| 久保田: |
大賞候補に残った6件を伺ったときに、やはり誰が本当に一番強いかを決める異種格闘技の場なんだなと再認識しました。大賞審査の様子を見ても、やっぱり異種格闘技を裁くのは難しいと感じて、その裁く難しさを見たときに、最後の最後に自分たちに足りなかったもの、自分たちがいままで考えたこともなかったような視点がいろいろ見えてきて、それが非常に興味深かった。大賞審査会のプレゼンテーションは過去見たことがなかったので、どういうトーン・アンド・マナーなのかが全然わかっていなかったんですが、NIKEiDは自分たちがやっていることですから、そこでプレゼンテーションのプロの人を立てても伝わらないところがあるだろうと思っていました。ナイキの代表でもあるし、NIKEiDというプロジェクトに対する責任もあるし、新領域デザイン部門の代表という自負もあるし、何か言葉を発する限りは、そこで聞いてくれる人たちを最低でも飽きさせないようにする。そうするのが最低限の責任だと思って臨んだプレゼンテーションでした。 |
| |
|
| 川崎: |
新領域部門でNIKEiDが金賞に決定したのはものすごく早かったんですよ。私は最初、英語版のNIKEiDをただ日本へ持ちこんだだけかと思っていたんですが、それは全然違っていて、あなた方は自分たちの言葉でナイキを語り直している。しかも直訳ではない、これは明らかにクリエイティブだと確信しました。通信販売というものには、経過や進捗状況がわからないという欠点があるけれども、NIKEiDでは自分の購入したものがいまどうなっているかという状態までわかる。これはコロンブスの卵の発想ですよね、そこまで引っくるめたデザインをやり切れるというのは、やっぱりある種の若さなのかと感心しました。それをつかむ発想や感性みたいなものは、古い世代や現代の商取引にはもうなくなっていて、次の世代の人たちが創っていくことを実感しました。 |
| |
|
| 久保田: |
18万通り組み合わせのバリエーションを見せるのに今一番都合が良いのがインターネットであり、消費者から直接意見が聞けるという強みも持っています。商品の納品予定日が近づいてくると、いつ来るんですか、いまどうなっているんですかという問い合わせのメールが届いて、すごく楽しみに待っているんだということが実感できる。当初は、BTOだから仕方がないという気持ちの反面、21日間待たせるのは申し訳ないという感覚でいました。ただ、消費者の方はワクワクしながら待っているから、遅れると不満を覚えます。ただ、その不満というのは期待への裏返しなのではないか。私が申し訳ないと思っている21日間を消費者の方たちはすごく楽しみにして、ワクワクして待ってくれているんだなというのが、問い合わせのメールを通して見えてきた。もしかしたらBTOの必要枠である待ち時間は、もっとワクワクさせられるとか、もっと安心させられるとか、不快な状態ではなくその21日間を過ごせるような仕組みを考えたら、ユーザーの方にお支払いいただいたお金がより有意義に感じられる、楽しく待っていられると考えたんです。
21日間ワクワクドキドキして、まだできないのかなと実際にサイトを訪れてくださるわけですが、そういうプラスアルファのもてなし、演出もけっこう考えました。たしかに表向きにはグローバルなトーン・アンド・マナーを踏襲しなければいけないから、変えたくても変えられない部分はあります。それを踏まえた上で何ができるといったら、見えない部分や日本側で最適化する部分ですね。すなわちDHLではなく宅配便を使うとか、カード決済だけではなくコンビニ決済もないと若年層は買えないという部分です。このような日本のユーザー向けにカスタマイズした部分が評価されたことには非常に満足しています。 |
| |
|
| 川崎: |
ITとかEコマースは要するにアメリカ流で動く。しかし日本人の感性には、アメリカ人にわからない点が数多くある。そうした中で、グローバルな展開をやっている巨大ブランドに、日本というローカリティとあなたのパーソナリティをどうやって納得させたのか。それは、日本人として、日本のマーケットをしっかり見切るマネージャーとしての力、あるいはそのことを策略化して「日本のマーケットのEコマースは私たちに任せなさい」と言いくるめてしまった力だと評価しています。年齢をお聞きしたら、まだ30代になったばかりでしょう。 |
