歴史


「グッドデザイン賞」(1997年までは通商産業省主催の「グッドデザイン商品選定制度」)の目的は、「デザインを通じて生活の質的向上と産業の高度化を図ること」と要約できます。しかしこれを達成するための課題、例えば何を優先課題とすべきか、デザインにどのような役割を期待するかなどは、時代的状況によって当然変わります。「グッドデザイン賞」は、こうした時代的課題を受けて、その仕組みを柔軟に変化させてきました。
「グッドデザイン賞」の歩みは、日本のデザインと産業の「マイルストーン」とも言われていますが、以下その歴史を簡単に紹介しましょう。

1)制度の誕生


「Gマーク制度」は、知財権問題(日本商品による模倣問題)を背景に、1957年(昭和32年)に設立されました。模倣を防止するにはむしろ創造を奨励すべき、との視点からこの制度がスタートしたわけですが、しかし当時はデザインという言葉も一般的ではなく、また企業活動としてもほとんど実践されていませんでした。そこで審査員自身が走り回り、「デザインの優れた商品」を集めなければならなかったと聞きます。大変な仕事ですが、そこには「自分たちの文化に誇りをもつべきだ」という強い意志が読みとれます。
デザインがすでにあったからではなく、我が国の産業と生活を発展させていくためには「デザインしかない」、「デザインがなにより必要だ」というある種の思いが、この制度を生みだしていきました。

左:電気釜[RC-10K](東芝) 1958年受賞
右:醤油注[白大、白小](白山陶器) 1961年受賞

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2)輸出の振興


企業によってデザイン活動が少しづつ実践され始めたことを背景に、「Gマーク制度」は創設7年目(1963年)から「公募形式」へ移行します。また制度自体も、通商産業省によって次第に整備されていきますが、この段階から「輸出振興にデザインを使う」という当初の目標が具体化されていきます。
日本の輸出商品は、「同じ機能なら品質、価格ともに優れる」という方向で市場を獲得していきましたが、日本企業のデザイン活用も、Gマークが掲げた「オリジナリティーの追求」というより、デザインを通じ「ものの作り込みをしっかりおこなうこと」に主眼をおいた展開がなされていきます。「Gマーク」の評価も、1967年から品質基準を設けて検査を導入するなど、「商品としてのトータリティー」を追求する方向へとシフトしていきます。「Gマーク」は、いわば「クオリティの高い商品」を示す基準(スタンダード)へと育っていきました。

左:椅子[バタフライスツール](天童木工) 1966年受賞
右:掃除機[MC-1000C](松下電器産業) 1965年受賞

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3)「より優れたもの」の訴求


制度創設後20年を経て、消費者のGマークに対する認知率も65%程度になり、また消費財分野の企業経営者の認識も進むなど、この制度は一定の成果をあげるに至りました。1970年代には産業の構造も大きく様変わりし、Gマークもそれまで支えてきた家具、インテリア、日用品に替わり、電気・電子機器が主役に躍り出てきます。また商品デザインの水準も、大きく向上してきました。
こうした動向を受け、1980年には、選定された商品の中からさらに選ばれる「グッドデザイン大賞」「部門賞」などを設けました。これらの特別賞(アワード)は、我が国のデザインをリードする存在を明らかにするという役割を担いますが、特にこの中の「ロングライフデザイン賞」は、受賞後15年(現在は10 年)継続して販売されている商品をもう一度表彰するという特徴的な賞です。つまりその時々に輝いていたデザインだけでなく、地味でも息長く続いていくデザインをも大切にしていきたいという意図の顕れです。

左:35mm一眼レフカメラ[オリンパスOM-1S](オリンパス光学工業) 1973年受賞
右:事務鋏[185/ 165/ 135]、ペーパーナイフ[170](林刃物) 1974年受賞

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4)「生活の質」の確保


1984年、「Gマーク」はその対象を「すべての工業製品」へと拡大します。
当時家電製品などの消費財分野では、「デザインの優れた商品」を多数輩出するようになり、また消費者も充分に商品を選択できる能力を持つに至りました。つまり個人的な生活の領域では質的な満足が得られる。しかしそれ以外の領域、例えば労働の領域や医療、教育などの公共的分野に目を転じてみると、そこには質的に大きな隔たりが感じられました。
そこで「Gマーク」は、「生活の質を総合的に確保すること」を目標に、生産財分野や医療、教育、公共分野へのデザインの導入を促進することとしました。
この対象の拡大は、デザインマーケットの拡大をも意味しますが、同時にこれは、それまで消費財分野で蓄積されてきたデザインの方法を、未着手分野へと誘導することでもありました。この技術移転の促進は、Gマーク制度が最も効果的に機能した場面です。

左:小型乗用車[シビック 3ドアハッチバック 25i](本田技研工業) 1984年受賞
右:空気圧用調整ユニット[セレックスF・R・L C4000-10](CKD株式会社) 1986年受賞

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5)新たな国際水準の確保


90 年代に入り、日本のデザイン水準は、どの商品分野をみても一定以上のレベルに達したように見受けられました。しかし韓国、台湾等のデザイン力も向上し、マーケットニーズに合わせた商品づくりを巧みに展開し始めます。また一方、欧米のデザイン先進国では、地球環境問題等を背景に、社会的な価値の充実を図ろうとする新しいデザイン潮流も生まれてきました。いわば「日本のお家芸」が通用しなくなる時代が、すぐそこにきているように感じられたのです。
そこで「Gマーク」では、日本のデザインが国際的な水準をさらにリードできるよう、「インタラクションデザイン(使用者との対話があるデザイン)」、「ユニバーサルデザイン(使用時に差別のないデザイン)」、「エコロジーデザイン(地球環境を考慮したサステナブルデザイン)」を、デザインが取り組むべき新しい目標として掲げました。そして、これらの概念を訴求すべく3つの特別賞を設置し、商品デザインをさらに高度化すべく、誘導を試みています。

左:浴室用シャワー[National 座シャワー](松下電器産業) 1997年受賞
右:舗装用材[ソイルセラミックス ペービングシリーズ](INAX) 1997年受賞

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6)デザインイニシアティブな活動の訴求


1998年、「Gマーク」は行政改革の一環として「民営化」され、日本産業デザイン振興会が主催する「グッドデザイン賞」として再スタートしました。
この「民営化」にあたっては、国という権威に頼らず、企業やデザイナーが「次のデザインを共有していける基盤を造ること」をめざし、「デザインそれ自体を強化していくこと」を課題をして取り上げました。具体的には、デザイン専門領域間の融合を図る試み(商品デザイン部門に加え、建築・環境デザイン部門、コミュニケーションデザイン部門を設置)、またデザインによる新しいビジネス創出を積極的に評価する試み(新領域デザイン部門の新設)を展開する一方、審査会の場を一般公開し、デザインの持つ力を直接生活者に訴求する活動にも取り組んでいます。

左:[A-POC](三宅デザイン事務所) 2000年受賞
右:[せんだいメディアテーク](伊東豊雄建築設計事務所+仙台市) 2001年受賞

産業化社会における「デザイン」の役割が、付加価値の生産にあったとすれば、今日のそれは、価値そのものを創出していくことと考えられます。「このような生活は私達を豊かにする」という価値仮説を提示し、生活者の支持を得つつメーカー、流通、行政に働きかけて実現していくこと。そのプロセス全てを「デザイン」と理解すべきと思います。
いわば従属者から主体者へ。新しいデザインが次々に生まれてくるを基盤を担うことが、21世紀初頭の「グッドデザイン賞」の課題と考えています。