川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 


生田: 創立50周年が間近に控えていますし、僕にとっては消費者としてのGマークのイメージがわりと強いインパクトを持っています。きれいなだけではなく、機能的にも優れている、ニートな感じがある製品のイメージです。だから「G」のマークがついていると、やはりいいような気がしていた。Gマークの意図にまんまと乗せられていたわけです(笑)。たしかに面白い機能がついているとか、本当に消費者が欲しい機能が入っているということは、いくつかの商品で実感したこともあります。

次に自分が審査される立場になったことですが、去年、うちで研究している未来のマイクロチップである「化学IC」が推薦応募のお誘いをいただきました。これはまだ商品化されておらず、やっと大学での実証開発が終わった段階でしたが、そういうものがグッドデザイン賞の対象になるのかと、かなりびっくりしました。川崎さんから説明を受けて、新領域デザイン部門の趣旨がよくわかりましたので、自信はなかったのですが応募させてもらい、グッドデザイン賞をいただいたわけです。研究者仲間に言ったときも、「えっ、グッドデザイン賞もらったの」と驚いていました。これは周りの研究者やエンジニアの受賞事実の捉え方がちょっと違うということなんです。学会で論文賞を取ることや、『サイエンス』に載るという意味の評価ではなく、グッドデザイン賞をもらったら、すぐに商品になるかもしれない。なることがすごく期待されているという意味があるみたいで、一般のデザイナーや会社がかなり接近してきているというイメージが強いですね。それは、「もうすぐ出るの」とか「来年か再来年には製品になるのか」という質問が必ず出てきますから。

一般の方に「この化学ICチップはグッドデザイン賞をもらったんですよ」というと「えっ、それのカタログがあるのですか」と、かなり身近に感じてもらえます。新しいコンセプト、斬新なコンセプトは一般にはなかなか受け入れてもらえないんですが、Gマークをもらうことによって、意外と身近なのだという、ある種の宣伝効果があります。実際にはまだあと数年ぐらいは必死に研究しなければいけないんですが、それでも興味を持ってもらえる。社会から切り離されたところで、単に学者が勝手にやっているだけではないということが一般の人にも直感的に伝わる。それは非常にありがたいことです。

あと、たとえば経済産業省の官僚、予算の意思決定をする立場の人の見る目がちょっと変わります。というのは、「Gマークをもらいました」と言うと、「じゃあ、ちょっとバックアップしなければいけないか」というように、ちょっとランクアップするらしいのです。実は最初に川崎さんから話があったとき、ひょっとしたらそうなるかなと思ったんですが、そういう声はけっこうあります。もっと言えば、知らないところで僕の名前をはずして絵だけを替えて、「○○プロジェクト」といって国にプロジェクトを提案したケースも一つや二つではないようです。Gマークをもらっているというのは、企業を口説くのに非常にいい。単なる研究者のお遊びではないというお墨付きです。これだと企業が集められる。そして、フォーラムみたいなものをつくって、経済産業省とか科学技術庁に大きな予算を申請して、それを企業にばらまきながら自分も研究する。そういうタイプの研究者にとっては格好のネタなんですね。

   
川崎: ひどい。それは明らかに盗作ですね...。
   
生田: はっきり言ってパクリです。研究でもデザインでもそうですが、もっとも大事なのはコンセプトですよね。アメリカで生まれたコンセプトを研究、または改良して論文を書いたり、製品を開発するようなことをやっているから、日本の科学や技術は尊敬されない。特に研究者としては、研究テーマというのは研究の半分です。コンセプトを出すのが大事なのに、それをパクってどうするのでしょうか。そういう研究はバッドデザイン賞に値すると思います。 その話は置いておいて、おかげさまでかなり反響がありました(笑)。

そして今年、自分が審査委員に選んでいただいたわけですが、とくに新領域デザイン部門の、形だけではなく、形になっていないもの、これから社会をよくするものを誉めていこうというコンセプトには大賛成です。また、もともと僕は、社会事業としてこうしたことをやった方がいいと思っていました。研究や製品で、ものすごくユニークで将来社会に貢献しそうなものを誉めていく、一方で、ボランティア的に汗水流してがんばっていることやNPOなどの活動を発見して誉めてあげる。それによって、そこにもっと求心力が出るようになってくる。そういうスパイラルを新領域デザイン部門で作っていければ最高だと思います。その意味で審査には、きちんと心してかからなければいけないと感じています。

