川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 


川崎: 今年の審査では僕は「生活者」という視点をはずしてユーザーの視点とプロのデザイナーの視点が重要だと訴えています。ここしばらくは、プロの目で見たものは偏りがあるとか、生活者といえば全部通ってしまうという、市民運動的なデザイン評価の軽薄さのようなものの見方がありましたが、Gマークの審査委員は、そうではなくプロの視点を重視していく。

僕は今回、審査委員の人選に当たって、僕の年齢でいったん線を引いたんです。もちろん僕より年齢が上の人という取り方も、ある程度幅を設ける。前回のジュリアさんとの対談の中で、僕が「女性の審査委員も増やさなければいけないから」と言ったら、いきなり彼女に「それは時代遅れだ」とガツンと言われてしまった。そういうつもりや意味合いはなかったのですが、ちょっと迂闊な発言をしました。それと同じように、どんなに年輩であろうが、若い人を入れればすべてOKという考え方も全く持っていない。非常に誤解を受けやすいのですが、世代交代をしていくという考え方は、若い人を入れていくという考え方でもありますが、全体的なことがわかってかつ専門性を持っているということが前提です。

   
山村: 必要な人材が審査委員として適切なところに配置されていく。ただ単に女性であるとか、年齢が若いほうがいいということとは無関係に、本当に必要な人をきちんと審査委員として採用していくという意味合いでは、そうした視点をもとに多分野にわたる人が選ばれたようなのでよかったかなと思います。

もう一つ、専門性という点では、私は全体を知っていないと専門家ではありえないと考えています。いま日本のデザイナーの人たちは、私はインテリアデザイナー、私は建築家、私はインダストリアルデザイナーという言い方をされますが、実はそれぞれの専門性とは別に自分たちの位置づけを全体視する視点が必要です。海外などはすでにそういう意識が強い。インダストリアルデザイナーであれば、自分の専門分野以外でも、材料についてもきちんと話せる、構造についてもきちんとした見識がある、あるいは社会全体に対しての認識も高いといったことが求められます。基本に戻って、Gマークの出発点を再確認して、そこからものを考えていこうという川崎さんの話には大賛成です。

全体を知っているというのは博学ということではなく、専門的に深いことを横に知っている。そういうのが専門家なんです。だから、全く他分野の学者ときちんとコミュニケーションできる。そういう意味では、デザインというのは非常に難しいものだと思います。誰でもなれるものではなく、幅広く深い視点を持っていないとなかなかできない仕事ですよね。デザイン事務所は多いけれども、経営が苦しいのは、非常に間違った専門性の中に入っているのではないかと思います。最近、企業から来る話は、「これをデザインして」ではなく、「何を製品化したらいいと思いますか」です。すなわちマーケティングから入っていかなければいけない。最終段階では、やはり設計まで使えるデータが欲しくなってくるから、ある程度エンジニアリングを知らなければいけないし、材料についても知っていなければなけない。環境問題についても、簡単に処理できる構造を考えなければいけない。非常にゼネラルな考え方が求められています。

デザインの啓蒙の時代は終わったという意見もありますが、私はまだまだだと思っています。デザインの領域もどんどん広がり続けています。そういう意味で、2001年度のGマークはまさしく幅広く、専門性が深い。特に部門も増えましたが、あれも非常にいいことだと思います。もっと増やしてもいいのではないかと思っています。

世界レベルでいくと、iFデザイン賞やSmauデザイン賞よりも、日本のGマークは新しい位置にいると思います。インダストリーの枠も広がっているのは世界共通の話題ですし、社団法人や団体がたくさんあったりする日本の状況もだんだん変わっていくでしょう。横に広くつながったデザインという概念も生まれ始めています。そういう意味では、Gマークも2001年には幅広い、いろいろな応募が出てくるのではないかと思います。

