしする。つまり人が使う空間をどれだけ広げられるか、そのためにはトイレはできるだけ小さくあるべきだろう。いままでのシャワートイレ系、機能ばかり付加したようなトイレではなく、それらをさりげなく収めながら、できるだけコンパクトにする。身づくろいや化粧直しをしてもらうのに、いままでのような大きなタンクがついたトイレ然としたものが横にあったのでは、気分も優れない。その意味でも見た目に抵抗を感じない、スタイリッシュなものがいいよねというので、サティスのようなデザインになってきたわけです。

因みにサティスというのはサティスファクションという意味です。ネーミングが先にあったわけではありませんが、われわれがこれに託したいコンセプトは、幸せ、満足だろうということから、それに決めました。
   
川崎: いまお話をうかがっていて、切り口として、トイレは「もてなし空間」なんだという捉え方には大変感心しました。住宅を訪ねたときに、その家の家族関係や家屋の品格は玄関とトイレに表れているとよく言われます。また、その昔、金貸しの人は、玄関とトイレがきちっと整理されていること、訪ねてきた人への対応を見れば、お金を貸していいかどうかがわかったといいますね。

日本のサニタリー関係で、シャワートイレがインテリジェント化されたものとして登場してきたというのは、日本のきめ細かな工業技術が住空間の中を革新しようとした、世界に誇る技術と見ています。人間が裸になる場所、人間の排泄行為の場、人間の基本的な部分をデザインが支えていくということでは、デザイナーの方々も何をもってグッドデザインとしていくかというところを、いつも考えておられる気がします。そのあたりはどのようにアプローチされているんですか。
   
宮脇: 単なる人間工学的なアプローチ、きれいなデザインをつくるというアプローチだけでは、われわれの業界の商品はなかなかつくりきれないということは実感としてあります。N数を取って統計的に処理することもあるかもしれませんが、自分たち、もしくは周りの生身の声が聞こえるようにしないと、間違う結果になる。そこはデザインをするうえでも気をつけよう。そして何のためにそれをつくるのかということを、われわれは考えよう。先ほど言ったようにネガティブファクターをゼロにするだけではなく、どうポジティブに持っていくか、どっちに持っていきたいかをはっきり示せるようにしようと心がけています。統計やヒアリングという手法はもちろん大切ですが、自分がちゃんと生活しているかどうか、自分たちが使う、もしくは自分たちの親しい人が使ってどうかということが出発点として重要である。こうしたことを前提としてディスカッションしていくことが大切であると感じています。

話がトイレに戻ってしまいますが、いまの住宅は実のところプライベートな空間しかない。昔のような応接間や客間、床の間付きの和室がなくなってきているので、本来家庭内で行われていた行事が外在化して、家の中に他人が入ることがあまりない。入るとしても、非常に親しい人間しか入らない。すべてがプライベートになってしまったところで子供が育つと、子供のしつけがなかなかできないのではないか。いまのトイレはほとんど家族しか使わないから、汚してもお母さんが掃除をしてくれる。でも、お客さんも使うということが前提になっていると、「いつもきれいにしなさいよ」と言えるような教育の場にもなっていくのではないか。そういう緊張感を家の中にも保つことによって、人に迷惑をかけてはいけないんだ、コンビニや電車の中で座り込んではいけないんだというように他者を意識するということも、もしかしたらトイレ空間からできるかもしれない。大それた考えですが、そういう意識も持ちながら、トイレでもてなし空間をつくろうと。トイレの場合はそういうことですが、お風呂の場合はどうか、キッチンの場合はどうかというのは、いまスタディをしています。基本ベースとしては、人が集まりたい。集まったときに、その家の場はどうあるべきか。われわれは水回りですから、キッチン、洗面、お風呂、トイレという場がどうあったらいいのか。どうなっていると人が来て楽しく、気持ちよく帰ってもらえ、招く側も気持ちがいいとなるのか。そういうことを考えながら、今後もやっていきたいと思っています。
   