   
川崎: 生田さんがおっしゃったように、コンセプトがものすごく大事であり、コンセプトをきちんとつくりあげて、それに方向性を持たせるところまでをデザインという定義付けで統合化できれば、新領域デザイン部門でその可能性が見えてくれば、それを誉めてあげる。そして、そのことに対して社会的に反応が返ってくる。反応が返ってくることによって、その人は誉めてもらってコンセプトで終わってしまうわけにはいかなくて、それを具現化、具体化していく推進力としていける。新領域デザイン部門はそれを目指していきたいですね。

僕はフリーのデザイナーから大学の世界に入ったのですが、かつてインハウスのデザイナーでいたころ、「どこどこ大学の何々先生の研究室に行ってこい」と言われて行くと、企業がやっていることよりも遅れた研究ばかりだったんです。そんな遅れたことをやっていても仕方がない。だから、自分が大学人になったら、企業の方が自分の研究室を見に来たとき「えっ、ここはこんなところまでやっているんですか」と言われるようになりたいと思っていました。これから大学の独立法人化、大学が企業化していかなければいけないという問題がありますが、大学でやっている研究を最先鋭化させていく、それが社会を引っ張っていく一番の原動力であって、それを具現化するのが企業であるという構造をつくらなければいけないだろう。そういう構造をつくっていく手段として、それはデザイン的なドメインでいうとGマークという制度だったので、新領域デザイン部門がそういうかたちで育っていってくれればいいなと思います。

生田さんは大学人、研究者として、社会に対して新しい先鋭的なもの、まさに新領域部門を論理と実証でつくりあげておられる。なおかつ、審査委員になっていただいたので、ぜひともデザインとの関係をつくっていただきたいと思っていますが、生田はデザインをどのようにご覧になっていますか。

   
生田: うちの学生たちもそうですが、僕も川崎さんと出会うまでは、形をきれいにするのがデザイナーの仕事であり、川崎さんがやっておられるようなディレクションやプロデューサー的な仕事はデザイナーの仕事とは思っていなかったんです。だんだんわかってきたことは、形づくりというのは僕らでいうと論文を書いたりということであって、その大もとにはやはりコンセプト、またはどういう方向に向ければその形がうまく具現化できるかということがある。それはいろいろな選択肢があって、どれを選んでもいいけれども、ある境界条件の中でどれが一番正しいかという意思決定をやってこられているということです。そのことはものすごく勉強になりました。

その部分については、実は研究者も全く同じで、アメリカが言ったテーマ、世界中で流行っているテーマを自分なりにやって、僕の表現で言う「シングルヒットの論文」をしこたま書いて、「私はいままでたくさんの論文があるよ」という人が、いままでの日本の研究者の標準です。でも、デザイナーの方のトップはそうではなく、世の中を動かせるようなコンセプトを出して、最後に具体的に見せるところまでやる。エンジニアも、われわれ研究者も同じく重んじるのは、コンセプトがいかに新しいかということです。特に大学でしょう。将来はわからないけれども、「国立大学は親方日の丸のベンチャーと思ってもいい」と、僕の尊敬する研究者などは言っていました。それだけ冒険できる場所があるのにチャレンジしないのは、はっきり言って税金のむだ遣いです。失敗覚悟で、失敗するようなことをどんどん言うのが研究者です。失敗するテーマというのは、世界で誰も言っていないテーマです。このことは、デザイナーの方が世界で誰も書いていない絵を描いたり、商品を考えるのと全く同じ次元にあると思うんです。その部分でも川崎さんに強く共感しています。

