川崎和男 対談バックナンバー

KAZUO'S VOICE
 

川崎: たしかに審査委員の人選では常に何人か女性を入れなければという発想をしてしまいますが、ジェンダーには関係なく、人間として見てもらうのだけれども、それがたまたま女性であるということです。僕が一番重要視したのは、Gマークを制度として運営していく上では、プロの視点が絶対に必要だということです。プロの視点というのはどういうことかというと、もちろん自分でデザインする人の視点もあるし、デザイナーの活動をきちんと見て、そこから一般の人に、デザインというのはこういうものですよと説明や広報してくれる人の視点もある。プロはプロとして、職能として社会にきちんと責務を果たす部分があって、ここはアマチュアに任せてしまえばいいというような甘さは絶対に許せない。今回の審査で審査委員の方々、特に新人の方々にお願いしたいのは、まずプロの目で見ていただくということです。プロとしての主観性と客観性、その上に自分がユーザーとなったときの主観性と客観性で包む、この四つの視点を自分の中で整理してもらう。このような「プロの視点」を持った人ということで選んだのがジュリアさん、女性だったということです。
   
ジュリア: ありがとうございます。
   
川崎: おそらく外側から見ると、以前のGマークはインダストリアルデザイン中心主義だった。それが施設部門を創設して建築物を対象にしたり、今年はコミュニケーションデザイン部門を新設したりしてきています。また、新領域デザイン部門では、商品になりかけようとしているようなビジネスモデルまでを扱おうとしています。その理由は、もうデザイン分野の枠は意味をなさなくなり、ボーダーレスになるだろう。それを21世紀の最初に、日本の制度であるGマークで全分野を統合したかたちで考えていきたいということです。ジュリアさんも世界各地で開催されるデザイン会議に出席されていて、デザインはここへ来て大きく変化しなければいけない時期を迎えていると感じられていると思います。
   
ジュリア: 今年のはじめ、デンマークでICOGRADA(国際グラフィックデザイン団体協議会)の北欧地域会議がありました。そのときに北欧各国のデザイン団体の代表者が集まったのですが、話を聞くと、北欧各国での最近のトレンドとして、デザインの領域、いままでのID、グラフィック、インテリア、スペースなどの分野の壁を越えた横断的なコラボレーションが必要だという考え方が非常に重視視されてきているそうです。このような「デザイン領域」という従来型の考え方を見直そうという動きの背景には、わたしたちが直面している多種多様な問題が、特に情報通信技術の発達によって、より複雑になっているという事実があります。

たとえば、デンマーク王立芸術大学(Royal Danish Academy of Fine Art)では、ID、グラフィック、クラフト、インテリア、建築など7つのデザイン学科を1つに統合しようとしています。7学科の先生たち全員が協力して、次世代のデザインを勉強する学生たちが幅広い領域の知識を理解できるような新しいカリキュラムを構築している最中です。

ビジネスの世界においても、従来のようにデザインの特定分野を専門的に手がけるという方法で活躍するということはほとんど不可能で、ほかの分野とのコラボレーション、しかもデザインの領域を超えて、まったく違う分野とのコラボレーションが必要になってきた。すなわちマルチ・ディシプナリー(多分野的)なアプローチが、北欧そして西欧では現実となっています。
特にオランダではそういう志向が非常に強い。個人2500名、法人200社を会員に持つオランダのBNO(Beroepsorganisaite Nederlandse Ontwerpers)というデザイナー団体があるのですが、ここが行った昨年の会員調査によれば、クライアントはトータルなソリューションを求めている。マルチ・ディシプナリーなアプローチがもっとも経済的な成功を生む。マルチ・ディシプナリーなデザイン事務所がもっとも成功している。という結果が出ています。
デザイナー団体にしても、デンマークにはMDD(Association of Danish Designers)、イギリスにはCSD(The Chartered Society of Designers)、そして先ほど触れたオランダのBNOは、日本でいうJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)やJID(日本インテリアデザイナー協会)、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)といった職能団体をひとつに融合したかたちの組織だと言えます。ノルウェーにもこのような団体をつくろうとする動きが見られます。
そのメリットは、一つはいままで特定の専門分野に限られていた知識交流がより豊かになること。もう一つは、中央政府に対する発言力がすごく強くなることです。デンマークの場合、今年ようやく政府がデザインポリシーをつくることになったのですが、それはMDDの存在によるところが大きい。こうしたことも大事だと思います。