川崎: トイレという空間の中の一ユニットだけれども、この製品アイテムそのものがユニバーサルデザインになる。こういうものはそうないと思いますが、トイレそれ自体がユニバーサルデザイン性を非常に持っている。一方で、ミース・ファン・デル・ローエが言っていたユニバーサルスペースの観点から考えると、トイレという空間そのものは決してユニバーサルスペースではない。だけど、いまお話をうかがっていると、そこが「もてなし」、「くつろぎ」の空間の一部である。また、「教える」空間であり、「学ぶ」空間であるという捉え方をするとユニバーサルスペース性を持つということですね。そうするとあえてユニバーサルデザインと言わなくてもいい。最近「いい加減にしたら」というぐらい、いやらしいくらいにユニバーサルデザインをうたっている製品が目に付きますが、それらはユニバーサルデザインとは言えないものが多いんですよね。

そういう中で、このサティスは、何も語らずしてユニバーサルデザイン性が非常に優れているということは、ここではっきり言っておきたい。何よりも金賞だったことから、それはすべての特別賞を包含していると判断しています。同時に、日本のこうしたサニタリーのユニットが世界に誇れるほどに進化を成し遂げた。しかもそれは非常に幅広い文化的許容度も持っている。ハードウェアとソフトウェアが非常に高度にマッチングして出てきていますね。
   
宮脇: われわれのモノづくりの考え方には、多くの人にいつまでも使い続けていただきたいということがあります。設備商品ですから、これが嫌だからといって簡単に取り替えられるものではないので、基本となるユニットがあって、その人の状況に合わせて手すりなどを付け足したりしながら、使い続けていただけるように考えています。いまユニバーサル性をおっしゃっていただいたのは、われわれとしては非常にうれしいことです。これをベースに今後その考え方を展開していくことはぜひやっていきたいと思います。
   
川崎: 僕はよく言うんですが、インダストリアルデザインの世界が終わって、ユニバーサルデザイン、エコロジーデザイン、インタラクションデザインがデザインの核心になっていく。デザインを分化するのではなく、本来目指すべき目標がはっきりしてきた中で、ユニバーサルデザイン、エコロジーデザイン、インターラクションデザインを統合化し、インダストリアルデザインやプロダクトデザインが取り組むんだという言い方をしています。こうしたテーマの中で特にINAXさんの場合は、ユニバーサルデザイン性もさることながら、エコロジーデザインに対する取り組み方も非常に積極的ですね。トイレだけではなく、タイルなどもずいぶん考えておられる。そのあたりは今後どう展開されていくのでしょうか。
   
宮脇: 私どもは住宅設備機器とタイルなどの建築建材も扱っています。タイルなどは素材ですから、環境配慮、リサイクル材ということは考えています。エコデザインを考えるうえでは、まず資源やエネルギーをなるべく使わないでつくるということ、そしてランニングコスト、ランニングエネルギーを少なくすること、最終的には捨てるのではなく、なるべく素材のかたちに戻すこと、3つの要素があります。この「つくる」、「つかう」、「もどす」がINAXのエコデザインのキーワードになっていますが、すべての時点で環境性能を上げていくことが理想です。1997年度のGマークでエコロジーデザイン賞をいただいたソイルセラミックス、焼かないタイルは、将来は自然に土に戻るというものですが、そういう素材の開発では積極的に取り組み、成果もあげている。しかし、住宅設備機器には、これがうちのエコデザインの象徴的な商品だと呼べるものがありませんでした。しかし、それもサティスの登場によって少し変わったと思います。タンクをなるべく小さくつくるというのは、スペースを効率的に使うこともありますが、小さくつくることによって、資源やエネルギーが少なく済むという「つくる」の観点からのエコデザインということです。もちろんサティスが完成形というわけではなく、まず第一歩目の取り組みとして、今後展開していこうと考えています。
   
川崎: 僕がよく主張しているように、日本は貿易立国なので輸出産業ということを考えれば、日本の水回りのモノづくり技術は世界に冠たるものがあるでしょう。僕が学生時代の1970年代初期、インテリア雑誌のAbitareなどでトイレを見ると、外国はすごくきれいなものをやっているんだなという印象がありましたが、最近では日本のほうがはるかに優れていますよね。
   