ホットな具体例をあげれば、DNAやRNAの構造解析という地道な仕事をしていても、それを世界戦略として今後日本がどう展開しないとアメリカにやられてしまうということを常に意識し、それに対抗するようなシステムをつくった人もいます。その人は若いときは『サイエンス』に論文を書いて認められていて、誰が見てもノーベル賞級の研究をしている。だけど、あるときから「ゲノムの解析はやられてしまった。ポストゲノムはタンパクの構造解析だ。それをいかに早く、かといって数だけやっても仕方がない、上手にネットワークをつくって世界を牛耳るようにしなければいけない」ということ強く意識しだしたのです。彼が最近よく言っていることは、「研究は目の前の問題だけを解くのではなく、それを広げるための戦略的なシステム、研究体制システムをどうつくるか、若いときから考えてやっていかなければいけない」ということです。それはデザイナーのトップ、いわゆるディレクター、プロデューサーと呼ばれる人たちのマインドとまったく同じでしょう。

   
川崎: これまではGマークの評価は、従来の審美性がある、機能性がある、合目的性があるという三つでだいたい語られました。それは工業化社会時代のハードウェアに対するものの考え方です。それがデジタル社会になって、情報やデータを処理することで形もつくれる、それに対して社会がネットワーク化されてくるというかたちになってきたことから、去年は新領域デザイン部門をつくりましたが、今年はコミュニケーションデザイン部門をつくりました。これはまだ模索を続けていて、従来のグラフィックデザインをベースにして、そこから領域設定をやっています。今年の部門で、改めて考えてみると、Gマークは45年前は商品デザインだけだったので4分の1だった。逆にいうと45年間かかって、デザインが本質論まで広がって、商品デザイン、建築・環境デザイン、コミュニケーションデザイン、新領域デザインと4倍になったのではないかと思っています。僕はデザイナーですから、どうしてもデザインびいきをしてしまいますが、そういうふうに考えます。

新領域というと、幅が狭く、専門性を深く掘り下げたところに先端があるというイメージや、狭くなった領域のまだ先で何もない空間にぽっと出てくる新しいものということではないというイメージが強いかもしれません。しかし、新領域といっている領域と先端といっている領域は重なっているけれども、前者はある種のドメインを言っています。先端といった場合には本当にポイントだけ、カッティングエッヂみたいなことだけを言っている。でも、そのエッジやポイントだけでは何もつつけない。領域で押さえ込んでいかないといけないというところで、新領域部門をつくったのは意味があったのではないかと思っています。まだ今年2年目です。生田さんには審査委員として加わっていただいて、僕らの知らない研究の世界で、これが新領域だというものを推薦していただきたいと思います。

   
生田: そういうものには、つまらないものも結構あるけれども、中にはいいものもある。去年僕の研究に着目していただいたように、そういうものを見つけだしていきたいと思っています。
   
川崎: まだ啓蒙も啓蒙の時期ですから、新領域デザインを振興するという役割が今回のGマークになるかと思います。
   
生田: 同感です。マインドは非常によくわかります。

ちょっと話は変わりますが、7月18日に新領域デザイン部門の審査委員5人の方とお会いして1次審査の最終判断をしたわけですが、そこでのディスカッションは久々に楽しかった。学会のディスカッションでは、いくら最先端のロボットやマイクロマシンをやってもだいたい決まった発言になってしまうんですが、Gマークの審査のディスカッションでの気持ちが高まったり、頭の中がリフレッシュできるという体験は自分にとってものすごくありがたかった。久々に本当のブレーンストーミングができて、今日は勉強になったなという感じで帰ってきました。他では得がたい場でしたね。

   
川崎: Gマークの審査委員をやっているメリットの一つは、ふだんほとんど会わないデザイナー同士が1年に1回、本当にデザインの論議を戦わせることができることです。できれば新領域デザイン部門から、デザイナーではない人たちに審査委員に入っていただくことによって、審査することよりも議論そのものが意味を持ってくるのではないかと期待しているんです。
   
生田: 僕も今そういう気持ちが強いですよ。うまくいけばそういう議論を社会に出していく。たまたま審査がきっかけだけれども、本や一般の書物でもいいのですが、そこでの発言が社会に出ていけば、両方でいいキャッチボールになると思います。また、今回の新領域デザイン部門というのは、ノーベル賞や受勲ではないけれど、もっと本質的に日本、場合によっては世界をエンカレッジする賞に持っていける可能性があると思います。僕はそこまで持っていきたい。そうなると、ひょっとしたらGマークから離れるかもしれないけれども、Gマークの子どもがGマークより大きくなっても構わないのではないかと思いますね。