| |
|
| 久保田: |
はい。アメリカとのやりとりで言えば、そこはやっぱり馬力です。最初はアメリカの仕組みを踏襲すればいいと思っていた。しかし、細部を詰めていくにしたがって不具合が出てきました。一番最初にアメリカで導入してきた人たちに対するリスペクトは絶対に持っているんです。しかし日本でやるからには我々がリードするという意思表示を行いました。ナイキのホームページを立ち上げるときも、NIKEiDを立ち上げるときも、すごい仕事が降ってきたなというのが本音でしたが、責任の所在が明確だったことが大きなプロジェクトに立ち向かう原動力となりました。
ナイキには、責任を持って実行すること、それ自体を重要視する企業風土がある。「ジャスト・ドゥー・イット」の会社ですから。この思想が会社全体にあって、何かを実現した点を一番評価してもらえる。そういうスタンスが非常に明確です。
アメリカから強力なサポートを受けましたし、いまも受けています。アメリカにオリジナルのプロジェクトのリーダーがいて、直接会って話しをすると、NIKEiDに自分の子供に対するような愛情を注いでいるということが強く感じられる。NIKEiDを日本でやるというのは、その人たちからすると子どもを留学に出すようなものです。親は留学する子を心配するし、サポートしてくれる。ただ留学した子が畳に土足で上がるわけにはいかないから、「畳の上では靴を脱ぐんだ」という日本の作法があるということを明確にしたという感じです。 |
| |
|
| 川崎: |
New Yorkのブロードウェイが日本の企業の看板だらけだった、日本の企業がニューヨークを買い占めていたバブルの絶頂期、アメリカへの日本の企業進出も異常だと思っていたし、それを支えている日本国内も異常だと思っていたんです。それが全部整理がついて、ブロードウェイから、日本企業の看板が消えていった。New Yorkの町が非常に安全になってきた。そこへ行ってみたら、ナイキという巨大shopができている。そしてある時間になったらバーッとシャッターが閉まって、巨大なスクリーンが下りてきて、全員が取り囲んで、たった1分間だけすごいイメージのビデオを見せる。そこに商品群が見事に展開されていました。その隣には非常に小さなスペースで、SWATCH社のSHOPがある。ものすごく巨大な売り方と、小さなスペースでのやり方を同時に見たとき、アメリカのこれからの商売手法はめちゃめちゃ変わるぞと思ったんです。
日本のトップたちは、あなたのような存在に対して全然目配りしていない。僕はその怖さみたいなものを日本の企業は認識すべきだと思う。あなたのリーダーシップ性みたいなもの、ある種アメリカの人たちがあなたに託そうとした部分は、たぶん年齢は吹っ飛ばしているし、国籍もすっ飛ばして、あなた個人のアイデンティティをきっちりと見ている。それを成り立たせているものは、「あなたを信頼する」というところにあるだろうと思うんです。その構造が日本には、まったくない。この間お目にかかったスタッフの人たちはみんなもっと若いですね。彼らはあなたを目指していてもだめで、あなたを乗り越えていかなければいけないだろう。あなたはそういう人たちも抱えておられて、いまこの時代にいる。今度はこの嫌な時代をどうやって乗り越えていかれるのか。このGマークというお上の制度を突破されちゃったということは、いくつかの階段をポンポンと上ってしまったんだろうという気がするんです。そこから先に広がってくるもの、たぶんもう少し時間が経つと、あのとき東京プリンスホテルの大賞審査会場へ出ていって話をした、あの内容が効いてくる時期が僕の経験で言うと絶対あると思うんです。
|
| |
|
| 久保田: |
大賞審査会でのプレゼンテーションでは、本当はリアルのビジネスのほうの苦労を語りたかった。リハーサルまではそういうプレゼンをやっていました。しかし、ナイキを代表してここに来ているからには、リアルなビジネスの大変さよりも、ナイキというブランドが持っている強いイメージを前面に打ち出した方が良いと考えました。最終的には自分が語るよりあの1分のビデオの方が、ナイキが目指すブランドとはどのようなものなのかが会場の方々に伝わるだろうと判断しました。 |