   
川崎: 僕はプロの視点で選ぶ、デザイナーの視点は全体概説主義だと思っています。その中であえてほかの分野の人を準備しているというのは、たとえば、今回、新領域デザイン部門では学者の先生などにも入ってもらっています。「僕はデザインはわかりません」とおっしゃっていましたが、先日、新領域デザイン部門の会議を終えてから「僕も十分できます」とおっしゃった。他の審査委員の話を聞いた後、「自分の専門性で全体的なことを見ればいいんですね」ということを理解されたからです。専門家というのは、全体が見えたとき初めて専門家と呼べると思っています。

Gマークの審査委員をやっている方にとっては、1年に1回、審査会場で皆が顔を合わせて侃々諤々やるおもしろさも、一つのメリットだと思います。こうした議論の激しさはこれまで公開されていなかったから、仲良しクラブ的な審査だと批判されたのです。そこで僕は、もう一つ高いところに上がって、審査の見識をご覧くださいと言いたいのです。審査委員であろうがなかろうが、デザイナーという職域で活動していて、なおかつグッドデザインとは何か、が、日本の一般大衆に見えていない中で、「これがいいデザインなんですよ」ということを、専門家だからこそ示すことができる。デザイン振興あるいは啓蒙という意味での制度は、21世紀になってもまだ必要ではないかと思います。

山村さんの審査法を拝見していていつも素晴らしいと思うのは、「ここはいいじゃないか」という点を積極的に発見していくという方法論です。専門家としての深い知識をバックグラウンドに、加点法でやっておられる。そういう意味で、今年もぜひ審査委員団に加わっていただきたいという思いがありました。

僕は、外側ではGマークの審査を減点法でしている代表選手のように言われています。今年は川崎和男が審査委員長だから、応募は非常にストイックでシビアだと考えていましたというメーカーの方の声も直接お伺いしています。自分はノーマルに審査してきたつもりですが、著作で「喧嘩師」と自称しているものだから、それが一人歩きをしている。僕の部門の合格率を見ていただければ一目瞭然なのですけど、自分では山村さんと同様、加点法の代表だと思っていたのが、外からは減点法で審査している代表みたい見られています。これはなんとしても払拭したいですね。(笑)

   
山村: 私も川崎さんも、インハウスデザイナーとして仕事をしていたこともあるから、実際に企業のデザイナーがGマークに応募するときにどれほど苦労しているのか、よくわかります。たとえば自動車1台出すと費用がいくらかかるのか、この厳しい時代に、経営者から突き付けられるであろう課題もよくわかります。だからこそ、審査についてはなおさら真剣にやらなければいけないし、きちんと前向きの議論をしていかなければいけないと常々考えています。そのへんで、Gマークを受賞した場合とそうではなかった場合のきちんとしたアフターフォロー、フィードバックみたいなことももう少しわかりやすい言葉でやらなければいけないですね。
   
川崎: Gマークを受賞したものについては応募企業から反論は一切返ってきません。が、審査委員の方が「これはグッドデザイン賞があげられません」と言った場合、自信のあるメーカーほど、なぜ落としたと問い返してこられます。そのときに、どの審査委員も理由を述べることができて、応募側もそのことに納得ができ、価値観が共有化できれば、理想的なものになると思います。

その共有化したものを、今度は国際的にも広めていく。日本は貿易立国ですから、ある言い方をすれば、モノづくりの中で「デザインが顔」になっています。それで支えてきたデザインという職能を一番見やすくするためには、アジアの中のグッドデザイン、あるいは貿易立国の日本という工業国家が決めた、これがグッドデザインだというものを、グローバルスタンダード化していきたい。

グッドデザインというのはどうしてもプロダクト系、インダストリアル系、しかもモノの形がともなっていましたが、いまはモノの形に対して、ソフトウエアが出てきたり、人とモノとの間のインタラクション、タンジブルではなくインタンジブルな世界が非常に出てきているので、審査委員の力量も問われるだろうと思います。

   
山村: 世の中がだんだん複合化してくると、目に見えないモノ、環境問題やユニバーサルデザインの問題、あるいはいま非常に注目されているセーフティの問題、エマージェンシー、危険防止の問題など様々な問題解決が求められるようなってきます。これらに対する要求は、最近ものすごい勢いで拡大しています。この領域を見えるかたちにすることが、デザイナーに期待されている要素です。企業のトップの人たちからも、「これからはデザイナーさんの時代ですね」と最近よく言われます。本当にそのとおりだと思います。パッと見た瞬間、これが環境だよね、これがエマージェンシーだ、これがセーフティだとわかることが情報社会では非常に重要になってきます。そういう面ではGマークの審査も非常に難しくなりますが、それをどう捉え、評価していくのかということに、われわれとしてはやりがいを感じています。