私は教育の現場にいるわけではありませんが、学生のためのワークショップの運営を通して学生たちの声を聞いてきました。彼らがいま悩んでいるのは日本のデザイン教育にマルチ・ディシプナリーな環境が整っていないことです。彼らが学びたいのはIDやグラフィックやインテリアといった特定の専門分野だけではありません。彼らの興味は工業製品はもちろん雑貨やインテリア、そしてメディアにまで及んでいるのです。 日本のデザイン教育を見ると、分野の壁は非常に厚いと感じます。同じ大学でもデザインの分野が違えば学科間の情報交換がないし、大学間の壁もある。そういうものが少しずつでも融けていけばすごくいいと思います。そのためには教育者や文部省に、もっと広い視野を持ってほしいと思います。Gマークは産業、マーケット、教育界に一つのメッセージとして大きな影響力を持っていると思いますが、分野の壁を破ることの先導役を務めるのも一つの役割かもしれません。
   
川崎: 今年、僕の審査委員長としての一つの狙いは、その壁を壊してしまって、一つにまとめてしまいたいということです。日本はこんな小さなところなのに、またその中で細かい壁をつくっている。それを取り払うという意味では、ジュリアさんに加わってもらって、そういう意見を言っていただくことが一番いいかなと思っていたんです。
   
ジュリア: ICSID(国際インダストリアルデザイン団体協議会)は、International Council Societies of Industrial Design の略ですが、名称から「インダストリアル」と「団体」を取って「国際デザイン協議会(The International Counsil of Design)」としたいという動きがあります。これは理事会で正式な決裁がついていますので、残すは今年の10月にソウルで開催される総会での決裁を待つだけです。ICSIDはICOGRADA(国際グラフィックデザイン団体協議会)、IFI(国際インテリアデザイナー団体連合)にも、一緒になりませんかという正式なオファーをしたのですが、いまのところ両団体とも消極的なスタンスをとっています。
   
川崎: 結局、ICOGRADAもそれなりの歴史を持っているし、IFIもそれなりの歴史を持っているから、それに引きずられているのだと思いますが、もっと前進すべきだと思います。僕も、もともとはインダストリアルデザイナーと言っていたのですが、もうインダストリアルという言葉は使わずに単にデザインディレクターと言っています。 今回、21世紀最初のGマークで、何としてでも出していきたいのは、日本のGマークではここまでがグッドデザインだというように見せたいということです。外側から見たら、これはグラフィックでしょう、これはインテリアでしょうという意識を消していく契機にしたいと思っています。
   
ジュリア: 私は仕事として展覧会や国際会議などで、日本の優れたデザインを海外で紹介したり、逆に海外の優れたデザインを日本に紹介するブリッジのような役割を果たしてきました。その場合、オーディエンスは行政であり、企業、産業、中小企業であり、教育者、学校、学生、そして一般生活者でした。この中で、これは面白い、いいものだということを理解してもらうのが一番難しいのは一般生活者で、いつも苦労しています。
そこで一つ気がついたことは、一般の人たちに良いデザインを紹介して、それをわかってもらうときに重要なのは、自分の直感であるということです。あるデザインが自分の心を動かす、感動させるものであれば、そのデザインの良さは一般の人たちにも自然とわかってもらえるものなのです。プロのデザイナーによって専門的な視点から選ばれた良いデザインは、確かに良いものであるはずですが、それは一般の人が理解できる範囲を超えていることが多い。つまり、良さが伝わりづらいのです。
私は海外コンペに日本のプロダクトを推薦することがあるのですが、そこで推薦するモノを選ぶときには、デザイナーではありませんから、色・形・機能を専門的な視点から見ているわけではありません。もちろん専門的な視点から評価していくことは非常に大切なことですが、良いデザインを選ぶ私のやり方は、デザインプロモーションの観点から良いデザインを選んでいるGマークのやり方とは異なると思います。Gマークは一般の人たちにアピールしていきたいそうですが、一般の人にも理解できる良いデザインという考え方をどうやって定義していくかというのは非常に大事だと思います。

いままでGマークは日本国内向けに発信してきたんですよね。川崎さんはこれから世界に発信したいとおっしゃいましたが、それはどういう目的で、どういうオーディエンスに発信したいんですか。
   
川崎: 1970年代にデザインを非常に批判する人が出てきました。大衆が持ちたいと願う、ものを欲しがる欲望を沸き立たせて、「さあ、買いなさいよ」と見せかける単なる術、手法がデザインだろうという批判です。形がよく、機能性があって合理的なものがグッドデザインであるのならば、拳銃はどうなのか、ミサイルの形はどうか。ミサイルも、通信衛星を飛ばすロケットも同じ形なのに、なぜあれはグッドデザインでないのかという問いに対してデザインからは反論していません。以降そのまま、その議論が停止してしまっているんです。