宮脇: 日本の市場が向こうを向いているということもあるかもしれませんが、まだ向こうのほうが格好いい、デザインがいいと言われがちです。でも、ヨーロッパは小さいメーカーがたくさんあって、機能競争がやりにくいので、アイデンティティを打ち出すためにスタイリングで特徴を出すしかないという背景がある。われわれは、テクノロジーも入った中での総合的なデザイン性を追求したいし、それは日本から発信していく意味があることだと思っています。ここ数年の展示会を見ると、ジャパニーズスタイルあるいはオリエントスタイル、ZENスタイルといっているようなものが多く見られるようになってきました。結局、日本の文化が向こうで解釈されて、生活の水回りにまで入っているというのが実状です。それなのにいまだに向こうがいいと日本人が言っているのはおかしいよねということがあって、それも含めて日本発にしていこうというのは、デザインアイデンティティとして、今後取り組みたい分野です。
   
川崎: 今回金賞になった金剛という九州の会社のファイリングシステムは、ヨーロッパの建築家グループがデザイナーとして関わっています。そのプロモーションビデオは、障子をあけるところからスタートするんです。彼らが日本の伝統的な生活様式の障子をひらく、ふすまをひらくということから、ファイリングシステムのコンセプトを組み上げているのを見て、日本のデザイナーたちはもう一度、日本の伝統的な文化をおさらいしないといけないと感じました。むしろ外国の人のほうが日本のある種の古典的な文化の脈略からコンセプトを見いだしている。そういうことから考えると、厠からスタートしている日本の排泄にまつわる文化史、水の使い方や脱臭の仕方、この領域は伝統的なソフトウェアも深いですよね。

宮脇さん自身が若いんですが、若いデザイナーの方々に生活感覚からデザインを自分のものにしろよとマネジメントされていくときに、次の世代を引き上げていかなければいけないわけですね。そこはどういう展望や課題を持っておられますか。
   
宮脇: 間接的な回答になるかもしれませんが、社内では、いまのわれわれの生活はどこから来たのだろうという勉強会をやっています。2LDK、3LDKという家の間取りが現れるのは、大戦後の話ですから、60年弱の歴史しか持っていない。そういう生活をし始める前の歴史が脈々とあって、戦後に大転換があって、いまがあるということを知っているか否かで、立ち位置が違うでしょうし、トイレの話では、厠から始まって、日本の場合は外から内に入ってきた。ヨーロッパの場合はベッドサイドのおまるから始まっているので、中からくくり出されている。そこの文化的な背景や意識の持ち方は全然異っている。そこを知っているか知っていないかで、表現されるもの、そこに託す思いが違ってくる。単に格好いいからといって輸入品を持ち込んでも、日本の文化や暮らしになじむものではない。われわれなりの歴史、脈略があって現在があるということを認識した上でモノづくりを進めたいという意図があって、このような勉強会を開催しています。戦後の日本は経済的に復興し、高度成長を遂げてきたけれども、ヨーロッパの人たちがもっと長いスパンで自分たちの歴史を捉えているように、われわれはどこからここに到達してきたのかを日本人としてきちんと見ていこうという姿勢はベースにしていきたい。逆にいうと、われわれの一つ前の世代が、いまの暮らしをつくってくれたわけですが、われわれにとってはそれは生まれたときから与えられたものだから、もしかしたら壊すことができるかもしれない。つくってきた人たちにとっては抵抗があるかもしれないけれども、その過去を遡るとわれわれはこんなことをやってきたはずなのに、どこかでこっちに来ているだけだから、軌道修正してもいいのではないかという大胆な発想ができるかもしれない。それが若さの強みだとと思っています。ですから、若い人たちには、いまの文明、文化にとらわれすぎないで、もっと視野を広げてみて、自分たちは今後どこに行きたいのか考えていってほしいと思っています。
   
川崎: 次のデザインを目指してくる人たちに対しては、どういうことを勉強してきてもらったらいいでしょうか。
   
宮脇: 難しい話ですが、一番欲しいのは、様々な考え方や価値観に対するフレキシビリティ、柔軟性ですね。テクニックは欲しいんですが、暮らし方を提案するようなわれわれの職種からいくと、「こうなりたいよね」という思いが語り合えないと始まらない部分があります。「こういう暮らしがしたいんです」という語り合いができるベースがなくて、「次に何をつくればいいんですか」と言われたのでは、そこで止まって発展しえない。だから、思いが持てるベース、そこから話ができる下地は持っていてほしいと思いますね。
   