また、情報社会においてはアジアも近いけれども、西洋も距離としてすごく近くなっています。ですから、日本の中だけでなく、世界全般の社会の中で、こんな事業展開があったんだ、ここからこんな商品が出てきたのかということがあるとどんどん伝わっていく。いまは年末年始にGマークのイヤーブックが出版されると、そこでその年のGマーク活動が終わってしまったみたいになっている。受賞された人も、イヤーブックを最後まで読んで勉強されている人は少ないのではないかと思います。われわれも、見やすく吸収しやすいものに作り上げて、経営者などの方に対しても、こんな新しいビジネスの仕方があったのか、海外はこんなものの攻め方をしているのかということを、Gマークを通してきちんと公開していく仕組みをつくることが必要ですね。

2000年度の審査を振り返るグッドデザインセミナーが今年の1月に開催されましたが、このようなGマークの審査が終わったあとのフォーラムなどももう少し回数を増やす。地域的にも、東京1回だけではなく、大阪でやったり、名古屋でやったり、あるいは九州でやることも必要でしょう。海外でやっても構わないでしょうし、ウェブで流してもいいと思います。このようなフォーラムは受賞された企業の方はもちろん、今回は駄目だったけれど次にチャレンジしていこうという人たちが来て、話を聞けるようなものがいいですね。

また、通らなかった場合の答えを個別にきちんと返してあげることが、全体として次のステップにつながっていくのではないかと思います。このような審査後の様々なイベントやフィードバックに関しても3年ぐらいかけて、新しい仕組みを持った新生Gマークの第一歩がつくれたらいいと思います。

日本のデザインレベルも結構高くなっていますから、やはり一度外に出してそれを評価してもらって会社で見直すという意味では、Gマークの役割はとても大事だと思います。デザイナーから経営者にきちんとメッセージを伝えていくということの応援もやってあげなければいけないと思います。デザイン振興は終わったという人もいますが、僕はそれほど進んでいないと考えています。今の例のように、Gマークを通して実現できるデザイン振興もまだまだあるはずです。

   
川崎: 内覧会についても、やっと一般の人たちを視野に入れた情報公開を始めていますが、僕は非常に不満を持っています。今後、内覧会は単に審査会場をそのままオープンにするのではなく、各企業にブースを持っていただいて、「わが社は今年これだけGマークを取りました。その背景にある考え方はこうです」ということを語り直してもらう。そして、その賞を見なかったら時代遅れだという時代を、21世紀の初めにぜひともつくりたい。

そのグッドデザインの内覧会に代わるもの、いまはグッドデザインプレゼンテーションと呼んでいますが、それがモーターショーほどの人を集める。たとえば新婚さんはそのショーを見て、そこでブライダル商品を決める。そういうことになったら、日本人の生活レベルはぐんと上がるだろう。それがグッドデザインの今後の大きな目標ではないか。やがて50周年が来るので、その前座として是非とも始めたい。特に地場産業で苦しんでいるところは、そのフェアを通して審査委員の人たちをコンサルタントにするとか、審査委員の人たちに相談したら、その人たちがそこの産地に適したデザイナーを紹介するというようなかたちにしていく。僕がデザイナーだからかもしれませんが、本当の豊かさはグッドデザインから始まると信じています。

いま各地の地場産業は非常に苦しんでいて、マーケティングが見えていないとか、何をつくっていいか迷っている。自分たちの培ってきた技術すら、それに投資もできないぐらい苦しんでいると思うんです。それを支えてあげられるのはデザインです。デザインで精神力を強めて、応援してあげることが必要です。そのためにはまずGマークをねらってもらう。それが地場産業にとっては非常にいい方法です。先ほどの話でいうアフターフォローの問題が一つあります。落ちてもそれが納得できるようなアフターフォローづくりは審査委員長としてきちんと取り組んでいきたい。