川崎さんとの対話やGマークの新領域デザイン部門の審査を通して僕は、自分はデザイナーだと思うようになりました。もちろん絵を描くという意味のデザインではなく、ディレクターやプロデューサーとしての川崎さんのまねみたいなことはやらせてもらえるかなと思います。

   
川崎: 新領域デザイン部門の審査委員に限っていうと、確実にその領域がわかる人です。わかる人というのは何なのかととらえてみると、実は同じようにデザインマインドを持っているというだけのことであって、デザイナーとしての必須条件であるスケッチが描けるということはどうでもいい。要は頭の中と識別眼、目利きが時代と社会をとらえて、これは新領域として世の中を変えてくれるから誉めてあげようと言っていただけるような人たちが新領域の審査委員です。よくレオナルド・ダ・ヴィンチの作品は彼一人でやったように言われますが、彼はディレクターであって、ものすごく絵のうまい2人の専門家に絵を描かせていたんです。本人はコンセプトや描き始めのアイデアを出していた。そういう意味でいけば、その領域で何か新しいことを思いついて、それを実現していこうとするディレクター的な人が本当は重要なんです。
   
生田: 目の利いた、しかも自分でクリエーションできるディレクターですね。
   
川崎: あとは、大学の中でそうした学生の資質をどれだけ引っ張り出せるかですね。
   
生田: 教育のほうはけっこう大変かもしれません。僕自身、創造性教育をやっていますが、名古屋市立大学の芸術工学部のカリキュラムを見せてもらうと、まさにあれが創造性教育なんだと思いました。デザイナーはそういう訓練をされてきて、そういう意味では創造力の固まりですね。それが工学部、従来の機械系や電気系に降りてくれば、日本ももう少しクリエイティブなエンジニアができると思います。それはひょっとしたら芸術工学部でねらっておられることかもしれない。工学部がもっと進化するためには、情報だけではなく、情報とデザイナー的なセンス、さらにディレクター的なセンスの訓練が不可欠です。

エンジニアの訓練はある程度時間がかかりますが、それをやったあとに、または並行してデザイン、ディレクターの教育をするのは非常に効果的です。全員がうまくいくわけではないですが、中にそういうことにセンスのある子が食いついてくる。結果としてその子がデザイナーになってしまうかもしれないし、エンジニアでいくのかもしれないけれども、本当に芸術工学ということができるかもしれない。

   
川崎: 今回、うちの学生たちが単位交換で行った先が、まさに工学部だったので、みんな非常にしんどかったと言っていました。でも最終的には何とか乗り越えて、最後のプレゼンテーションはこっちのメンバーがみんなつくっていった。ディレクターとかフラッシュを使ってつくると言ったら、工学部の連中に「それ何?」、みんなパワーポイントでしかつくらないみたいな話だったので、結局こちらの学生がそれをつくったところ、工学部の連中がそのやり方を教えてくれと言ったといいます。それはよかったなと思いました。エンジニアリングの勉強をしてきた子、デザインを勉強してきた子が若いときにクロスオーバーしていけば、社会に出たときにもいままでのような対立にはならないと思います。それからこれからの新領域が生まれるのかなと思います。
   
生田: それをやらないと中国、韓国、東南アジアの人件費が安いところには勝てないですね。そういう意味でも新領域はやることが多いし、楽しみです。審査委員に選んでいただいてありがとうございました。
   
川崎: たぶん商品や空間というものを新領域、コミュニケーションというところが引っ張り上げていくのではないかと思います。

本日はお忙しいところどうもありがとうございました。

(2001年8月2日 名古屋市・千種区の名古屋市立大学芸術工学部にて収録)

   
●生田 幸士
名古屋大学 工学研究科マイクロシステム工学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員

●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長
   
名古屋大学生田研究室のHP:
http://www.bmse.mech.nagoya-u.ac.jp/
名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/