| |
|
| 川崎: |
久保田さんというパーソナリティを室町時代のバサラ大名の話と重ね合わせて、非常に興味深く拝聴していました。バサラでいるというのはすごいことで、バサラという言葉はサンスクリット語で金剛石=ダイヤモンドなんですね。ということは、一番価値を持っていて、一番高質で美しいものなんです。南蛮文化が入ってきて、それを表現したバサラ大名といった人たちは、そういう強い思想性を持って、化粧をしたり、自分をいかにアピールするかということをやっていた。ところが、そんなことが実はいまの日本でバサッとつぶされてしまった。だからこそ、文化的にも日本が立ち直っていくときに出てきてほしいのは、若い感性であるし、それを支えられる、肩を貸せる、経験を知性と呼べる人たちです。久保田さんはナイキというブランドを借りているかもしれないけど、それはメディアでしかなくて、実際は久保田さんというパーソナリティ自身だと思うし、僕はそこが新領域だと思っているんです。 |
| |
|
| 久保田: |
新領域という言葉の定義は難しい。なぜ金賞がNIKEiDなのかという記事や意見は私もいくつか読みました。グッドデザインはプロダクトのグッドデザインであってほしかったという声もあったし、そういう見方もあるんだと。また正直な話、大賞や金賞を受賞することのハードルの高さが今ひとつ外側に見えてこない。底辺あるいは裾野が千何点という広がりを持っていて、全てデザイン・コンシャスで、しかも応募する以上は本気で大賞を取りに来ている。その中から選ばれた1点とか金賞は、関係者にとってはすごいことであるのに、外から見ているとそれほど高くは見られていない。
だから、そこの高さをいかに出していくかがブランディングです。Gマークの印象が強すぎて、それ以外がはっきりしていない。われわれが金賞を取ったから金賞をPRしてくださいというのではなく、もっと大変なことなのだというを世間にわかるようにしていただく方が、挑戦される方も多くなるのではないでしょうか。
ありがたいことに今回金賞を取ったんですが、取ったあとに、Gマークの肩は借りたくない。ナイキはナイキで、NIKEiDはNIKEiDで、それ単体としてちゃんとブランディングもあるし、仕組みとしても進化していっているわけですから。 |
| |
|
| 川崎: |
デザイン界にだって斜めから見ている人もいるし、終わってから僕に聞こえてくるものは批判というより非難ばかりだからね。それらに対して応えることは何かというと、次の若い世代をこう育てるとか、次の審査委員団はこう組織する、自分ができなかったことはこれだとはっきり言っていくこと。いまやっている自分の仕事に反映させることや、学生たちに「こんな若い世代が、感性が出てきたぞ、おまえら」と尻をたたくことしかないと思うんです。
Gマークは45年も続いてきた制度でそれなりの歴史の重みがあるわけですから、多くの方にその価値観に気づいていただくことが大切です。数を狙って受賞する企業もあれば、たまたま受賞する方もいる。Gマークをもっとうまく活用する企業もあれば、使わない方もいる。この制度との関わり方に、そうしたバリエーションの幅が広がってくれば、僕はそれで正解だと思っています。
今日はどうもありがとうございました。
(2001年11月17日 ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルにて収録) |
| |
|
| |
●久保田 夏彦
ナイキジャパン ジェネラルマネージャー
●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長 |
| |
|
| |
ナイキジャパンのHP:
http://nike.jp |
| |
2001年度グッドデザイン金賞受賞「NIKEiD」:
http://nike.jp/nike_id/ |
| |
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/ |
| |
|