デザイン振興という点に触れると、世間一般でブランドイメージの良い会社「A」の製品はすべからく良い製品であると認識されがちですが、専門家の目からひとつひとつの製品を詳細に観察してみると、ブランドイメージがさほど良くない会社「B」の製品の方がはるかに良いデザインである場合があります。ところが、一般大衆はA社のブランドイメージが非常に高いから、B社の製品よりもA社の製品のデザインが優れているように見えてしまっている。客観的に見ると、日本人は流行に揺れ動かされる部分を強く持っているんです。そういう意味でいくと、日本のデザイン振興で足りないのはこういう部分にもあるかもしれないですね。

ユーザー、ユーザビリティという言葉が最近出てきて、これからデザインの場にはユーザビリティが強く求められるようになるでしょう。これはISO13407などが上陸してきていますから、そういうグローバルスタンダードの中で日本は対抗していかなければいけない。そういう中で、ユーザー、あるいはデザインがわかる生活者というと、これはまだまだ少ないと思います。どうしても量販店で、価格がなんぼということが常に問われるし、バーゲンセールということになります。

   
山村: 今のお話をメーカー側から見てみると、ブランドも結果的には一つの品質保証ですよね。だから、ブランドづくりまでどう持っていくかということは、企業もいま一生懸命考えています。ブランドというと、長い間苦労して築きあげた品質保証の高い価値があり、背景には形の美しさとか、格好のよさ、高さが存在します。モノとしては非常に品質の高いレベルになっているので、本当のブランドはGマークに出してもらえば落ちることはない。大品質保証で成り立っているわけですからね。

ブランドは、本当にそれが生活の中に入っていったときに、この商品を買ってよかったねという利用者の実感の蓄積によってかたちづくられていくものだと思います。今後、企業イメージを上げていくとか、企業ブランドを形成していくということについては、値段がどうなのかというようにあまり近視眼的に見るのではなく、少し長い目でこれからの社会の中で良いデザインの商品が成長していくステップになっていけばいいと思います。

Gマーク商品の中でも、好成績で売れているモノを見ると、ブランディングやマネジメントの仕組みがよくできていますし、経営者のデザインについての理解度が高いケースが多い。最近は大手企業でもデザインの決定システムやデザインマネジメントの仕組みが新しいかたちになりつつある。そういう意味では、考える人、つくる人、使う人というのが一つのクローズドな回路になって動いていくのではないでしょうか。いまたしかに、モノづくりについて、国内の製造業としてはどんどん苦しくなるという話は出ていますが、僕はそれほど心配していません。本当にいいモノ、価値のあるモノづくりの技術がきちんと証明されていれば、単に値段だけで動くものではないと思います。

今後はモノと価値、価格という問題は、相当シビアにリンクしていく時代でしょうし、いままでの安ければよかろうという意識もずいぶん変わってきている。ユーザーの中では環境意識が高まっていて、モノを選ぶときに相当考えて商品を選ぶということが、マーケティングの中でだんだん出始めています。そういう市場の変わり目を、これからわれわれも評価の中にどう入れていくか。責任感を持って選ばなければいけないと思います。

   
川崎: デザインはすべからく夢の産物ですから、グッドデザインそのものをデザインしていく。審査委員全員がGマークのデザイナーであってほしいと思います。若い人たちに、Gマークの審査委員になりたい、Gマークの審査委員になるにはどうしたらいいのかと言われるようになりたい。そして最後は『Gマーク審査委員になる方法』という本を書いて引退したいと思います。(笑)
本日はお忙しいところをありがとうございました。

(2001年6月14日 名古屋市・千種区の名古屋市立大学芸術工学部にて収録)
   
  ●山村 真一
株式会社コボ 代表取締役社長
2001年度グッドデザイン賞審査委員

●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長
   
  株式会社コボのHP:
http://www.japan-net.ne.jp/~cobo/
  名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 川崎和男研究室のHP:
http://www.kz-design.net/