川崎: Gマークの応募企業の方々からの要望として、Gマークの権威性を高めてほしいという話があります。もちろんそうした要望に応えるべく主催側も努力していますが、僕は、受賞企業の方々が自分たちで創造していってほしいという気持ちも強くあります。というのは、この間も若いの女性のライターが、グランプリを取ったせんだいメディアテークは自分の周りでは話題にもならなかったとある雑誌に書かれていました。それを読んでいてデザインというのは、まだこういうかたちでしか見られていないという残念さを感じたんです。感覚的な著名なライターの知見がその程度ですからね。その意味では、特に金賞を取られた告知、あるいは一般に対する訴求方法は、ぜひとも受賞企業のみなさんの側からも考えていって欲しい。デザインの良さを言葉に換えて一般の方に伝えていくということをやっていただければ、それはGマークの権威性につながるでしょう。
   
宮脇: INAXも過去にグッドデザイン金賞をいくつかいただいていて、Gマークを毎年数件ずつはいただいているものですから、社内ではGマークは取れて当たり前みたいな認識は若干あります。われわれも出すからには通さなければいけないし、無駄な投資もできないですから。
建築家の方は目が肥えていますので、「これなら使えるというパーツがない、何とかしてよ」と言われ続けてきましたが、サティスなら使えると言ってくださっています。やっとそのレベルにきた、モノ自体が世の中に対して発信力を持っているんだと改めて感じるところもあります。ほかの力を借りることなく、サティス自身が発信できる。そういう強みを活かして、金賞受賞というところも含めたプロモーションを現在予定しています。
   
川崎: この金賞はスタンダードをつくっていただけたと思います。プロダクトのデザイナーから見ても、よく練り上げられていて、スタイリングから実装までよく完結させたなと感じられる。建築家から見ても、これを置きたい、トイレの空間はこうあるべきだというぐらいに、発想を広げてくれる。Gマークには、美しいデザインであるか、優れたデザインであるか、未来を拓くデザインであるかという三つの審査基準があります。サティスはまさにこの三つ、美しい、優れている、未来を拓いていくということがあったからこそ金賞であり、それはスタンダードだということに至ったわけです。
   
宮脇: 好景気の時期には、デザイン的にもエポックなものが出せたこともあって、それには金賞をいただいたりしました。しかし、景気が悪くなって、きちんと事業を回すための商品しかつくれなくなった。そこでもがんばれということはあるかもしれませんが、元気がなかった面はあります。それでとことん行き着くところまで行って、次の時代を見ないとどうしようもないという状況になって、これが生まれた。行き着くところまで行っているから、この延長線上のままではなく、ステージを変えないと駄目だという出発点から生まれてきていますので、おっしゃっていただいたことを今回評価されたということは非常にうれしいことです。

過去、グッドデザインは売れないとよく言われたじゃないですか。Gマークの賞ねらいでいくとこんなデザインをしなければいけないけれども、売れるためのデザインはこうだというジレンマがあったのは確かです。しかし、この商品に関しては金賞もいただけたし、世の中でも売れている、両方を兼ね備えることもあるんだということが、ここで実証されているので、社内の見方は変わると思います。
   
川崎: Gマークは売れないとおっしゃる方が非常に多い。でも、僕の場合は逆で、自分がデザインしてGマークを取ったものは全部ヒット商品になっています。何だろうとつくづく思うんですが、それはGマークの扱い方でもなければ、コマーシャルの仕方でもない。Gマークは売れないという先入観を強く抱いているところは、いまだにGマークが販売促進の何の役にも立たないということにとらわれすぎている。自分がコンサルティングをやっているような会社についていうと、Gマークを取ってくださいといって、Gマークが取れると、全部売れているんです。ここが証明しきれていないのですが、今回、金賞で、サティスがヒット商品になっていただけると、Gマークは売れるということを証明できる材料となりますので、金賞受賞はものすごく意義があると思います。
グランプリ候補を6点に絞っていく中で、若干惜しかった部分は、未来を拓くという表現がもう少しあったら、という気がしました。来年は、ぜひともグランプリを目指して、これを進化させていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。

(2001年12月11日 名古屋市・千種区の名古屋市立大学芸術工学部にて収録)
   
●宮脇 伸歩
株式会社INAX 空間デザイン研究所 所長

●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長
   
2001年度グッドデザイン金賞紹介のページ:
http://www.g-mark.org/library/2001/gold/family.html
サティスのプロモーションキャンペーン:
http://www.inax.co.jp/jiken/
株式会社INAXのHP:
http://www.inax.co.jp/
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/