こうした問題をいま再び考えてみることを通して、21世紀のグッドデザインは何なのか、日本人にとってのグッドデザインを探っていきたい。特に日本の場合、工業技術、ハードウェアの技術、ものづくりがすごく進歩している国だから、そこでタンジブルな世界のグッドデザインだけではなく、日本人が考えるインタンジブルなものを含め、日本が長い伝統の中で培ってきたことを背負って、これから先のグッドデザインはこういうものだということを日本から発信してみたい。そうした発信性を組み込む仕掛けをデザインしたいんです。
   
ジュリア: 日本の政府は発展途上国に対して、技術移転だけではなく様々な分野で知識や知恵が提供できると思います。そういうことを見ても、Gマークを通じていろいろな役割ができると思います。

先月、ICOGRADAの東欧地域会議に出席しました。クロアチアの首都ザクレフに、バルカン諸国のデザイナー団体の代表者が集まったんです。ボスニア、クロアチア、スロベニア、ユーゴスラビア、チェコ、ポーランドですが、昔ユーゴスラビアの下にあった国々は5年前に独立したばかりで、社会主義国から資本主義に転換しようとしているこの国々の環境は、50年前の日本のような感じです。モノが少ないし、インフラも整備されていない。

日本、アメリカ、欧州のような先進国のデザインの課題は、どういうものをつくるかではなく、今や何をデザインする、あるいは何をつくらない方がいいのかということに移っています。しかしクロアチアのような国や地域は、そうした状況と全く異なる。本当に何もない。インフラもない。システムもない。ボスニアやクロアチアの先生の話を聞くと、教育にも多くの問題を抱えているそうです。デザインを教える学校も少ないし、生徒の数が非常に少ない。そして教師も不足している。また、有能な若者は西ヨーロッパに出ていってしまうという、人材の流出が非常に大きな問題になっています。これから国を建て直していくために必要な人材をどうやって育てるかというのが、そういう地域では大きな課題です。

こうした国では何もないからとにかく何でもつくって、どんどんマーケットに送り込むという状況です。ここではデザイナーは何でもやらなければならない。グラフィックデザイナーが携帯電話のデザインを依頼されるというように、クライアントのデザイン対する認識もゼロに近い。ギャランティが支払われないケースも多いそうです。
彼らは社会主義から資本主義に移り変わろうという転換の大混乱の中で生きていますので、政治や経済、社会などいろいろな面で、デザイナーは非常に大きな役割を与えられています。こうした国では社会に対する倫理観、道徳観という考え方がこれから非常に重要になると思います。クロアチアにはGマークのイヤーブックを持っていったんですが、向こうの人にとっては夢の世界でギャップが大きすぎる。というのは、彼らはいま、なにがグッドデザインであるのかということを考える余裕がないんです。つまり、社会に意味があるものだけをつくらなければというモラリティが大事だと思います。 そういう意味で、先ほど川崎さんがおっしゃったメッセージは、そういう国々のデザイナーにとって大きな意義があることだと思います。

アジアの各国、台湾やマレーシア、シンガポール、香港、韓国の場合は、20年前、10年前の日本の状況に似ています。デザイン学校がたくさんあり、世の中にたくさんの卒業生を送り出しますが、その質をどうやってコントロールするかが課題になっている。学生のレベルは高く、技術もたくさん吸収しています。学生はほとんどCADソフトウェアでデザインします。しかし、日本のようにモノづくりのノウハウをきちんと学んでからコンピュータを使ったデザインに入るのではなく、いきなりコンピュータから入るということで、自分のアイデンティティがない。それはアジア地域の先生たちが皆さん言っています。また、インターネットを利用することで、アメリカやいろいろな先進国の技術やトレンドといった情報も全部手に入り、グッドデザインも全部わかります。そうすると情報源が同じだから、つくったものに特徴がない。

このように、その国の独自の文化や伝統を生かすようなモノづくりの意識がないというのが、一番大きな問題となっています。日本のデザイナーは自分たちの文化やアイデンティティを大切にし、それをデザインに取り入れて「ジャパニーズスタイル」と呼べるようなものを作り上げました。それをアジアの若い人たちに教えられるかもしれない。このように、日本は海外に対して二つの役割があると思います。
   
川崎: 僕はデザイナーになって来年で30年になります。産業のために売らなければいけない、売れるためにということにもいつも力点を置いて、どうやったら売れるかということも考えてきました。いまでも日本はそうだと思うし、Gマークに応募してくる企業もみんなそうです。そうした背景があるがゆえに、日本のグッドデザインというマークをつけても売れないではないかということはよく言われます。これはデザインの歴史の中で、大量生産、大量消費、消費者の欲望を沸き立たせるような役割を担ってきたという部分が非常に大きかったのだと思います。大企業は「おつきあいで応募している」とよく言われます。
これはデザイン界自身が自分で、デザインを封じ込めてしまったことではないかとも思います。これを破壊して打破したいんです。

いま日本のデザインはやっと飛び出して、こんな世の中にしましょうとか、いまのようにものをいっぱいつくってしまったら、地球環境が傷んでしまうというように、本当に切実な問題に取り組み始めた。デザインというのは本当はそこに一番の根本があるはずです。だから、グッドデザインとしては経営者に、儲ける前にこのことを考えてくださいと言っていかなければいけない。
   
ジュリア: バランスだと思います。夢みたいな話、理想ばかり語るのもよくないので、ビジネスと社会にも役に立つという両方の要素をバランスさせるのが重要だと思います。
   
川崎: 日本のGマークの役割、国際化していくための役割というのは、もっと違うプロモーション、つまりアイデンティティ表現のツールとしての側面を見つけていかなければいけないということですね。
   
ジュリア: アイデンティティは非常に大事だと思います。というのは、いまほとんどのデザインはコンピュータでやります。CADの普及でみんな同じ表現手法を採用します。その中で自分の文化、価値観を生かして、アイデンティティ、独創性があるような商品を評価することが大事だと思います。
   
川崎: コンピュータを使うと、いかにもグローバルというかたちになってしまいますが、一番怖いのは、そこでアイデンティティが欠落していってしまうことです。ずるずるとネットワークのネットから欠け落ちたり、滑り落ちていってしまう。
   
ジュリア: CADはツールとしては良いものだと思いますし、技術を習得することは非常に重要だと思います。ただ、いままで毎年「ネクストジェネレーション展」やワークショップなど若い人のプロジェクトをやってきて、特にアジアの若い人がつくっているものを見ていると、韓国の学生の作品であるのか、日本の学生の作品なのかの区別ができないんです。みんな似ています。
自分たちの暮らす地域の独特な特徴を生かすことが、これからのモノづくりにとっても大事だと思います。

消費者、生活者もそういうものを求めていると思いますが、これからものをつくっていくときの一つのトレンドとしては、完成したものではなく半完成品としてユーザーに提供し、インタラクションによって個性化、アイデンティティを出すという手法です。三宅一生のA-POCもそうですし、オランダのドローグデザインぼ新しいプロジェクト、たとえば椅子ならアルミのブロックをユーザーがハンマーで好きな形にするという商品などです。このようなニーズも出ていると思います。でも、それがいいかどうかはちょっとわからない。
   
川崎: 今の例のオランダの新しい世代の人たちが考えているものと比べると、日本はまだ閉鎖的かもしれない。国際デザインセンターに訪ねてくる海外の若い人たちと接していると、日本の若いデザイナーたちよりも彼らのほうが、ものがないだけに豊富なイマジネーションを持っていますよね。モノづくりにおいて、ほかの国から見れば日本はすばらしい結果を出しているように見えるかもしれないけれども、逆に日本は過去に縛られて停滞しているのかもしれない。そこを打ち破るものを出してもらうためにも、新領域デザイン部門などを設けているわけです。
   
ジュリア: いままで皆さんが夢にも考えなかった提案が出てくると面白いと思いますね。
   
川崎: 世界各国のデザイン界の動きやそれぞれの国の次の世代をつくる教育の現場の動向は、今年度の審査委員の中でたぶんジュリアさんが一番詳しいと思います。その情報や知識を審査の議論の中でどんどん出していってもらいたい。また、Gマークを受賞したものをどうやって国際的にアピールするか。あるいは、Gマークで欠落している部分を発言していただけるような立場にぜひともなっていただければというのが、僕の期待です。
   
ジュリア: がんばります。(笑)
   
川崎: 本日はお忙しいところをどうもありがとうございました。

(2001年5月14日 名古屋市・栄区の国際デザインセンター内にて収録)
   
  ●キュー・リーメイ・ジュリア
株式会社国際デザインセンター 海外ネットワーク・ディレクター
ICOGRADA 副会長
2001年度グッドデザイン賞審査委員

●川崎和男
名古屋市立大学 教授
2001年度グッドデザイン賞審査委員長
   
  株式会社国際デザインセンターのHP:
http://www.idcnagoy.co.jp/
  ICOGRADAのHP:
http://www.icograda.org/web/home/index.html
  ICSIDのHP:
http://www.icsid.org/
  IFIのHP
http://www.ifi.co.za/